ぼっち「誰かグループを組んでください」
だからって翌日もきちんと学校に来る。いいことあるかもしれないし。
「一期中間試験、皆さん、大変良くできました」
とか言いながら、びりっけつの人は皆様の中に入れてもらえないんですよねー?
教卓の先生に心の中で毒付く。
爽やかな感じの営業スマイルが身についた、ちょっと濃いめでバタ臭いけど整った顔立ち。スマートな逆三角形が、ストライプの入った軟派なイタリア型スーツを見事に着こなしている。
北条大地先生(28歳)。
こいつが、この担任が、真っ先に私を見放しました。
最初はすごく期待していい感じの声をかけてくれていたのに、だんだんと態度が変化していった。今やクラスの笑いもの扱い。
どうやらエリートであることが何よりも大切と考えているらしいです。ファック! きっとエリート様からしてみればみそっかすはただのお荷物なんだ。
でも、こいつだけならいいんだよ。
担任がからかっているせいで、他のクラスメイトまで調子に乗りやがった。最初の頃、担任や色んな教師からチヤホヤ特別扱いされていたのが鼻についたようだ。
今まで褒められたことがほとんどなかったから、よーし頑張っちゃおうかな~って気分になったのもダメだったみたいだ。慣れないことはするもんじゃないね。それまで築いた淡い人間関係のようなものも全ておじゃんになって総スカン食らっている。
「今日からは一つステップアップです。星屑討伐と神殿探索のグループを作り、練習試合や実践を模した演習、グループセッションや、戦略の立て方の講習を行います」
――そして、悪魔の言葉が、吐き出される――
「クラスは問いません。自由に二人以上のグループを作って下さい」
今の私を仲間に入れてくれる人なんて、どこにいるのか?
いやいない(断定)。
「なお、グループに入れなかった方は、しばらくの間、先生とグループを組んでいただきます。その後、バランスを考えた上で他のグループに入れていただきますので、ご了承下さい」
担任は確かに私を見た。めっちゃ目が合った。他の生徒はクスクス笑った。
「えー。美空さんと組みたくありませーん」
「ぜったい足引っ張るもんねー」
女の子の声が多いのは、きっと私が恭ちゃんと仲良しだからだろう。恭ちゃんは当然モテる。雰囲気は王子様系だし。
……震えて小さくなるしかなかった。
し、嫉妬してんじゃねーよ(震え声)。
どうしよぉぉぉぉ……!
と頭を抱えそうになって、ふと、デジャビュ。昨日と同じことしてる気がする。心の中で思うだけにしておこう。
メンバー集めのため、昼休憩を兼ねた長めの休み時間。教室に居辛くなった私は、一旦大広間へと逃げた。
大広間は居心地がいい。机と椅子がたくさんあるし、フカフカのソファもある。円形の室内がオシャレ。温室みたいに天井が透けて日光が差し込むし、お花の咲いてる中庭もすぐそこに見える。
恭ちゃんのクラスに行こうかな……マジで恭ちゃんに泣き付くしかない。
でも、多分ダメだ。
恭ちゃんは友達が多い。きっと今も引っ張りだこだ。出てこれないくらいに。いい顔しぃなところもあるからきっぱり断れないし。そうじゃなければ真っ先に私のところに来てくれる、はず。
あー。うー。本当にどうしよう。
先生のところに、他のぼっちも集うのだろう。
もうそれでいいかな……残り物集団として仲良くなれるかもしれない。
――とか思っている私の前に、座る人がいた。
机を挟んで向かい合った窓際の二人席だから、間違いなく私に用がある。
ビビって顔をあげた。私に用がある人なんて、そんなの冷やかししかいないし。
女子生徒の制服。
モデルみたいにスタイルがいい。
長い髪は透き通るようなラベンダー色で……恐ろしく美人!
うわあああ!
深い赤色のおっとりとした垂れ目は笑みで細められている。
小ぶりな唇はきゅっと口角が引き締まって上がっていた。
ふんわりとした女の子らしいほっぺたとあいまってお人形さんみたい。
だけどそこはかとなく香る色気。
ヤベェ。惚れる。
「ごきげんよう」
軽やかに鈴を転がすような声で彼女は言った。ヤベェ(二回目)。
「あっ、あああ、あの、私めに何か御用でございまするか?」
あまりにも美人過ぎるので緊張してしまった。まとってるオーラもなんか段違いに……そう! なんかの聖域的な!
