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第24話、快晴とくしゃみ

 六月の嫌な雨も上がり、すっきりと澄んだ青空が久々に街を包んだ。雲に隠れていた太陽もようやく顔を出して、燦々(さんさん)と輝いている。

 久々に降り注いだ日の光は、その場所にも温かさをもたらした。


「……ん」


 雨に濡れていないコンクリート。四つの丸くなった毛布。それらは寄り添うようにして、一つに固まっていた。

 その中の一つがむくりと起き上がる。

 ぼやけた視界に飛び込んできたのは、朝露を乗せてきらきら輝く雑草。上を向けば圧迫感のあるコンクリートと、反対岸まで続いている大きなパイプ。

 橋の下だった。


「そうだった。生まれて初めて野宿したんだった……」


 梅雨の時期というのも手伝って気温は少し肌寒く、疲弊ひへいした表情の修真は、少し身震いした。

 ふらふら立ち上がると、隣に止めてあった荷車からごそごそと何かを漁り始める。


「あった」


 取り出したのは、ガスコンロ。

 その上に小さな手鍋を置いて、ペットボトルの水を注ぐ。

 火を点ける。少し温かくなった。


「うう……、なんで俺がこんな目に」


 本当になんでこんなことになってしまったんだろう。

 爽やかな朝の景色とは裏腹に切ない涙を流し、それでも湯を沸かす。

 うっうっという嗚咽に、一つの毛布がもぞもぞと動いた。

 ん〜と大きく伸びをして、


「ふぁ、しゅ〜さま、おひゃよ〜ございますぅ〜」


 あくびをしながら、まだ回っていないろれつでマキが起床。

 体操座りですすり泣いている修真は、ちらりと彼女をみやるとすぐに俯いた。


「……はい。おはようございます」


 マキはそれがさもおかしそうに笑う。


「朝からどうしたんです? いつもの元気がないじゃないですか」


「それはね……」


 すぅっと指差されて、振り返る。

 昨日の雨で少し増水した川の上に掛かった橋。更にその下。ホームをレスした修真達が辿り着いた最後のエデンだった。

 ごぉぉぉぉという、川のせせらぎとは程遠い荒々しい音が聞こえてくるのがますます悲しい。


「これがいつもの状況じゃないからだよ」


 涙ながらに語った修真。

 マキの額からたらりと嫌な汗が流れた。


「に、にしても、大自然ですねぇ〜」


 いきなり話をそらし、大きく手を広げて太陽の光を浴びる。


「良いお天気〜。やっぱり太陽があると違いますねぇ〜。あ、デートしませんか?」


 修真はどこまでもポジティブな彼女に疑問を通り越して尊敬すらできる、


「お前さぁ……」


 のも更に通り越して最終的に疑問に戻った。


「家が無くなったのに、どうしてそんなに元気なんだよ」


 沸騰ふっとうするかしないかという具合の鍋を、危なげな目で見詰めながら問う。そのやつれた顔には生気が感じられず、ほぼゾンビに相違そうい無い。

 問われたマキは「え?」と不思議そうに眉を上げた。


「だから、どうして住む家をなくしたのに、そんなに元気なのかって訊いてんだよ」


 なるほどと手を打って、当然のように答える。


「だって、修様と一緒だったら私は幸せですから。それがどこであろうとも」


 朝日を背に、にっこりと笑った。

 健気けなげだった。純朴じゅんぼくでもあった。


「お前」


 修真は一瞬血迷った。打ちひしがれた心にマキのストレートな言葉がしみたのだ。


「……くぅ」


 思わず目頭を押さえる。

 そうだ。こいつがこんなに元気なのに、俺がくよくよしててどうするんだ。

 肩を震わせている修真に、マキが穏やかに言葉を掛けた。


「修様、ほら、顔を上げて……」


 空元気でも良いから明るく振舞おう。そう思って顔を上げ――

 たところで、おかしな光景が目に飛び込んできた。


「……は?」


 マキが目を閉じて唇を突き出している。しかも「ん〜、早く」などと、ぬかしているではないか。

 そのやわらかそうな唇を、半目で見ていて、修真の明るい気分は空の彼方かなたへと消え去った。


「ひとつ聞いて良い?」


 マキがじれったそうに片目を開けた。


「何ですか?」


「どうしたら『家が無くなって野宿したらキス』っていう考えに辿り着けるわけ? お前だったら失われた大地にも辿り着けるよ」


「じゃあ逆に聞きますけど、どうしたら『家が無くなって野宿したらキス』っていう考えにならないんですか? 失ったのは家ですよ」


 がっくりと脱力する修真。


「ごめん。お前に正常さを求めた俺が間違ってたよ」


「何言ってるんですか。この状況のどこが正常だって言うんです? 家が無くなって野宿したんですよ?」


 そう言われてくやしさで拳を握り締めた。


「ちっきしょう、言い返せねぇ……」


 二人の視線の下で、ぼこぼこと煮立ってきた鍋。


「あ、沸いたか」


 火を止めてマグカップに湯を注ぎ、荷車から取り出したインスタントココアを入れた。


「あ、私ももらえますか?」


「うい」


 マグカップを手渡すと、修真は手元に視線を落とした。悲しきかな指でぐるぐると混ぜて、一口飲む。


「くそ……牛乳が入ってないと物足りない」


