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第19話、早く人間界に帰りたい

前回までのあらすじ。

魔界に行った修真は、UFOと出くわし、連れ去られてしまう。もうどうしていいか分からない修真。

そこに、彼を救うべく救世主が現れました。

そう、魔界のみんなが、銀河の勇者を呼んでくれたのです。

銀河の勇者。彼の名は、ブルドーザー橋本。


はい。嘘です。

魔界。それは、幾つも存在するこの世の裏側の世界。そんな中の一つ、片桐魔界。星の殆どが水に覆われた、言わば水の星である。

そんな魔界を最強強化硝子さいきょうきょうかがらす越しに見る女。

ふっと、口の端を上げて、笑みを漏らす。

これはチャンスだ。我が部下(多分優秀)に任せておけば、その土地の魔王と婚約を果たし、その土地を奪えるというもの。我等水に住む魔の者は例外なく容姿が美形なのだ。魅了できない男など居はしない。

――思えば、今まで数々の苦労があった。

数年前、我が魔界が謎の軍勢に襲われた。応戦するが、惨敗。そして、この旗艦ワダツミに民を乗せ、我が魔界を手放した。

そして、魔界協和連合に助けられ、優れた機械技術を買われて一国としてそれなりの席についた。だが、それも見てくれだけの物だった。毎日毎日部下をこき使われ、技術者も過労で倒れるまで働かされた。

だが、それも今日まで。あの、我が魔界に似た水の魔界を手にする事が出来たならば、平穏を取り戻す事が出来る。民も、もう苦しむ必要はない。

――頼むぞ、エルナ!

期待の眼差しで、ジャイアントモニターに映し出された片桐魔界を見詰める。青髪の美しい女性。服装や装飾品で、高貴な身分であることがわかる。

その背後から、秘書っぽい人が声をかけた。


「あの〜、アルテミナ様。潮塞からの連絡で、『魔王と婚約して魔界半分貰ったよ作戦』が失敗するっぽいです」


「ホワッツ?」


秘書っぽい人(仮)は、眼鏡を人差し指で、くいっと上げる。


「いや、英語になる意味が分かりませんけど。とにかく、失敗するっぽいです」


「……パードゥン?」


「だから、失敗です」


そんな馬鹿なと思い、突然笑い始めるアルテミナ。秘書っぽい人(仮、名前募集)も、ふふふと笑い返す。


「マジで?」


「いたくマジですよ」


笑顔のアルテミナの額に、薄っすらと青筋が浮かび上がる。そして、何かがアルテミナの中で、音を立てて崩れ落ちていった。それはまるで、芋虫がさなぎへと姿を変え、蝶になるように、希望という物が、絶望へ、更に無茶へと変化していった。


