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抵抗しない、その理由



目が覚めたら、そこは見知らぬ天井だった。


「………って、は、?」


パチパチと瞬きを繰り返していても目の前の景色が変わるはずもなく、私は慌ててガバリと起き上がる。

いや待て、落ち着け私。

ちゃんと見れば天井は私の家と同じものだ。…けど、雰囲気が違う。

見回してみても部屋にある家具や今私がいるベッドが見慣れないものから、ここが私の家ではないと教えてくれる。


間取り、壁紙、天井が同じ。

けど家具は違う。

と、いうことは…。

ザァッと血の気が引いたと同時にガチャリと開かれるドア。

私は青くなった顔のままそちらに視線を移す。


「…は、ようやくお目覚めか。良いご身分だなァ?」


「ひ、ろせ…。」


開口一番、嘲笑にプラスされた嫌味な言葉に、私は返す言葉もない。


広瀬がこのマンションに引っ越してきたのは、丁度高校に入学した辺りからだった。

最初、普通に3LDKはあるこの部屋に高校生が、それも一人で引っ越してくるのには多少違和感はあったものの、一つ上の階の住人のことだし、まぁ良いかと思っていたのが約半年前まで。


けど、同じマンションついでに階一つ違うだけってのは案外近過ぎる距離だったみたいで。

これが原因で私は広瀬の裏の顔を知ってしまったのだ。

それからはお分かりの通り、住家が近いせいもあって私はコイツに年中監視されるハメになった、という訳。…自分で言うのもアレだけど、不幸過ぎるだろ私。


「昨日のこと覚えてますー? 栗原サン?」


ニヤニヤと馬鹿にしたような笑みに内心カチンときながらも、私は必死に寝起きの頭を回転させる。

つか、眼鏡取ったままその笑い方されるとダイレクトに嫌味な表情が目に付いてムカつくなぁオイ。(普段掛けてるのは良く出来た伊達眼鏡だ。優等生演じる為の小道具に過ぎないらしい)


昨日…朝っぱらから携帯が喧しく鳴って、なんだと思ったらコイツから生徒会のデータ作りを手伝え、とか理不尽な要求されて。

嫌だって言ったらまるで地獄を這うような声で脅されて、負けて、結局コイツの家まで行って手伝って。

夜近くになってやっと終わって……あれ、それから、どうしたんだっけ?


必死に首を捻って考えてみても、記憶に全く残っていなくて眉を寄せていると、いつの間にここまで来たのか広瀬がベッドの端に腰を下ろす。

ギシリと、二人分の体重を支えるようにスプリングが鳴った。


「…思い出せない? 昨日自分がどんだけ羞恥の塊みたいな行動取ったのか。」


「し、羞恥の塊…?」


ヒクリと口元が引き攣る。

いやオイ待て、私何した?

一人暮らしの男の家で、私何やらかしちゃったの!?

窺うように広瀬の方を見上げると、ヤツはそれはそれは綺麗に微笑んだ。(うわぁ…この笑み一発で世の女は皆イチコロだわ…ってそこじゃないだろ私!)


「あの、ですね。」


「ん、なぁにー?」


「私…何かやっちゃいけない粗相でも、やらかしちゃいましたか…。」


あぁあ出来れば色気方面でない粗相をしていてくれ私…!

そう、例えばいびきかいてたとか、歯ぎしりが凄かったとか、そんなんで良いから! 私はコイツに好感を持って貰いたいなんて微塵も思ってないから…!!


祈るような気持ちで再度広瀬に向き直る。

ゴクリと生唾を飲む。…するとヤツは、綺麗な笑顔を更に深くする。

…どうしよう、嫌な予感しか、しないのデスガ。


「そう、覚えてないんだ…?」


「え、いや、あの、」


「昨日、あんなに色っぽく僕のこと誘ったのにね…?」


スルリと首筋を撫でられながら、耳元で囁かれる。

その状況に顔を朱くするより先に、私は青い顔を更に青くさせた。(アレだ、多分紫とか極地に達しちゃってるよコレ)


ちょお待て、いやいや! 私が広瀬をさ、誘う!?

いくらなんでもそれはなんの冗談だ。

何故私が、こんな男を誘わなくちゃならないんだ。

いやまぁ慣れてそうなコイツのことだからきっとそっちも上手いんだろうけど…ってだからそこじゃないだろ私っ!!!