 いつもとは違う、なんとも寂しいお湯に近い味がした。

 基本的に買いだめをしないため、冷蔵庫の中身は空に近い。食べるものも無い。お金も無い。それだけならまだしも、家も失ってしまった。

 修真の心は荒みに荒んでいく。

 同じようにして味気の無いココアを飲んだマキが、おもむろに尋ねた。


「あ、そういえば、あの後ってどこに行ってたんですか?」


「ああ。ちょっと駅までな。国際電話ってやつだ」


「へ? 国際電話ですか?」



 かれこれ七時間前。

 エプロン少女と別れ、橋の下に辿り着いたその後のことである。

 降りしきる雨の中、修真は駅に設置されている固定電話機の前に一人で立っていた。険しい表情で財布から五百円玉を取り出す。


「……五百円、か」


 渋い顔で手の平を見る。黄金に輝くそれは、生活のかなめである貴重な資源。


「くっ!」


 それを分かっていながら、思い切って電話機に一枚入れた。

 ダイヤルを押す。

 しばらくするとぶつっと回線が繋がった。


「あ、もしもし……」


「ぺらぺ〜らぺらぺら」


 修真はとんでもない英語の襲来を受ける。


(え、今、なんて言った!?)


 当然驚いたが、しかし今まで学んできた全てをつぎ込んで答える。伊達だてに教育は受けていない。

 修真の本気の英語は、


「ハロー。マイネームイズ修真片桐。プリーズ、千歳ちとせオッケー?」


 かなり残念な感じだった。

 このありえない発音と文法の英語ではあるが、意外にも通じたようで受話器の向こうから、オ〜イエ〜と帰ってきた。

 と思ったら。


「なぁ〜んてねっ、うそよ修ちゃん。そんなのじゃ通用しないよ?」


「あ、母さんだったの?」


 それは舌足らずな母の声だった。

 母千歳は受話器の向こう側でくすくす笑うと、おかしそうに喋り始める。


「私に電話してきたんでしょ〜? 修ちゃんから電話してくれるなんて嬉しいなぁ。元気にしてる?」


「うん、久しぶり。元気でやってるよ」


 そう、と遠い異国の地で微笑む母。修真もしばらくぶりに聞いた母の声にちょっぴり切ない気分になった。

 するといきなり、


「それで、どうしたの? お母さんの声が聞きたくなったの!? お母さんも修ちゃんの声が聞きたかったよ!! 愛してる!!」


 という熱烈な愛の言葉をいきなりばらまいた。

 ごくスタンダードな家庭ではまず聞かないこの言葉だが、修真は特に動揺することもなく、


「あのさ、頼みごとがあるんだけど……良い?」


 なかばスルーするような形で話を切り出す。


「いいよ! なんでも言っちゃって!」


「話すと長くなるんだけどさ……」


 修真はいったんそこで言葉をとぎった。あいつのことを話すべきか、話さぬべきか。あの親父の事を。

 脳裏に浮かぶ父の顔。にんまりとこちらを見て嘲笑っている。 

 ――いや、やめておこう。

 そんな奴は片桐家には存在しない、と記憶から抹消まっしょうすることにした。


「理由は上手く説明できないんだけどさ、良いかな?」


「うんうん! 早く早く!」


 母に急かされて、修真はそれはもうとんでもない嘘を吐き始めた。父親やマキ達のことは伏せて、マンションを追い出されたことは急に壁が爆発したということにしておいた(実際それに近いわけだが)。


「というわけで、二百万くらい必要なんだ。送ってもらえないかな?」


 はは、と苦笑じみた笑いで言う。それしか方法が見当たらなかったのだ。どうやってこの状況を説明すればいいのか、皆目見当がつかない。

 しかし、母から返って来たのはまさかの返答。


「うん。いいよ!」


「ぇええええ!! 良いの!?」


 こればっかりはさすがに却下されるだろうと思って切り出した話だったのだが、母は意外にも快諾かいだく


「だって可愛い修ちゃんの頼みだもん。断る理由なんてないよぉ〜。あ、それと……」


 妙に舌ったらずな特徴的な声が、続けて現在の住居について尋ねる。


「今はどうしてるの? もしかして家が無いの? 野宿なの!?」


 尋ねるたびに感極まって涙声になっていく千歳。

 修真は若干ひいていながら答えた。


「いや、うん。それが、まだ見つかってなくってさ……。敷金礼金も払えないし、保証人とかも……」


 母の声がぐっと感情の色を帯びた。


「わかった! 今すぐ行くから待ってて!」


「いいッ!?」


 修真は目を見開いた。

 どうしてもそれだけは避けなければ。

 その一心で、母の英断をお断りする。


「来なくていいよ!! ほんと、全然大丈夫だから。ノープロブレム!」


 すると、千歳は少しばかり切なげな声になる。


「え、でも……」


「ほんっとに、大丈夫だから! 仕事もあるでしょ!?」


 むぅ、と残念そうに小さな声が受話器から漏れた。

 ほっと胸を撫で下ろす。

 しかし千歳は今、息子の為に何ができるのかを必死で考えていた。そしてあることをひらめくことになる。


「わかった。お母さんに任して! かっわいい〜私の修ちゃんのために、一肌脱いじゃうっ」


「え、あ、うん、ありがとう」


 恐らく向こうで軽いとステップとか踏んでるんだろうなと思いつつ、この意味不明に高いテンションに虚脱感に襲われる修真。


(助かった……)


