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少年漫画風逆ハーバトル少女小説 すたばと!  作者: 九時良
二章 色々と規格外の二人組
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ストーカー気味な幼馴染

 試合の日。体育館に行くのが辛かった。


 でも、私はずっと教室にいたいなんて殊勝なことを思わない。だって教室内での立場は相変わらずで、もっと孤立している気がする。クラス変えられたらいいのにな。ライジング組に行けたらちょっとは楽しそうだ。


 とぼとぼと頭を垂れさせて体育館を目指す。


 無理やり気持ちを切り替えようと頭の中で作戦の復唱をすることにした。


 千里の作戦はわりかし綿密だ。しかも、作戦の全貌を明かしてくれない。そんなこともあって、千里は相手をなめてかかっているわけじゃないような気がしてきた。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすということなのだろうか。


「み・そ・ら・さんっ♪」


「ふおっつ!?」


 背中に衝撃。


 回される腕。


 密着するボディ。


 ――はぁんっ、やあらかいものが当たっていいにおいがするぅ……!


「神苑さんじゃないですかぁっ! お久しぶりですっ」


 出会い頭に素敵な特大サービスをいただいてしまった。一日のストレスの半分は吹っ飛ぶ威力だね!


 振り返るとキスしそうな距離に美しいお顔が。たまらん。


「ご無沙汰しておりました。とってもお会いしたかったのですけど、なかなか都合が付かなくて。その後、お加減いかがです?」


「やー。なんていうか、グループ活動けっこう楽しいですよ」


「グループ18、存じ上げておりますわ。そんなに楽しいですか?」


「そうですね……別にすごく仲がいいってわけじゃないんですけど、居心地はいいかも? 最初は不安だったけど、打ち解けてきた気もします」


 相変わらず千里は天敵のような感じではあるし、しょっちゅうからかわれているのだが、そこまで嫌でもなかった。


 あしらい方がうまいのか絡み方がうまいのか。嫌いだけど嫌いじゃない。好きじゃないけど嫌いでもない。


 日丸も日丸で気が合うから話していて楽しいし。


 ムーさんは拗ねたようにぷるっぷるの唇を尖らせた。エローい!


「ふぅん。じゃあ、わたくしの出番って、もうないかしら」


「そんなー! 私は神苑さんともっと仲良くなりたいですよっ」


「んー……鳴海君とは最近どうですか? あまりよくない話を聞きますが」


「あー……」


 微妙さを伸ばす。ちょっと答えづらいかも。


 言い澱みをうまく受け流して、ムーさんは微笑んだ。


「これから試合ですよね?」


「よくご存知で……」


「美空さんのことならなんでも知っているわ。だからね、大丈夫。心配しないで練習場に行ってらっしゃい?」


 気が付いたら、ムーさんはいない。前回もそうだったけど、突然な人だ。


 ていうか……友達が欲しくて欲しくてしょうがない私の妄想じゃないよね?


 まさかね……。


 まっとうな人間でありたいと、恐ろしい考えを振り払うように早足で歩いた。






 練習場にはとっくに人が集まっている。試合監督はまだ来ていない。


 千里はどこだろうかと見渡してみると、日丸、他数名と団子になっていた。


 比較対象が多い中で離れて見て思う。


 背が高い。足が長い。そしてイケメン。遠くからでも目を引くなぁ。


 決して見惚れているわけではない!


 集団でいる男子の中に入っていくのは、ここしばらく過疎地区にいた私にとって馴れが必要なことだった。


 ジャージの袖を伸ばして握る。気張れる。


「おまたせー」


 なんにも考えていない風を装う。そこにいた五人分の視線が一気に集まる。


「遅ぇぞボケ! 俺より十分早く来い!」


 開口一番、千里が怒った。怒鳴ってはいない。でも、頭掴んで怒られた。


「やーめーろー!」


 頭を振って逃げる。突き飛ばす。


「十分って休み時間が始まってすぐでしょ! 重役気取りか!」


「当然の待遇だろうがよぉ」


「どこの世界の当然だコラー!」


 拳を振り回して怒鳴っている内心では「でもコイツが情報まとめて作戦立てて中心で戦ってんだよなー」とは思っているんだけどさ。売り言葉に買い言葉って、あるでしょ?


「気ィ使っとりますなぁ、千里はん」


 茶化すように笑いながら、静かに横入りして止めてくれるのが日丸。


 何に気を使ってるんだ?


 ……あっ。恭ちゃんのこととか、試合の緊張とか?


 ムーさんの件でそっちのけになっていたところもあるけど、確かに、千里とやりあっていつもの調子が出たっていうか。落ち着いたかも。


 千里は鼻で笑った。取り澄ました表情から照れ隠しだと理解した。


「あっ、これボクのグループメイツですーよろしゅうー」


 さっきまで千里の周りにいたやつらがそれなり愛想よく、一部だけ思春期特有の照れ屋さんみたいな感じで「どもー」的な挨拶をしてくれた。それなり気のいいやつらが集まっているのか。楽しそうだ。いいなぁ


 ん?


