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少年漫画風逆ハーバトル少女小説 すたばと!  作者: 九時良
一章 推薦・トーナメントふたりぼっちのグループ
4/26

日丸です

 IN大広間の一番いい席。


 窓際でお日様がポカポカ当たるけど、外のテラスではなく、壁際の落ち着ける席。周りに人はいない。いや、周りに人がいないっていうのは齟齬があるな。


 森羅――千里が退かした。


 どうやら舎弟達が陣取っていたみたいだ。「退け」の一言で「どーぞどーぞ」と譲られた。


「あんた猿山のボス猿か」


「お前は小猿って感じだよな」


 大して気にしていない風に、つめたーく言われた。椅子は生暖かい。


 どっかりと椅子に腰掛けた千里は、悪徳商法で儲けている社長くらい偉そうに、極めて傲慢に人差し指を立てた。


「作戦会議っつっても、お前に言うことは一つだ。開始直後、俺のところまで走ってこい」


「意味わかりませんが。あんたの後ろに隠れてろってこと?」


 ふぃー、と、千里はため息をついた。まるで私がわからずやのような態度である。ファック。


「俺は必殺技を一番目立つタイミングで大々的に使いたいわけ。ネタバレしてたらつまらんだろーが」


「グループ組んでる私にくらいは言っとかなくちゃいかんでしょ」


「バァーロー。そしたらお前が驚かないだろ」


「驚かなくていいから教えなさいよ」


「答えはNO! だ!」


 ドきっぱりと言われた。


 ――あ、逆らってやろう。絶対言う通りにしないもんね。


 私の考えを見透かしたように、千里はずいっと身を乗り出してきた。


「お前、言う通りにしないとどうなるかわかってんのか?」


「おう、どうなんだよ。言ってみやがれってんだ!」


 千里は一瞬、何かを言おうとした。


 しかし、出かけた言葉を飲み込んで鼻で笑った。


 結末を想像したのか、今のうちから「ざまぁみろ」と言う風に。


「ま、いーんだけどさ。どうせ二回目は使えないからなぁー」


 マジで意味がわからない。


 本人は吐く気がないみたいだし、さて、どうしようか。


 言いなりになるのは嫌だ。


 でも、嫌な予感がすることも確か。


 馬鹿にした笑いが千里の口の端に浮かんだ。私の悩みまで見通されているらしい。


 なんだよこいつ。やっぱり恭ちゃんと組んだ方がよかったかなぁ。



「万里はーん」



 不思議なイントネーションの男子の声が、大広間の入り口から聞こえた。


 千里が片手を上げる。ふてぶてしい動作である。


 駆けてきたのは、派手な髪色がやたらと目立つ、猫みたいな目の細身の男子だった。


 どうせこいつも千里の手下。


 そいつはニヤッと茶化すような笑みを浮かべる。美形と言うよりは、愛嬌のある顔立ちって感じだ。


「万里はーん。いや、今は千里はんやっけ?」


「だから格下げんすんなって……」


 どうやら、私のところに来る前に散々からかわれたらしい。もしや私で憂さ晴らしをしようとしていたのか。


 そいつは私にチャッと敬礼。ヘラヘラした笑顔は地なのだろうか。


「どもども。ボク、日丸フーリいいますねん。ほら、パパラッチってあるでしょぉ。ああいうのやっとります」


「へー、噂好きなんだ。私は美空ミミ子。よろしくね」


 ご丁寧に挨拶していただいたのは結構だが、なんか方言にしては怪しい感じである。だが、つっこむのはやめておこう。どうせ千里の手下だ。ロクなやつではないに決まっている。