 だが、内心は母が帰国を断念したことに喜んでいた。

 この千歳という人物は、修真にとってはかなり危険な存在だった。こういった相談をすると、さっきの調子ですぐに帰ってくるのだ(本人は修真に会いたいだけ)。

 帰ってきたらきたで、信じられない勢いで修真を振り回すという母。

 修真としては、なるべく、とっても、できるだけ帰ってきて欲しくない存在。別に嫌いなわけではないが、特に今の状況はマキ達が居るので尚更だった。

 うーんと考えていた母は、舌足らずな声で言う。


「みーにゃんがおっきい家に住んでるって言ってたっけ」


「み、みーにゃん?」


 30代後半、しかも1児の母とは思えないネーミングセンスも千歳の特徴だ。以前には、修真に『修にゃん』という恥ずかしい愛称をつけようとした過去がある。


「うん。お母さんのお友達。こっちに来てからも連絡とってるんだけどね、大学時代からの同級生なの。ちょっと変わってるけどとっても良い人で、私はみーにゃんって呼んでてぺらぺーらぺら――」


 しかも、放っておくとやたら喋りまくる。

 修真はこれ以上は聞いていられないと、


「それで、みーにゃんったら教授のカツラを――」


「住所はどこ!?」


 と、怒涛どとうのトークをさえぎった。

 千歳は記憶の片隅からみーにゃんとの会話を思い出す。


「たしか、マンションよりも東の方だったような……」


「ざっくりしすぎだよ母さん」


「うっそに決まってるじゃあん。今から言うから、メモ取れる?」


「うん。……あ、結構近いんだね」


 電話機の上で、ポケットに偶然入っていたレシートに走り書きでメモを取る。舌ったらずな声はさらに嬉しい条件を提示した。


「え、連絡取ってくれるの?」


「うん。明日のお昼くらいで良いよね? じゃあ、12時にそこに行ってね」


「わかった。行ってみるよ!」


 急に生気を帯びた修真の声。受話器の向こう側では、穏やかに微笑む声が聞こえてくる。

 と、思いきや。


「それで、さっきの続きなんだけどね。実はその教授はぺらぺらぺーらぺら」


「お金、もう無くなりそうだから! じゃあまたね!」


 別れの言葉も聞かぬまま、すぐさま受話器を置いた。

 夜の駅で立ち尽くす修真は大きな溜息を吐いた。


「はぁ……」


 ということがあったのだ。



「どうして国際電話なんか? 外国に知り合いが居るんですか?」


 さっきから長く沈黙していた修真にマキが尋ねた。


「ん、まぁな」


「へぇ、修様って意外とインターナショナルなんですね」


「とりあえず、インターナショナルの使い方間違ってるよ」


 そこで、修真ははっとした。

 あっれ?

 そういえば似てるような。

 ちらりとマキを見る。


(こいつの性格って……)


 じっと見ていると、マキのほほがぽっと朱に染まった。


「そ、そんなに私のことを見詰めないで下さい。……照れちゃいます」


 手で顔を覆って首を横に振っている。

 修真は冷めた表情で訊いた。


「お前さ、何でそんな性格なの?」


「へ?」


 急にざっくばらんな質問をされたマキはきょとんとしている。

 それもそうか、と問い直した。


「どうしてそんな性格なのかなって思って。ほら、お前って一応、なんていうか、その、あれだろ?」


 兵器。という言葉は使わず、なんとか伝えようとしてみる。

 マキは兵器。それはマキ自身が言っていたし、いままでの経験から理解はしている。しかし、兵器に性格があるなんておかしな話だと思ったのだ。

 マキは質問の意図を理解すると、ぴっと人差し指を立てて言った。


「あ〜、それはですね。修様が一番身近に感じる、というより親近感が沸く女性を元にしたからです」


「は?」


 マキは腕を組んで、


「やっぱり、男の人は心のどこかで母を求めるものなんですね」


 感心したようにうんうん頷いた。


「えっとぉ……」


 言っていることはなんとなく分かったが、やはり疑問を感じずにいられなかった。修真の解釈の仕方が正しいならば、大変なことになってしまう。

 まさかね、と否定しつつ再び訊いた。


「ごめん。もう一回、分かりやすく教えてくんない?」


「だからですね。オペレーティングシステムと戦闘子機を兼ねている゛この私″が、装備者である修様と意志の疎通を……要するに早く打ち解けられるよう、深層心理で求めている女性像を形にしたのが私の姿であり、性格なのです」


 修真は頭を抱えた。嫌な予感が当たってしまったのだ。


「うーわ、すっげぇ嫌なこと聞いちゃった」


 こいつが俺の理想型かよ!

 俺の深層心理はぶっ壊れてんのか!?