「…アホエルナぁぁぁぁぁぁあ!!こうなったらアレだ!魔界占領する!」


こうして、旗艦ワダツミが修真の魔界に向かって発進した。

それはもう、びっくりするぐらいのスピードで。



そんな事とは露知らず、エルナとマキの意味不明な戦いは続いていた。

因みに、あのエルナとこのエルナは全くの別人です。実際のエルナやそれっぽい団体とは何の関係もありません。

話は戻って、いつの間にか水着から着替え、砂浜で睨み合うエルナとマキ。

しかし、彼女等を取り巻く風景は閑散としていた。事の発端である修真と、ポチが何処にもいない。

それでも、無情な戦いに集中している彼女等は、一切気付かないのである。

何故なら、乙女だから。


「魚の癖にやりますね!」


そう言って、不敵な笑みでエルナを見据えるマキ。


「あなたもですわ!」


エルナもエルナで、マキを睨み付ける。

お互いに、スパーク寸前のオーラを、めらめらと燃え上がらせている。

そんな二人の闘志を煽るように、解説席からミュランダの声が響く。


「はいはーい。第三回戦!お姉ちゃんが司会飽きたって言ったから、私がやるよー!という訳で、内容は…あれ?何だっけ?思い出せない…え?なになに?」


試合内容を、うっかり忘却の彼方へと消し去ってしまったミュランダに、係長が小さく耳打ちをする。


「叩いてかぶってジャンケンポンですよ。ミュランダさん」


あーなるほどと、思い出したようにぽんと手を叩くミュランダ。


「はい。三回戦ですが、多分、何かボコボコにして勝った方が勝ちでーす」


と、今思いついた、まさかの新ルール導入で、係長は動揺の色が隠せない。

しかし、どれほどバイオレンスな内容の戦いになろうとも引く訳にはいかない。何故なら乙女だから。

因みに、二回強調したのに特に意味はない。


「ふふッ。ぼこぼこですって。なんだか穏やかじゃありませんが、私は嫌いじゃありませんわ」


エルナは、鱗の生えた美しい羽を広げ、素手で構えた。


「その余裕も今の内。お前ごと、巨乳という文化を消し去ってやります!」


マキは、相手の只ならぬプレッシャーを感じ、ストールを取り出して構える。勿論、ちゃきっと峰を返している。

そして、ゴングが鳴り響き、二人は駆け出した。



一方、砂浜から忽然と姿を消した修真とポチは、ジャングルの奥地的雰囲気が溢れんばかりの所で特訓していた。

修真の悲鳴にも似た呻き声が聞こえる中、ポチは冷ややかに言い放つ。


「はい。あと八万回」


スパルタなポチの監視の元、腕立て伏せに勤しむ修真。その表情は苦痛に歪んでいる。

何故か、特訓と称して腕立て伏せをやらされているのである。


「ごッ、おぉぉぉお!!腕が!腕がぁぁぁあ!」


「だらしないわね。まだ、二百六十回じゃないの。あのねマスター、ここで特訓らしき事をしておかないと、とんでもなく辻褄が合わなくなるのよ。しっかりして頂戴」


「ふっざけんなぁぁぁあ!!こんなんで魔力が強くなるのかぁぁぁあ!?」


ポチの驚愕発言に突っ込むよりも、修真は、腕立て伏せ開始当初から抱き続けていた疑問をぶつけた。

ポチは胸を張って、自身満々に答える。


「なるわ!魔力とは、全てに在るモノなの!空気中にも、大気中にも存在しているわ!」


「空気中と大気中ってかわんねぇだろうがぁぁぁ!つーか腕立て関係ねぇ!」


そんな修真の異議を聞いて、はぁっと溜息を吐くポチ。


「じゃあ、魔法使って特訓しましょ」


「おー、それそれ!!そういうマジカルなの待ってた!!」


ようやく、魔法を使うとポチが判断したので、最初からそうしろよなんて無粋なことは言わない。

そして、ポチは腕を組んで修真をまじまじと見詰めてから言った。


「とりあえず、ファイヤーとか言ってみれば?」


「眉毛を引き千切るぞ」


さすがに眉毛を引き千切られてはかなわないので、ポチは話を真面目な路線に切り替える。


「じゃ、どういう魔法が使いたいの?」


面倒くさそうに言うポチに軽い殺意を覚えつつも、修真はどんな魔法が使ってみたいのか、至極真面目に考えた。


「なんかこう…。めっちゃ強いやつ」


うーんと考え込んだポチは、何かいい考えが浮かんだのか、面倒くさいといわんばかりだった表情を、急に明るくした。


「使用者の命を削って、自分へのダメージへ変える魔法とかどうかしら!」


しーんと沈黙が流れる。


「馬鹿ですか?」


「どうして?」


「何で命削って痛い思いしなきゃいけないの?どんなマゾスティック魔法だ。魔法のMって、そういう意味かこんちくしょう」


なんだよつまんねぇなと、体全身で表現しながら、ぶっきらぼうにポチは答える。


「じゃあ、とりあえず武器出して。話はそれからよ」


「あ、うん。ストールでいいよな」


そして、ストールを取り出そうとしたのだが――


「あれ?出てこない」


「そんな、馬鹿な」


「いや、ほんと」


二人は、首を傾げる。

そして、思い当たる節が一つ見当たった。

――マキだ!!

むしろ、それ以外の可能性を見つける方が難しい。

とにかく二人は、ストールを使用しなければならない状況下にあるらしいマキ達の身を案じて、砂浜に向かって走り始めた。ほぼジャングルに近い森を駆け抜ける。その途中、毒蛇っぽい大蛇を退け、でっかい蜘蛛を弾き飛ばし、何か色々あって、二人はようやく砂浜に出る。

