第18話、前のサブタイトルが思い出せない
二十基の砲台、十二基の対空迎撃システム、索敵範囲は十キロから最大十五キロ、最大の武装は、船首から船体内部の動力炉に直結している『アクアレイ』と呼ばれる絶大な破壊力を持つ、エネルギー砲。
戦艦潮塞。
その、荒々しく豪快なフォルムと、デリケートな機械達。
全てが彼女の誇りであり、また道楽だった。
彼女の名は、律。
エルナ率いる潮塞の乗り組み員の中で、艦長に次いで権力のある副艦長に、若くして任命された実力派。
彼女は、副艦長という肩書きの他に、複数の重要なポストも任されている。
強いて挙げるなら、メカニック班班長、オペレーター、プログラマー、エルナのお茶酌み、エルナのマッサージ、エルナの失敗の事後処理、エルナの食事の用意、エルナの服の洗濯、エルナの部屋の掃除、などなど。
そう、潮塞の乗組員はエルナと、律の二人だけだった。
(憂鬱や…)
その美しい容姿や柔らかい物腰とは裏腹に、エルナはいつも、かなりハードな仕事を律に任せていた。というより、面倒くさい事を全部押し付けていた。
外ではしっかり者のエルナは、艦に帰ってくるとダメ人間に変貌を遂げ、自分の事もできなくなる。
良く言えば甘えん坊、悪く言えばわがまま。
何も任務の無い日ならば、そんなエルナの夕食の献立を考えながら、機械のメンテナンスをしている時刻だが、今日は、使いっ走りのような内容の任務を授かっていた。
それは、客人の案内。
だが、彼女が憂鬱な理由はそこではない。彼女が気に入らなかったのは゛愛する機械達″を何も分からない一般人に見せるという事。
「えー、ここが動力室ですー」
一片のやる気も見せず、だるそうに案内をする律。
(どーせ、見たってなーんも、わからへん癖に…)
しかし、その予想は外れる。彼女にとって良い意味で。
「へぇ、見た事無い装置ね。ん〜、魔力に似た力を、媒体にしているみたいだけど…むしろ、動力炉というより、その力の増幅装置って所かしら?」
複雑怪奇な構造をしている潮塞の動力炉。
魔界の機械開発に携わる者でも、これが何なのか一目見ただけでは理解できない筈である。
それだけ、特殊な構造なのだ。
しかし、その七割を、目の前の女性は言ってのけた。
それが、彼女の心に火を点ける。
「ご名答!おたく、天才メカニックか何かですか!?えらい驚きましたわ〜、潮塞の動力炉を一目見ただけでそこまで分かるなんて!」
「私、機械には少し興味があるの」
その言葉に、魂の高揚を覚える律。
「いや〜、分かる人が見るなら話は別ですわ〜!私、ここで副艦長してる、律って言います。機械好き同士、仲良うしましょ!」
急にテンションの上がった律に圧倒されつつも、ポチは答える
「私はポチ、よろしくね、律さん」
「いややわ〜、そんな他人行儀な呼び方せんといて下さい、りっちゃんで良いですよ?みんなそう呼びます」
「ふふっ、よろしくね、りっちゃん」
二人は、一方的に熱い握手を交わした。
その頃、『片桐専用!』という看板を構えた、修真の別荘(仮)では、それはもう険悪なムードが漂っていた。
「悪いですけど、この話は無かった事にして下さい」
修真の言葉で、部屋は沈黙に包まれる。
どうしても魔界協和連合との和平に同意する事ができなかった。
何故なら、連合の目的は、好条件の条約を結ぶ事で、絶大な力を秘めた兵器である魔機を得ることだったからに他ならない。
もし連合が、天使とそれに順ずる存在のポチとミュランダを知っていれば、そちらにも目を付けていた事だろう。
「良く考えて下さい、条件は悪い物ではありませんわ。時が来た時に、協和連合の一国として、その力をお貸し下されば良いだけですわ」
修真は、エルナの言葉に首を横に振る。
「何度言っても無駄ですよ。こいつを兵器としか見てないあなた達に、協力する事は何もありません」
「そう…ですか…」
少々食い下がったエルナも、目の前の青年の態度が、堅い決意に基づいた物である事を悟る。
しかし、それでもエルナは諦めなかった。
「急に、答えを出すのも良くありませんわ。明日、また来ますので、その時にまた聞きますわ…」
それが、この場でできる唯一の選択だった。
エルナは深く頭を下げ、修真の別荘(仮)を後にした。
その姿を見送った後、修真はむしゃくしゃした思いで、頭を掻き毟る。
「あー、ごめん係長。良い話だったのに、蹴っちゃった」