 がっくりと肩を落とした修真に、マキは声のトーンを下げて神妙な面持ちで続ける。


「ここから分かることは、私の姿が修様の性癖をばっちり反映された形をしているということ――」


「……せ、性癖ぃ!?」


 素っ頓狂な声を上げた。

 がくがく震えだした彼を見て、


「ほら」


 マキは長い黒髪をあでやかに払った。ふわりと軽く広がる髪。シャンプーの香りが鼻をくすぐる。


「この髪も」


 唖然として見ている修真。

 すると、今度はおもむろに両胸に手を当てた。すこし持ち上げる。やわらかなそれが、たわんだ。


「修様が最近大きいのが好きになったのに比例して、大きくなりはじめた胸も」


 そう言って、シャツのすそをめくりあげた。流麗りゅうれいな曲線と白い肌とへそがあらわになる。


「ほっそりとしたくびれウエストも」


 なんとも扇情的な光景に、顔が赤らみだす。

 マキはなおも続ける。シャツを直すと、今度はくるっと半回転して腰に手を当てて見せた。


「きゅっとあがったヒップも」


 またもや半回転。次はスカートをすこしだけめくった。絹のようになめらかな肌、その足がふとももまで露出する。


「細い足のくせにむっちりした太ももは、修様の好みが盛りだくさんなのです」


 ぱっとスカートから手を放し、えっへんと胸を張って誇らしげに言った。


「……う」


 改めて見てみると確かに、確かに嫌いではなかった。むしろ好きだった。

 いやいや! そんな目で見てはダメだ!

 何かを払うように首をぶんぶん振ると、修真はぱっと顔を背ける。


「は、はやくしまえよ。は、はしたないぞ」


 しかし、マキには計算済み。どこか妖艶ようえんに口の端をあげると、


「そしてこの積極的な性格も」


 ゆっくりと、修真に覆い被さるように倒れ込んだ。

 久々の大接近。


「……え、あ」


 体も密着するかしないかというところ。

 普段は冷静な修真でも、さすがにこの状況は冷静ではいられなかった。女の子の体が至近距離、吐息が感じられるほど近くに存在しているのだ。

 ごくりとつばを飲んだ。


「あ、あの……マキちゃん?」


 女の子の香りが鼻をくすぐる。理性という防御が音を立てて崩れていく。

 同時に、


(これが、大人の階段なのか!? いやしかし!)


 まさかの展開に狼狽ろうばいの色が隠せずにいた。

 マキはやけに色っぽい動作でブラウスのボタンを一つ外す。


「……ほら、あのメス魚にだって負けてませんよ?」


 言われて、自然と視線がそこに向く。

 谷間。


(……バカな!?)


 弾力性がありそうな谷が存在しているではないか。今までは気付かなかったが、出会った時よりも成長していらっしゃる。なんというか、良い感じに……。


(え、なにこれ。もしかして、そういう……)


 修真の脳裏でちょっぴり過激な妄想ワールドが展開されていく。

 そこまで把握していながら、マキは誘惑を続ける。


「私は、身も心も、修様の物なんですよ?」


「えっと……いや、冗談が笑え、ない……」


 思考が回らず、目を白黒させている。

 その煮え切らない態度に、むっと眉を寄せた。


「しゅうさまぁ〜、女の子に恥をかかせるつもりですかぁ〜?」


「どうして、こんな……」


 途切れ途切れで尋ねる。

 すると突然、恥らうような仕草を取り出した。


「だって、修様ったら最近は全然女の子として見てくれないし、かまっってくれないから、何かきっかけがあればと思って……」


 言いながら体を近づける。

 密着する。加速していく二人の鼓動こどう


「そ、そう……なんだ」


「私、立派な女の子でしょ?」


 長い髪が修真の首筋をさらりと撫でる。

 ぞくり。


「ひっ!」


 気色の悪いような良いような、良く分からない感覚に体が勝手に反応した。

 いいのか俺!?

 大丈夫なのかこんなこと!

 マキの方はぺったりと修真の胸にほほを寄せた。


「修様、あったかいです……」


 完全に陶酔とうすいしきってしまい、甘えるように、触れている温もりを噛み締めるかのように小さく呟いた。

 完全に逃げ場を失った修真は、恐怖と興奮からがっちりと目をつむる。


(いやいや良く考えろ、相手はマキだぞ!? つーかこんなのコメディーじゃねぇ! あ、でも、でも!)


 なんだか柔らかく温かい感覚が、


(なんか柔らけーよちきしょぉおおお!!)


 再び立ち上がろうとした理性を粉々に粉砕していく。

 のしかかったままのマキは、甘ったるい声をだした。


「ずっとこんな体勢じゃ疲れちゃいますよぉ」


 その言葉が何を意味するのか、

 彼女が何をしようとしているのか、

 自分はどうなってしまうのか、


(俺はどうすりゃいいんだ―――――!!)


 修真にはさっぱり考えることができなかった。

 そこで、


「ういっぐし!!」


 丸まった毛布からポチのくしゃみが漏れた。修真ははっと我に帰る。

 俺は何を考えているんだ!

