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第25話、酒と涙と絶叫と

 壁にかけられているハト時計が1時を指す頃。だだっぴろい純和風の部屋で、Vネックの黒い長袖、下は白のスラックスというシックな格好の成人女性が、テレビを見ながら酒をあおっていた。

 部屋のそこら中には物凄い量の酒瓶が転がっている。


「かー、やっぱー、芋だよなー」


 幸せそうに言いながらおつまみのせんべいをばりっと噛み切った。 

 部屋にはその人以外に人影は無い。しかし酔い過ぎて幻覚でも見たのか、何も無い宙に向かって喋り始めた。


「今日はー、新しい住人が来るからーよろしくなー」


 誰も居ないわけだから当然返答は帰ってこない。だがそれでも、ふふっと笑って、もう一度酒瓶をラッパ飲みにした。

 すると、


「わ、バカ! ごめんくださーい!」


 少年のものらしき声と、どーんという物音が外から響いた。



 えっちらおっちら荷車を引いて住宅街を歩いて行く少年。ジーパンとジャージというラフな服装。適当に乾いていた服を着込んだといった格好の修真だ。

 荷車の重量が半端ではないため、かなり辛そうな表情である。


「そ、そろそろ、休憩しない……?」


 その隣を手ぶらで歩く、流れるような黒髪をもった美少女。驚くほど整った目鼻立ちと、それらを含めて可愛らしい顔立ち。

 形の良い眉をさも不満げにひそめて言った。


「えー。さっき休憩したばっかじゃないですかぁ」


 本日はデニム生地のタイトなミニスカートに、上には肩がざっくりと露出した黒のブラウスを着ている。可愛らしくも動きやすいというスタイルが好きな、修真に埋め込まれた兵器、マキだった。

 マキは彼が辛そうにしているのを横目で見やりながら、


「まだ十分も歩いてませんよぉー? もう疲れたんですかぁ?」


 という呆れた声で尋ねる。

 息切れしている修真は、ばつが悪そうに視線をあさっての方向にずらした。


「あれは、あれ、だよ……。そう、トイレ休憩、だよ……」


「どっちも一緒だと思いますけど」


 半目で言うと、視線を前に向ける。

 雑居ビルや弁当屋。他にはパチンコ屋に、改装中のデパートなどなど。人通りの多い界隈かいわいだ。

 そこからわき道に入り路地を通り抜けていると、マキの瞳にジュースの自動販売機が目に入ってきた。

 ときめき似た光がそのくっきりした目に宿る。良い事を思いついた、とばかりの表情になって声を上げた。


「じゃあ、ジュース買ってきてあげますよ!」


「はぁ?」


 彼女には、二人で歩いていてどちらかがジュースを買ってくるというシチュエーションが、なんともデートっぽく思えたのだ。

 ぜぇぜぇ言っている修真が尋ねた。


「お、お前……そんな金、あんのか? さっきあいつらの分しか昼飯買えなかったのに……」


「あったりまえじゃないですかぁ〜」


 マキは楽しそうにくるりと一回転して、すっと修真の尻ポケットに腕を伸ばす。流れるような動作で財布を抜き取って、


「ほらここに――」


 開けてみた。

 レシートやカードなどはあるが、お札は入っていない。これはいつものこと。

 今度は小銭入れのジッパーを開けてみる。

 ――え?

 逆さまにしてばかばか開けたり閉じたり。しかし、なにかのほこりがぱらぱらと落ちるのみ。

 るーるー涙を流し始め、震える声で呟いた。


「うぅ……、一円もにゃい」


 ふり向いて、悲しみの顔を修真に向ける。当の彼は財布をかっさらったマキに対して、激怒爆発寸前の怒りをぎりぎりのところで堪えていた。

 目が合うと冷徹にせせら笑う。


「いい度胸してんじゃねぇか、マキちゃんよぉ。人の物を盗んじゃいけないって習わなかったのかぁ?」


 マキは咆える。


「何でお金持ってないんですかこの貧乏人! 夫婦の場合は共有財産ですよっ!!」


「誰がお前なんかと共有するかっての!! 財布返せ!」


「いりませんよっ、こんな一円も入ってない財布!」


 ばちーんと地面に財布を叩き付ける。


「てめぇぇええええ!!」


 一方、荷車の上。

 タンスの上から足を投げ出して、揺られている少女が二人。


「また言い合ってる」


 真珠色の髪をストライプ柄のリボンで二つ結びにしたメガネの少女。白地に花柄のキャミソールの下に、涼しげな色合いのふわりとした広がりのあるスカート。マキが選んだ服を着ているポチである。

 更にもう一人。


「パパとママは仲良しだねぇ」


 ハチミツ色の髪をハートのついたゴムで二つ結びにしたくりくりとした瞳のミュランダ。赤のチェック柄のフレアスカートを穿いていて、黒地にハートが散りばめられたキャミソールを着ている。こちらもマキがコーディネートしたものだ。 

 二人はぎゃあぎゃあわめいている修真とマキを見物しながら、先ほどコンビニで購入した惣菜パンを仲良く食べている。

 ポチはミュランダが食べている明太ポテトパンを指差して言った。


「それより、それ一口ちょうだい」


 しかし、ミュランダは難色を示す。


「やだ。お姉ちゃんの一口は一口じゃないもん」


 そう言って、八割方残っているパンを腕の中に守るように隠した。

 ポチがにやりと含みのある笑みを浮かべた。


「これあげるから」


 ミュランダの前で、チーズ蒸しパンをひらひらとちらつかせる。ちなみに二個買ってもらったうちの一つで、一つはもうポチの胃袋に収まっている。

 そう。ポチは甘い味に飽きてしょっぱい物がたべたくなったのだ。


「美味しい美味しいチーズ蒸しパン〜」


 催眠さいみん術よろしくチーズ蒸しパンを左右に揺らす。

 すると、


「ち……チーズ……蒸し……」


 それに吊られてミュランダの瞳も同じ動きを取り始めた。

 しめた!

 というダークな微笑で催眠を続行。


「甘〜い甘〜いチーズ蒸しパンだよ〜」


 ぐったりと腕がたれ下がり、次第に首も左右に傾き始める。完全にミュランダはチーズ蒸しパンの魅力に捕えられてしまった。


「食べたぃ……食べたぃ……」


 そこで、ポチはぽーんとチーズ蒸しパンを宙に放り上げた。

 くるくると宙を舞うチーズ蒸しパン。


「蒸しパン!」


 ミュランダはすかさずその場を踏み切って跳んだ。フライを追う内野手が如く、センタリングを止めに行くゴールキーパーが如く、必死で腕を伸ばす。

 あと少し。

 届いた!

 宙でチーズ蒸しパンを捕まえたミュランダは、そこで正気を取り戻した。


「しまっ――」


 落ちていく視界の中で見た。

 笑っている。

 不敵に笑っている。

 手に、明太ポテトパンを持って。


「おね――」


 どーん!

 凄い物音は、言い争う二人にもその音は届いた。


「ん? 今の、何の音だ?」


「荷物が落ちたんでしょうか?」


 振り返ると、タンスの上に乗っているポチが首を振った。


「なんでもない。とても異常無し」


 修真は、


「え? あ、そう」


 とミュランダが消えている事に気付かず、眉根まゆねを険しく寄せてマキに向き直った。


「つーか、なんなのお前? ずっと疑問だったんだよ。何でご飯とか食べるんだよ。意味わかんねぇよ」


 小競こぜり合いの延長線上での発言である。

 マキは言われて眉をひそめた。息を大きく吸い込む。


「だから、生体が一番優れた機械なんですよ。いつだって機械というものは生体を模倣もほうして機能を向上させてきました。いつしかその模倣が原物を凌駕りょうがし、絶大な力を生み出してしまった。それが私なんです。構成物質は違えど、人を元にしているから体内の機関や細胞を維持する為には栄養を取らなければならない、というのは独立型兵器であるポチちゃんのような天使に言えることなんですけど。私の場合は本体に永久無限駆動方式(エターナルインフィニットスターリングシステム)を採用してますので、他の有機物からエネルギーを吸収する必要は無いんです。あ、ちなみに起動の際には有機物との融合が必要になるんですけど、そこでは有機物が精製した生命エネルギーを少量本体に取り込むことで、種子状態から発芽するんですよ。発芽後は生命エネルギーの巡りと同化し、宿主の細胞を強化しながらエネルギーの増幅と蓄積を重ねていくんです。そうして武装の精製や戦闘子機の排出作業に必要なエネルギーが生まれるんですよね。そうそう、戦闘子機は本体から増幅されたエネルギーが分配されて起動していますので、詰まるところ私にとって食事はあくまでも娯楽程度のものと考えてもらって構いません。よし、噛まずに全部言えました」


 と全てを言い切って、わずか37秒というタイムを叩きだす。

 しかし、修真はうんざり。


「はいでたー。すぐそうやって俺が理解できない事を言うー。何今の? 日本語? あ、さては漢文か」


「どうして分からないんですか? 金属で造られた体よりも生体の方が壊れにくいんですよ。柔軟性が強度を向上させ、さらに動きを滑らかにするんです!」


 とうとう怒りの琴線きんせんが音を立ててぶち切れた。


「知るかぁぁあああッ!! そういう話はレポートにまとめてゴミ箱に捨ててろボケ!!」


 マキの表情が寂しげに崩れる。

 どうして分かってくれないの?

