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少年漫画風逆ハーバトル少女小説 すたばと!  作者: 九時良
二章 色々と規格外の二人組
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亜空魔心眼流

「いやー、見ましたわ。千里はん、やっぱええ男やなぁ」


 ごますりごますり。


 媚び媚びの日丸。お前が褒めるところはそこか。


 大広間の一番いい席の作戦会議は二回目にして定着したようだ。今日もお天気がよくて日差しが心地いい。お昼寝したい気分。


 でも、すっげーこっちを観察してくる人が多いから眠るにも眠れん。


 注目度がガンガン上がっていくのがすごくよくわかる。居心地の悪さは半端じゃない。


「だろぉ? 男のファンができてもちっとも嬉しくねーけどな」


「せやかて女性ファンにも手厳しいやないのー」


「好みの美人には優しいぜ、俺は」


 即物的だなぁ。男子はこんな話が楽しいのか、二人でへろへろ笑っている。


「千里の好みってどれだけハードル高いの?」


「俺とつりあうことが最低条件だな」


「でたよナルシスト……」


 信じられないやつだ……なんか力抜けちゃう。自信満々に笑うなよ。


 日丸がパンパン、と手を叩く。


「ま、そんな話はそこまでにしましょ! 打ち合わせ打ち合わせ~。次の相手さんはなー、なんと剣道の達人やて!」


「ご紹介に預かり恐縮だな」


「えぇっ?」


 私に負けない間抜け面で日丸が声のほうへと振り返った。


 私も千里も知らない人が近づいていることは気が付いていたけれど、喋るまで話題の人だなんてわかりもしなかった。まあ、知らない人だしね。


 細身のスラリとした男子生徒。


 制服の着こなしが美しいくらいに模範的だ。キツネ系の顔立ちは整っているし、好きな人は好きそうな系統だけれど、かなり神経質っぽい。


 土方歳三とかその時代の武士のマネかどうかは知らないけど、なんか男子のくせにつやつやなロンゲだし。


 ていうかなんで木刀持ってんの? おしゃれなの? 邪魔じゃない?


「貴様の話は聞いているぞ、日丸。学内最速、的確な情報の持ち主だと」


「おぉ、それはあんがとさん」


 褒められて気分がよかったのか、愛想良くお礼なんか言っていやがる。


「なにお前」


 反応に困る相手だったのだろう。千里の目が木刀にばかり行っている。


「俺は八雲刃――剣道の道を究めんと修行をしている者だ」


「それよりまず組と出席番号を言え。あとなんで木刀持ってんの?」


 それ聞いちゃっていいの?


 八雲は少し目を伏せて、木刀に手を置く。


「失礼。メテオ組6番だ。木刀は、話せば長くなるが……千年前に亜空魔心眼流という世界最強の剣術の流派が誕生し俺はその唯一の継承者で」


「あ、やっぱいいわ。もう話すな」


 顔の前で手をひらひらさせる千里。


 どうやらマイワールドを突き詰めた人みたいだから懸命な判断だと思うけど、なかなかできるもんじゃない。私なんかは特に、心優しい乙女だからできるわけない。


 話を切られた八雲は残念そうに「そうか……?」と眉を下げたが、すぐにしゃんと立て直した。


 真っ直ぐに千里に向き直ると、鋭い目で睨み付ける。


 木刀がひゅっと風を切った。いい音だ。


 切っ先は千里に突き付けられていた。


 さすがに周囲がざわっとした。かくいう私もぎょっとして退いた。


 千里は冷たい様子見の無表情で悠々と座っている。場馴れしている……。


「グループ18、森羅万里。伝統の生徒ルールに則り、グループ30の八雲刃が貴様に決闘を申し込む。貴様が負けたら俺の傘下に入ってもらおう」


「ふーん。ところでお前、必殺技あるの?」


 八雲は木刀を手元に引き、謎の構えをした。


 腕を胴でクロスするように柄を下にして、切っ先を顔の前まで持ってくる。空いている片手の二本の指を揃えて木刀に添えている。姿勢は膝を曲げた中腰。


 こんなんで攻撃できるんか。


「亜空魔心眼流畏ノ型鬼椿」


 何それ……?