係長は、黙って首を横に振る。
その様子に妙な安堵を覚える。そんな修真に、がばっと抱きつくミュランダ。
「パパかっこよかったよ!」
「ははっ、実は、びびってたけどな」
ミュランダの頭をくしゃくしゃ撫でる。
そんな中で、暗い表情のマキ。
修真には、マキの考えている事がなんとなくわかった。
そして、その様々な想いが交錯しているであろう頭に、べしっと軽いチョップを入れる。
驚いて顔を上げるマキ。
「え?」
「ばーか、変な事考えるなって。迷惑だなんて思ってねーよ」
その言葉を、心の中で噛み締めるマキ。
「修様…」
そこで、この家全体が『おいおい、てめーらラブラブしてんじゃねーよ』的な雰囲気に包まれている事に気付く。
振り向くと、係長とミュランダが、やさぐれた顔で耳打ちし合っている。
「なに、恥ずかしい事言ってんの、あいつありえなくない?」
注、係長。
「ちょーうけるんですけど〜」
注、ミュランダ。
「お前ら、表出ろ。引くくらい、ボッコボコにしてやるから」
「マジありえないんですけど〜」
注、マキ。
「まずは、てめーからだ」
荒れた修真の別荘(仮)を他所に、潮塞では、興奮した律とポチが仲良く見学していた。
現在いるのは、弾薬庫。
その名の通り、ミサイルや、機関銃の弾などが保管されている部屋。
「見てやこれ!対空ミサイルなんやけど、ただのミサイルじゃないんですよ。なななんと、空中で停止できるのです!」
ミサイルの前で喋っている二人。
「それ、どういう事?まさか魔力で動くの?」
「さっすが、ポチちゃん!従来の燃料式では、直線的な動きしか出来ないけど、これだとより複雑な動きもできるんや、すごいやろ?」
うっとりした表情でミサイルに頬擦りしている律。
律の口から告げられた最新の兵器事情に、驚嘆の溜息を漏らすポチ。
「それにしても、気になる事があるんだけど、この艦って少数の人員で動かせるような設計なのかしら?」
ポチは、先程から気になっていたが、この潮塞に来てから他の乗組員とすれ違う事が無かった。しかも、外見からは想像できない程、潮塞の内部は狭いのである。
驚愕の表情で固まる律。
「恐らく、分厚い装甲は、少数人員が戦闘に集中する為の物ね…外で見たんだけど、かなり強力な魔力障壁も形成できるようだし、相当、被弾することを恐れて作られた艦ね。それに、魔力伝導率の高い特殊な金属で作られているみたい…あの動力炉だけじゃなく、この艦全体が増幅装置の役目をしているとも思えるわ」
そこまで言って、律を見るポチ。
観念した、という様子で律は喋りだす。
「ほんま、ポチちゃんにはかなわんわ。ここだけの話やけどな――」
そこまで言いかけて、背筋に悪寒を感じ、ゆっくりと振り向く律。
「わッ!か、艦長!?」
「りーっちゃーん、何を言おうとしたのかなー?」
弾薬庫の入り口にもたれ掛かり、にっこりと微笑んでいるエルナ。
笑顔が怖いとはこの事だろう。
「いや、いつからSF小説になったんかなっていう話を…」
「ダメよりっちゃん、そんな事言ったら、唯一の真面目キャラのイメージが台無しになっちゃうわ」
と、ここでポチの存在に気付くエルナ。
何故、部屋の入り口にいながらポチの存在に気付かなかったのかというと、まぁ、その辺りは、エルナが若干天然という事で見逃して頂きたい。
「あら、あなたが魔王片桐の…」
「どうも、楽しく見学させてもらってるわ」
お互いに軽く会釈を交わす。
「すみませんが、今から重要な会議がありますので、見学はそろそろ…」
「ええ、もう十分楽しませてもらったわ。ありがとう」
そう言って弾薬庫を出て行くポチ。
それを見て、エルナはポチに向かって手を振っている律を半目で見やる。
「りっちゃん?」
「あ、ご案内しますー!」
ぱたぱたとポチを追って行く律を見送り、エルナは会議室に向かった。
「ごめんな、もうちょっと色々話たかってんけど…」
ハッチの開いた昇降口の前で、律は別れを惜しむようにポチに話し掛ける。
「私もよ、りっちゃんの話は、興味深くて楽しかったわ」
「ほんなら、絶対また会おな」
「ええ、またね。りっちゃん」
手を振る律を背に、漆黒の四枚の翼を広げる。
「ポチちゃん…あんたまさかッ!?」
「さすがりっちゃん、じゃあね」
ポチは笑顔で手を振り、まだ日の高い空に舞い上がった。
(私も馬鹿ね…これもマスターのせいかしら?)