 誘われたとはいえ、そんなことを考えてしまった自分に驚きながら、


「やめろおおおおう!!」


 マキの体を突っぱねた。


「きゃんっ」


 ひっくり返って尻餅をつくマキ。

 修真は頭を抱えて転げ回る。


「うおおおおおお!! 俺のバカ! 俺のバカー!!」


 どごんどごんと額を地面に打ち付け、果ては自分の顔を本気で殴り始める始末。

 その姿を見て、マキはちぇーっと残念そうに口を尖らせた。依然として、つやっぽく言う。


「もー、嫌じゃないくせにぃ」


「うるせえっ!」


 顔を上げた修真は言うまでもなく血塗れ。額が割れてぴゅーっと血が飛び出している。

 マキはいたずらっぽく笑うと、ニヤニヤしながら喋りだした。


「知ってるんですよ〜? 私と生活し始めてから、悶々とした眠れない夜を過ごしていることを――」


「夜は疲れてぐっすりだっての! 人を勝手に欲求不満にするな!」


 そう言われて肩をすくめる。はん、とアメリカンなオーバーリアクションを取って、


「ま、そうですよね。子供の目の前ではさすがに……」


 意味深な目つきで修真の向こう側を見た。


「子供?」


 気になって振り返ると、


「……あの」


 二つの毛布から顔だけ出してこちらを凝視ぎょうししている天使二名様。二人とも顔がほんのり桜色になって、はぁはぁと息づいている。


「……もしかして見てた?」


 目がぎんぎんになっているポチが興奮気味に言った。


「きっ、気にしないで続けて。見てないから」


 ミュランダはポチの毛布にすりよりながら、


「ね、ねぇ、お姉ちゃん、この後どうなるの? きすするの!?」


 そう尋ねる。

 ぼっと赤くなったポチは、ミュランダの上からぼふっと毛布と共に覆い被さった。


「子供は見ちゃダメ!」


 下でじたばた暴れるミュランダ。


「どうして!? パパとママがどうなるか見たいよ!」


 子供の好奇心はすさまじい。しかし見せるわけにはいかないポチ。ミュランダにはまだ早い。


「ダメったらダメ!」


 暴れる体を上から体重でもって押さえつけた。


「うぎゅう」


 ミュランダはくぐもったうめき声を漏らし、べしゃりと潰れた。それを確認して、ポチは手の平をひらりと差し出して言う。


「さ、続きをどうぞ」


「続きなんかねぇよ!」


「え? でも今ママとそういう……」


 静かなる傍観者ぼうかんしゃに修真が両手を振って弁解した。


「違うよ! 違うからね! そんなことしようなんて思ってないから! って、ポチちゃん聞いてる!?」


 ポチは両耳に手を当てて、目を閉じている。


「あぁ〜〜〜〜。何も聞いてないし見ていないぃ〜〜〜〜」


「ポチ様ああああッ!!」


 崩れ落ちた修真。

 みだれた服を直したマキがすっと立ち上がった。腰に両手を当てて、ほほをぷっくりふくらませると、さも怒っているんだぞという口調で言う。


「何で嘘なんかつくんですかーっ」 


 たとえぶりっこしようが修真はそれどころではない。沽券こけんがかかっているのだ。


「はあ!? お前ちょっと黙ってろよ!」


「っな! 普通はここで『あ、こいつ可愛いな……』って思うんですよっ!」


「どっか行け! そして消え去れ!」


 びしり。マキの額に青筋が浮かび上がった。

 ――そんなにないがしろにすることないのに!


「……そうですか。あーそうですか。よぉ〜くわかりました。そんなこと言うなら、こっちにも考えがあります」


 おどろおどろしい声に、修真は少しひるんで、じりっと一歩さがる。


「な、なんだよ」


 この時、修真は怒らせてはいけない人を怒らせてしまっていたことにまだ気付いてはいなかった。

 ふるふる震えたマキはぎゅっと拳を握り締め、


「しようと思ってたくせに!! 私でいやらしい妄想したくせにいいいいっ!!」


 全てを暴露ばくろ


「てめぇえええ!! あの訳のわかんねぇスイッチ入れただろ!!」


 狂乱した修真が吠える。吠えてから、それがどういう意味を持つのか理解した。

 まてよ。

 ということは。


(アレを見られた……のか!?)


 恐怖に戦慄する修真。よりにもよってマキにあのちょっぴり過激な妄想ワールドがつつぬけだったのだ。これほど恥ずかしいことはない。

 当のマキは冷めた表情。疑わしい目つきでこちらを見ている。

 ぽつりと真顔で言った。


「っていうか、あんなことを私にさせたいんですか?」


「え」


 ぴきーんと修真が固まった。頭の中が真っ白。

 マキは手をもじもじさせながら、


「修様って、その、ドスケベですね……」


 驚愕の一言を言ってのけた。


「うわっ!」


 どちらからともなく嫌悪感がこめられた声を出すミュランダとポチ。

 ――終わった。

 修真の体が灰になって消えていく。さらさらと、風に乗って天に召されていく。

 ミュランダとポチは被害者に寄り添う善良な一般市民のように、マキの服を掴んだ。


「何されたの!?」


「されたの!?」


 そんな二人に、ちょっと腰をかがめて耳打ちをする。


「えっとですね、ごにょごにょ……」


「――にょッ!!」


 同じタイミングで目を見開いて、ゆでだこのように真っ赤になった。驚愕の眼差しで修真を見詰めている。


「……」


 見詰めている。

 少女の純粋な眼差しが。

 じっと、こちらを。

 言われてしまったのか?