そして、言葉を無くした。


「…」


「…」


その目に映った光景に半目になる二人。


「何が起きたらこうなるのかしら?」


そう言ったポチの意見ももっともで、マキとエルナがバイオレンスに戦っているのがどうでも良く見えてしまう程の、それはそれは異様な光景が広がっていた。

実も蓋も無い言い方をすれば、とんでもない要塞が空に浮かんでおられました。


「あ、アレか。疲れ目か」


「違うわ。きっと、ピントフリーズ現象よ」


「なるほど。グリンピース牧場な」


二人は、はははと笑いながら、目を擦る。

因みに、うおー!とか、どりゃー!などという怒号が砂浜に響き渡るが、今の二人には聞こえてはいない。なぜならば、現実逃避という妄想と願望が満載の、夢の世界に旅立っているからである。


「パパ!」


あはは、うふふ、と現実逃避をとても危険な領域まで発展させた二人に、ミュランダが必死の形相で駆け寄ってくる。


「あら、ミュランダ。いいところに来たわね。今から、モンティーヌさんのお店で、午後のティータイムに行くのよ。一緒に行きましょ?」


と、えらく楽しそうに、ポチは言った。ミュランダは気付いていた。ポチの目がどこか遠くの世界を見ている事に。


「モ、モンティーヌって誰!?」


今度は修真が、妙に落ち着いた渋いトーンの声で、ミュランダに話し掛けた。


「ミュランダ君、少し落ち着きたまえ」


多分、二人はお花が綺麗に咲いている所にいるんだろうなと、ミュランダは思った。


「そんな事より、今日は外食にしようじゃないか。こんなにお金があるのだから、何ラーメンでも食べて良いんだぞ?」


「パパ、現実逃避してても貧乏なんだね。私、悲しくなってきたよ」


ミュランダは、話の通じなくなってしまった二人に、言いようの無い悲しさを覚える。

――わたしが何とかしなくちゃ。

そして、小さな手で落ちていた流木をそっと手に取った。


「お姉ちゃん、正気に戻って!!」


そんな叫びと共に、振り上げた流木を、精一杯の心を込めて、全力で振り下ろした。

どごん、そんな思わず目を瞑ってしまうような、鈍い音。


「ぎょべッ」


修真は、そう言い残して、白い砂浜に沈んだ。


「あ、間違えた」


ミュランダは、目を丸くして、あわわと慌てるミュランダ。

その一部始終を傍らで傍観していたポチは、妹に心底恐怖し、正気に戻るという選択肢を選んだ。


「お墓…建てましょうか…」


ポチは、涙を堪えて言った。


「いてぇぇえ!!魔界に来るといつもこう!いつもたんこぶが出来る!!」


息を吹き返した修真は、激烈クールミントな痛みに、砂浜をのた打ち回った。


「パパ!生きてたの!?」


「生きてたの?じゃねぇ!何が、あ、間違えただ!どう考えても確信犯でしょうが!!」


修真に怒鳴られて、しゅんと小さくなるミュランダ。


「ご、ごめんなさい。女の子に暴力を振るのは、倫理とか道徳的に考えて、問題行為かと思って」


「知識ひけらかして斜に構えてんじゃねぇよ、この優等生が!!」


「ひぃぃぃぃッ」


それを見かねたポチは、修真をなだめる。


「マスター落ち着いて頂戴。今は、あのびっくり要塞をなんとかするっていう話でしょ?」


「む、そうだったな。ミュランダ。あれ、いつ来たの?」


「わかんないよ、気付いたら浮かんでたんだもん」


三人で、びっくりサイズの要塞を眺める。


「そもそも、敵なのかしら?」


「そうか、最初から敵だと思って見ていたのが、間違いだったかも――」


修真がそこまで言った時、魔界全体に響き渡るような、大きな声が轟いた。


『わはははは!この魔界もらったるわーー!!わははは!』


『乱心じゃー!姫様がご乱心なされたぞー!!』


『アルテミナ様!落ち着いて下さ―――』


そこで、ぶちっと大きな音を立てて、大きな声は止まった。

ポチは冷ややかに言い放つ。


「完璧に敵っぽいわね」


修真は、溜息をつきながら、肩を落とした。

そんな修真の肩を揺すりながら、ミュランダは困惑した表情で尋ねる。


「ねぇ、どうするのパパ。このままじゃ――」