少しの間ではあるが゛友情″というものを、楽しんでいた自分に苦笑する。
だが、悪くは無かった。
そんな事を考えながら、村に舞い降りて行く。
(ん、何かしら、あれ?)
修真の別荘(仮)の前に村人が群がっていた。
修真は緊張していた。
目の前には、数十人の村人。
魔界協和連合との和平を断る旨を村人に伝える為に、係長に村人を集めてもらったのだ。
「えっと、集まってくれてありがとう」
所々で、歓声が上がる。
「早速だけど、魔界協和連合って人達から、和平を結ぼうっていう誘いがあったんだ」
再び歓声が上がる。
「すごく良い条件を提示してもらったんだ、けど――」
またも歓声が上がる。
「ちょ!てめーら真面目に聞けや!喋り辛いわ!」
小さ目の歓声が上がる。
「それで、そいつらの狙いがマキだった訳よ」
今度はブーイングが巻き起こる。
「お前ら、ナイス判断!…じゃねーや、それで断りたいんだけど…良いかな?」
これでもかという程の歓声があがりる。
「ホントに?俺断っちゃうよ、いいの?」
凄まじい歓声が上がる。
「そっか、じゃ断るね」
そんでもって、ブーイング。
「どっちだよ!」
その様子が映し出されている巨大画面の前で、エルナと律は今後の事を話していた。
大き目なデスクの両脇にそれぞれ三つずつ席が用意されている、潮塞の会議室。
だが、その席も使用されているのは二つだけ。
会議の内容は、協定が上手くいかなかった場合についてである。
「もぉ〜!りっちゃ〜ん、どうしようこれから〜」
デスクに突っ伏しながら、涙目で訴えているエルナ。
「艦長、失敗の事考えてなかったんですか?」
そんなエルナの様子に溜息をつきながら、律は、可愛らしい魚の絵が描かれたマグカップに、会議室備え付けのコーヒーメーカーからコーヒーを注ぐ。
それに、角砂糖を二つとミルクをたっぷり入れ、エルナの前に差し出す。
エルナは、落ち込んだ表情でそれを受け取り、一口啜る。
「だぁって〜、絶対上手くいくと思ってたんだも〜ん。うえっ、苦いよりっちゃ〜ん」
「ちゃんと、砂糖もミルクも沢山入れましたって」
外での凛とした態度と、全く逆の子供っぽい様子のエルナだが、こちらが素である。
エルナ曰く、『だぁって〜、外で仕事すると疲れるんだも〜ん』らしい。
そんな、仕事から帰ってきて嫁に甘えるサラリーマンのようなエルナに、呆れた律は今後の方針を提案する。
「ほんならとりあえず、アルテミナ様に連絡したらどうですか?」
律の言葉に、デスクに八の字を書きながらエルナは答える。
「そうする…でも怒られないかなぁ?やっぱり、りっちゃんが連絡してよぉ〜」
「でぇぇぇいッ!甘えるな!早く連絡してこんかいッ!」
がしゃん、という音と共に、デスクをひっくり返す。
しくしくと泣き出すエルナ。
「え〜ん、りっちゃん怖いよぉ〜」
「きぃぃぃい!そんなんで、読者の人気がとれると思うな!」
なんだかんだで、現在ブリッジ。
「あの〜エルナです、アルテミナ様をお願いしたいんですけど」
ぱっと、ブリッジの巨大画面に、青い髪の女性が映し出される。
『おぉ〜、エルナではないか。調子はどうだ?』
アルテミナの質問に、エルナはもじもじしながら答える。
「りっちゃんが、エルナを襲いますぅ」
「うそつけっ!!」
『な!?律よ…その、なんだ…上手くは説明できないが、そういうのはちょっと…小説の内容的にも問題があるし…』
「アルテミナ様も、本気にせんといてくださいっ!!」
おほん、と咳払いをしてアルテミナは喋り始める。
『それで、協定の調子は?』
話の内容が任務の事になり突然気をつけの姿勢をとるエルナ。
アルテミナを映し出している画面に向かって、敬礼の後に答える。
「はっ!恐らく失敗するかと思われます!」
急にしゃんとしたエルナからの情報に、アルテミナは満足そうに頷く。
そして、エルナの言った言葉を理解し我に帰る。
『なにぬかしとんじゃボケぇぇぇえ!!』
あまりの大声に、艦内がぐらぐら揺れる。
「ひぃっ!」
『いいか、我々は一刻も早く安住の地を探さねばならんのだぞ?それをお前は…もう、ほんとバカ。バカエルナは、バカ』
