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第17話、困った時は新キャラ

立ち話もなんだったので、座って話す事になり、テーブルにつく片桐家の面々と、その向かいに座る中年男。

そして、男は口を開く。


「え〜、ですから、魔界協和連合まかいきょうわれんごうの使者の方が来られまして、和平協定を結びたいと仰るものですから、人々と共になんとか八十円かき集めまして、私めが魔王様を呼びに馳せ参じたという次第でございます」


ハンカチで額を拭いながら、すまなさそうな様子で事の次第を告げる中年男。

唐突な話に、ついこの前までただの人間だった修真は、ついていけなかった。


「八十円以外、何言ってるか全然分かんね…」


「修様って案外、理解力無いですねぇ〜。係長は、魔王の修様と、その妻の私を呼びに来たんですよぉ〜」


マキの言葉に、お前だけには言われたくない。と思いつつも、係長の言った言葉を必死で理解しようとする。

が、ゲートを通る時に発生する、八十円の事くらいしか分からない。


「勝手に、見た目で思いついた適当なあだ名つけるなよ。確かに係長っぽいけど」


「魔界協和連合なんて聞いたことないわね…」


「はいはい!私知ってるよ!」


テーブルから身を乗り出してミュランダが挙手する。

修真は、そんなミュランダを指差す。


「はい、ミュランダ」


ミュランダはゆっくりと起立し、わざとらしい咳ばらいをした後、説明をはじめる。

何故だか、ただの説明にわざとらしい演出。

それもそのはず、ここ最近ミュランダの発言回数が現象の一途を辿っているからで、要するに姉のポチに出番を奪われ気味だからだ。


「確かねー、複数ある魔界が争わないように、定期的に各国の魔王が集まって、難しい話をするっていう――」


そこまで話を聞くと、修真の隣に座っていたマキが勢い良く立ち上がる。

驚愕に歪むミュランダの顔。


「要するに、カツカレーですねッ!!」


マキがそう言ってから、一同は二〜三秒黙る。

それぞれが、今の話がどうしたらカツカレーに繋がるか考えた。

そして、いち早く修真は一つの答えに辿り着く。


「誰かぁぁぁあッ!お客様の中でお医者様はいませんかぁぁぁぁあッ!!」


手を上げながら、ポチが立ち上がる。


「あ、私、医学の心得ならかじった程度だけどあるわ!」


「ああ、お医者様!!ここに、半狂乱のお客様がぁぁぁぁあッ!!」


「落ち着いて、私に任せなさい…」


と、ポチがマキの腕を取り、脈を測る。

少しの間を置いてポチは答える。


「大変よ!脳死しているわ!」


「やっぱり…助からないんですか?つーか、お医者様、せめて下に何か穿いてください」


ポチは、いまだに下着スタイルだった。


「ちょっとマスター、空気読みなさいよ。真面目な話してるのよ?」


という、ポチの冷たい一言に、驚愕を隠せない修真。


「ええッ!?俺!?お前ノリノリだったじゃん!?」


「そうですよ。真面目に聞いて下さい修様」


「てめぇぇぇぇえッ!!」


そのやりとりを、呆然と眺めている係長に、笑顔でコーヒーを差し出すミュランダ。

ミュランダに、言い争っている三人のハイテンションっぷりに圧倒されながら問う。


「いつも、こんなに賑やかなのですか?」


その言葉に、屈託のない笑顔でミュランダは答えた。