そして、修真の目が輝いた。


「断固阻止。あんな危険な奴等に、好き勝手にさせたらダメだ!」


そんな修真に、ポチは静かに頷き、ミュランダは修真に抱きついた。

端から見ていた係長は、この三人が今の一瞬で、団結したように見えた。互いに信頼し合い、互いを守るような、そんな信頼関係。家族というものかも知れない。


「でも、どうするの?」


修真は、真剣な面持ちで言った。


「とにかく、避けられる戦いは避けなきゃ。魔界の人達が巻き込まれたら大変だし、まずは話し合いだな。相手が話を聞いてくれるような奴なら良いんだけど。おい、マキ――」


ふと、いつも傍らに居るパートナーに目をやる修真。しかし、そばには居ない。少し離れた所で、彼女は勇敢に戦っていた。


「きぃぃぃい!!この、泥棒猫…じゃなかった。泥棒魚!!」


「くっ、変な言いがかりはよして!!私は、ただ単に修真さんと結婚しなければなりませんの!!」


と、昼ドラのノリで、引っ掻いたり、髪を引っ張ったり、噛み付いたり、女特有の戦いを繰り広げている女性二人。

修真は、ざかざかと歩いて行き、マキの背後に立った。しかし、当のマキは気付かない。


「まだ言うか!このッ!修様は私と、口では言えないあんなことや、こんな事も――」


「してねーよ」


と、拳を振り上げたマキの頭に、たんこぶをひとつ作り上げた。しゅう〜と煙が上がるたんこぶを尻目に、そのまま、ずるずるとポチとミュランダの元へ引きずっていく。

そんな修真の後ろから、突然エルナが声を掛けた。


「待って下さい!」


何事だと思い、振り返る修真。そして、修真が反応する間もない程唐突に、エルナは橙色の髪を靡かせて、修真の胸に飛び込んだ。唐突な展開に、思わず硬直する修真。そんな修真の目に映ったエルナの表情は悲しげで、瞳に涙が溜まっていた。


「そんなに私とは婚約できませんか!?私…そんなに魅力ありませんか?」


――魅力の塊です。なんて言えるムードではなかった。


「どうして、そんなに結婚したいんですか?」


「それは…みんなの為に…」


修真の肩にしがみ付くエルナの手に、力が入る。


「みんなの為?」


「私達は、魔界を失って、それで、水のある魔界を探していて…。みんな苦しんでるから…」


エルナの言葉で、修真は、彼女が何故そんなに結婚に固執するのかを理解していた。


「それって、政略結婚ってことですか?」


エルナは、言葉を無くし、何も言わない。言えなかった。


「悪いけど、お断りします。そんな結婚、俺は嫌です」


なるべく優しく、エルナの手を払い退ける修真。


「政略結婚は、魔界ではよくあることです。私も覚悟ができていますわ!」


だが、尚もエルナは、食い下がる。その必死の表情から感じ取れるのは、何か大きな使命を背負っているということ。

だが、はいそうですか、というわけにはいかなかった。何故ならば、まだ結婚する気はさらさら無いのだ。

だからと言って、無下に断るなんて修真には出来なかった。真剣な人には真剣に対応する。それが、彼のポリシーなのである。


「そうじゃなくって、もっと、本当に好きな人と結婚した方が良いんじゃないですか?」


多分、この人を傷つけたくない。そんな風に修真は、思った。


「私に、好きな人などいません!!」


「なら、その時の為に結婚とかしない方が良いと思います。もっと自分を大事にして下さい。エルナさんは美人だから、すぐに彼氏とかも出来ると俺は思います…」


「そんなこと…」


将来のことよりも、目の前の平穏の方が、今のエルナには必要に思えた。


「そうだ、エルナさんの仲間の人達、ここに住めば良いじゃないですか。魔界のみんなと仲良くしてくれるなら、俺は全然構いませんよ」


「え?」


けれど、この魔王は違っていた。目の前も、先のことも大事にしているように見えたのだ。


「ここ、こんなに広いのに、あの村人達しか居ないんです。そんなの寂しいじゃないですか。損得とか関係無く、みんなが仲良くしてくれる魔界にしたい。そう思ってくれる人達なら大歓迎です。それに、それならエルナさんが政略結婚なんてする必要無いですよね」