エルナの失敗に、動揺を隠せないアルテミナ。
そして、最後の手段と言っても過言ではない手段の任務を告げる。
『もう、アレしかない…エルナよ、重要な任務を与える!』
真面目モードのアルテミナに、気をつけの姿勢で答えるエルナ。
「はっ!」
『そこの魔王と結婚しろ。ちなみに、失敗は斬首の刑だ、反論は認めん!以上!』
そこで、強引に通信は途絶えた。
「艦長…えらい事になりましたね…」
一波乱ありそうな展開である。
太陽光を反射して眩しく光る潮塞を天に仰ぎながら、修真を除く女性陣は、マリンブルーに輝く海ではしゃいでいた。
今は、ビーチバレーの真っ最中。
「くたばれぇぇぇえ!!」
「死んじゃえぇぇぇえ!!」
「死に曝しなさい!!」
罵詈雑言を撒き散らすコート内で、巻き起こる爆発。
『これ、戦闘シーン?』と勘違いする程、殺人的なビーチバレー。
ビーチに響く修真の声。
「てめーらー!もっと平和に楽しめー!」
修真は、村人の男性数人と地引網を引いていた。
「片桐さーん!よそ見しないで網を引いて下さーい!」
「あっ!すいませーん!」
いつの間にか、゛片桐さん″と呼ばれているが、これは、修真が魔王と呼ばれるのをひどく嫌がったからである。
何故、働いているかというと、ずっと放置していた魔界の人達に、何かの形で謝りたかったからだ。
あの演説の後、積極的に修真は働いていた。
果物を取りに森に入ったり、畑を耕したり、川に洗濯に行ったりと、普段は見せないアウトドアっぷりだった。
そんな修真の様子に村人は感心した。
普通、魔王とはそういうことをしないものなのだ。
「片桐さーん!もっと全力出してー!魔王でしょー?」
その行為で、魔王を身近に感じた村人達は、最初から開きっ放しだった心を、更に全開にしていた。
反対側で、網を引っ張っている村人Aの言葉に、修真は全身に魔力を滾らせ、全力で網を引く。
「ちっきしょぉぉおおおお!!」
その瞬間、魚の入った網が海から勢い良く飛び出し、宙を舞い、砂浜に落ちる。
「片桐さーん、魚をバックドロップしちゃダメでしょー」
「はは、ごめんごめん」
「まだ若ぇのにすげー力だなー」
「まぁ、一応魔王らしいんで」
村人と笑い合いながら、魚の入った網を確認しに行く。
しかし、網がもぞもぞと動き始める。
「うおぉおっ!なんだ!?」
「あっはっは!なんてこたーねーよ、この辺の海では、でっけぇ海老が捕れるんだ」
「あー、海老っすか〜」
と、屈強な体つきの村人B。
だが、今度は蠢く網から人間の声。
「いった〜い!もう、なんなのよぉ〜」
海老が喋るなんて話は、どこの世界に行っても無いだろう。
「いやいや、海老って喋らないでしょ?」
「おっかしいなー、新種かねぇ?」
心の中で『そんなわけあるか』と思いつつも、恐る恐る網に近づく。
その網から出てきたのは橙色の髪が印象的だった、水着姿のエルナ。
「ぷっはぁ!あれ、魔王さん?」
「何が新種の海老だ、連合の人じゃねーか!あっれ、人じゃねぇ!」
そう、エルナの姿は人間ではなかった。
腕は、桃色の鱗が生えた美しい翼、足には水かきが生えている。
エルナはくすくす笑い、修真の疑問に答える。
「私は、セイレーンですわ」
エルナはそう言うと、おもむろに修真を翼で覆い、砂浜に押し倒す。
「えっと、船乗りをっおおおお!?」
修真の上に覆い被さるエルナ。
ものすごく至近距離に、顔がある。
すごく潤んだ瞳で見つめている。
エルナは、少々恥じらいつつも、告白する。
「あの、私と…結婚しませんか?」
その言葉が、問答無用に修真の心を波立たせる。
「…血痕の間違いですか?」
エルナも、告白したのは初めてだったので、緊張、恥ずかしさ、期待から激しく心臓がのたうちまわっていた。
「違います!け・っ・こ・んですわ!」
修真は、混乱と歓喜の真っ只中にあった。
(え、結婚って言ったよこの人?突然何言ってんの?あぁ近い、距離が近い!やっべ!物凄く負けそう!あ〜負けても良いかも…だって美人だし…つーか、チャンス!?)