「うん、とっても楽しいよ。係長は、賑やかなのは嫌い?」


その笑顔につられ、係長も笑顔で答える。


「いいえ、賑やかなのは大好きですよ」


「よかった!」


そう言うと、くるりと踵を返し、騒いでいる三人の中に加わっていく。

係長は、驚いた。

元々兵器である者達が、こんな風に楽しそうに一人の青年と暮らしている。

感情の乏しい兵器が、先程のような幸せそうな笑顔ができる。それは魔王、いや、その青年の力なのかも知れないと。


「大体!いつもいつも意味わかんねーんだよお前は!なんであそこでカツカレーが出てくんだよ!!脳みそじゃなくて、ピーマンでも入ってんじゃないの!?」


「お前お前言わないで下さいよぉ!私には、れっきとしたマキと言う名前があるんです!名前で呼んでください!あの夜のようにッ!!優しく強く激しく!!」


「うわぁぁぁぁあ!!やめろぉぉぉぉお!!」


恥ずかしさのあまり、床に崩れ落ちる修真。

ミュランダは、そんな修真に近づき、カウントを取り始める。


「ワーン!ツゥー!」


そこまで数えた所で、修真はヨロヨロと立ち上がる。

立ち上がった修真は、まだ戦う意志があることを示す為、審判ミュランダにファイティングポーズをとって見せる。


「どうも、解説のポチです。ついにマスター対ママの世紀の決戦の火蓋が切って落とされました。なお、今回の戦いは、ハイビジョン撮影でお送りしております。さて、第一ラウンドで、早くもママの恥ずかし攻撃が、マスターのダウンを奪いました。ママとマスターとか言ってると、お洒落なスナックみたいです。そこんとこどうでしょうか係長?」


「仰るとおりでございます」


どこからともなく引きずり出してきたゴングを鳴らすミュランダ。

そのゴングと共に、攻撃に打って出る修真。


「いくぜッ最終奥義ッ!!…俺さ、お前の事、生理的に無理なんだよね…」


「ぶっはぁっ!!」


吐血と共に倒れる、マキ。

そんなマキに近づき、カウントをとるミュランダ。


「おーっと!ここでマスターがママのダウンを奪いました!この戦い、先が見えなくなってきました!でもやっぱりスナックみたいです。そこんとこどうでしょうか係長?」


「仰るとおりでございます」


「そんなイエスマンで、厳しい社会でやっていけると思うなッ!!」


そんな解説席を他所よそに戦いは続く。


「お、女の子には、鬼のような一撃でした…」


冷蔵庫にもたれながら、よろよろと立ち上がり、ファイティングポーズをとるマキ。


「こちらも、究極奥義を出すしかないようですね!」


ミュランダは、テーブルの上に置かれたゴングを鳴らす。


「全力で行きますッ!!究極奥義、第三話参照!!」


どこからか、謎の本を取り出し、声に出し読み上げるマキ。


「えーっと、あった!なになにぃ〜?かわいい、完璧にタイプだ、顔は――」


そこまで言いかけて、修真の顔をニヤリと笑いながら見やる。

その瞬間、恥ずかしさのあまりに、修真の体はパズルのようにバラバラに砕け散った。

同時に、試合終了のゴングの音が複数回響き渡る。


「勝者、ママ!!」


と、言いながらミュランダは、マキの右手をとり高く上げる。


「いやー、反則級の荒業でママが勝利を収めるという試合模様で終わりました今回の戦い。視聴者の皆様は、楽しんで頂けましたでしょうか?では機会があればまた次回にご期待下さい。解説のポチでした。」