 胸に渦巻く不満を、思い切って吐き出した。


「いつだってそう。いつだって修様は私のこと理解しようとしてくれない! こんなに、私はこんなに修様が好きなのにぃッ!」


「話が違うだろぉぉぉっ!!」


 ぎゃあぎゃあわあわあと取り留めの無い口論は終わらない。

 その騒々しいやり取りをバッグミュージックに、ポチは奪い取った明太ポテトパンをもしゃもしゃ食べはじめる。


「なんか微妙」


 想像していた味と、現実の味のギャップに残念そうに眉をしかめた。

 ちなみに、その遥か後方から、


「置いてくな―――! パン返せ―――!!」


 ぐちゃぐちゃに潰れたチーズ蒸しパンを握り締めてミュランダが全力疾走してくる。

 この四人はずっとそんな調子で街を歩いていた。

 騒がしく、加えて奇妙な光景に道行く人は足を止め、野良犬には怯えて吠えられたりもした。

 果ては、警察官に呼び止められて職務質問をかけられるという経緯を経て、ようやく母から指定された場所の近辺にさしかかりはじめた。

 街の東側に位置するあまり行った経験が少ない住宅地。この辺りは古くからある家屋が多く、マンションのあった辺りと比べるとひっそりとした静けさがある。

 そして幾つか角を曲がってとうとうその場所に到着。

 停車された荷車。

 その脇で、修真が頬をぴくぴくひきつらせながら呟いた。


「えっと、ここで……良いんだよな?」


 荷車を引いている修真に代わって、マキがメモを見に目を落とす。


「このメモにはそう書いてありますけど」


 二人は驚いて顔を見合わせ、見上げた。

 大きな木造の門と、長く続く白壁の塀。そびえ立った煙突。屋根に敷き詰められた光沢のあるかわら。それらの中央に構える大きな邸宅。


「ぉ、おおっ」


 と修真は、最上級とまではいかないもののかなりお金持ちっぽい家オーラに身じろぎした。

 今まで生活していた家より遥かに広く大きい。何より、古めかしくも風情の感じるたたずまいが身分不相応みぶんふそうおうな印象だった。

 もしかしたら、ここに住めるのか!?

 修真とマキがそんな希望と興奮の真っ只中で凍り付いていると、積荷のタンスからミュランダが、ぴょんと飛び降りた。


「……」


 しかし、何故か表情は固い。

 ポチがゆっくりと降りて、ずり落ちたメガネを掛け直しながら呟いた。


「……旅館?」


 外観的にはいつか旅番組で見たような外観にそっくりだった。

 もはや建立こんりゅうされていると言っても過言ではない。効果音的にはどどーんと建っている家。

 うっすらと煙が出ている煙突を見るマキ。


「ど、どちらかというと、銭湯のような外観ですねぇ」


 修真がいっそう顔をしかめる。


「普通、あんな銭湯みたいな煙突無いよな?」


「そうですよねぇ……。ん?」


 いつもなら騒がしいミュランダがやけに大人しいではないか。気になって見てみると、両手を胸に抱いて小さくなっていた。


「ミュラちゃん、どうかしたんですか?」


 はっとして、怯えた様子で答える。


「……ねぇ、なんか変な感じがしない?」


 妙な事を言い始めたミュランダに、一同は沈黙した。彼女が言うような感覚は一切無いのだ。

 だが彼女の不安は募っていくようで、先ほどから落ち着かずにそわそわしている。


「寒気がする……ような気がするんだもん。なんかおかしいよ、この家……」


 言い切ってからマキにひしっとしがみ付く。手を置いたその小さな肩は、わずかにだが震えていた。

 困惑したマキは修真を見る。


「修様……」


「あ、ああ……」


 言われてみると明らかにおかしかった。

 ――何だこの家は?

 まるでそこだけが現代社会から取り残されているような、はたまた過去にタイムスリップしてしまったような印象の邸宅。

 不穏な空気に包まれたその時、ポチがとあることに気付く。


「……ここ、表札が無い」


「え?」


 言われて探してみる。しかし豪奢ごうしゃな門にも、白い塀にも、どこにも表札らしき物は見当たらない。それどころか郵便受けも存在しない。

 不安げなミュランダが今度は修真の服を引っ張った。


「ねぇ、ここって、本当に人が住んでるの? なんかイヤだよ、ここ……」


 彼は、びくびくしているミュランダを笑って相手にしない。


「お前、案外心配性だなぁ〜。気にし過ぎ――」


 言いながら、もう一度謎の邸宅を眺めてみる。どうにも、易々と立ち入れないような、外界との接触を拒んでいるような雰囲気を感じる。たとえ昼間でも少し怖い。


「だと、良いよね……」


 逆に昼間だからこそ、こんなおかしな家が堂々と存在しているのが不気味だった。

 ミュランダはそわそわしたまま服のすそを掴んで離さない。 


「ねぇねぇ、イヤだよここ。入りたくないよ……」


 妙に必死な面持ちで言いつのる。

 駄々をこね始めてしまった彼女に困り果てた修真は、助けを求めるようにマキに向いた。

 彼女は苦笑して答える。


「ど、どうしましょうね。入ってみますか?」


「そ、そりゃ、入るけどさ」


 門の前でしばらく考え込んでいると、

 ぎぎぎぎぎ。


「――え?」


 何の前触れもなく古めかしい音と共に、門が開いた。

 ぎょっとして振り返る四人。しかし、そこには門が口を開けているだけで、誰も存在しない。

 

「風……だよな?」


 ポチが無表情で口を開くが、


「ききき、きっと自動」


 喋り方が非常にぎこちなかった。完全にひるんでいる。

 このままではいけない!

 もちろん修真も驚いてはいたが、それ以上にホラーモードに入ってしまった少女達を気づかってなだめた。


「と、とりあえず落ち着こう。こんな所で油売ってないで偵察しようぜ偵察を」


 一人冷静な修真をたくましく思いながら、少女達は顔を見合わせた。


「そ、そうですよね」


「今のは風」


「こ、怖くないよ」


「よし。んじゃ、行くぞ」


 恐る恐る開いた門から奥を覗いてみる四人。はたから見ていて相当な不審者に見えるだろうが、今は今は瑣末さまつな問題に過ぎない。

 怪しさ爆発の四人がのぞき込んだ奥には、飛び石が玄関まで続いていたり、綺麗に手入れがされた庭が見えた。なんとなくおごそかな雰囲気だ。

 ミュランダが、率直な感想を述べる。


「なんか、お寺みたいだね」


「お前バカか。冗談でも今そういうこと言うな」


「あ、びびってるんですか?」


「このチキン野郎」


 そう言い放ったマキとポチは、修真の後ろに隠れて背中をずいずい押し始めた。


「ちょ、は? なんで押してんの!?」


「片桐家代表ですよねっ!? 一家の主ですよねっ!?」


「ぇええっ!? そうなのっ!?」


 敷板しきいたぎりぎりでつま先立ちになってふんばり、なんとか堪えている修真。


「背番号1。最初にるいに出る役目っ」


「いやいや、野球関係無いし! おわっ、押すなマジで! マジほんとマジやめて!」

 

 その背中を、


「はーやーくっ!!」


 マキとポチが同時に言って、力いっぱい押し出した。

 足が、


「おわっ」


 つんのめる。

 三人が、


「あ」


 かたむく。


「わ、バカ! ごめんくださーい!」


 もつれた三人は、門の奥へと転がり込んだ。

 くずれたピラミッドのように積みあがった修真、マキ、ポチ。一番下の修真がもうやってらんないという表情で呟く。


「……いてぇな、この野郎」


 二段目のマキがけらけらと笑った。


「あはは、失敗失敗〜」


 三段目のポチも無気力に笑う。


「力加減を誤った」


 そんな三人を混乱した瞳で見詰めるミュランダ。どうしても嫌な予感がして、まだ門はくぐっていない。

 しかし、修真達は行ってしまった。


「……ねぇ、だいじょうぶ? なんともない?」


 ポチがひょいと人間ピラミッドから飛び降りて答えた。


「特に」


「ほんとに? ほんとのほんとに?」


「うん」


 門の前で置いてきぼりにされるのも寂しい。

 そんな一心で一歩、びくつきながら踏み出した。

 敷板を踏み越える

 門をくぐった。

 だいじょうぶ。なんともない。


「……よかったぁ〜〜〜」


 ミュランダはほっと安堵のため息を吐いた。幸いなことに、恐れるような事態は何も起きなかった。


「だから言った」


 と、ポチがぶっきらぼうに言って、ミュランダが落ち着きを取り戻してにっこりと笑う。


「あたしの思い過ごしだったみたい。でも、良かったよぉー。なんともな――」

 

 その背後、

 ばった―――ん!