 千里の視線が思わぬ方向を見つめる。ずいぶん気の抜けた顔色で。


 私も顔だけで振り向く。


 背中を向けていられなくなり、思わず一歩後ずさってしまった。


「そして……俺達が、今日貴様らを倒すグループ30だ!」


 木刀を片手で構えて突きつける八雲と、後ろに連れられた愉快な仲間達が三人。ノリノリな一名を除いて恥ずかしそうだ。ぜんぜん羨ましくない。


 愉快な仲間達。相違ない表現だろう。


 一人目は眼帯マン。どうやったのか、ジャージなのに大仰なチェーンをつけている。


 二人目は手に包帯マン。頬に蛍光緑の星のペイント……いや、シール? をつけている。


 三人目は般若のお面マン。ジャージは着ないで体操着の袖をまくっている。


 どうあがいてもジャージなのに、みんな妙なコスプレをしている。みんな恥ずかしそうに俯いているから、八雲に強制されたんだろうなぁ。お面マンは顔がわからないからまだマシかも。


 あちこちから忍び笑いが聞えるけれど、八雲以外の三人の気持ちを考えるとそんなことできない。いや、笑いたくなる気持ちもわかるけどね?


 一応、彼らの第一試合の録画は見た。それと比較して、一回戦より気合が入っていることはわかった。小道具的とか衣装的なな意味でね。


「……こりゃ負けたぜ」


 相手の気迫を差しているのだろう。私も負けそうだ。


 でも、作戦を実行しなければ。


 千里の顔をチラッと見る。


 頷いた。ゴーサインでた。


「その眼帯、かっこいいよ。イカす包帯だね。般若とかしぶ~い」


 私の浮ついたお世辞に、三人は一斉に視線をそらした。


「よせやい……」


 包帯マンが震える声で呟いた。


 日丸によると、本名は霜月。


 メテオ組。サッカー部の期待の新星。ミーティアレベルはA。身長低い。ガジェットは私と同じく刃物タイプで槍型。変質強化。


 いたたまれないと顔を両手の平で覆い隠す眼帯マンは霧ヶ崎。


 ポラリス組。陸上部だ。ひょろっとしている。レベルはB+。ガジェットは杖で攻撃系の人。派手に雷を散らすのが得意らしい。


 肩幅を狭めるお面マンは白雪。


 こちらもポラリス組。レスリング部だからムキムキだ。レベルは同じくB+。拳にミーティアをまとう珍しいタイプ。


 みんな爽やかに暑苦しいスポーツマンなのだ。


「……無理してるよね?」


「まさか! 彼らは自らのアイデンティティとしてこれらをまとっている。我々には誇りがあるのだ! 亜空真心眼流のな……」


 なんか八雲がほざいてるぞ。喜んでいないことは一目瞭然じゃないか。もしかして、八雲の言いなりになるくらい強烈に負けさせられちゃったのか。


 かわいそうな彼らに同情することが、重要である。


 私は優しい声音を使い、三人に向かって語りかける。


「そっかぁ。あのね。私達が勝ったら、そっちのグループと連携したいと思うの。そしたら、こっちの方針に合わせて欲しいな~って思うんだ。私達はつまんないチームだからそういう面白い格好ってできないんだけど……」