「修真さん…」


「ごめんなさい。そろそろ,敵が来てるみたいなんで…。今の話、考えてみて下さい。そ、それじゃ!」


そう言って、修真は、エルナの元を脱兎の如く立ち去る。

一人、説明し難い心境に陥ってしまったエルナは、青い空を見上げた。そして、視界に入ってきた大きな鋼鉄の塊を見て一言呟いた。


「あ、ワダツミだ」


それと同時に、エルナの胸ポケットに入っている通信機が、けたたましく鳴り響いた。



ずるずると引き摺られているマキの顔から、ほんの少しだけ笑みが漏れた。

それを、修真は見逃さなかった。


「お前、盗み聞きなんて、趣味が悪いぞ」


ぷっと、吹きだすマキ。


「修様、柄にも無い事を言ますねぇ…」


依然、笑いを堪えているのか、肩がぷるぷると震えている。同時に、修真の怒りと、恥ずかしさも堪えきれない所まで、吹き上がる。


「あー!知らん。もう知らん。帰ったらラーメン食いに行こうと思ってたけど、お前は、留守番!!」


「そ、そんな!ごめんなさい!出来れば、テイクアウトでから揚げと餃子を――」


「食パンでも食ってろ」


冷たい反応を示した修真に、むっと顔をしかめた。


「だって原因は、修様があのメス魚といやらしい事をしようとたのがいけないんですよ!!いつだってそう、修様は私の心を弄んでばかり!!」


とてつもなく人聞きの悪い言い方に、修真の怒りのボルテージは、頂点に到達した。


「ちょ、歯食いしばれ」


「何です、暴力ですか?修様の、チキン野郎!」


二人の取りとめも無い喧嘩。

それを見て、顔をほころばせるポチとミュランダ。

その時だった。

ちゅどーんというなんともコミカルな爆音の後、喧嘩をしていた二人は、爆発で吹き飛ばされた。


「パパ!ママ!」


濛々と立ち込める土ぼこりを払いながら、二人の下へと駆け寄るミュランダ。

それはもう見事に、砂に修真が頭から埋まっていた。


「今、助けるから!」


砂に埋もれた修真を救出にかかるミュランダ。じたばたしている修真の足を掴み、力任せにひっこ抜く。


「おぶぇぇぇ!。砂不味ッ!何?何が起きたの!?」


口に入ってしまった砂を吐き出しながら、修真は事態の把握に努める。

その傍らから話し掛けるマキ。その声は、おふざけモードから一変して、真剣モードになっていた。


「どうやら、あのとんでも要塞からの砲撃のようですね」


そして、毎度の事ながら、何故かマキは無傷だった。


「なんなんだろうね、この扱い。もう、地球爆発しねーかな」


「ちょ、こっぴどく彼女にフられて、自暴自棄になった人みたいなこと言わないで下さいよ」


「何で?何でお前だけ無傷なの?もう意味分かんねーよ。俺は、心も体も傷だらけだっての!」


マキは、胸を張って答える。


「だって、私は魔機ですから」


「うるせぇ!無駄に字画が多いんだよ。大体三十八画だわ!!」


「ぶー。三十七でした〜」


「不吉な画数であることを切に願うわ」


そして、再び砂浜が爆炎に包まれる。今度は一発どころではなく、何度も轟音と共に、砂埃が巻き上がった。



律は、モニターに映し出された光景に、ひどく慌てていた。モニターに映ったワダツミは、四方八方へと、青く輝くレーザーを雨のようにばら撒いている。しかも、これでもかとミサイルも降らせている。