 突然門が閉じた。


「ぎいいいいいやぁぁぁああああっ!!」


 ミュランダ発狂。

 正気を失って悲鳴を上げている彼女の肩を、


「風ですって!」


 立ち上がったマキががくがくと揺さぶった。

 虚ろな瞳をしているミュランダは一瞬目を白黒させ、意識を取り戻した。


「……し、自然って凄いね! アマゾン!」


 どうやらまだ動揺しているらしく、とんちんかんな事を口走ってしまう。だがそれもそのはず、マキは風のせいだと言ったが、1ミリも風など吹いてはいないのだ。

 どんよりした空気に一同の顔が青ざめる。

 そんな中、修真が立ち上がって落ち着き払った様子で言った。


「わかった、とりあえず一回出よう。逃げるとかじゃなくてさ」


 これにはポチも賛同する。


「そうだね。作戦会議は必要」


「そうそれ、作戦会議」 


「出るの!? 早く出よう!」


「あ、ミュラちゃん」


 ミュランダはマキの声に止まらず、あっという間に駆け出し、門に手を掛けた。

 マキは釈然しゃくぜんとしない気持ちで肩をすくめる。


「ミュラちゃん、どうしたんでしょうね。やっぱり様子おかしくないですか? そんなに怖いんでしょうか?」


「確かにな。いつもだったら『うひひー、早く行くでござるにょー』とか言って、一番先に行っちまうのに」


 彼の発言に、


「……」


「……」


 沈黙。


「え、スルーなの? つっこもうよ。なんかすべったみたいじゃん」


 マキは真面目な表情になる。


「でも、ちょっと普通じゃないですよ。この家」


「無視!?」


 ポチも同じように神妙な面持ちになった。


「うん。この家一帯が、注意しないと気付かないくらいの小さな力に包まれてる。それが何かは分からないけど」


「おい。それ以上無視してみろ、泣くからな」


 と、突然はぶられ始めた修真が寂しい気分になっていると、


「パパパパパパパ! ママママママ!」


「ど、どうした!?」


 ぶっ壊れたラジオのような音声を出したミュランダが、だーだー号泣しながら振り返った。


「あ、開かないよぉぉぉぉ」


「えええええ―――ッ!?」


 誰ともなく叫ぶと、門に近寄った。

 そんなまさかですよね、とマキが固く閉ざされた門を押してみる。

 ぐっ。

 ぐっぐっ。

 コンクリートのようにがちがちになっていて全く動かないではないか。


「あ、あれ〜? びくともしない……」


「んなわけねぇだろ。ちょっとどいてみろ」


 今度は修真が割って入った。

 マキがこの程度の門を開けない訳がない。恐らく『力が弱い所をアピール』みたいな事をしているんだろうと思いながら、


「はいはい、男の出番ですよ。やればいいんでしょやれば。こんなもん普通に――」


 両手で力いっぱい押して、


「あっれ?」


 固い。


「そんなバカなことが、んぎぃぃぃぃ」


 力をかなりのところまで上げて再トライ。

 が、


「……うそん」 


 やはり開かない。

 薄ら寒い事態に怖くなったミュランダがえぐえぐ嗚咽を漏らし始める。

 呆れた様子で大きな溜息を吐いたポチが、修真の体をずいと押しやった。


「そんな訳ない。どいて」

 

 左手で右腕を握り、肩を突き出す体当たりの構え。

 彼女は全身に力をみなぎらせ、


「ふっ!」


 気合の息吹と共に門にぶつかった。

 どん。

 しかし残念ながら、鈍い音がしただけで門の方は1ミクロも動いてはいない。

 ポチは無表情のまま、門にもたれるようにずるずると崩れ落ちる。弱々しく呟いた。


「……だめ。肩がイッた」


「どこで負傷してんだよ」


 ここまで来るともう信じられない。門が開かないなんて普通ではないし、修真達も普通ではない力を持っている。その力を駆使しても開かないのだ。

 だが、修真達は諦めるどころか、むきになってしまっていた。


「なんか腹立ってきた。こうなったらぜってぇ開けてやるよ」


「そうですね。こういう性格の悪い門にはしつけが必要です」


 闘志を燃え上がらせた二人は、両手で門を触れる。

 右肩への重大なダメージを負ったポチも、右を庇いながら左手を門に叩き付け、


「肩の仕返し」


 参加の意志を見せる。

 三人の勇姿ゆうしを、目尻に涙を残しているミュランダが、不安げに見守る。

 やるぞ。

 うん。

 少女の眼差しを受け、無言でうなずき合う。


「せーの!!」


 修真の掛け声で、一斉に力を込めた。 


「ふぬぅぅぅぅ!!」


「んぎぃぃぃぃ!!」


「んぅぅぅぅっ!!」


 出だしから全身全霊の力を注ぐ好スタート。必死すぎて顔が真っ赤になっている。


「が、頑張れ!」


 ミュランダも激励げきれいする。



 そうして数秒たった頃、三人の体からふわりと力が抜けた。

 嫌な静寂。

 恐怖に慄きながら尋ねるミュランダ。


「ど、どう……だった?」


 悲痛な面持ちで硬直していた三人は、静けさを破るように腹を抱えて笑い始めた。


「あっはっはっ! なんだこれ!」


「門が開かないって、あははは!」


「ははは、ありえない。ははは」


 そして、


「うわぁあああっ!! 開けてくれぇぇええっ!!」


「怖いよぉぉぉおおっ!!」


 大混乱におちいった。

 どんどん叩いたり押してみたり。しかし、無情にも門はびくともしない。ちょうどこの辺りで、三人の心は『ちょっと不気味かも』という感覚から『もうダメだ絶対怖い』に切り替わった。

 呆然と立ち尽くす四人。

 ふいにミュランダが口を開いた。


「……ね、ねぇ、これはあたしの推測なんだけど、聞いてくれる?」


「何ですか、ビビりミュラちゃん」


 ちなみに、そう言ったマキの足は、「え、痙攣けいれん?」と思ってしまうほど左右に震えている。


「……早く、言って」


 神妙な面持ちで口を開くミュランダ。


「やっぱ霊的な――」


 どが。どご。ばき。ぐしゃ。めきめき。ぼき。

 全てを言い切る前にマキ、ポチが即座にミュランダを袋叩きにした。もう目も当てられない姿に変貌したミュランダは、地面に沈んでぴくりとも動かなくなる。


「わーどうして倒れてるんですかー?」


「ミュランダが自然現象で死んだ。無念」


「うそつけよ。あんまりだろ」


 早くも仲間割れで一人失った。

 その時。

 からからから。

 今度は玄関が開いた。


「いぎゃああああ―――!! おばけぇぇえ!!」


「ゴーストイントゥーザハウス!!」


「アマゾン!!」


「うるせええええ!!」


 その時ふと、修真の目に嬉しい光景が飛び込んできた。開けられた玄関から、誰かの手が白いハンカチのような物をひらひらと振っているのだ。

 修真が声を掛けた。


「あ、すいませーん!」


 しかし、次の瞬間には引っ込んでしまう。


「え、入って良いってことか?」


 なんだ。誰も住んでない訳ないよな。母さんの友達の家なんだし。

 はははっと自嘲を込めた笑いを浮かべた修真は、妙な視線に振り返った。


「どうかした?」


 マキ達が驚愕に染まった顔でこちらを見ていた。


「だ、誰に声をかけたんですか?」


「誰って、お前ら見なかったの? ハンカチ」


「ぱ、パパ、大丈夫?」


「恐怖のあまり気がふれた?」


 うわーついに壊れたよ、と言わんばかりの目。


「いやいや、居たじゃん! 玄関でハンカチが揺れてたって!」


「そんなの無かったですよ! 正気に戻ってください!」


「すぐに引っ込んだんだってば! つーか、ここは知り合いの友達の家だから大丈夫だって!」


 しーんと静まり返る場。


「そ、そういえば、そう……ですよね」


「ミュランダが変なこと言うから、怖いという先入観が入った」


「そう……だよね。ごめんなさい」


「やっぱ怖かったんじゃねぇか」


 お互いの意思を確認するように顔を見合わせるマキ、ポチ、ミュランダ。


「ほら、待たせたら悪いから、行くぞ!」


 修真はざかざか歩き出してしまった。仕方なくついて行く。

 そんなこんなで、空前絶後の時間をかけてようやく玄関の前に立った修真達。

 やはり表札は見当たらなかったが、何か訳があってのことだろうと滅茶苦茶な理由を作り上げて、開けられた玄関から顔を覗かせた。


「すいませーん。片桐ですけどー」


 ですけどー、ですけどー。と広い廊下の奥まで反響していく声。その残響が消えると、かっちこっちと古い時計の音だけが、聞こえてくるようになる。

 この家に住んでいる人物からの返答や反応は無い。


「出かけているんじゃないですか?」


「おかしいな。でもさっき……」


 ミュランダは深呼吸よりも大きく、息を吸い込んだ。


「アアアアアマゾオオオオオン!」


 アーマゾーン、アーマゾーン。と反響していく声。何故か「きゃう〜」っと両手を頬に当てて幸せそうな笑顔になる。


「やまびこみたいだね!」


「バカか、お前は」


 しかし、アマゾンというありえない呼びかけにも、返答も帰ってこなければ家主も現れない。


「修様、これって入って良いってことですよ」


「沈黙の肯定」


「え、本当に?」


「ダメだったらダメって言うよー」


「まぁ、それもそう……か?」


 危なく丸め込められそうになった所で、思い直す修真。この国の法律では許可の無い所有地への侵入は許されない(実は既に侵入している)。

 しかし、そんな思いも虚しく、  


「失礼しまぁ〜す」


「お邪魔します」


「アマゾン!」


 と、無遠慮にも靴を脱ぎ散らかして入っていく少女達。


「お、おい、待てって!」


 せっせと彼女達の靴を綺麗に揃えて、急いで靴を脱いだ。

 静かな邸宅内。

 時計の振り子が揺れる音。

 なんとなく不気味ではあるが、綺麗に使われている家には好感が持てた。

 ぴかぴかに磨き上げられた床にはチリ一つ落ちていなかったり、外の光が差し込んでくる窓は、まるでガラスが入っていないかと錯覚させるほどの美しさ。

 修真とマキは感嘆かんたんの言葉を漏らした。


「うっわ、広いな〜。なんか、場違いじゃねーか?」


「うーん。こんな綺麗な家は、テレビでしか見たことが無いですねぇ」


 ポチとミュランダにいたっては、和風の家が珍しいのか口をぽっかり開けてしまっている。


「奥に人が居るかもしれない」


「そうですね、行ってみましょう」


 廊下を歩いて行った四人は、玄関が勝手に閉まったことに気づくことは無かった。



「誰かいませんかー!?」


 いませんかー、いませんかー。


「やっぱり、誰もいないんじゃないですか?」


「いや、そんなはずは……」


 玄関から入ってすぐ。二階まで吹き抜けの天井が広々とした空間を演出している広間。板張りの上から絨毯じゅうたんが敷かれ、質素なソファーが四つ置かれている。旅館などのロビーに似た空間だった。壁際には二階へ上がる為の階段も設けられている。