「えぇえ、ちょ、広瀬!? 何嘘ぶいてっ」


「…なら、試してみる?」


クスッと艶やかに笑われて背筋が凍る。

そこで私はようやく気付く。

ここが、人様のとはいえベッドの上だということに。


「や、ちょ、やめ…!?」


ごくごく自然な動作で両肩に手が置かれたと思ったらそのまま私の視界はまた天井で埋め尽くされた。…のもつかの間、今度はそこに広瀬のアップがプラスされて、私は慌ててヤツをどかそうと躍起になる。


「や、どいてッ!!」


「やーだ、栗原サンたら今更こんなんで何恥じらってんの。」


「ふざけんなハゲ、今更も何も私はそんなん認めすか!」


「もっと色気持たない?

オンナってシチュエーション重視なんじゃないの?」


お前相手にやる色気なんざ1ミリだってないわ!! と、心の中で罵倒しているのに、私はそれ以上口には出せなかった。

だって仕方ないじゃん、こんな美形の塊みたいなのがアップで映ってたらどんどん余裕がなくなっていくんだもん…!


「…っ、やぁ、」


「ふ…その顔良いね。

煽られるってか、そそられる。」


綺麗な笑みに少し妖艶なそれが混ざって、そんな顔で、ヤツは私に目線を落とす。

なにさ、アンタの方がよっぽど色気あるくせにいけしゃあしゃあと。

大体、私がどんな顔してるかなんて分かんないし、むしろ知りたくもない。

そんな、珍しく本当に、私に何かしらの情があるようにアンタの表情を作らせている、私の顔なんて。


「…っひろ、」


「分かってる? その顔もその声も、ただ俺を煽ってるだけなんだよ。

……なぁ、栗原?」


低い声で耳を擽られた直後、首筋に感じる感触。

そこにキスされているんだと分かった瞬間、私は火が出るんじゃないかってくらい顔に熱を走らせた。


「ぁ……っや、ぅ、」


信じたくない。

この状況も、その相手がヤツだってことも、この前の美術室のこともあったのに、警戒心がまるでなかった私のことも。

そして、流されてるのかなんなのか。その事実に抵抗することなく、されるがままになっている私自身も。


一端唇を離されて、広瀬は私と目線を合わせる。

そして、次にヤツがした行動は……。



ゴンッ



「ッいった……!!?」


ものすっごく痛い、頭突きだった。


「ちょっと!? 何すんの!!」


「お前こそ何期待してんだよ、やらしー。」


「や…!? やらしくないし! 期待なんかしてないし!!」


「どうだか。」


言いながら私の上からどいた広瀬はもういつも通りのヤツで。

私はホッと肩の力を抜いた。

頭突きされた頭は痛いけど。…? あれ?


「?…頭痛い。」


「頭突きしたからだろ。馬鹿かお前。」


「ちが、それじゃなくて。…なんか、グラグラする痛み。」


頭を押さえながら呟くと、広瀬は"あぁ"と思い出したように声を出すと意地悪く笑う。


「お前、昨日俺がちょっと目離したスキに水と間違えて酒飲んだんだよ。」


「お酒!?」


"まぁ料理酒だけど"と付け加えた広瀬に、私は声を上げる。

そっか、じゃあこの痛みは二日酔い、なんだ。


「お前すんげェ弱いみたいだな。

飲んだ直後そのままぶっ倒れて寝たから。」


「あ、それで…。」


「お前ん家誰もいねェみたいだったし、仕方なく泊めてやったんだよ。感謝しろ。」


「えと、じゃあ何も、なかった…んだよね?」


マジかよ最悪、と頭の中で思いながら問い掛けてみると、広瀬は鼻で笑う。


「まァお前が期待してたようなことは何も?

強いて言うならいびきヤバかったけど。…ホンット、単純馬鹿は救いようがねェな。」


「き…っ、だから期待なんかしてないってば!!」


ケラケラ笑いながら部屋を出て行くヤツに向かって思いっきり枕を投げ付ける。

投げ付けられた枕は一歩早く閉められた扉に当たって虚しくも落ちていった。


ちくしょう、私のバカバカ!!

何勝手に変な勘違いしてんのよ、本当バッカじゃないの!


しかも。

なんで…なんで抵抗しないのよ。

前もそうだったし、今も、そうだった…。


「…ッ最悪、」


バフン、とベッドにもう一度ダイブする。

ぐるぐる迷走する頭を冷やす為に。

そして、まだまだ朱いであろう頬を、冷ます為に。






抵抗しない、その理由

(本当は、分かってる)

(けど)

(私の理性が、それだけはダメだと悲鳴を上げているような気がしたから)

(だから…自分の気持ちをごまかした)





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