底辺へようこそ!
「どうしよぉぉぉぉぉ……!!」
私は頭を抱えた。ボブカットの髪をワサワサしてみたところで現状変化なし。
それもこれも、ぜんぶ、ぜんぶ、この紙一枚のせいだ。
《一期中間成績表
一年コメット組
美空ミミ子
ミーティアレベル:D
全生徒243中243位》
つまりドンケツ。流石にこれはやばい。
「……えっと。ちょっと、落ち着こうか。何か甘いものでも食べる?」
気の利いたフォローで有名な幼馴染の鳴海恭一郎――恭ちゃんも、これには戸惑いを隠せない様子だ。
ああ、王子様系のイケメンで、背も高くて優しくて、気も利くしリーダーシップも人望もある完璧な幼馴染でさえドン引きする私の通知表! さっぱりとした長さの真っ黒な髪、暖かくもミステリアスな黒い目は、親しみがあるはずなのに距離感を覚える。
なんせ恭ちゃんはSレベルの学年二位様だ。ファック。
「ち、ちきしょう! せっかく『適性があるから~』とか推薦もらったがままに入学したのに! こんなのってありゃしねーよ! くそおおお!!」
びりびりびり。通信簿を破っても事実は変わらない。ヒステリックな女だという印象だけが残ることだろうよ。それに、汚い言葉を吐いたところで、私の女子としての品格が下がるだけだ。
ほら、恭ちゃん引いてる。半笑いになってる。
でもでも、だって、しょうがないじゃん?
勉強できない、そもそも嫌い。
運動音痴。
特別美人でも巨乳でも身長が高いわけでもない。
パッとしなくて何やっても自分のダメさが先立ってやる気もなくなる人生の中、降ってわいたように転機のご招待があったら誰だって乗るでしょ?
「ああもぅ……落ちついてってば。ほら、頭撫でてあげるから」
「撫でられてもなぁ……」
恭ちゃんは私の頭を撫でて「可哀想に」なんて同情を見せる。
そんな私たちのやり取りを、学園から宿舎へと帰宅する生徒たちが冷たい横目で見守っていた。
……さて。
『王立ミーティア学園』とは、私たちの通う国立の専門学園だ。
地盤変動により、海の底から姿を現した『星の神殿』。
そこから、学者によって『星屑』と命名された……なんかこう……モンスター的な存在が、湧き出してきた。だいたい、二百年くらい前のことだ。
そんでもって、私達のような『ミーティア』を持った子供達が生まれはじめたのも同じころ。ミーティアっていうのは一言で言っちゃうと、それでの常識を覆す不思議パワーのことである。
ミーティアは星屑って意味だ。
敵対するものと同意別名を名乗るのも変な話だが、私達の持つミーティアは星屑と同類の力だったりする。だから一部からは差別の目で見られることもあるけれど、社会制度と進路的には勝ち組の扱いだ。
なんせミーティア学園は星屑関係以外の教育も一級なのだ。偏差値は私じゃとても入れないレベル。二位様な恭ちゃんですら一般入試。
つまり、お馬鹿だけど推薦で入学できた私にもミーティアの才能はあるはずなのだ。
でも現状はドンケツ。みそっかす。二つ合わせるとうんこみたい。私はうんこ。嫌だ。
「もう学校やめちゃおうかな……」
なんか疲れた。
今までは、馬鹿だけど、普通に友達がいて、毎日楽しく過ごせたのに、今は頼れる人が恭ちゃんしかいない。
「何言ってるんだ! 僕は一般入試だったけど、みみちゃんは推薦なんだよ! 本当に本当に一握りだけなんだよ! 諦めちゃダメだ!」
すごく一生懸命に引き止めてくれる恭ちゃん。珍しく声を張り上げて。
そう、これこれ。これがあればなんとか生きていけそう。
「恭ちゃん……恭ちゃんだけが頼りだよぉぉぉ……!」
泣きつく私の頭を「よしよし」と、なでなでする恭ちゃん。相変わらず優しい。撫でて欲しいときになでなでされるのが真髄だから、さっきは別に嬉しくなかった。乙女心は秋の空で気分次第なのである。
「そうだ。ちょっと『ガジェット』出してみてくれる?」
ガジェットとは、なんかこう……ミーティアの力を使ってなんか……出せる武器。不思議空間から出てくる武器。
ものすごーく難しい論文だと、ミーティアの力により異次元分子に呼びかけをして星屑と同等もしくはより近い次元へと攻撃をすることができる云々。
ここらへんの説明は一言では申し上げにくいので割愛させていただく。
なお、正式名称は『スターガジェット』だ。これ豆知識。
「えぇ……嫌だけど、わかったよ。こ……『コール!』」
話の都合上、しぶしぶ従う。世の中はそういうものである。
ためらいのせいでどもったけど、そんなのは関係なくガジェットはやってきてくれる。気持ちの持ちようでなんとでもなる。
ふっと光が湧いて渦巻いた後、光は物質を形成して私の右手に収まった。
剣。
普通の両刃の剣。
本当に普通。
めちゃくちゃ普通。
RPGの初期装備とかそんなレベル。
洒落っ気も飾りっ気も茶目っ気もない、ごくごくシンプルなひどくしょぼい剣。
うーむ、と、恭ちゃんは唸る。それからしばし考えて。
「シンプルすぎるよね。何にも特徴がないっていうか。何にも属していないみたいな……もしかして、タイプが違うのかもしれないね」
恭ちゃんは軽く右手を伸ばして、優しい声で静かに「コール!」。
やや青、紫味の強い光が固まると、キラキラした光を閉じ込めた水晶っぽいのがついた杖が出て来た。水晶っぽいのは、水晶に似て水晶じゃない類似物質らしい。枝のところもなんかアンティークでかっこいい。
「ほら、僕のはいかにも魔法って感じだろう? で、僕は幻覚系じゃないか。誤魔化しみたいなことしかできなくて、直接的に攻撃はできない。これが僕の性格って言われても困っちゃうんだけどね」
恭ちゃんが杖を振ると、ライブのペンライトみたいに光が尾を引いた。
ガジェットには系統がある。
杖の人は魔法系。魔法にも、攻撃系、幻覚系、癒し系の三つが現時点で確認されている。
私みたいな刃物系は、変質強化系と、変質放出系の二つ。
強化がなんか倍パワーとか変形みたい感じで、放出がなんか振ると出て来たりする感じ。
みんなどれか一個の属性を持っていて、複数持っている人は僅かにしかいない。
そして私は、どれとも言えない状態。
「変質強化でも、変質放出でもないんだよ。きっとそうだ!」
「じゃあ、私はどうやってそれを見つければいいの?」
「……ううぅーん…………一生懸命練習するとか?」
「やってるつもりなんだけどなぁぁぁ……」
入学当初の頑張りは、確かに今では下降気味かもしれないけれど、それでも勉強よりは頑張っているつもりだった。ちゃんと論文を読んで理屈を理解しようとするくらいには。
「だよねぇ……」
一生懸命考えてくれている恭ちゃんを問い詰めたり責めることはしたくないけれど、なんかちょっと、心の中ではもにょもにょ。
私は口を尖らせてふて腐れるしかなかった。