 修真が腕を組んで考えていると、ポチが言った。


「……私こっち行く」


 すたすたと歩き始めるポチ。


「あ、待って下さいよポチちゃーん」


 その後姿をマキが追って行った。

 ソファーで飛び跳ねていたミュランダが床に着地。


「じゃあ、あたし達はこっちだね」


「まぁ、それもそうだな。ごちゃごちゃ歩いてても効率悪いし」


 マキとポチとは別の方へと向かう、修真&ミュランダペア。板張りの廊下を歩き進めて行くとニ、三、部屋を見つけた。


「わ〜! ねぇ、パパ凄いよ。でっかいお風呂」


 広い脱衣所に、大きな鏡のある洗面台。その奥へと続く戸を引くと、白い湯気が立ち込める浴場が広がっていた。積まれたおけや、たっぷりと張られた湯。


「ほんとだなぁ〜。なんかすっげぇ高級感あるな」


 全て木で造られているらしい風呂場に圧倒されつつ、感想を漏らした。


「これならみんなで入れるねっ」


「基本的に、風呂ってみんなで入るもんじゃないからね」


 言い残して出て行く修真。 

 風呂場を後にした修真とミュランダは、土間を見つける。


「おいおいおい、こんなのテレビとか映画でしか見たことねぇぞ」


 かまどが三つほど並んでいて、取って付けたような流し台があった。窓と換気扇から日の光が入ってきている。


「ここが台所なの? でも普通に地面だよ?」


「なんか、昔はみんなこういう風だったらしい。よくは知らないんだけどさ」 


「ふーん」


 すぐ手前にあった木枠に障子見紙の張られたふすまを引くミュランダ。

 ふんわりと畳のいぐさの香りがする。

 十二畳ほどの広い部屋で、中央には大きなテーブルがあり、部屋の隅には座布団が積まれていた。


「ここは何?」


「え? あー、ここは要するにリビングだろ。こっちでご飯作って、そっちで食べるんだ」


 修真の説明に耳を傾けているかと思われたミュランダだが、


「あ、かけじくだ!」


 部屋に入って行って、いきなり掛け軸をめくった。

 裏側は壁。

 ミュランダを計り知れない衝撃が襲った。


「うそ!?」


 よろよろと後退りして修真にぶつかる。


「隠し通路がないなんて……」


「あったりめーだろ」


 すると、

 さー、

 どこからかそんな音が二人の耳に入ってきた。


「ん、水の音か?」


「あっちからみたい」


「行ってみよう。多分この家の人が居るんだよ」


 土間を出てミュランダが指差した方向に進んでいくと、まぶしい光が差し込んでいる縁側だった。さっきから水を撒くような音と、ぱちんぱちんと何かを切るような音が聞こえる。

 人の気配に、修真は縁側に出る。


「すいませ――」


 急に明るくなった世界に、目を細める修真。


「ん……が……」


 虚を突かれて唖然とした。

 女だった。

 淡い薄紫色の着物を着た、長い髪を中分けにしている可憐かれんな女性。じょうろで家庭菜園の野菜に水をやっていたようで、修真を見てかっちーんと凍りついている。

 がごーん。

 じょうろが女の手から滑り落ちた。ひっくり返った水がじわじわと地面に広がっていく。

 目をひん剥いている女性。

 修真は、不審者でないことを告げるため、改めて声をかけた。


「えっと、あの、連絡があったと思うんですけど、片桐――」


 そこまで言ったところで、


「……え」


 修真は思わず目を疑った。

 ほろり、と女性の瞳から何かが零れ落ちた。するとそれをきっかけにほろほろと泣き始めた。


「っと、すいません。聞きたいことが……」


 ばっと立ち上がった女性は、着物の袖で顔を覆いながら走り出す。きらきら光る宝石のような涙をその場に残して。


「ある…………んですけど」

 

 訳が分からず立ち尽くすしかない。唖然としている彼の脇からミュランダがひょっこり顔をだした。


「パパ、誰か居た?」


「っええええ!? 俺なんかしたっけ!?」


 修真の大声に、ばらばらに散策していたマキ&ポチペアが足音と共に戻ってくる。


「どうかしたんですかー?」


「奇声を確認した」


 わたわたと慌てながら、身振り手振りで説明する。


「いや、今、あの、綺麗な女の人、泣いて、走って、あっち行った!」


 マキはとびっきりの爽やかスマイルで言った。


「かわいい女の子の幻覚ですか? もう人間としてお終いですね」


「ちっげーよ! 居たんだって! 綺麗な着物着てて、どちらかと言えば年上っぽい感じの――」


 彼女の笑顔にぴしりとヒビが入った。


「へぇ〜、修様のタイプじゃないですかぁ」


 何故かするりとストールを取り出すマキ。

 次の瞬間。


「殺ぉすッ!」


 野獣のように吠えて、剣をぶんぶん振り回しながら縁側から駆け出て行った。


「あ、待て! どっちかと言えば、もっとエルナさんタイプの人が――」


 マキの後姿を見送っていると、今度はミュランダが。


「面白そう、私も殺すー」


 片手を天に掲げて巨大な魔力の塊を作り出す。煌々(こうこう)と光るそれを片手に、きゃはははーと笑いながらマキの後に続く。

 それと同時にポチがブライゼルを呼び出し、


「はさみ討ち」


 逆方向に走っていった。


「いや、え、本当に殺すの!? ダメだって! お前らバカじゃないの!?」


 奴らだったらやりかねないという恐怖に駆られた修真は、ポチの後を追った。

 二組に分かれた四人は、完全な一本道となっている邸宅の外周を分かれて走る。家の裏手を行くマキとミュランダ。家の正面側へと回り込む修真とポチ。

 マキは家の角に差し掛かった。

 曲がる瞬間、何者かの気配を察知してストールを振りかざすと、


「てありゃーーーーー!!」


 飛び出して力任せに振り抜いた。


「ッ!」


 ガキィィィン!