 あれを。

 修真の顔が絶望に染まっていく。


「いやいやいやああああああ!!」


 途端に絶叫した。耐え切れなくなった修真は狂ったように叫んで、首を横に振り乱して走り出した。

 そのまま増水した川に駆けていって、


「ああああああ――!!」


 どぼーん、

 悲鳴と共に飛び込んだ。

 吹き上がる水しぶき。


「うわあああ!! 俺、おっぷ、泳げな、たすけ――」


 早い流れに乗って、どんどこ流されていく。


「パパ、どうか安らかに」


 瞳に涙を浮かべたミュランダが、小さい手を胸の前で組み合わせて冥福を祈った。

 一方ポチは、


「さよなら。元気で」


 船で旅立つ恋人を見送るかのように、白いハンカチを左右に振っている。

 悲鳴をあげて流されていく修真が見えなくなっていく。


「冗談のつもりだったんですけどね……」


 マキがやりすぎちゃったかな、という苦笑でぽつりと呟いたのだった。



 は。

 は。

 はぁ。


「ぶぇっぐし!!」


 昼間の橋の下に、大きな声が響き渡った。

 ずずっと鼻をすする。


「あのさ、今日はちょっと出かけるから準備しとけよ」


 泥臭い川の水をぽたぽた滴らせている修真が言った。

 あれから二十分近く流されてようやく戻って来たところで、今はガスコンロの火に当たっている。


「え? どこ行くの?」


 反対側で火に当たっているミュランダが訊いた。

 修真はがちがちと寒さに震えながら、昨日の母との会話を思い出す。


「ああ、なんか住めるかもしれない家があるらしくて。あと三十分もしたら行こうと思ってる、へっぶし!」


「うわぁっ」


 くしゃみをあわててよけるミュランダ。どすんとしりもちをついて、抗議の声をあげる。


「鼻水飛ばすなあっ!」


 しかしそれもむなしく、はっはっと妙な呼吸の修真。


「し、仕方ないだ、悪気は……へっぶし!」


「うわっ、こっち向くなー! バイ菌がいっぱい飛ぶんだぞ。あっちいけー!」


「うるせえ! お前にウィルス飛ばしてやる〜。わっははは〜」


「うきゃ〜〜」


 楽しげに逃げるミュランダを追い掛け回す修真。

 ポチは本を片手に、静かにコーヒーを飲んでいて、マキは昨日のようなことが起こらないように荷車を整理している。


「おらおら〜、ぶぇっぐし!」


 くしゃみをしながらポチの回りをぐるぐる走り回る。迷惑そうに顔をしかめるポチにはお構いなしである。


「来ぅ〜るぅ〜なぁ〜っ!」


「お前をウィルスまみれにしてやるぅ〜」


「いーや! あっちいけこの――」


 最後まで言わぬまま、逃げていたミュランダがぴたりと立ち止まった。修真も追いかけるのもやめて止まる。


「ん?」


 急に静かになったなと不思議に思ってポチが見上げると、ミュランダがくしゃみ寸前のぶさいくな顔になっている。

 ふ。

 ふ。

 ふぇ。


「えぐち!!」


「江口?」


 怪訝そうにポチが言って、修真が腹を抱えて笑い出した。


「あっははは! お前変なくしゃみだなぁ〜!」


「わ、笑うなバカー! もう怒ったんだからっ」


 と憤慨ふんがいして、今度は逆になってミュランダが修真を追いかけ始める。

 何週も、

 何週も、

 あきずにポチの周りを回りつづける。

 ぱさり。

 ポチの手から本が落ちた。がっくりと地面に這いつくばる。


「え、おい、どうかしたのか?」


 修真が足を止めて尋ねると、ゆっくりとポチが顔を上げた。


「ポチ?」


 メガネの奥の目が細められ、顔色が顔面蒼白という表現がぴったりになってしまっている。

 次いで口に手を当ててうっぷとえづき始めた。


「……酔った」


 どうやら修真達が回りすぎて酔ったらしい。


「うわっ、ごめん! ちょっと、あっちに行こ――」


 ポチの肩に手を置いたところで、


「どりゃーーー!!」


 どっかーん。


「うげっ」


 走ってきたミュランダが渾身こんしんのドロップキックを修真の背中に叩き込んだ。

 ごろごろと転がっていって、仰向けに倒れる修真。


「へっへーん」


 勝ち誇った表情のミュランダが、どすんと修真の腹に馬乗りになった。

 しかし修真も負けてはいない。


「てっめえぇっ!」


 そのままの体勢で力任せにぐるんと横に回転して、


「ひゃ!」


 見事にミュランダが下になった。

 ミュランダはあっというまに形勢を逆転されてしまって、訳が分からないという様子で目をぱちくりさせている。

 修真はその顔を見下ろし、不気味な笑みを浮かべると手の骨をばきぼき鳴らす。


「おしおきだな」


「ひぃっ」


 ミュランダの顔がひきつった。

 修真の手がわきわきしながらその脇腹に近づいていく。

 次の瞬間。


「あっひゃひゃひゃ! 息が! くすぐったあひゃひゃ!!」


 手が脇腹をこちょこちょとくすぐり始めると、ミュランダは狂ったように笑い始めた。手足をじたばたさせて、凄い力で暴れている。


「どうだ〜? 苦しいか〜?」