歓声と共に、試合は幕を閉じた。


五分後。


「いやぁ〜意味不明な展開でしたねぇ〜」


マキは、自分で入れたココアを飲みながらしみじみと言う。

床では、ミュランダがバラバラになった修真の体を接着剤でくっつけている。

一波乱あった後のティータイムに参加している係長は、痺れを切らして問う。


「あの〜そろそろ、お話を続けさせてもらって良いでしょうか?」


そんな係長に、コーヒーをすすりながらポチは答える。


「もうちょっと待って、今ミュランダがマスター直してるから。あなたもコーヒー飲む?」


「あ、はい、頂きます。」


目の前に出されたコーヒーを一口すする係長。

完璧に、片桐家のペースに呑まれていた。


「できたよー」


どれどれ、と三人は修復された、修真を覗き込む。

驚く事に、完璧に治っている。

係長は、また大ボケをかますのではないかとひやひやしていたが、ほっと胸を撫で下ろす。

少々の間を置いて、修真は目を覚ます。


「ん…あれ?なんか気を失っていたような…体がバラッバラになっていたような…」


「何言ってるんですか修様〜?ほら、そんな所に座ってないで、係長さんが、お話を続けたいそうですよ?」


何か、大事な事を忘れている気もしたが、マキに言われとりあえず席につく修真。


「んで、なんだっけ?魔界連合がどうとか…」


修真は、なんだか頭がもやもやしていたが、なんとなくで話を思い出す。


「ええ、魔界協和連合の方が、私達の魔界に来て和平を結びたいと仰っているのです。そんな重大な事は、代理の私だけで決める訳にはいかず、こうして馳せ参じたのです」


「は?ってことは、魔界が他にもあるってこと?」


深い溜息をついたミュランダは、呆れたという様子で口を開く。


「パパったら、なに寝ぼけたこと言ってるの?魔界が沢山あるのなんてあたりまえだよ?」


修真は、魔界の常識をいきなり突きつけられ、戸惑う。

非常に理解に苦しんだ果てに、千歩譲って、あるものはあるのだからしょうがないという、諦めにも似た答えを導き出す。


「あー、だから、魔界がいくつもあって、争わないように仲良くしようぜっていうことでしょ?」


「そういう事ですねぇ〜」


「そっか、じゃ早く魔界行った方がいいよな。よし、各自準備!」


そう修真が言うと、三人は各々の準備の為に席を立ち、寝室もとい女子部屋に入っていった。

リビングに残ったのは、修真と係長の二人。


「係長、すいませんけど、少し待って下さいね。」


先程から待たせっきりの係長に、軽く頭を下げる。


「いえ、それはかまいませんが、あなたはつくづく不思議な方ですね」


「え?」


「あの、天使のお嬢さんのことですよ。とても自然な笑顔で笑っていらっしゃいました」


そう言いながら、にっこりと係長は笑う。

急に家族を誉められたので、なんだか気恥ずかしい気分になる修真。

しかし、男として、自分の家族をべた褒めする訳にいかず、心とは裏腹のことを言う。


「はは、もうアイツなんてあれですよ。ただの大飯喰らいですよ。毎月の家計を圧迫してるのはアイツですからね」


係長も家族がいたので、修真の心情を察していた。


「若いのにご謙遜なさらず、私には分かります。あなた様は、とても家族を大事にしていらっしゃるようだ。そうでなければ兵器の彼女達がここまで心を開く事もないでしょう」


「いえ、別に、そんな…俺をヨイショしても何もでませんよ?」


「はは、そうではありませんよ。それに、いつの間にか私にも心を開かせている。恐らく、あなたの誰に対しても自然な、いえ、人間臭い態度があの方々を変えたのでしょうな」


言い返す言葉が見つからず、照れくささに若干顔を赤らめながら押し黙る修真。

そんな修真に、見計らったようなタイミングでマキたちが出てくる。