 と、激しい金属音が玄関の前で鳴り響く。


「あ、あれ、ポチちゃん?」


「……ママ?」


 互いの武器。ストールとブライゼルがぶつかり合っているではないか。首をかしげた二人は、刃を引く。


「どういうことなんでしょうか?」


「着物の女なんて見なかった」


「それが、私もなんですよ」


 玄関の前で鉢合わせになった。

 逃げる暇は無かったはずなのに。

 要領を得ないしないまま、ストールをしゅんとしまうマキ。ポチもブライゼルを指輪に戻して、薬指にはめた。

 きゃはははは、そんな声が後から聞こえてくる。


「あ」


 振り返ると、かなりの大きさになった魔力弾まりょくだまを担いで、嬉しそうに疾走してくるミュランダ。

 反対側からは、


「こ、殺したらダメだぞおおおおお!!」


 修真が顔面蒼白で迫って来ている。

 無言のままうなずき合ったポチとマキは、その場を後方にぴょ〜んと跳んだ。

 ミュランダは片足を上げ、


「そぉーーーーれッ!」


 可愛らしい笑顔で、魔力の塊をぶん投げた。一瞬、カッと光ったかと思うと、

 ちゅどーーーーーん。

 炎凄まじい大爆発。


「あーあ、お可哀想に修様」 


「お約束」


 もくもくと伸びていく黒煙が晴れる頃。黒コゲになった修真が倒れていた。

 たらーっと嫌な汗がミュランダのほほを伝う。


「や、やっちった?」


「……て、てめぇこの野郎」


 立ち上がってミュランダにげんこつの一発でも見舞ってやろうかというその時。

 がらら。

 今度は、上から物音が聞こえた。


「ん?」


 どうやら二階の窓が開いたようだ。

 再び修真は見た。あの着物の女性を。


「あーーーー!! ほら、居るじゃん! あそこ!」


 彼が指差した先を、どれどれと小手をかざして見る三人。しかし確かに窓は開いたが人影は全く無い。

 三人は不審感丸出しの視線を修真に向けて、口々に言った。


「修様、またですかー」


「パパの嘘つき! 泥棒のはじまりだよ!」


「狼少年になる。きっと後悔する」


 ひどい言われようにぐぬぬと、拳を握り締める。本当に見たのに、これでは嘘も吐いてないのに狼少年状態だ。


「くっそ! こうなったら意地でも見つけてやるッ、二階だ行くぞ!」


 意地になった修真を先頭に、もう一度玄関をくぐる運びとなった。  

 ずかずかと上がりこんでいき、先ほどの二階まで吹き抜けの広間で一声上げる。 


「階段どこだ!?」


「そこ」


 ポチに言われて、木造の階段を登る。

 途中、踊り場まで上がって、急に足を止めた。

 振り向いてマキ達に尋ねる。


「おい、お前らが行った方に階段ってあったか?」


「いいえ。私が行った方には使われた形跡の無い部屋が一つあっただけでしたけど?」


「あたし達が行った方も無かったよね?」


 ありがたい情報に、ふっふっふっ、と不気味に笑う修真。


「要するに逃げ道はここだけってことだ」


 もはや獲物を追い詰めるハンターのような目つきで、最後尾のポチを見やる。


「絶対に見逃すなよ。ぜっっったいに居るから」


 ポチはその剣幕けんまくをすかすように、


「了解」


 首をすくめて呟いた。

 なんとなく張り詰め始めた空気と共に、一段一段、神経を研ぎ澄ませ、音を立てないように上がっていく。二階の床が見え始めた辺りで、人の声が聞こえ始めた。

 いるぞ。

 うん。

 無言でのやりとりに、うなずきあう四人。

 階段を上り切り、目の前にふすまが現れた。飾り気の無い純白の襖で、どうやら音は……この部屋から聞こえてくるらしい。


「開けるぞ」


「はい」


 押し殺した声で確認し、襖に手をやる。口だけの動きでせーのと合図を取って、

 すぱーん。

 と、勢い良く開けた。同時に、部屋に雪崩れ込む。


「もう逃がさねぇぞ!」


 言い切ってから、甘ったるいような熱いような、とにかく形容しがたい匂いが修真を襲った。


「うっ……なんだこの匂い!」


 思わず手で鼻を摘み、それから部屋を見回した。

 全開の窓。テレビ。ぐしゃぐしゃの敷布団。散らかった空き瓶。

 そして、


「なんだー、いきなり人の部屋に入ってきてー、失礼な奴だなー」


 酒瓶を片手に足を投げ出して、こちらを見ているだらしない女性。

 目を凝らして良く見て、そんなことをしなくてもそこに居たのは、学校でも有名な『酒乱の保健医』岩瀬美穂だった。

 修真に限らず片桐シスターズも驚いた顔のまま、休日の保健医を凝視ぎょうししている。


「み、美穂先生!? どうしてここに……?」


「ほんなもん、あたりまえだろーがー。ここはー、私の家だぞー?」


「え、ちょ、どういう……」


 酒瓶を振りながら「まぁ、座れよー」と、促された修真達は、状況が良く飲み込めないまま畳にそれぞれ腰を下ろした。

 けらけらと笑った保健医こと美穂は、少しばかり過去の事を話し出した。


「つー訳でなー、千歳ちとせとはー、大学からの付き合いなんだよー」


 ぷはっと美味しそうに芋焼酎を飲み干して、また次の酒瓶の栓を抜く。もうほんと病気になるんじゃないのか、と思ってしまうほどの飲みっぷり。

 若干ひいている修真は、


「ってことは……」


 先生がみーにゃんだったのか――!!

 あだ名とのギャップに一人苦しんでいる。

 一人だけ楽しそうな美穂。 


「おー。それでー、お前が千歳の息子だってことは知ってたんだけどー、あんまりにも似てるから可笑しくてー、いつもからかってたんだー」


 なるほどと手を叩くマキ。


「あのオセロには、そんな意味があったんですね」 


 空き瓶の匂いをふんふんと嗅いで「うぇっ」と顔をしかめるミュランダ。興味がなくなり、瓶を転がして遊び始める。

 ころころと転がって行った瓶が修真の足にこつんと当たって、ふと思い出した。


「ねぇ、先生が着物着てたの?」


 尋ねられて、美穂は眉を上げた。


「何のことだー?」


 困ったように微笑んだマキが、てんで信じていない様子で言う。


「修様ったら、さっきから着物の女性を見た見たーって嘘を言うんですよぉ」 


「ッ!?」


 へらへらとしていた美穂の顔色が変わった。ぐでんぐでんに酔払っていたのにも関わらず、素早い動きで修真に詰め寄る。


「ど、どんな女だったー!?」


 その勢いに気圧けおされながら、


「こう、なんていうか。綺麗で、髪を中分けにしてて、薄幸の美女って感じの……」


 先ほど縁側で出会った女性の特徴を答えた。


「お、お前、本当に見えたのかー!?」


「え、あ、はい。見ましたけど……」


 ふるふると震えながら、後退りする美穂。

 何をするかと思いきや、


「とりあえず、そこで待っていろー!」


 転がるように部屋を出て行った。

 だだっ広い部屋で、ぽかーんと口を開けた四人。


「なんなの?」


「さぁ?」


 それから一時間経っても、美穂は帰って来なかった。



 暮れなずむ空。遠くでからすが鳴いている。

 開け放たれた窓辺に向かい合って腰掛けた修真とマキは、今後について語っていた。

 これまでにない真剣な面持ちで、口を開く。


「なぁ、俺達、これからどうしようか」


 差し込んでくる西日が、端正なマキの横顔を照らし出す。黒髪が橙色に染まり、寂しげな表情が儚さをかもし出している。息を飲むような美しさだ。

 虚ろな瞳でオレンジ色の街を眺めながら、ぽつりと言葉を漏らした。


「分からないです……。でも、修様と一緒だったら、どこだって」


 そこで言葉をとぎって、熱い眼差しを目の前で見詰めている少年に向ける。


「マキ……」


 まるで駆け落ちして、初めて泊まった宿で安息の一時を過ごす恋仲のようなシチュエーションだが、会話の内容はいたってシンプル。本当に今後どうするかを話しているのだ。

 何故かムードを楽しんでいるマキにがっくりとうなだれた修真は、未来への不安で頭を抱えた。


「もしかしたらここに住めない可能性もあるわけだし……」


 贅沢は言わない。とにかく住む家が、雨風をしのげる寝床が欲しい。できれば食事も欲しい。

 だが、こんなに広い家に住むことが出来たとしたらどうだろう。これまでのようなソファー生活ともおさらばして、一人一部屋くらいは確保できるのでは……。

 とソファー生活にすら戻れない事も忘れ、欲が出てきた辺りでマキが答えた。


「そうですねぇ。いっそのこと、結婚」


「お願いだから真面目に聞いてよ」


 と、遊ばれている修真の横。


「あひゃう!」


 素っ頓狂な奇声と共に、ミュランダがころんと畳に転がった。

 仁王立ちで、文字通り仁王の如く威圧感を放っているポチ。

 二人は、美穂の部屋でだらだらするのにも飽きて、だからといって好きに動き回れる状況でもなかったので、ミュランダ発案の訳の分からない遊びに興じていた。


「とどめ」


 ポチがにんまりと冷酷な微笑を浮かべて、両手を抜き手の形にする。そして、うつ伏せに倒れていたミュランダに馬乗りになった。

 どす。

 ポチの手刀が、ぶすりと脇腹に突き刺さった。


「あひゃう!」


 ぴんと跳ね上がるミュランダの体。

 上に乗っていたポチは、はねのけられて柱に激突した。


「……くっ、無限の力!?」


 打った後頭部をさすりながら、むくむくと起き上がってくるミュランダを信じられないという表情で見る。


「あたしには……この無限の力があるんだからッ」


 再び起き上がった二人は、手刀を作って睨み合う。

 ちなみに、二人が言っている『無限の力』というのは、脇腹を突付かれた時に発揮される、限界を超えた力のことである。


「せりゃッ!」


「あひゃ!」


 ミュランダの抜き手が、ポチの脇腹を捉えた。

 ごろごろと転がって行ったポチは、反対側の壁ぶつかって止まる。

 畳に沈んだポチを、冷めた瞳で見据えた修真が尋ねた。


「お前ら、さっきから何やってんの?」


 脇腹を抱えてぴくぴくしているポチに追撃の一手を加えようとしていたミュランダが、彼の問いに停止した。


「え? 『あひゃう』に決まってるじゃん」


 当然のように答える。

 当然の如く首をかしげる修真とマキ。


「あひゃう?」


「うん。『あひゃう』っていうのは、手をこうして、相手のお腹の横をつっついたら1ポイントなの」


 言いながら、手刀で自分の脇腹をつんつん突付いて見せた。

 またおかしなことを考えたもんだな、と修真が呆れているのを横目に、マキは楽しそうに尋ねた。


「ポイント? 勝ち負けとかあるんですか?」


 倒れていたポチがぐんと身を縮めて跳ね起きようとして失敗し、びたんと背中を畳に打ちつけた。

 あくまでも冷静を装って、そのままの体勢で自信げに言った。


「あるに決まってる。なかったら優劣がつけれない」


「いや、みんなそれやるけど、出来ないならやんなよ」


「どうしたら勝ちなんですか?」


「最後まで動いていた方が勝ちだよー」


 余談だが、現在はミュランダが98ポイント。ポチが105ポイントという、手に汗握る接戦である。


「最後までって、どういう……」


「だから、戦って最後に生き残った方が勝ちなんだってば」


「やめなさい」


 限りなくバイオレンスなルールがたたって、死亡遊戯『あひゃう』はこうして封印される運びとなった。



 それから少しして。


「にしても、保健室の先生は遅いですねぇ」


 壁にかけられている年代物のハト時計を見たマキが、疲れた様子で呟いた。


「そうだな。あれから、もう二時間くらい経つもんな」


 さすがにおかしい事に気付き始めた修真。

 無意味に広い部屋に軟禁されてかれこれ二時間。何故か元気な天子二名とは対照的に、空腹も頂点に達し始め、精神的に限界が近い。


「腹減った……」


 ぎゅるるーと鳴った腹を押さえて、修真の顔が一層げんなりとする。彼が今日摂取したのは朝に飲んだ水っぽいココアのみである。

 まるで枯れるていく花のように丸まった背中に、ミュランダが飛び乗った。


「ねぇねぇ、動いてよー」


「お馬さんはね、エサが無いと動けないんだよ」


 言われて、ごそごそとポケットから何かを取り出す。


「はい」


 背後から差し出された小さな手の平に乗っていたのは、何故かするめいかの足だった。

 しばし、そのするめいかの足を見詰めていた修真は、半目になって振り向いた。

 