 三人が私を真っ直ぐに見た。


 にっこり笑いかける。


 それから千里を見た。


 ニッと頼りがいのある笑みが浮かんでいる。


 まるで朝日が差すように、三人の背後に救いの花が咲き乱れる。


 勝ったな。まず一つはクリアだ。


 私は少し顔を伏せる。汚く笑ってしまいそうだった。


「よし、コートで待機だ!」


「「おー!」」


 いち早く負けたいとばかりに彼らは小走りで移動していった。


 置いていかれた八雲は現状が把握できないのか「えっ? えっ?」と、軽くおろついていた。


 ……こっちの気持ちもわからないでもないかな。同情はできそうだ。


「きっと追いかけたほうがいいと思うよ?」


「あ、あぁ……おなごといえど試合では手加減せんからな」


「えっと……やさしくしてね?」


 捨て台詞になんて返せばいいのやら。


 っていうかおなごって。


 とりあえず八雲の喧嘩は千里が買っているし、私は無関係を主張してやんわりとぶりっ子しておいた。


「グッジョブ。やっぱり女子が言うと効果二倍だな」


 こっそりと千里が耳打ちをする。


 作戦、その一……側近を助けるふりして引き剥がす。


 女の子が優しく指摘することにより辛うじて保っているプライドが一気に情けなさの奈落へと突き落とされるから、そこに手を差し伸べる。


 そう。試合は既に始まっているのだ。


 もしかすると、千里はそこまでやらないと勝てないと思っているのだろうか。


 千里は強い。けど、封印された一撃必殺しか見ていない今、わからないことが多い。


 八雲の試合は連携もクソもないのに、なかなかだった。


 不安になっているわけじゃない。千里を信じきるにはまだ早いのだ。



 ――視界の端に、見慣れた姿。



 忘れていたわけじゃないけど。


 どんなことを言いに来たのか想像できなくて、私は少し緊張していた。気まずさと、怖さ、かな。


 恭ちゃん……そっと顔を向ける。


 私のよく知っている、いつも通りの、穏やかな微笑。


 目が合ったら、前みたいに優しく笑いかけられた。


 嬉しいけど、私、どうしたらいいのかな。距離を置こうって言ったのは私なのに。でも、しばらく避けていたのは恭ちゃんだし。昔は変だったし。


 友達の距離ってことなのかな。それはどれくらいの距離だっけ? こんな短い間なのに感覚忘れちゃったよ。


 色々な想いが入り混じっていた。笑い返したつもりだけどうまくできただろうか。


「彼ら、すごい演出力だね。あれもなにかの策略なのかな?」


「なーんも考えてないと思うぜ」


 千里がニヤニヤして答えた。わずかに警戒が見え隠れする。意図を探っている。


 目が笑わない恭ちゃんの笑み。


「そうか。ああいうのも個性的で面白いね。僕は嫌いじゃないよ」


「で? 用があるのはミミミのほうじゃねーのかい?」


「ミミミ……?」


 恭ちゃんの、あまりにも繊細な眉間のしわ。どこがそんなに気に食わないのか。それでも、すぐに余裕があるような勇ましい笑みを、千里へ向ける。


「いいかい、森羅君。絶対に負けないでくれ。君は僕が倒す。その上で一番になる。その席を暖めといてくれよ」


「ヒュー、言うねぇ。もちろん負けねぇさ、お前にもな」


 最初の草試合を逃げたことはつっこまない。これは優しさなのか。それとも、人間関係については突っ込みたくないのか。それもそれでちょっと寂しい……別に千里に懐柔されてなんかないから。


「決勝戦で待っていてくれ。それだけだ」


 強気な挑戦者みたいな言い方。恭ちゃんがこんなに闘志をむき出しにするなんて意外だ。……いや、意外じゃないな。


 そして、恭ちゃんは私に微笑みかけた。


「僕がみみちゃんを守るから」


 なに。


 なに。なに。


 こわい。


 寒気が走って震えてしまった。自然と体が萎縮してしまう。


 何が怖いとか気持ち悪いってはっきり言葉にできないけれど、なんかこう、感情的に屈折している。


 そりゃ、私だって恭ちゃんは好きだけど、よくわからない執着されている感じがすれば、こんな気持ちになってもしょうがないだろう。


 満足したのか、恭ちゃんはグループの方へと足取り軽く帰っていく。


 周囲はきょとんとしている。日丸と千里だけは怪訝な顔をしている。


「なんだよお前、俺が負けるとでも思ってんのかー?」


 千里が私の頭をガシッと掴む。本日二回目だ。


 傍から見たら痛そうなじゃれあい暴力行為かもしれないけど、これが案外痛くない。っていうか、わりと気持ちいい。イケメンだから女の子の扱いに慣れているのだろう。


「ほ、ほら、お荷物の私がいるし」


 人差し指を頬にあてて自分を指す。


 いつもの私なら言い返してたかな? 落ち着け、私カムバック。びびってんじゃねぇ。


「ハンデで負けたら格好悪いだろうがよぉ。心配すんなよ」


 日丸が言う通り、気を使われてるなぁ。


 なんだよ、ぐいぐい好感度上がっちゃうじゃん。心強い相方だ。


 よし。とりあえず後回しだ。


 今は目の前の作戦の実行を優先しなくちゃ!


「うん。千里がいれば勝てる気がしてきた。頑張るぞ!」


 ぐっと拳を握ってがんばるポーズ。


 ちょうど試合監督がぞろぞろ入ってきた。授業開始からちょっと経っていた。


「遅れてすみません。コート毎に、位置についてください!」


 やっぱり先導は担任、私達のコートの監督も担任だった。マジ勘弁。


 あれから担任の当たりがちょっときつくなったし、本当に止めて欲しい。先に言うならば、試合にいちゃもんつけるのだけはお願いだからやめてね。


 対面のコートにはゲテ……グループ30の愉快な四人。


 だけど担任は私達だけを忌々しげな目で睨み付ける。


「今回からのルールの変更点のみ確認します。事前に教務課にて申請されて許可の出た技しか使用を認めません。試合開始後は、一度も攻撃を交わさない、攻撃を受けないリタイアは認めません」


 私達だけ注意されている感じ。リタイアのほうは日丸のグループだろうか。


「はーい、わっかりましたぁ~」


 完全になめてかかっている千里。どうせ教室ではいじめられるのだから、私もここで思いっきり逆撫でしておくことにした。


「はーい」


 っていいお返事と満面の笑み。


 担任はじとっとした嫌な目で私達を見た後、口を押さえてコホンと咳。


「……わかったなら結構です。構え!」


「コール!」


 向かいの人たちが言うとやたらとサマになっているんだよなぁ。不思議。


 ノイズ走りつつ歪み。まともに見ていると平衡感覚を失いそうだ。

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