人間の理性なんてこんな物である、むしろ良くもった方だろう。
ゆっくりと近づいていく二人の体。
エルナの胸と、修真の胸が重なり合い、お互いの激しい鼓動を感じる。
目を閉じるエルナ。
『あぁ〜もうダメ!もうくっつく!』と、村人もドギマギし始める。
寸前で躊躇い、至近距離で震えている二人の唇。
突如、砂浜に響く銃声。
冷たい銃口から放たれた弾は、修真の側頭部を貫く。
「がはッ!…惜し…かっ…た…」
それが、彼の人生最後の言葉だった。
がくりと、力無く崩れ落ちる修真。
目の前で起きた殺人事件に悲鳴を上げるエルナ。まさしく『艦長は見た』だ。
「きゃぁぁぁぁあッ!死んだ!?」
ゆっくりと砂浜を歩いていくマキ。その手には、未だ煙を上げている蒼魔銃テュッティが握られている。
そして、修真に向かって叫ぶ。
「浮気ダメ絶対!」
しかし、彼は既に死んでいる。
「いてぇぇっぇええ!!」
あ、やっぱり、生きているのである。
「てめぇえッ!殺す気か!!」
ぴゅーっと、修真の頭から赤い血が飛び出している。
テュッティを修真の額にゴリゴリ押し付けながらマキは叫ぶ。
「浮気者が何を言ってるんですか!あれですか?海に来て開放的な気分になって、一夏の思い出ですか!?この変態!!」
「黙れッ!そうやって、人は大人になっていくんだよッ!!」
その言葉に、がっくりと脱力するマキ。
「お…おい」
顔を両手で覆い、肩を震わせている。
「な、泣くなって、俺が悪か……ってちげーよ!あっぶね、悪くもないのに謝る所だった!」
「チッ」
物凄く悪い顔で、舌打ちをするマキ。今のは勿論、泣き真似だ。
そんな修真の腕に、きゅっと抱きつくエルナ。
(なんと!?)
腕に伝わる柔らかい感触に、鼻血を吹き出す修真。
「私には、この方と婚約しなきゃならないんですの、ペッタンコのお子様は引っ込んでて!」
反対側の腕にがっしりとしがみつくマキ。
「失礼な!これでもBです!重要なのは、大きさじゃなくて形なんですっ!」
「はん!ペタンコの言い訳ですわね!修真さんだってこっちの方が良いに決まってますわ!」
「そんな事ないですよーだ!ね!修様!」
睨み合うエルナとマキ。
ぎゃあぎゃあ喚く二人と戸惑う修真を見ながら、ポチとミュランダは、黄昏ていた。
「お姉ちゃん、新キャラって怖いね…」
「そうね、出番をごっそり持って行かれたわ…もしかしたら準ヒロイン?」
と、ここで、二人のしょうもない争いは、新しい展開を迎える。
「このメス魚!!…そこまで言うなら、修様のお嫁さんの座を賭けて勝負です!」
マキの背景が、メラメラと燃え上がる炎に変わる。
というより、マキの後ろでミュランダが炎を出している。
「受けて立ちますわ!私には修真さんと婚約しなければならない理由がありますの!絶対に負けませんわ!」
エルナの背景は、ピシャーンと迸る激しい雷。
これも、ミュランダの演出である。
「あのー、すいませーん。人を勝手に賞品にしないで下さーい。つーかお前は、余計な演出してじゃねーよ!」
「盛り上がるかなーって思って」
という訳で『第一回、修真のお嫁さんの座は誰だ!決定戦』の開催が決定したのだった。
「あー、無視か。そういう感じね」
第一試合、悩殺バトルロワイヤル。
「どうも、解説のポチです。早速第一試合ですが、内容は簡単!どっちがマスターを悩殺するかです。そこんとこどうでしょう、マスター」
どこからともなく、解説席を引きずり出してきたポチの横に、修真が座らされている。
「おい、この小説に個人の意見を尊重するシステムは無い――」
「第一試合スタート!!」
修真の目の前に、水着姿のマキとエルナ。
試合開始の掛け声と共に、それぞれが悩殺ポーズをとる。
マキは、腰に手を当て、髪をかきあげる。
ちなみにこのポーズは、マキが先日、ファッション雑誌を立ち読みした時に習得したものである。