「イカを常備している奴なんて始めて見たわ。いつもポケットに何を入れてんだよ」


 という修真の言葉に、


「ちっがうもん! さっき、部屋のすみっこで拾っただけ!」


 のしかかったまま、口を尖らせた。

 あきれ果てた修真は、一段とげっそりした。


「……余計に腹減ったよ。ちくしょう」


 ゲソだけに。


「……しょーもな」


「ポチちゃん何か言いましたか?」


「なんでもない」


 その時だった。

 うぃーん、がらどどどど。

 世にも奇妙な音が広い部屋の中に響き渡った。工事現場で良く耳にするような、機械音。なんだどうしたときょろきょろ見回した修真と天使の姉妹は、ある光景を目にした。

 腹部を両手で抑えて、ほほを赤らめているマキ。


「ま、まさかね……」


「違うよー。違う違うー」


「ない。ありえない」


 がらどどど、がしゃこん、うぃーん。

 更に奇妙な効果音が増えて、また聞こえた。

 妙な沈黙に包まれた四人。さすがに我慢できなくなった修真は、心の中で否定しつつも訊いてみた。


「い、今のって腹の虫ですか?」


「ち、違いますよ! 何言ってるんですか、お腹なんか減ってません!」


 マキは素早い動きで、両手を横に振りまくった。

 けれども、修真が問いたいのはそこではない。


「そうじゃない。腹が減るのは普通のことだ」


 ちょっとびくつきながら、上目づかいで修真の顔をうかがう。


「じゃ、じゃあ、なんだって言うんですか……?」


「音に決まってんだろ! 何もかもが違う!」


 声を大にして吠えた。

 それに対してマキは、わざとらしく視線を宙にやって、指先をあごに当てる。


「お、音〜? 何のことですかねぇ〜?」


 とぼけて首を捻った。

 しかし、追及の手は止まらない。


「がしゃんって何だよ! 胃袋近辺で何が起こってんだよ!」


「プレスする物がなくて、動作不良を起こしているだけです!」


 驚愕の事実が判明。


「プレス!? そういう工場的な感じなの!?」


 思いっきりたじろいだ修真は、限界まで目を丸くした。プレス機がマキの体内にある。そう思っただけで、夜も眠れない。

 意味不明なカミングアウトを果たしたマキは、さもそれが当然の事であるかのように、


「人は皆、体に工場を抱えているのものなのですよ」


 両手を胸に当てて、まるで崇高すうこうな教えを説くシスターのように穏やかな声で言った。

 納得がいくわけが無い。

 あえてマキの言葉に乗ってみる修真。


「ああ、良いだろう。じゃあ、俺の体内にも工場があるんだな?」


 そう尋ねると、マキは穏やかな調子で微笑んだ。


「修様が抱えているのは複雑な悩みですよ。工場ではありません」


 らーっという天使の歌声をバッグミュージックに、背中から後光が差している。

 修真は、ほとほと呆れながら言った。


「分かってんじゃねぇか。原因は八割方お前だよ」


 そっと目を閉じるマキ。歓喜かんきに打ち震え、その感動を他者へ伝える者のように、胸を抱く。


「それは恋の悩みなのですッ!」


 限りなくバカみたいな愛の伝道師が降臨こうりんされていらっしゃる中。彼は、きっぱりと、それでいて冷ややかに言い切った。


「ちげーよ。タコ」


 かちん。


「――な」


 とうとうマキがいきり立った。力強く修真に指を突きつける。


「もう、何なんですかッ。人の体にケチつけてばっかり! さては私の体に飽きたんですねッ! あんなにもてあそんだのにッ!」


 と、言い放った彼女の頭の上には、「げへへへ」といやらしい笑みを浮かべた修真と「いやぁぁぁぁ」と泣き叫ぶマキという、とても描写できる内容ではない行為に及んでいる光景が浮かんでいた。


「ねぇよそんなこと。永久に喋るな」 


 それでもマキは言い募る。


「体の中に工場がある私には喋る権利も無いんですか!? 人種差別ですよ!」


「そもそも人じゃねぇだろうがッ!!」


 もう人ぐらい殺せるんじゃないかという勢いで、怒声を上げた修真。

 瞳がじわりと潤んだ。


「……兵器だなんて思ったこと無いって言ったくせに」


 目を真っ赤にさせて、肩を震わせているマキ。修真はさすがに不味いと思った。

 完全に泣く寸前に見えたから。


「いや、それはそれで、これは、その……」


 それはもう慌てて、誤解を解こうとする。そう、彼は兵器だなんて言っていない。人ではない何かと言っただけなのだ。

 一方、勘違い街道を驀進中ばくしんちゅうのマキは、目尻の涙を拭いながら涙声で言葉を紡ぐ。


「……そんなこと言うと、百万ボトルの涙出しますよッ」


 決して百万ドルの〜とか、百万ボルトの〜とかそういうのではない。あくまでも百万ボトルなのだ。

 本当に意味不明な発言に、修真の申し訳ないという気持ちは空の彼方へ飛んでいった。


「百万本のボトルなんて聞いたことねぇよ。涙の価値がいまいち伝わってこない」


 顔を覆ってしくしく泣いていたマキが「ちッ」と、すごく悪い顔で舌打ちをする。

 修真は、はっと気付いた。


「てめぇ……、久々にやりやがったな」


「すーぐ引っ掛かりますよね」


 けらけらと笑うマキ。今のはウソ泣きだったのだ。

 よりにもよって一番無防備な所を襲撃された修真は、思わず石よりも堅い握り拳を……。


「百万ボトルの涙見せてもらおうじゃねぇか」


 ぼきぼきと手の骨を鳴らす。

 ミュランダの明るい声が割って入った。


「百万ボトル入りましたー!」


 空いた酒瓶をマイクに見立てて、どこでそんな事を覚えてきたのかそういうお店のマイクパフォーマンスを真似ている。

 間髪入れずに、かなり腰が低い調子のポチが修真にすりよった。


「お会計の方、こちらとなっております」


 どこからともなく差し出された領収書には、『¥百万ボトル』と書いてある。

 それをぐしゃりと握り潰して、呟いた。


「ツケで……あー、もうだめ」


 ばたんと倒れる修真。

 いつまで待たせるつもりなんだ。

 そう心の中で言いながら、疲れた表情で言う。


「ったく、おっそいよなー」


「そうですねぇ。いくらなんでも、こんなに待たせる――」


 かぁぁぁあたぎりぃぃぃい!!