「んで、どーよ?」


 何かを尋ねる千里に、腰に手を当てて胸を張る日丸。


「ここだけ~の、とれとれピチピチ速報でっせ! グループ18の対戦相手はグループ7、コメット組だけのグループっちゅー話ですわ」


 なんと! このタイミングでうちのクラスの人ですか。


 思わず千里と顔を見合わせてしまった。いや、私が千里と視線を合わせにいっただけかも。


 それを何と受け取ったのか、日丸は笑顔のまま少し眉を下げる。


「ミミ子はんにはやりづらい相手かもしれへんなぁ。まぁー、仕返し覚悟で日頃の鬱憤晴らすのも悪くないとちゃいます?」


「お気遣いありがと。身に染みるよ」


「ええんですよ。万里はんの相方やし、それをさておきえろうかわいいやないの。困ったら相談したってや。ボク、いつでも力になるで」


 まかせとき! みたいな感じでトントンと胸を叩いたりしている。


 口調は極めて胡散臭いけど、疑ってたのが申し訳ない気分になってきていた。


「嫌だな、おだてちゃって。日丸君っていい人だね。千里とは大違いだよ」


「うるせーよ」


 ちょっとイラっとしたらしい。そんな感じで、千里はつぶやくように言葉をぶつけてきた。



 ……で、私達がなんの話をしているかというと。



 グループ単位でガジェットバトルのトーナメントがあるのだ。一応、実践練習にあたるから、怪我はしないけどそれなりに痛いらしい。


 成績評価、今後のコース別授業の振り分け、色々な適正、向上心の育成、などが目的だ。


 これが生徒間で穏便な扱いになるわけがない。


 毎年、戦って負けたグループを配下にして学園内勢力の拡大を狙う連中が見られるらしく、殺伐とした環境が強調される。


 強いグループは下克上を狙う下位に喧嘩を売られ、血で血を洗い、陰謀と策略が張り巡らされた人間の腹の内に恐怖しながら夜道に気をつける。


 負けたグループも、いい君主ならば安政、暴君ならば圧制。


 まさに世は戦国、波乱の時代である。


 教師陣は「いじめはありません」という姿勢を貫いているので、こういった生徒間の向上心については「自主性を尊重する」方針らしい。先輩方が作った学校裏サイトに書いてあった。


「全部のグループの組み合わせ知ってたりするの?」


 ちょっと恭ちゃんのことを聞いてみようかなとか思った。あれから連絡とってないし。ていうか、あっちからの連絡がなくて、こっちからの連絡は無視られている。


「そんなよーさん覚えられませんわ~」


 日丸はパタパタ手を振ってケタケタ笑った。


 なんか親近感を覚える。だから間違いなくいいやつだ。友達いないし、今後とも仲良くしたい。欠点は千里の手下ってところかな。あぁ、千里の手下じゃなければなぁ。


「ちなみにボクらのグループの相手はメテオ組の優等生集団、グループ25やねん。棄権しよーかどーしよーか悩み中なんよー」


 ……なんよ? まぁ、いいや。


「それって恭……鳴海君のグループ?」


「そのとーり。でなきゃ、わざわざ言わんて」


 にしし、と、日丸は笑った。


「フったんか? なぁ、フったんか? そこんとこどーなってん??」


「んー。幻覚系の恭ちゃんと私が組むのは合理的じゃないし」


「いやですわぁ、そんな言い訳で通る思ってますのん?」


 笑い方はふざけている。でも、千里と似たような鋭さがある。油断できないやつかもしれないな。


 どうするか。日丸と仲良くしたい気持ちはあるな。


「誰にも言わない? 内緒にする?」


 手でついたてを作り、ヒソヒソ声を出す。


「言わな~い! 内緒にする~!」


 日丸もヒソヒソ声ではあるけどすごくテンション高い。お調子者臭い。


 私は日丸を指差して、千里を見た。


「日丸君って口硬い?」


「硬めのグミくらい硬いかな」


 暇そうな顔で私たちの会話を見守っていた千里は、だるそうに言った。


「ひどない? それ、あんまりとちゃいます?」


 私が千里に聞いたことと、千里が答えたことの二つに対して、ちょっと傷付いた様子。だけどこういうことの大概は自業自得なのだ。フォローのない時点で同情の余地なし。


「ちょっと不安だなぁ……」


 日丸に疑いの目を向ける。当然、日丸はイメージを良くしたいと頑張る。


「安心してつかあさい! 万里はんはこうおっしゃいますけど、ホンマ情報はきちんと選んどりますから! 言っちゃダメ~なことは言いませんて。あくまで個人的に楽しむ程度で」