「修様!どうです!?右脳が爆発しましたか!?」
「してません」
一方エルナは、ビキニの肩紐を片方外し、胸を強調したポーズ。
「結婚したら、好きにして良いですわ!」
「ぶっ!!」
エルナから告げられた、驚愕オプションに、またもや鼻血を吹き出す修真。
「判定は?」
ポチから手渡された、『えるな』『まき』とそれぞれ書かれた板を、見比べる修真。
そして、その片方の板を掲げる。
「エルナさん!」
「修様のアホー!!」
第二試合、料理対決。
『2R』と書かれたボードを持って走り回るミュランダ。
「女…、それは台所に降り立った女神!いかに美味しい料理を作れるかが、今回のテーマです!それでは料理スタートー!」
いつの間にか、砂浜に用意されたキッチンで、料理に取り掛かる二人。
「なぁ、ミュランダ、俺帰って良い?」
「ダメだよ、逃げたらこれ付けちゃうから」
ミュランダの手には、前回の水虫兜。
「すいませんでした」
修真は、一瞬で逃亡を断念した。
色々な紆余曲折を経た、ニ十分後。
「調理終ー了ー!さぁ、それでは判定スタート!」
自信たっぷりの表情で、皿を差し出すマキ。
「海と言えば、焼きそばです!さぁ召し上がれ!」
鰹節の踊る美味しそうな焼きそば、それを少し口に運ぶ修真。
「こ、これは…普通に美味い」
その勢いで、一気に焼きそばをたいらげる。
続いて、エルナの番。
少しはにかみながら、料理の載った皿を差し出すエルナ。
だが、その皿に載っていたのは、特に手を加えられた様子の無い、活きの良いカツオ。
それが皿の上で、ビチビチ跳ねている。
「エルナさんは、ニ十分間何をしてたんですか?」
「ちょっと沖に…さ、食べて下さいませ!」
エルナは、カツオを掴むと、強引に修真の口にねじ込む。
「ちょ!これ無理!ご、もがもごっ」
食べ終わるまで、律の様子でも見ながら少々お待ちください。
「あー、ええなぁ〜やっぱり戦艦と言えばミサイルやわ〜。そういえば、艦長大丈夫やろか?う〜ん、あの人は天然やでなぁ〜。そうや!冷蔵庫にプリンあったんやっけ!たーべよ〜」
という訳で、続きです。
「きゃぁぁぁぁあ!修様!内臓が!内臓がぁぁぁあ!」
「パパぁぁぁぁあ!」
グロテスクな表現があった事を深くお詫び申し上げます。
もう少々、嘉奈の様子でも見ながらお待ち下さい。
「はぁ〜、本当に出番無いなぁ。人間界のキャラって差別されてる気がするんだよね。だよね?そうよね?それに、この扱いは酷いと思うんだ…あ!お母さーん!!何で私のDVDに録画したの!?映画消えちゃったじゃん!!」
「うるさい!あんたちゃんと勉強してんの!?」
「お母さんに関係無いでしょ!」
「くっ!このシネマバカ娘!」
「韓国ドラマばっかり見てんじゃないよ!このキムチババァ!!」
「このクソガキャァァァア!!」
という訳で、余計なキャラが増える前に、今度こそ続きです。
「はぁっ…はぁっ…初めて海産物を踊り食いした…うっぷ!」
そのままのカツオが、人間の胃に入るのかどうか疑わしい所だが、コメディーという事でご容赦頂きたい。
「マスター…言うまでも無いと思うけど、判定は?」
修真は、迷い無く即答。
「マキ!」
(りっちゃんに、何もかもを任せっきりにしたのが裏目に出ましたわ…)
こうして、両者一対一のスコアになり、運命の最終試合を迎える事になった。
「絶対に修様のお嫁さんの座は譲りません!!」
「私も負けませんわ!!」
両者激しく睨み合う。
だが、今回はここまでなのである。
「いやらしい所で次回に続きやがった!!」
はい、という訳で18話でしたがいかがでしたでしょうか?
いやー、よく18回も書いたなぁ〜。
もう、キャラが誰が誰だか分かりません。
そろそろ絵が欲しいよなぁ、誰か描いてくれないかな〜(他力本願)
まあ、そんなこんなで、よければまた次回も読んでやってください。