「修様ぁ〜。準備できましたよぉ〜」


それぞれが手に荷物を持ち、リビングに入ってくる。

マキは大きな手提げ袋から、恐らくはビキニの上であろう物体をはみ出させ、ミュランダは麦わら帽子を被り、脇に浮き輪を抱えている。いかにも海というイメージの格好だ。

しかしポチは、迷彩柄のカーゴパンツに、黒いタンクトップという格好で、更にはバズーカらしき物を肩に担いでいる。

ちなみに、何故前回まで所持していなかった水着があるのかという所だが、それはこの小説がコメディーだからに他ならない。

そんな、三人に向かって修真はため息をつきながら問う。


「はい、この中に勘違いしている子が一人います。誰でしょう」


女子三人は、お互いを見て首をかしげる。

そして、バズーカらしき物体を部屋の壁に立て掛け、ポチが一歩前へ出る。


「みんなそれぞれ、真面目に準備してきたつもりよ。何かおかしな点でもあったかしら?」


ポチは自分の服装を確認しながら、修真に答える。


「うん、あるよね。一番おかしな人が、その事に気付いてないよね」


「一体どこがおかしいっていうのかしら?」


「お前の頭じゃぁぁぁぁぁあ!!」


その後、ポチの再準備に時間を取りつつも、一同は、魔界に進む為にダイニングに敷いてあるカーペットを捲り上げ、いつぞやの時に床に刻まれた魔法陣を囲んでいた。

余談だが、この時のポチの服装は、至ってシンプルなクリーム色のワンピースに、髪を側頭部で結っているというスタイルである。

そして、ミュランダは、ゲートを呼ぶ為に詠唱を始める。


「カモン!レッツゲートトゥギャザーナウ!」


ミュランダの台詞と共に足元の魔法陣が光り、ゲートが現れる。


(いやいや)


その状況を見て、修真は例え様のない脱力感に襲われる。

前回は、長々しい呪文を唱えていたはずである。

しかし、今ミュランダが唱えた呪文は、どう贔屓目ひいきめに見ても英語、それも発音が限りなく下手な。

修真的表現を用いるならば、牛丼とカルピスぐらいの違いである。


「この前と、だーいぶ違う気がするんだけど?」


「今日のは、たーんしゅく版だけど?」


そんな修真の疑問に、同じイントネーションで答えるミュランダ。

憎たらしく笑うミュランダの顔を見て、落胆する修真。

そんな二人とは別に、笑顔でゲートに話し掛けるマキ。


「すいませ〜ん、大人四人に子供一人お願いしたいんですけどぉ〜」


マキに向かってゲートから声が発せられる。


「ヘイヘーイ!!お嬢さん僕とお茶しなーいウェイ?」


が、それは何とも場違いな発言だった。

瞬間、修真はゲートに向かって魔剣ストールの刃を突きつける。

その間、実に0.25秒。

久しぶりの苛つきキャラに、これまた久しぶりの全力のメンチ切り。


「久しぶりだな。おかしな語尾をいつの間にか習得したようだが、てめーに裂いてやれる文字は一文字もない、おとなしく黙ってろ」


一同、完璧に苛ついている修真から一歩後退る。

そして、感じる。

この人を怒らしてはいけないと。


「ご、ごめんウェイ。でも、登場した瞬間に、それはあんまりだウェイ。子供はタダだから、四百円だウェイ」


その言葉を聞いて、ストールに魔力を注ぎ込む。

淡い紫の光りを帯びるストール。

そんな修真の後ろで、ミュランダが頭にかぶった麦藁帽子から可愛らしいピンク色の財布を取り出し、百円を四枚ゲートに投げ入れる。

何故そんな所に財布を所持しているのかというと、修真に『財布だけは何があっても無くすな』と教えられているからである。


「その意味不明な語尾ごと、お前をこの世から消し去ってもいいんだぞ?嫌なら真面目にやれ。それと、おかしな語尾如きで、レギュラーメンバーになれると思ったら大間違いだ」