律は、急いでワダツミへと通信を入れた。


「ちょっと、なにやってんですか。攻撃するなんて聞いてませんよ!」


慌ただしい雑音の後に、潮塞ブリッジに声が流れる。


『アルテミナ様が、混乱してワダツミが―――きゃ!!』


虚しく通信が途絶える。

拳を握る律は、やりきれない思いを、機械に叩きつける。

――どうすれば。

その背後から、颯爽と現れたのは、他でもない艦長のエルナだった。


「りっちゃん!状況は!?」


「アルテミナ様が暴走した…らしいです」


「それでこの有様って訳ね…」


エルナは、モニターに映った荒れ狂うワダツミを見て、表情強張らせる。


「止めましょう。潮塞なら、出来る筈よ」


エルナは、強い意思の篭もった表情で、力強く言った。


「ですが、艦長!そんなことしたら、艦長もただでは済みまー―」


「もう決めたの。この魔界には、守る価値があるわ。この責任は私が取る。りっちゃんは、艦を降りなさい」


「そんな…」


艦長席に着いたエルナ。その体が、青く光り始める。海のように、鮮やかなマリンブルー。


「艦長まさか…」


律の表情が、驚愕に染まる。


「アクアレイを撃ちます。それなら、ワダツミにも効果があるはず」


エルナは目を閉じる。

――感じる。体が、潮塞と一体化していくのを。

冷たい機械が、エルナの体に灯った光と同じ色に発光し始める。

――見える。モニターが私の目になり、この潮塞が私の体になっていく。潮塞の全てを把握できる。


「艦長、ダメです!この艦へのダメージは、艦長へのダメージなんですよ!?」


「わかっているわ。でもそれは、ワダツミも同じ事。多大な負荷を与えれば、動力であるアルテミナ様も気を失う筈よ」


「艦長!この前死にかけたばかりじゃないですか!!どうして!?」


エルナは、律が見たことの無い表情で笑った。


「この魔界の魔王さんは、とっても良い人だったわ。あの人は守らなきゃいけない。私達の為にもね。さ、早く艦を降りて」


律は、拳を握り締める。

――またあんな事をするのか。

そう、エルナ達の魔界が襲われた際に、先陣を切って戦ったのが他でもない、この潮塞だった。戦う度に、ダメージを負う度に、エルナは疲弊していく。そんな彼女を誰よりも近くで見ていたのが律だった。もう、あんなに苦しそうな艦長は見たくはない。 

そんな思いが、律の頬から一筋の滴となって流れ落ちる。


「嫌です!やめて下さい艦長!!」


懇願する律を、エルナは優しく抱きしめる。


「大丈夫。私は、艦長だから」


エルナの思いが、律の思いが、お互いの心に伝わる。


「分かりました。艦長の決意がそこまで固いなら、私もお供します」


「ダメよ。そんな危険な事」


「艦長が艦長なら、私は、副艦長です」


律は、笑いながら答えた。エルナも、笑みを漏らす。

潮塞の両翼から、青い光が噴き出される。さながら、翼のように。


「戦艦潮塞、発進!!目標、旗艦ワダツミ!!」


「了解!!」


動力炉が高速稼動を始め、潮塞のエンジンに光が灯る。まるで、血液のように、潮塞全体を、エルナの力が覆っていく。

そして、船体後部の推進装置から煌く光を噴出させ、潮塞は飛び立った。



修真達は、レーザーをばら撒く、謎の要塞に近づこうと、悪戦苦闘していた。

だが、巨大な亀のようにも見える空中要塞の守りは強固だった。


「どわっあぶねぇ!!」


蜘蛛の巣のように張り巡らされたレーザーを掻い潜り、その合間を縫って飛んでくるミサイルを破壊する。だが、数が多く、中々辿り着けない。


「ちっくしょう!どうやったら近づけるんだよ!」


機械のような翼を生やした修真は、手に取ったガルアスで、迫り来るミサイルを何発も撃ち落しながら、修真は嘆いた。しかし、止まっては居られない、数秒でも動きを止めようものなら、レーザーで焼き切られてしまう。

そんな修真と同じように、ポチとミュランダもミサイルの迎撃と回避で、とてもじゃないが、近づける状況ではなかった。


「く、中々厳しいわね…」


黒い四枚の羽を羽ばたかせ、レーザーをかわすポチ。途中、ブライゼルを振り回し、ミサイルを一刀両断していく。それはもう、どっかんどっかん破壊していく。

その背後では、ミュランダが魔法で、奮闘していた。

青い翼を生やした、まだ頼りない小さな体。それでも、全身に魔力を滾らせ、数々の魔法でミサイルを撃ち落していく。


「いくよッ!フレイムテール!!」


赤い魔法陣を展開させ、呪文を唱える。すると、ミュランダの腰から、赤々と燃え盛る五本の炎の尾が発生した。ごうごうと燃え上がる尾を、発生させたミュランダは、レーザーを掻い潜り飛んでいく。すれ違うミサイルを、炎の尾で叩き落しつつ。

各々が孤軍奮闘するが、亀のような要塞に死角は無かった。上も下も左右もなく、雨あられと攻撃をばら撒きつづける。次第に、修真達は、追い詰められていく。

一人一人で行動しても、埒があかない。そう考えた片桐家の面々は一箇所に集まった。


「おい。なんだアレ、ばけもんか」


修真は、ガルアスのチャージショットでミサイル群を一気に撃墜しながら言った。それに続いて、マキも喋る。


(攻撃と防御が一体化していて、とてもじゃないですが、近づくのは難しそうですね)