 という怒声が、どこからか響いた。


「え? 呼んでる?」


 何やら声の主は一度では飽き足らないようで、何度も呼びかけている。


「外だよ!」


 どたどたと部屋を出て、廊下を走り、表に面した窓をがらっと開けた。

 視線を下に向けると、


「おー! やっと出たー!」


 何やら大きなトランクを持っている美穂が、ぴょんぴょん跳ねながら両手を振っている。

 四人は窓の手すりから身を乗り出す。


「せ、先生やっと――」


 修真の声をさえぎるように美穂が声をあげる。


「おーい。いいかー? 今から言う事をよく聞くんだぞー?」


「え? あ? はい?」


 きょとんとしている修真達四人に、美穂は次の言葉を投げ掛けた。


「今日からそこはお前んちだからー!」


「はぁ!?」


 一同の声がかぶさる。

 美穂は言う。


「だってー、教師と生徒が一緒に住むなんて問題ありありだろー? だからー、私が出て行くー!」


 突然とんでもない事を言い出した。

 修真は、とりあえず保健医を引き止める。


「いやいやいや! ちょっと待って下さいよ!」


 下のほうでにっこりと笑う。


「気にするなー! その家ってばー、かなり普通じゃないんだよー! 郵便は届かないしー、新聞は配達されないしー!」


「そ、それは郵便受けが無いからじゃ……」


 という呟きも無視して、美穂はきびすを返して歩いて行く。

 途中で一度振り返って言った。


「そうそうー、詳しい事はメモを残しておいたからー、それをしっかり読んどけよー!」


「だからちょっ――」


「あーばーよー!」


 と言い残し、美穂は走って街へと消えて行った。

 取り残された四人は、なんとも言えない表情で顔を見合わせた。

 修真が尋ねる。


「……えっと、どうすればいいの。これ?」


「さ、さぁ?」


 私はしりませんよとばかりにぶんぶん首を横に振るマキ。

 ミュランダが口を開く。


「それで、ここに住めるの?」


「さぁ?」


 修真とマキが首をひねった。

 ポチがぽつりと言う。


「メモ」


「あ、そうですよ。とりあえず、メモを探してみませんか?」


「そうする……か」


 そんなこんなで二階からぞろぞろ降りていく。

 ちょうどロビーの机の上に、ニ枚の紙切れが置いてあった。


「あ、これじゃないですか、説明書って書いてありますよ? ん? もう一枚ありますねぇ」


 マキは一枚を修真に手渡すと、もう一枚を手に取り裏表を返して、文字が書いてある方をしげしげと眺める。

 紙を受け取った修真が素っ頓狂な声を上げた。


「うわ!! これ、土地の権利書だぞ!」


 権利書には『美穂より愛を込めて』とか書かれている。

 本気だ。

 先生ヤツは本気でここに住まそうとしている。

 言い知れない怖気おぞけを感じた修真は、マキに尋ねた。


「そ、そっちは、なんて書いてあるんだ!?」


 ミュランダはジャンプしてマキの読んでいる紙を見ていて、ポチはソファーにふんぞり返っている。

 数秒沈黙したあと、マキは喋り始めた。


「えっとですね、要約すると。この家には地縛霊が住んでいるそうで、この家に住む人に取り付くそうです。そうしないと消えてしまうため、らしいですけど……」


 言い終えて、顔を上げたマキは戦慄した。

 メモに書いてある文字。

 目の前の光景。

 なんかいる。

 なんか修真の首に腕を回して、浮いている。

 多分、人が。

 そんな事とは露知らず、修真は感心したように呟く。


「へぇ、そりゃかなりのゴーストハウスだな。つーか今時そんなのあるんだ」


 ソファーから弾かれたように飛び出したポチが、マキの手からメモを掠め取った。ミュランダも横から覗き込む。

 メモと修真を見比べて、ごしごしと目を擦る。

 再確認のため、もう一度見比べた。

 表情が恐怖色に染まった。

 女が。

 宙に浮かんでいる半透明の女が。

 修真の首筋に青白い腕をからませている。


「何? どうかした? すんごい顔してるけど」


 彼はいたって普通にそう訊いた。こちらを見ているマキ、ポチ、ミュランダは、それはもうどえらい顔でこちらを見ている。

 だが、彼女達からすると、どえらいことになっているのは彼の方なわけで。

 修真が近づこうとすると、


「うっ!」


「ひっ!」


「……っ!」


 ソファーやらテーブルなどをびっくりするぐらいのスピードで乗り越えて、女子三人はだだだっと一気に階段の踊り場まで駆け上がった。

 はぁはぁ肩で息をしながらこちらを見下ろしている彼女らを見上げて、困惑する修真。


「ん、なんなの?」


 何故か三人とも青ざめた顔をしていて、驚愕の眼差でこちらを見下ろしている。

 修真の背後に浮いている青ざめた女を、ポチが震えながら指差した。


「う、うううう、うしろっ」


 振り返ってみる。しかし、玄関が見えるだけで特に何も無い。


「なんなんだよ。新しい遊びか?」


 ミュランダがうぎゃーと絶叫しながら階段を駆け上がっていった。マキもポチもそれに続いていなくなる。

 彼はひどく顔をしかめる。


「ったく、意味わかんねーよ」


 ぼりぼりと頭を掻くと、マキが落として行ったメモに目がいった。

 拾って読んでみる。


「幽霊の特徴は、浮いている着物姿の女?」


 と、そこで。


「あれ?」


 いつの間にか目の前に、数時間前に縁側で出会った女性が立っていた。頬を桜色に染めてもじもじしながら、うやうやしくこちらを見ている。

 修真は急に真顔になった。沈黙しながら目をしばたたかせる。

 メモを見る。

 女性を見る。


「うんうん。着物着てて」


 もう一度メモを見る。

 女性の足元を見る。


「うんうん。足が――」


 無い。

 足が無い。浮いてる。

 かたかたと震えだす修真の体。表情が恐怖に凍りついた。

 やにわに叫ぶ。


「でぇぇぇぇえええとぅぁぁぁああああ――――!!!」


 大絶叫して走り出した。

 だが、おばけもついてくる。ふわふわ飛びながら追いかけて来る。

 ソファーの周りをぐるぐる回る修真と幽霊。


「いやぁぁぁああああ!!」


 号泣しながら目に付いた階段を猛スピードで駆け上がる。

 目にも止まらぬ早さ二階に到達して、


「あ、修様!」


「パパ!」


「無事だった?」


 廊下の片隅で震えていた片桐シスターズを完全に無視して、非常に必死な顔で走り抜けていく。

 ポチは唇をとがらせた。


「無視された」


 ミュランダが不思議そうに相槌あいづちをうつ。


「されたねぇ」


 すると、

 三人の足元から、

 ぬっと、

 女の頭が。


「いぎゃああああ――――!!」


 ふらりと気絶したミュランダを小脇に抱えて走り出すマキ。転んでメガネを失いながらも必死に駆け出すポチ。 

 後ろから追ってくる着物姿の幽霊。


「無理無理無理!! こういうの無理ですぅ―――!!」


 首をぶんぶん振るマキと、


「見えない見えない見えない見えない――!」


 手をわたわたさせているポチ。

 かなりの速度で幽霊から逃げる二人の前方に、左へと曲がる角が現れる。

 はっとするマキ。


「ポチちゃん! 曲がり角!」


 マキはスピードを殺さない見事なコーナリング。左へと綺麗に曲がった。


「曲がり角!?」


 ポチは、

 どちゃ!

 右に曲がって壁にぶち当たりました。

 ポチ撃沈げきちん


「ポチちゃぁぁぁぁん!!」


 ずるずると血の跡を壁に残しながら床に沈む。

 しかし、マキに引き返している時間はない。メガネが無いとこうもダメなのかと思いながら、涙を飲んでポチをその場に捨て置いた。

 一方幽霊の方は、ポチが死んでいる魔のカーブを難なく通り過ぎる。


「きゃぁぁぁああ!! こっち来たぁぁぁああ!!」


 半べそで逃げるマキ。

 恐怖と絶望の最中で、最も信頼を寄せる彼の声が響いた。

 

「マキ! こっちだ!」


「修様!」


 前を見る。

 修真が手招きしている。

 走る。

 手を取った。

 二人は土壇場どたんばでの一体感で、そこに踊り出た。

 テラス。

 物干し竿が数本立てられている広々とした空間。すっかり日の沈んだ紫色の空が不気味さをあおり立てる。

 後ろからはふわふわ飛んでくる恐怖の権化ごんげ

 しかし、修真にはこんな危機的状況で、なおも勝算があった。


「マキっ、飛ぶんだ!」


 紫の空を指差して声を荒げる。

 名案だと瞳を輝かせ、うなずくマキ。


「わかりました!」


 するりとマキが同化して、広がる機械のような翼。

 代わりにミュランダを抱いた修真は、板張りの床を力いっぱい蹴り上げ、宙に舞い上がった。 


「俺らにはこれがあるんだよ! 取り付かれてたまるか!」


 一直線に飛翔していく修真。

 幽霊はテラスでその進みを止めた。

 勝った!

 という確信から自然と笑みがわいてくる。

 

(なんとか助かりましたね!)


「おう! このまま高さを――」


 どごん!

 鈍い音。

 ひゅるひゅる落ちていく修真。

 二人は゛見えない何か″に思いっきりぶつかっていた。

 そして凄い音と共に庭の一画に墜落ついらく。ミュランダも、同化が解けたマキも、修真も、目を回してしまい誰一人として動ける者は居なくなる。

 その少し上。テラスから幽霊の冷ややかな瞳が、墜落した少年少女を見据えていた。



 電灯が灯った明るい部屋。

 畳の上に四つの布団が敷かれている。


「ん……? ここは?」


 木目調の天井。

 不思議に思って身を起こすと、額から何かが落ちた。

 手に取る。


「タオル?」


 周囲には、自分が寝ているのと同じように布団が敷かれていて、マキ、ポチ、ミュランダが静かに眠っている。どうやら美穂の部屋のようだった。

 隣で寝ているマキの肩を揺すった。


「おい、起きろ。何か変だぞ」


 すーすーと間抜け顔で寝息を立てている。


「マキちゃん起きてー、朝だよー」


 ぺちぺち頬を叩くと、むにゃむにゃと口を動かし始めた。


「……まだ宵の口でしゅよぉぅ。お楽しみはこれからこれかりゃぁ……」


「は? 今の寝言?」


 一体どんな夢を見てるんだろうと気になっていると、マキの寝言は更なる展開を見せた。


「ほらぁ、トムソンガゼルがあぁーんなにたくさん。歩道橋とフランスパンがぁ……」

 

「トムソンガゼル!? 歩道橋とフランスパンって何が起きてんの!?」


 夢の内容の方が怖くなった修真は、がくがく体を揺さぶる。ようやくマキの瞳が薄っすらと開いた。


「んぁ? 修様? なんか用ですかぁ〜?」


 寝ぼけ眼をごしごし擦りながら起き上がるマキ。布団の上であぐらを掻いている修真を見て、自分を見る。

 隣り合った布団。


「はっ! まさかベッドイ――」


「なんでだよ」


「じゃあ、なんなんですか。どうして仲良く四人で寝てるんです?」


「それがさ、気付いたらこの状況だったんだよ。何のことやらさっぱり分かんなくって」


 首を捻る二人。


「あたっ」


 ふいに、何かがマキの頭にこつんと当たった。


「なんだこれ? 紙飛行機?」


 周りには誰も居ない。ミュランダとポチが寝ているだけだ。


「そこ、何か文字が書いてありません?」


「あ、ほんとだ」


 かさかさと開いた紙を二人で見て、修真が読み上げた。


「えー、この度は驚かしてしまい、申し訳ありませんでした。私はこの家に取り込まれた地縛霊です。でも、驚かないで下さい。私はあなた方に危害を加えるつもりはありません……だって」