 と、修真がしてやったりという顔で勝ち誇っている、

 その少し横。


「おぅえぇっ」


 ポチはまだ気持ち悪そうにえづいていた。



 積荷の整理に一段落つけたマキがふぅと汗をぬぐった。ふと修真達を見やると、なにやらおかしなことになっている。

 ぐったりとしているポチ。

 くすぐっている修真。

 笑いが止まらないミュランダ。

 なんとなく遊んでいてこうなったのは分かった。というより、今も遊んでいるみたいだ。こうして仲良く遊んでいる所を見ると、本当に親子のように見えてくる。

 マキはくすりと笑った。

 なんとなく楽しい気分。

 ふと、先ほどの話を思い出し、遊んでいる修真ににこやかに訪ねた。


「修様、さっきの話ですけど、ちょっと良いですか?」


「え? さっきの話って?」


 くすぐっている修真がふり向く。その真下ではミュランダが笑い泣きしながらひーひー言っている。


「ほら、なんか住めるかもしれないって言ってたじゃないですか」


 言われて思い当たると、くすぐるのをやめてぽんと手を叩いた。


「あー、あれね! いや、まだ部屋代がどうのこうのっていう話はしてないんだけどさぁ、住めるって決まったわけじゃなくってさ」


「そうなんですかぁ」


 話し始めたその隙をついて、


「てりゃっ!!」


「うぶっ」


 どむっとミュランダの拳が修真のみぞおちにクリティカルヒット。苦しんで倒れたのをチャンスとばかりに、その場から逃げてマキの腕にしがみついた。

 マキは、はははと苦笑している。


「ううっ、くそ、油断した……」


 うめき声を出す修真。

 ミュランダはマキの影から顔を出して、


「こちょぐるのひきょーだぞっ」


 目尻に涙を残しながら吐き捨てた。

 マキはミュランダを撫でながらん〜と考える。


「これからどうしましょうねぇ」


 何事も無かったように起き上がってあぐらを掻いた修真が、手を頭の後ろに組んでめんどくさそうに言った。


「ま、行くだけ行ってみようよ。どうなるか分かんないけどさ」


 その言葉にええと頷く。


「そうですよね。ここで遊んでいても始まりませんし、何もしないよりマシですよね」


「おう。なんとか家ぐらいは確保しないとな」


 ぐっと拳を握る。

 だがその時、未だに気分が悪そうなポチが抑揚よくようの無い声で呟いた。


「……べ、別に家なんて無くても、魔界に住めば生きていける」


 急に修真が不機嫌な表情になった。ポチの背中をさすりながら言う。


「っていうけどな、学校とかどうすんだよ。つーか毎朝あの腹立つゲートに会わなきゃいけないのが嫌だ。絶対に嫌。生理的に無理。あいつの存在自体、意味が分からん」


 ことごとく嫌悪感を丸出しにする。ゲートとは何故かそりが合わないのだ。

 別に気にすること無いのに、とポチがやはり辛そうに言って、さらに付け加えて利便性を語る。


「い、今だったら向こうの一日はこっちで三時間だから、つ、次の学校の時まで八日間もあってお得。や、家賃も必要ない」


「え」


 ポチ以外の三人は、どうして今まで気付かなかったんだ、とばかりの表情で顔を見合わせた。

 それぞれが声を震わせながら言った。


「ってことは、すごく時間ができるってことですよね……」


「たくさん遊べるし……」


「勉強もできるわけで……」


 素晴らしいメリットにようやく気付いた彼らに、ポチが首を小さく傾げて、


「ね?」


 大分よくなった顔色で静かに呟いた。

 修真がいきり立ってガッツポーズをとった。


「よし、そうしよう。いや、そうするしかない! 今日の話は断って魔界に移住!」


 ミュランダも続く。


「いえー!」


 ただ、マキは二人に反して比較的乗り気ではなかった。険しく眉をひそめると、真面目な口調で言った。


「それって、早く生きるってことじゃないですか?」


 しかし修真とミュランダは、訳がわからず首を捻る。


「どういうこと?」


「例えば、嘉奈さんがこちらで一日過ごしたら、修様は魔界で八日生きたというこですよね?」


 正座をした二人はマキの講釈を理解してうんうん頷く。

 理解しているらしいことを確認しつつ、更に話を進める。


「ということは、修様は八倍のスピードで年を取っているということです。数日程度では問題無いかもしれませんが、一年と考えるとその差は……」


「あ」


 歴然だった。

 がっくりとうなだれる修真。

 良く考えれば分かりそうなことだった。一日が八日ならば、一年で八年。魔界で一年過ごして帰ってきても、こちらではおよそ四十五日しか経っていないのだ。


「修様だけ驚異の速度で年をとっていくわけです。みなさんがまだ若いのに、一人だけおっさんなんて嫌ですよね?」


「嫌です。怖すぎます」


 やっぱりそんなに都合よくいかないか、と一気にテンションが真っ逆さまに落ちていく。しかし、そこで異論を唱えたのはポチだった。


「魔界に永住すれば問題無い。二つの時間で生きようとするから無理が生じる。どちらかに決めればいい」