修真の背後から、レーザーが接近する。

瞬間、青い光が弾けとんだ。

ブライゼルの刃で、レーザーを弾き飛ばしたポチが、修真の背後を守るように、その場に陣取る。


「かなりの、魔力障壁も有しているようね。近づいても、攻略できるかどうか…」


二人の頭上から降り注ぐミサイル。しかし、それらを触手のように伸びた炎が的確に捉えていく。たちまち、爆炎が広がる。

そして、爆炎の中から、ミュランダが舞い降りた。


「じゃぁ、どうすんの〜?私達の魔力だって無限じゃないんだから、これ以上の持久戦はきついよぉ…」


肩で息をしていて、疲弊の色が隠せないミュランダ。

そんな彼女の言葉で、事態をどうすれば好転させられるか一同、考え込む。

中でも、最初に攻略の糸口に気付いたのがポチだった。


「分かった。じゃあ、フォーメーションを組みましょう」


「フォーメーション?」


そう、思えば今まで一人で戦ってばかりだった。ポチは今の数十秒の出来事から、三人で協力し合えば、この強力無比な弾幕も何とかできるのではと考えたのだ。


「ええ。私が、後方で魔力障壁を展開させる。でも、私はそんなに高度な魔力障壁は張れない。精々、あのレーザーを食い止めるくらい。そこで、私が集中していられるように、護衛をするのがマスター。先頭でミサイル迎撃ミュランダ。どう?」


ポチ自身が防御に徹し、修真が守る。そして、ポチの魔力障壁でミュランダが攻撃に集中できるという、なんともバランスの取れた、良い作戦だった。

おおっと希望を見出した二人は、目を輝かせる。


「何か、新しいなそれ!」


――三人…いや、四人で協力すれば出来る気がする。


「フォーメーションだよパパ!Aかな?それともBかな?」


そこはどうでもいいだろと笑う修真。

もう、と膨れッ面になったミュランダに、マキが自身たっぷりに言った。


(そりゃあ、フォーメーションOに決まってるじゃないですか)


「どうして?何のOなの?」


首を傾げるミュランダ。


(フォーメーションOのOは、オタンコナスのOですよ!!)


「オタンコナスだか、ポカホン○スだか知らんが、てめーはすっこんでろ」


――いや、やっぱり三人で。と、修真は思い直した。


そして、フォーメーションを組んだ四人は、びっくり要塞へと進んで行く。

後方からポチ、修真、ミュランダの順番に一列に並ぶ。


(レーザー接近!ポチちゃん、魔力障壁を!!)


マキの掛け声で、ポチはブライゼルをくるくると回し、詠唱を完了していた魔力障壁を一気に展開した。

修真達を、包み込むように薄緑色の円形の障壁が広がる。

次の瞬間には、もの凄い閃光と、バチバチという音と共に、レーザーが障壁と接触。


「くッ…、凄い威力…」


眩い閃光の中で、ポチの表情が苦痛に歪む。


「ポチ!大丈夫か!?」


「大丈夫よ。私を信じて!」


数秒の閃光の後、消滅したのはレーザーの方だった。


「よっしゃ!行け、ミュランダ!」


「うん!!」


修真達より先行した、ミュランダは詠唱を始める。


「全てを滅ぼし、虚無に帰さん…」


ぼうっとミュランダの回りに巨大な魔方陣が燃え上がり、回転を始める。


「永久の輪舞…終末の光!」


瞬間、全てが噛み合ったかのように、魔方陣の回転が止まった。


「ターミネイトレイジ!!」


ミュランダの叫びの後、目の前の空間から無数の黒い光が浮かび上がる。


「みーんなやっちゃうよッ!!」


ぴっと前方のミサイル群を指差すミュランダ。

すると、既に星の数程になった黒い光が、軌跡を残しながら矢のような速さで、ミサイルを目掛けて飛び立つ。

黒い光は、縦横無尽に飛び回り次々と爆発を起こしていく。一つ、五つ、九つと、目にも止まらぬ速さで、ミサイルの数も減っていった。

しかし、それでも全ては撃墜できない。


「パパ。後はお願い!」


ミュランダの脇を通り過ぎていく、ミサイル。


「行くぞ、マキッ!!」


(ノーミスクリアですよ。修様!)


「おうよ!」


ストールとフレスベルガスの二刃を手に取り、魔力を込める。

機械のような翼から光を放出させ、ミサイルを迎え撃つ。


「うらうらうらうらぁあッ!!」


ミュランダの撃ち漏らしたミサイルを、ポチに到達する前に、微塵切りにしていく。

爆炎の中を背に、一つ残らずミサイルを切り裂いた修真は、自分が一番かっこ良いと思う表情で、不敵な笑みを漏らす。


(修様、その顔気持ち悪いです!!なんか糸こんにゃくみたいな顔です!!)