フフッ、と上品に彼女は口を押さえて笑みを溢した。
「いきなりお向かいに座ってごめんなさいね。少しだけあなたとお話したくて――美空ミミ子さん」
「ご、ご存知で? 恐縮です……」
「ええ。推薦なのにビリって有名よ」
胸が痛ぁい! 美人に言われると冗談抜きでキツゥイ! 死にたい!
「ご紹介遅れまして申し訳ございません。わたくし、神苑ムーと申します。お見知りおきを」
「はぁ……あの、お話とは?」
ところで、私はなんでさっきから敬語なんだろうか。美人の威圧感?
「美空さんはどちらか、グループが決まっていらっしゃるのかしら?」
「もしや私をグループにお招きいただけるのですか!?」
まさかの女神降臨!!
「嫌よぉ。今のあなたじゃ、足を引っ張られたり、バカにされそうだもの」
間を置かずにスッパリと拒否られた。
思わずフリーズ、そこから流れるように真っ白に燃え尽きかけた私を見て、神苑さんはおかしそうにコロコロとした笑い声をあげた。可愛いっす……。
「美空さんって、鳴海恭一郎君と仲がよろしいんでしょう?」
「あー……恭ちゃんファンの方ですか?」
「いいえ。どちらかと言うと美空さんのほうが好みよ」
意味深な目で見つめられると、好きにして! って気分になってくる。
神苑さんは華麗に頬杖をついた。無駄に胸が寄った。
「もしも学校が嫌になっちゃったら、わたくしを呼んでくださいな。一緒に活動しましょ?」
「はは……ありがとうございます」
もう既に嫌なんですどね!
嘆きが喉本までこみ上げている。胸の谷間へ行った目をそらして、ごまかすように愛想笑い。
顔を上げると――いない。
煙のように、神苑さんは消えてしまった。
魔法系の、幻覚タイプなのかな。幻覚タイプはちょっと癖のある人が多い。立ち振る舞いとか恭ちゃんとどことなく似ているし、きっとそうだろう。
なんだったのか。冷やかしか。嫌がらせか。
落ち込む。結局一人だ。
もういいかな。
担任と一緒だけど。余るやつらはゴロゴロいるはず。
でもなぁ。クラスのはぐれ組って想像が付く。
私のいるコメット組はクラス内に階級がある感じ。天辺から一番下に落ちた私はこうなるしかないわけで。向上心と転落への恐怖への緊張が目立つやつばっかりだ。
つまり、はぐれ組でも私はあまりいい扱いをしてもらえなさそうということだ。
やっぱり学校やめちゃいたいな。さっそく、神苑さんを呼びたいところ。
落ち込む私の耳に、女の子のきゃいきゃいした黄色い声とかも聞こえてきた。
なんぞ? と視線を向ける。
目の保養になる美形がいた。
濃い顔立ちだけど、担任のようなバタ臭さはなく、爽やかな仕上がりになっている。ただし、目は荒んでいる。
遠目からでもパッと目を引く、バスケでもやってそうな素晴らしい体格。ただし制服の着こなしはグズグズ。
女の子が取り囲むのもわかるイケメン様だ。みんなちょっと悪そうなのが好きだもんね。私の好みから言うと、もっと優しそうな人がいい。できれは落ち着いた年上がいいな。
一応顔は知っている。
ライジング組の森羅万里。すごい名前である。
こいつも私と同じ推薦組。特待生。
なお、一年では私と彼、二人だけの模様。
ミーティアレベルはS。多分、学年一位はこの人だ。一般授業の成績もいいらしい。
なんかこう、ここまでハイスペックされちゃうと……ファック。妬ましい。
で。なんでそいつがこっち向かって歩いてくんの?