 そう言われるまで修真は、どちらか片方を選ぶなんて考えたことも無かった。

 ポチは続ける。


「どちらを選ぶかは自由。人間界に住む権利もあれば、魔界に住む権利だってある。魔王だから」


 黙って聞いていた修真は神妙な面持ちでポチに尋ねた。


「例えば、例えばだけど……。もし、魔界を選んだらこっちにはもう戻ってこられないってことか?」


 問いに対してポチは首を横に振って答えた。


「そうじゃない。戻ろうと思えば好きな時に戻ってこれる。でもこっちの時間で生きている人間と同じ時間を過ごすのは不可能。逆でも同じこと」


 どちら共と一緒は不可能。人間界を選べば、魔界が八倍の速度で進んで行く。魔界を選べば、人間界の時間から取り残される。ポチの言っていることはそういう事だった。

 修真は溜息混じりに呟いた。


「そうか……。時間の違いってめんどくさいな」


「そう。めんどくさい。こっちでは魔界にはもう何日も行ってないという気分だけど、むこうではもう何十日も魔王は帰ってこないという感覚。世界をたがえるということはそういうこと」


 めずらしく饒舌じょうぜつになったポチは、そこまで言って沈黙した。

 改めて世界の違いというものを感じる修真。

 魔界で生きるのか、それとも人間界で生きるのか。

 どちらも選べなかった。


「だー! もうこの話は終わり! こんな難しい話してたら左脳が爆発するわ!」


 ぐしゃぐしゃと頭を掻いた修真が倒れたのを見て、マキがぱんと手を合わせた。


「さぁ、おでかけしましょう!」


「え? あ、そうだな。うん。でかけよう!」


 修真が跳ね起きたのを見て、柔らかく微笑む。そのまま「ん〜」と何かを探すような素振りを見せて、ミュランダを目に留めた。


「ミュラちゃん。せっかくですし、少しおめかしして行きましょうか?」


「うん! 髪の毛結んで!」


 るんるんとはしゃぎながらマキに髪の毛を結ってもらうミュランダ。マキはさらさらの髪をくしですきながら、二つ結びにしましょうか〜と髪の毛を手で持ってみる。


「どうですか? ツインテールです」


 髪の両側をマキに持ってもらったまま、ミュランダは修真に尋ねた。


「パパ、どう? あたし可愛い?」


 修真は何の気なく言う。


「ん、良いんじゃない? ツインテール」 


 ミュランダは嬉しそうに目を細めると、嬉々として言った。


「ツインテールって響きがなんかカッコイイね! 二回攻撃できそう!」


 そこで、はっと何かに気付くマキ。

 はちみつ色の髪がふわりとたれた。


「修様! こっち見て!」


「……えっと」


 マキは自分の髪を頭の両側で掴んでツインテールにしていた。

 半目になる修真。


「なにしてんすか?」


 ミュランダを真似して問う。


「修様、どう? あたし可愛い?」


 じっと見詰めてみる。だらしなくだらりと伸びた髪。

 修真には、


「なんかバカそうに見える」


 そう見えていた。

 がーんとショックを受けるマキ。わざとらしく両手にを目に当ててしくしくと泣き始めた。


「うぐっ……ぐす……ひどい……。さっきは妄想の中であんなことさせたくせに……」


「うわあああああああ!!」


 絶叫を上げてまたもや川に走っていく修真。

 そして、

 どぼーん。


「あ、また飛び込んだね」


 高く上がった水しぶきが川へ戻っていく。その頃には修真の姿は水に呑まれて消えていた。

 助けてくれぇ〜〜〜。

 そんな悲鳴を背に受けながら、けろっとした様子のマキはポチの髪も結び始める。


「さぁ、ポチちゃんも結びましょうね〜」


 髪の毛をいじられながら、ふぅと溜息をつくポチ。


「……ほんっと、話が進まない」


 くいっとずり落ちたメガネを直す。

 橋の下から見上げた空は、気持ちの良い青さ。

 三人が居る場所をさぁっと爽やかな風が吹き抜ける。


「えぐち!」


「変なくしゃみ」


 そろそろ夏が訪れる。

 そんな予感を感じさせるような清澄せいちょうな空気だった。


 はい。というわけで24話でした。読んでくださってありがとうございます。ほのぼのしながら少しでも笑って頂けたら光栄です。

 話は変わって私こと定休日が連日更新を果たしました。まぁ、間違いなく奇跡です。ずっとこんなハイペースで書き続ける事ができたら良いんですが、正直に言うと無理です。死にます。

 一日ニ千文字、よくて五千文字、最高一万文字しか書けない遅筆っぷりですので、本当にすいません。ご迷惑おかけしております。

 はい。どうでもいいですね。

 次の話はわりと早く更新できそうです。全体的にほぼ完成しているので、後もう少し書いて見直すだけですからあまりお待たせすることも無いと思います。

 ただ、見直しが一番時間がかかるんですけど……。

 いやね、もともと文を読むタイプの人間じゃないんで、読むと眠くなるんですよ。いつも五行目くらいから睡魔が……

 すいません。寝ずにがんばります。 


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