 大広間に冷たい空気が満ちている。私も日丸もその大きなうねりの中の一つ。何それブリザード。


 ヘッと軽く笑い飛ばす千里。


「ああ、じゃあ、お前は勝てねえな。お前は後出だ。先駆者の俺に勝てまい」


「先駆者……だと?」


 木刀を下した八雲がふつふつを肩を震わせた。演技くさい笑い方だ。


「ハハハ! 面白いことを言う! 亜空魔心眼流は千年前に成立している。貴様の後出なわけがない!」


「うるせーな妄想野郎」


 千里は別に怒っているようでもなかった。笑ってもいないが、多少面倒くさそうには見える。こんな日本語の通じなさそうな相手にマジになるのもバカバカしい、ってなところだろうか。


「アクマ・シンガンだかアクウ・マシンガンだかよくわからんが、俺が作ったルールに後から乗ってきたやつが偉そうにガタガタ抜かすんじゃねーよ。もし千年の歴史があんだって言うなら、試合で見せてみな」


「……無論そのつもりだ。たとえ貴様相手でも負けるつもりはない。侮辱の借り、その傲慢な態度を改めることで返していただこう」


「やってみろ。楽しみにしてるぜ」


「フン!」


 普通は口で言わないようなことをわざわざ言葉にして、八雲は踵を返し去って行った。


 冷たい空気の魔法は未だ解けない。誰もがざわざわしているけれど、困惑ばかりしか見えなかった。


 声を潜めて、手のついたてを作ると、日丸はそっと身を乗り出してくる。いつもの楽しんでいる顔ではなく、今回は少しばかり心配の陰りがある。


「万里はん。一応言っときますけど、八雲はんは力で仲間を手に入れとります。そこそこ強いの集まっとりまっせ。ほいで八雲はん自身、中坊のころからあんなんやって。その調子で剣道やっとったからマジもんの達人ですわ」


「達人ってただの皮肉……」


 思わず口を挟んでしまった。チームメイトだけど外野で通すつもりだったのに。だって係わり合いになりたくない。


 日丸は鷹揚に手を横に振って否定する。


「いやいや、すごいやないの。剣道強いんはマジで、大会でもええ成績残してますのん。ボクは畏敬の念を込めて達人言っとりますけど?」


「ああ、そういう……見方もあるね」


 あるか? 畏敬って恐れと敬いだよね? やっぱりバカにしてない?


 千里はくっと口の端を吊り上げて面白がっている。


「ほぉん。期待できるな。そこんとこ後で詳しく」


「お安くしときまっせ!」


 親指と人差し指で円を作ってお金のサイン。


「金取るんかい」


 まさかそんなビジネスライクな関係だとは……日丸の周囲に対する妙なヨイショの理由もがわかった。コイツ、客と金としてしか見てないのか。


「見合った対価を支払うのは当然だろ。便利してるぞ」


 っていうのは千里。


「ギブアンドテイクっちゅーやつですわ。でもな、そんな金にガツガツしてやっとるわけやないんですよ。信頼第一。千里はんとはえぇ関係築かせてもらっとるさかい、ほんま楽しい学園生活を送らせてもらってますー」


 胡散臭さ割り増しの日丸。その言い方から既になぁあ……。


 印象が奮わない不審な私の視線を振り払うように、日丸は人差し指を立てた。


「そや。ボクらの初戦、ちょーどお二人の二回戦と同じ日なんですわ。リアルタイム中継が見れなくてほんま残念やわー」


「日丸君の初戦……って確か、恭ちゃんちのチームだよね」


「そーですのん。棄権しよってことで内輪ではまとまったんですけど、先生から怒られてもた。アカンわ、点数付けられへんから負けてこいって、ひどぅありません?」


 いつも通り日丸の話っぷりは嫌いじゃない。ついつい聞いてしまう不思議なダラダラ感が心地良い。話題の矛先を強引にそらされたことに不服を覚えているのなら、なおのこときちんと聞いているべきだ。


 だけど。


 恭ちゃん、同じ時間に試合なのかぁ。


 体育館で顔を合わせたとき、やっぱり避けられたりするのかな……。


 心ここにあらず、みたいに、私は受け流しの笑いを浮かべてしまう。


 そんな自分を次の瞬間に把握する。やっちゃった。


 勘のいい男二人は、私がハッとするところまでじっと観察していた。

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