目ぇ合ったし。
なんか「よっ」って感じでフランクに片手上げられた。
女の子たちは察したのか、入り口付近で団子になってこちらの成り行きを見守るつもりのようだ。居心地悪い……天下の大広間なのに……。
「えーっと。お前、推薦だけどビリッカスの美空ミミ子だよな?」
顔色からも口調からも、悪気はなさそうだと感じ取れた。何気なく人差し指をつきつけてくるあたり無邪気とも言える。信じられない。中指を立ててファック! と叫ばせていただきたいところだ。
「そ、そういうキミは私と同じ推薦入学の森羅万里君だよね」
何か一つでも嫌味を返してやろうかと思ったけど、叩くところがなかった。強烈な敗北感が心を満たしていく。頭のてっぺんからつま先まで負け組。
ハハハ、と森羅はおかしそうに軽く笑った。朗らか。わりと悪い人じゃなさそうに思えた。もちろんさっきので深く傷付いたけどさ!
「お前変なやつだな。俺に名前の確認なんて。そんなの、信号は赤で止まることを確認するようなもんだろ。まぁ、俺は赤でも渡るけど」
なんだこいつ。自分の名前は印籠、顔パス当然とでも思っているのか。
森羅はヘラヘラ笑いながら私の向かいにどっかり足を開いて座り込む。
「……な、何の用? まさかグループ組もう、なんて言うわけないよね?」
「そのまさかだよ。喜べ」
「ちょっ、ちょっと待って」
私は手のひらを立ててストップのジェスチャー。
しかし、森羅は眉間にぐっと皺を寄せて、巻き舌気味に。
「お前に拒否権ねーからぁ。ドンケツは黙って一位様の言うことを聞け」
やっぱり一位……ってそこじゃない。
相手が相手だし、誘われて嬉しくないわけじゃないけど、でも、これではあんまりだ。
「一応聞くけど、なんで私をグループに誘おうと思ったの?」
「ハンデだよハンデ、周囲に対する気遣い。俺一人が強すぎるからな。でもグループは最低二人必要だろ。じゃあ一人の仲間をどう選ぶか? よし、足を引っ張るくらい弱いやつにしよう。つまりお前」
笑いもしない。無愛想に背もたれへ体重をかけ、足を組む森羅。
なるほどね……。
私は机の端を掴みながらゆっくりと立ち上がった。
そして、勢い良く腕を上げる!
ひっくり返すっ!!
「死ね!」
「うわっ!? んだよお前、危ねぇな!」
大広間に響いてはならない硬くて大きな音。周囲は騒然としている。
もちろん千里も。水をかけられた猫みたいに、椅子から飛び上がって距離を取る。ばっちり動揺していた。偉そうなやつがビビっているのは気分がいい。
「あんた嫌いだから組みたくなーい! じゃあね!」
べーっと舌を出してから背中を向ける。
もういいもん! 一回恭ちゃんの様子を見てから先生グループに入るもん!
とか思っていたら、襟首を掴まれた。首が締まってぐえってなった。
「そう急ぐなよ。お前、女とは思えない度胸だな。気に入ったぜ」
「い、いや、だから組まないし、困るし」
「拒否権はねぇっつったろうが。だいたいお前みたいな底辺の雑魚入れるとこなんかねぇだろ、そこを俺様が組んでやるって言ってんだから喜べよ」
「喜ばねぇよ! 離せよ! 首苦しいよ! この勘違い野郎!」
「あ? なんだと……いや。悪ぃ扱いはしねーから。勝たせてやるぜ?」
「そんなお情け貰っても嬉しくねーよ!」
入り口辺りの女の子から視線とか刺さってくるし。
「じゃあ、ガジェットで決闘しねぇ? 俺が勝ったらお前が仲間になる。お前が勝ったら好きにしろ、なんか適当に条件でも付けてくれ。それでお互いつべこべ言うのはよそうぜ」
問題解決の手段として、当校ではガジェットによる草試合で勝敗を決める、いわゆる決闘という制度が好まれている。なお、試合をする場合は教務課に申請しなくちゃいけないので結構面倒くさい。
「ドンケツが学年一位に勝てるわけねーだろうがクソが!」
「なら組んどきゃお得じゃね?」
フフンと鼻で笑う森羅。
ぐぬぬ……そういう問題ではないのだ。
そのとき、私たちに向かって歩いてくる救世主。
恭ちゃんがなんかいた!