「ん~……ま、いっかな? 特別に教えちゃう」


 焦らすだけ焦らしたし、そろそろいいだろう。千里もお手伝いありがとさん。本人はそんなつもりないだろうけどね。


「ホンマに?」


 ぐっと食いついてきました。素直ですな。


「うん。みんなにはナイショだよ?」


「やったー! ミミ子はんやさしーわー」


 こそこそと耳に口を寄せる。日丸はちょっと香水付けていた。爽やかでスパイスの効いた柑橘系。


「実はね、私がフられたんだよ」


「マジで――!? うっそやーん!」


「静かに! 入学前に、どうせ一緒にいるなら付き合っちゃう? ってきいたの。そしたらなんか微妙な感じで、断られちゃったみたいな?」


「はーん……よぅわからん話ですなぁ」


 日丸はふぅむ、と、考え込むように顎に手を当てて。


「あれかしら。幼馴染は異性として見られへんって、よー言いますけど」


「かなー? どうなんだろ。よくわかんないよねー?」



 ――心当たりはちょっとある。よくしらないけど。それかもしれない。



 今更ながら、そんなことにフっと気がついてみたり。日丸の言う通りならラッキーだろう。


「ボクも姉ちゃんいるせいで年上系はアカンもんなぁ。ちょーどミミ子はんみたいな感じがタイプですわ」


「やだ、なにそれー。もーっ、日丸君ったらお世辞が上手なんだから」


 へへへと照れくさそうに笑う日丸の肩を叩いてみる。


「……おい、俺は仲間はずれか?」


 千里が言った。疎外感丸出し。こういう差別のされ方が悔しいんだろうな。なんせ俺様的な感じするもんな。ざまあ見ろである。


「だって私と恭ちゃんのこと、面倒臭くてどうでもいいんでしょー」


 日丸は吹き出して、千里はあからさまにムッとした顔をした。






 私が恭ちゃんと始めて会ったのは、小学校高学年の頃の話。


 そのころの恭ちゃんはただの変な子だった。


 とんでもなく暗かった。ビクビクしてた。大人の前ではいい子だった。普通を装おうとしてぎこちなかった。


 恭ちゃんは転入生だった。


 家は近所。


 ご両親は――おじさんとおばさんはずっとそこに住んでいる人で、恭ちゃんだけが一人で引っ越してきた感じ。


 大人はなんだか恭ちゃんに優しかったけれど、周囲の友達は優しくなかった。


 いわゆるいじめが起こった。その前は他の子がいじめられていたから、ターゲットが変わっただけかもしれない。そういうことが起こりやすい環境だった。


 私は別に正義の味方じゃないし、そもそもからそういう場所に住んでいたから、適当な対処としてぼんやり我関せずで見守っていた。


 だからびっくりした。恭ちゃんは何をされても石みたいにただじっとしているだけなのだ。


 みんなばれないようにやるのが好きだから、暴力的ないじめは本当にたまにしか起こらなかった。だとしても、今まで見ていた子は色々もがいた。学校に来なくなったりした。


 でも、恭ちゃんはいつも通り。先生や親の前ではニコニコしていた。


 あんまりにも不思議だったから、私は恭ちゃんが一人でいる時に、一人で声をかけてみた。それはとっても危険なことだったけれども。


「いじめられて悔しく無いの? やり返したり、逃げたりしないの?」


「……僕なんかのことを心配してくれるの?」


 恭ちゃんは目をくわっと開いてから、だばーっと涙を流した。お面みたいな無表情だけど綺麗な顔が一瞬でぐしゃぐしゃになった。


 私はちょっと引いた。


 別にそういうわけではないけど、相手はガチ泣きしていたので言い辛くなってしまい、ついでに同情してしたので、引き攣った笑いを返した。


「な、泣かないでよ……」


 なんか私がいじめたみたい。何もしないのもいじめだけど。いや、いじめていれば、私がみんなからいじめられることはない。