「ちょ、ちょっと修様。私達、今幽霊からの手紙読んでますよ! 一週間以内に死ぬんじゃないですか!?」 


「やかましいわ」


 二人はそんな調子で手紙を読み進めていく。この手紙には、この家にまつわる事情が切々と書き記されていた。

 この家が百年以上前から建っていて、不思議な力をもっていること。

 幽霊となってさまよっているうちに、この家に取り込まれて一体化してしまったこと。

 幽霊は生きている者と言葉が交わせないこと。

 そして、絶えず誰かが住んでいないと、この家の存在と共に消えてしまうこと。

 修真とマキは少しばかり沈鬱な表情になった。


「……なんか、あれだな」


「そう……ですね」 


 俯いたマキ。彼女はぐっと顔を上げると、天上に向かって喋り始めた。


「幽霊さーん、出て来てくださーい。もう逃げたりしませんからー」


 不意に背後から冷たい気配を感じて振り返る修真。

 何も無い普通の壁から、ぬるりと着物姿の女性が現れた。


「って、うおっ!! こっちかい!」


 申し訳無さそうにしている幽霊さん。よくよく見ると体も半透明、というかぼんやりしている。

 彼は少々驚きながらも、布団やらミュランダやらポチやらを流し見て尋ねる。 


「あの、これはあなたが?」


 女性はこくりとうなずいた。

 マキと顔を見合わせる。正直な所まだ恐怖は抜けきっていないが、特に悪人(悪霊)というわけではないようだ。

 なんにせよ礼は言わなければならない。そう思って、修真はぺこりと頭を下げた。


「さっきはすいませんでした。事情も知らずに騒いじゃって」


 幽霊さんはふわふわ浮いていながら首を横に振る。

 マキがおっかなびっくり尋ねた。


「あの、喋れない……んですよね?」


 またもこくりと頷いて答える。


「わかりました。じゃあ、筆談しましょう」


 さっきの紙の裏をすっと前に差し出す。手紙の応用だ。

 幽霊さんはこの意見に同意したようで、その場で正座をするように小さくなった。

 ん〜、と悩んだ末に妙にへらへらしながら修真が問う。


「じゃあ、月並みですけど、お名前は?」


「合コンかい!」


 ばしんとまくらで殴る。

 彼はくるりと向いた。もう呆れすぎて笑ってさえいる。


「あっのさぁ〜、別にこの状況だったら普通じゃね? それ以外になんて聞けば良いんだよ」


 マキは驚いた様子で拳を口元に当てた。


「あ、ごめんなさい。つい雰囲気で」


 修真は目を細める。


「へぇ、君は雰囲気で人を殴るのか。頭がおかしいのかな?」


 この間にも、幽霊さんはどこからともなく取り出したマジックペンを、さらさらと紙に走らせている。

 訊かれたマキは、


「ほら、私って恋する乙女じゃないですか。だから周りが見えなくなっていたというか、ここらへんで一発いれとくか、みたいな?」


 そう言って首をかたむけた。


「何それ? 俺って定期的に殴られなきゃいけないの? それとも恋する乙女は定期的に人を殴るの?」


「そうですね。基本的に恋する乙女は人を殴る生き物ですから」


「恋なんてやめちまえっ!!」


 修真が怒声を上げた所で、幽霊さんが紙をこちら側に差し出した。 

 回答は、


『わかりません。以前から思い出せないのです』


 だった。

 弱ったな、とぎこちなく笑う。


「そうですか……あはは」


 今度はマキが根本的なことを単刀直入に尋ねてみた。


「要するに、この家に私達もしくは誰かが住まないと消えちゃうんですか?」


『はい。この家は住んでいる者の存在と同調していますから、同調する存在が無ければ在る事ができません。私が住む方のお世話をして、その見返りとしてこの家を存続させていたただいております』


 文章での返答を受けて、マキはしみじみと言った。


「んー、なるほど。なんか私みたいですねぇ」


 その何気ないマキの言葉に、修真の眉がぴくりと反応を示す。

 幽霊さんが首をかしげたのを見て、マキが笑顔で手を横に振った。


「いえいえ、こっちの話ですから気にしないで下さい。それより、お世話というのは?」


 数秒して書き終えた返答。


『私はこういった存在ですが、゛この家の物″なら触れたい時に触れることが出来ます。ですので、炊事、家事、洗濯などの雑務をすることが出来ます』


 それを読んだマキの顔に衝撃が走った。

 嬉々として言う。


「ってことは、私が家事に苦しむ必要はもう無いんですね!? あの奴隷どれいのように働かされていた日々が嘘のよう!」


「嘘つけ。6対4で俺の方が多かったっつーの」


 家事は分担制で、量的には修真が六、マキが四なのだ。彼としては、家事をやってくれるだけでかなりマキは成長したと思っている。大体、一人暮らしの家事の量と、四人暮らしでは段違いの仕事の多さなのだ。

 それが、この人(?)がやってくれるというではないか。勉強する時間も増えるだろうし、すぐ学校から家に直行する必要もなくなる。

 ばんと膝を叩いて、修真が勢い良く立ち上がった。


「わっかりました! 俺、ここに住む」


 修真は自分一人で先走ってしまった事に気付いて、マキの顔色をうかがいながら訊いた。


「ぅおうと思うんだけど、良い……かな?」


 マキは観念したように溜息を吐く。けれども決して嫌な感じではなく、爽やかな、仕方ありませんねと微笑むような表情だった。

 次いで、温かい笑顔で口を開いた。


「そうと決まれば、早く荷車の荷物もってこないといけませんね」


 幽霊さんの表情が歓喜と驚きに染まった。ぺこぺこ頭を下げている。

 修真とマキはにっこりと笑うと、


「それじゃあ、今後ともよろしくお願いしますね」


 二人でそう言った。



 藍色の月夜。筆で書いたような薄い雲が夜空を流れて行く。

 淡い月明かりに照らされた薄暗い夜の町。

 その中でも一際明るい家。窓から漏れている人の温もり感じさせるおぼろげな光。外の石燈篭いしとうろうには火が灯っている。

 この一軒だけが、まるでライトアップされたかのように煌々と輝いていた。

 玄関から出てきた二つの人影。


「マキ……信じられるか?」


「……いいえ。まだ実感が」


 修真とマキだった。ひんやりした夜風の中でおかしな感覚、それこそ初めて覚える感情に半信半疑の興奮が吹き上がっていた。

 ふり向けば、大きなマイホーム。立派な一戸建てで、土地の権利書も持っている。それの意味する所は、この家が修真達の完全無欠のマイハウスということ。

 込み上げる思いに堪えきれなくなった二人は、急にくっくと笑い始めた。

 次の瞬間。


「ぃぃぃやったあぁぁあああ!!」 


 歓喜の雄叫びをどちらからとも無く上げて、


「おい! すっげぇな! 家だぞ!!」


「はい! すっごいです! お家です!!」


 二人で喜びを確かめ合う。

 これが夢で無いように、これが幻で無いように。


「マイホームだぞ!! 新居だぞ!!」


「マイホームですね! 新居ですね!!」


 しっかりと。

 ぐらぐらと煮立つマグマのように込み上げてくる熱い気持ち。全身の血が沸いているような感覚。何かで発散しないと、胸がはちきれてしまいそうなくらい。


「〜〜〜っ」


「〜〜〜っ」


 真っ赤な顔でその場でばたばた足踏みして、それでも体中を駆け巡る喜びから二人は玄関の前でがばっと熱い抱擁ほうようを交わした。


「やったなマキ〜〜っ!」


「修様〜〜〜っ!」


 狂ったような笑顔を浮かべながらぴょんぴょん飛び跳ねる。

 テンションが限界まで上がっている修真は、マキを抱擁したままその場でぐるんぐるんと回転した。


「きゃぁ〜っ」


 マキは修真の首筋に腕をまわしたまま、楽しそうな声を上げる。

 すとんとマキを下ろした修真は、興奮冷めあらぬ荒い息づかいで言った。


「あっ、あのさっ、マキ、ありがとう。ありがとな」


 マキは目を丸くする。


「えぇっ!? 突然どうしたんです!?」


 修真は興奮し過ぎて何を言いたいのかも、何を考えているのかさえ良く分からなくなっている。自分が言った言葉に自分で驚くという奇妙な状態で答えた。


「いやっ、なんか分かんないけど、急に言いたくなった! 意味とか全然わからんけどっ」


 マキもよく理解もせずにこくこく頷いた。


「じじじ、じゃ、じゃあ、修様ありがとう!」


「なんだよお前! いきなり恥ずかしいこと言うなよ!」


「そ、そんなこと言ったって、私も同じなんですよっ。修様と!」


 もうなにがなにやら。

 二人はこの、不思議で奇妙な出来事と、心の高揚こうようを信じてみたり、疑ってみたりして、しばらくの間甘い幸せに浸っていた。

 温もりのある月明かり。

 ひょんなことから手に入れた大きな大きなマイホーム。

 その下で。

 ぎゅっと手を取り合いながら。




 余談。

 修真とマキが外に居る頃。

 目を覚ましたポチとミュランダの目の前には幽霊さんが。


「いっやぁぁぁぁあああっ!!」


 外まで響く悲鳴だった。






 はい。とゆーわけでね、25話でしたが、少しでも笑っていただければ定休日の思うつぼです。

 まぁ、なんとゆーか新しいマイホームが出来た片桐家のみなさんです。気分を一新して、これからはこの家が出発地点となっていくのでよろしくお願いします。

 この話、わかりにくいかと思いますが、22話の最初とリンクして――

 はい、どうでもいいですね。

 前回あとがきで『近い内に更新します』とか言っといて二週間以上も待たせるというダメっぷりを披露しましたわけですが。


 どうも嘘つきです。


 いや、違うんですよ。

 思わぬ落とし穴ってあるじゃないですか。

 携帯電話の充電器を挿す所がぽりっと取れる事だってあるじゃないですか。

 携帯ショップのお姉さんに「え? なにこれ? こんな風になんの?」とか言われながらすごい顔で見られる事だってあるじゃないですか。

 次回はアレです。

『携帯電話の充電器挿す所がぽりっと取れて嘘つきになる』というお話にします。

 冗談です。

 普通に幽霊さんと打ち解ける感じの話か、色々書きたい話候補があるので迷っています。そろそろこの話も季節が夏になるのでイベント盛りだくさんです。

 どうなるか分かりませんが、よければまた読んでやってください。

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