「ちょ、ごめん。どこが糸こんにゃくみたいだった?言って。徐々に直していくから」


そんな二人に、青い光が接近する。


「お姉ちゃん。レーザーニ発目来てるよ!!糸こんみゃくも気をつけて!!」


「おいぃぃぃい!誰が糸こんにゃくだぁぁぁあ!!つーか、こんみゃくとか、噛んでんじゃねーよ!!」


「わかったわ!危険よ、下がってブルドーザー橋本!!」


「いねーよ!誰だよブルドーザー橋本って!!」


そして、三人は一端停止し、障壁の中でレーザーをやり過ごそうとする。

しかし、往々にして都合よくいかないのがこの小説なのである。タイミング悪く、ミサイルの爆発した残り香が、ポチの鼻をくすぐってしまった。


「は……はぁッ……」


くしゃみを堪えるなんとも不細工な顔になるポチ。集中力が妨げられ、ぐにゃりと歪む魔力障壁。

驚愕に染まる修真と、ミュランダ。


「うおッ!ポチ、堪えろ。くしゃみで死ぬとかシャレにならん!!」


「お姉ちゃん、私まだ死にたくないよ!!私が変わりにくしゃみするから。ぶわっくしょい!!」


(ポチちゃん頑張って!!私も手伝いますよ。くちゅん!)


「お前ら、バッカ!何の解決にもならねーよ!!俺がする。ぶえっしょい!!」


「ちょ、今笑わせないで、このままじゃ……」


――いや、我慢してみせる。何故なら、みんなの命を私が預かってるんだから…たとえこの身が滅びても、絶対にくしゃみなんかしないわ!!

そう、絶対に失敗しなんかしないのよ!


「どぅれっくしょい!!」


ダメでした。


「ぎゃあああああああ!!しぬぅぅぅうう!!」


ポチのくしゃみと同時に障壁が消滅し、塞き止めていたレーザーが無情にも、修真達に接近する。

――修真達の脇を巨大な影が通り過ぎた。

凄まじい閃光の後、痛みが無いのを不思議に思った修真は、うっすらと修真は目を開ける。


「ッこれは!?」


あの超弩級戦艦が、修真達を庇うようにして佇んでいた。

そして、聞き覚えのある声が辺りに響く。


『修真さん皆さん、ご無事ですか!?』


「その声…エルナさん?」


『話は後です!この艦で、あれを止めます!どうか、主砲をチャージする間守ってください!』


修真達は、顔を見合わせる。そして、頷いた。


「分かりました!お前ら、あの戦艦を死守だ!いくぞ!」


(はい!)


と、マキの声が。


「ええ!」


ポチも、強く返事をする。


「へっくしょい!」


そして、ミュランダまさかのくしゃみ。


「くしゃみで返事するんじゃね―よ。空気を読め」


こうして、修真達と、戦艦潮塞は、旗艦ワダツミに向かって進みだした。

はい。と言うわけでね、19話でございました。個人的には、ブルドーザー橋本が好きです。

とにかくあれですね。聞こえてきますね。何を二ヶ月以上放置しとんじゃいアホ定休日が!名前のセンス無いんじゃないの?的なね。

ホントすいませんでした!!

いや、違うんですよ。PCの野郎と向き合っていましたらね、ホント座りすぎでお尻が痛くなってきちゃって集中できない、みたいなね。それで、携帯で書いてたら、肩が爆発寸前まで痛くなる訳じゃないですか。

まぁ、その辺は置いといて。じゃあ、新しい話書いてんじゃねーよ、的なね。

いや、違うんですよ。シリアスな話を書いておかないと、僕マキがシリアスになっちゃうんですよ。

ええ、言い訳ですよ。

でも、一時は、ミュランダが死にそうになったりとか、それで修真がキレたりとか、かなりバイオレンスだったんですよ。でも、これはコメディーじゃないと判断したわけです。

はい。どうでもいいですね。

ところで、このお話の根強い人気って何なんでしょうか?

気になって夜も眠れません。(笑)


次回は絶対に魔界編2を終わらせます。何故ならほのぼのした話が書きたくて堪らないからなんて、口が裂けてもいえません。


という訳で、20話もよろしくお願いします。


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