「そういう問題じゃないだろ。みみちゃんは嫌がっているんだ、やめろよ」
「うわあ! 恭ちゃんなんでいるの! ありがとう!」
「なんでって酷いな。誘いに来たのに……探したんだよ」
むくれてみせる恭ちゃん。しかし、すぐに千里を睨み付ける。
「お前は俺の下の二位の鳴海恭一郎か。いや、すげえなぁ。学年一位二位が最下位を挟んでいるのはなかなかシュールな光景だ。超ウケる」
ぷぷっと吹き出す森羅は、ポケットに手を突っ込みながら、恭ちゃんを値踏みする目で観察している。
なんて嫌なやつだ……。
温厚な恭ちゃんもカチンと来たみたい。庇うように私を背中へ隠す。
「決闘、するんだろ? みみちゃんじゃなくて、僕としないかい? 僕が勝ったらみみちゃんから手を引けよ」
「別にいーけどよー。お前、そいつのこと好きなんだろ? 好きな子の前で恥かいてもいいわけぇ?」
余裕のニヤニヤ笑い。広間全体に響くように、森羅は声を張り上げた。
あっ、キレる。
そう思うとほぼ同時に、恭ちゃんが森羅の襟首に掴みかかった。
森羅は怯むことなく、面白がるように笑みを止めない。
殴り合いの喧嘩だと、確かに千里のほうが強そうである。背も高いし。
「いっぺん手合わせしてみたかったんだよ。丁度いい機会じゃね? 一位二位、白黒つけよーや」
「……今日の放課後、練習場に来い」
低い声で恭ちゃんは威嚇すると、ほぼ突き飛ばす調子で森羅を離した。
それから「行こう」と私の腕を掴んで、廊下へと向かう。いきなり引っ張られるし力強いし。
「あたたた、痛い痛い、掴まんで!」
っていっても恭ちゃんはズンズン歩いて引っ張られるし。
振り返ったら森羅は冷やかすみたいに陰湿に笑っていた。入り口の女子グループの視線は、魚の小骨みたいチクチクトゲトゲ突き刺さってきた。
恭ちゃんに引っ張られたまま廊下を駆け抜け。
階段を駆け上がり。
封鎖された屋上の前まで来た。
用事すら持てない教室しか付近にはないので、めったに人が来ない場所だ。
あぁ、めっちゃ息切れた。
手を離されたところで膝に手をついて肩呼吸。もー走れん。
「……ぜっ、絶対に勝つから!」
一息ついてから、恭ちゃんは私をまっすぐに見て、マジな顔でそう言った。
……なんて言っていいのか。ちょっと困った。
「あのさ、恭ちゃん」
うん? と首を傾げられる。
とぼけているわけではなくて、一生懸命だから見失っているのだろう。
「……私と恭ちゃんって、どういう関係なんだろうね?」
沈黙。
恭ちゃんは顔を強張らせると黙って、視線を足元へと向けた。
黙ったまま、困った空気。
いつもこうだ。はっきりしないやつ。
高校に入って。
私は一人ぼっちで。
恭ちゃんしか味方がいなかった。
別にそれでも幼馴染の同情ならかまわないと思うんだ。どういう関係じゃなくたって。
だけど、森羅だってああ言っていたくらいで、恭ちゃんの行動は好きな子を取られたくないような言動だった。
なんでもないのに勘違いされるのは、お互いにいいことでもない。
そして、私だって勘違いしてしまうのに、恭ちゃんははっきりしてくれない。
「……僕は、みみちゃんを守りたいんだ」
恭ちゃんは声を絞り出した。
「だとしても、私たち、森羅君が言ったみたいに見られてる。でも、恭ちゃんは違うんでしょ? 違うならちょっと距離を置こう」
思い出す。
同じ学校に通うことが決まったときのこと。
私は冗談めかしていたけれど、恭ちゃんに「付き合う?」って聞いてみた。
そしたら恭ちゃんは今みたいなはっきりしない態度をとった。
せっかく同じ学校なのに気まずくなるのは嫌だから、友達としてきちんとやっていくつもりだった。のに。
「私、ちょっと恭ちゃんに頼りすぎてたよね。ごめんね」
このままだと私には彼氏の一人もできなさそうだ。
いや、今は友達すらいない状態なんだけど……でも、そもそもは友達が作れない人間ではない。
恭ちゃんは目をぱちくりして、それから、泣き出しそうになっていた。私がそんなことを言うはずないって思っていたのだ。
でも言うよ。
背中を向けて、せっかく上った階段を下る。上履きが段差を叩く乾いた音。
「みみちゃん……」
小さい声で呼び止められたけれど、私は振り向かなかった。