 ――恭ちゃんと対面すると決めた時から、こういう計算はずっと頭の中で働いていた。


「うっ……嬉しくてっ……」


「……嬉しいなら、笑ったら?」


 恭ちゃんは腕でぐしぐしと顔を拭った。それでもまだ顔は赤いし目も鼻もぐちゃぐちゃでしゃくりあげているんだけど、私に向けて笑おうとしていた。


 あ、こいつって暗くて大人に媚売るだけじゃなくて、本当はいい子なのかも。とか思った。だから、だんだん真面目に可哀想になってきた。


「あんた友達いないんでしょ? 私が友達になってあげる。でも私、いじめられるの嫌だから、みんなが見てないところでしか仲良くしてあげない」


 子供って怖い、こういうことを素直に言っちゃうもんね。とんでもなく上から目線で、保身的で、嫌なやつだ。


 それでも嬉し泣きを続ける相手も相手だった。もっと泣いていた。


「やだもぅ……勘弁してよ……男の子なんだから泣かないの! ね?」


 私は母に慰められる時、頭を撫でてもらう。だから、同じことをした。恭ちゃんはぼうっと呆けて、それからまた泣いた。


 その後しばらく、私は恭ちゃんとこっそり仲良くした。恭ちゃんは私の保身に疑問や不満を見せることなく嬉しそうだった。


 ま、そんなのあっという間にバレるけどね。


 一部の女子が私のことを嫌いだったみたいで、今度は私がいじめられた。恭ちゃんもいじめられ続けていたけど。



 それもほんの短かい期間の話だ。


 恭ちゃんがいきなり暴れたのだ。


 いきなりと言うのも変な話で、私がトイレから戻ってきたら教室がシンとしてクスクス笑いが起こった程度の些細な話だ。


 その時の恭ちゃんは直前まで席についてボーッとしていたけれど、突如立ち上がって机を投げた。窓ガラス割って、止めにかかった男子を椅子で殴って、戦闘不能になってもタコ殴りした。


 あの男子、前歯が折れて鼻の骨も折れたらしい。顔面がぐちゃぐちゃだった。


「みみちゃんをいじめるな!」


 って恭ちゃんが泣きながら叫んでいたのはクラスのみんなが聞いていた。


 恭ちゃんがいじめられていたことはすぐ明らかになったし、私を守るためだったと庇う意見も強かった。特に私の元ヤンの母親なんかは「自分のためじゃなくて人のためだけに行動するなんて大したもんだ」となるほどな正義論を述べていた。


 先生も味方につき、いじめっこの親も最終的には萎縮してしまい、なんとか和解の方向になった。


 だけど、正直、私は恭ちゃんを怖いと思った。


 だって、殴られていた子は血まみれで、抵抗もできないくらいになっていた。他に何人も怪我をしていた。それくらいやりたくなってもしょうがないくらい、怒っていたのはわかる。私を大切に思っていてくれたのもわかる。


 でも、怖かったんだ。


「これからは僕がみみちゃんを守るよ! 守れるように、頑張るよ!」


 恭ちゃんは私に向けて、すごく真面目な顔で、真っ直ぐな目で、言った。


 まったく悪びれていなかった。


 ……それも怖かった。



 だけど、それからの恭ちゃんは普通で、私に対してすごく優しくて、極めて優秀な人間だったから。キレるようなことなんか、それからはなかった。明るくハキハキとした優等生になったのだ。


 中学は別の学校にいっていたけど、やっぱり成績トップ、スポーツ万能、人望厚く、美形。


 そんでもってマメで私に超優しい。


 思い出なんか劣化して、いいことばっかりが後付の印象に書き換えられてもしょうがないじゃん?



 でも、違うんだね。人間はそういうもんじゃないのだろう。


 私だって、性格の悪さが直らないのだから。

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