「ホントすいませんでした。既にこの部屋を魔界に転送したんで、帰って良いですか?」


どすん、という大きな音が鳴り響く

そのままの姿勢を崩さず、ゲートを睨みつけたまま修真は答える。


「前回の登場を完璧に無視し、片仮名でなくなった所までは許してやるから、さっさと消えろ。俺は、こう見えて短気なんだ」


ぼん、という表現がぴったりな煙と共に消えるゲート。

しかし、どこからともなく声が響く。


「イェーイ!僕ちんは、誰にも止められないウェーイ!短気は損気だウェーイ!」


構えていたストールを下ろし、舌打ちをする修真。


「一人称も変えやがった…」


「と、とにかく、行きましょうか」


係長の言葉で、そそくさと部屋を出て行く四人。

その後に修真も続く。


「海だー!」


何の変哲もないマンションの一室から出ると、沖縄もびっくりの常夏アイランドが広がっていた。

しかし、白い砂浜にぽつりと存在し、常夏のリゾート地のような魔界で違和感をかもし出す金属製のドアから出て来た5人は、別段驚く事もなく、さくさくと砂浜を歩いて行く。


「あの後、魔界の人達は、上手くやってるんですか?」


もの凄く唐突に魔界の主、即ち魔王という肩書きを手に入れた修真は、その肩書きから発生する、理不尽な罪悪感を感じていた。

突然押し付けられたと言っても、一度なってしまったものはそれなりの責任がある。


「ええ、元々は人間界程の文明があった訳ですので、その残骸を上手く使いつつ、なんとかやっていますよ」


我慢できなくなったのか、上着を脱ぎ捨て、青く輝く海に向かって走り出すミュランダ。


「そっか…なんかすいませんでした。ほったらかしにしちゃって」


そんなミュランダに手を引かれ、戸惑いながらも付いて行くポチ。

それを、笑顔で追いかけるマキ。


「いえ、皆、古き良き生活を楽しんでいますよ。主食は魚になってしまいましたがね…あの、森の中に我々の村があります。そこに参りましょう」


砂浜を走っている三人を何かの影が覆う。

足を止め、空を見上げる。


「あら、あれは…」


「すごいですねぇ〜」


「かっこいいー!」


海辺の森林、その上空に、巨大な物体が浮遊していた。

それは、現在いる島の三分の一程の大きさの、巨大戦艦。

一言で説明するなら、『ごつい』という表現が正しいだろう。

よく見ると、その黒い船体に『魔界協和連合』とでかでかと書かれている。


「おいおい、なんだあれ!シューティングゲームのラスボス!?」


驚いている修真に、興奮気味のミュランダが駆け寄る。


「ねぇパパ!私、あれ欲しいよ!飼って良い!?」


「無茶ゆーな!あんなもん、まず家に入らんわ!」


遅れて、マキとポチも集まってくる。


「修様、超弩級(ちょうどきゅう)戦艦ですよ!ビーム出ますよ、ビーム!きゃーッ!」


それはもう恋にときめく少女のような顔で、ビームの有無について興奮しているマキ。

戦艦に思いを馳せる者同士、マキとミュランダは、手を取り合いぴょんぴょん飛び跳ねている。


「いや、ビームは出るかもしれないけど…テンション上がり過ぎだから。つーか、ビーム出るの?」


そんな中、係長の次に落ち着いているポチが口を開く。


「あれは確か、ゴルデス戦役から二年後の…」


「皆さん、早く参りましょう」


「「「はーい」」」


ポチをその場に置いて、歩き出す四人。


「おのれッ、係長の分際で!」


浜辺を歩いていくと、木々に囲まれた開けた場所に二十軒程の木造の家が密集して建っていた。

その、ログハウスとも言える家は、どうやらねずみ返しを採用しているようで、修真に、中学の歴史で学んだ弥生時代の建物を彷彿とさせた。


「文化だねぇ」


村の畑を耕していた一人の男が、係長率いるその一団を見て声をあげる。


「魔王だぁぁぁあ!」


密集している家々の扉が同時に、勢い良く開く。

そこから飛び出してくる村人。

その村人が、物凄い速さで、修真に駆け寄ってくる。


「へ?」


老若男女問わず、修真を囲む。


「ちょっと、今まで何処行ってたんだい!?」


「魔王だー!」


「本物?」


「おお、なんと神々しい…」


口々に言いながら、修真の服を引っ張ったり、頭に触ったり、肩を叩いたり、つねったり、蹴ったり、殴ったり。


「だぁぁぁあ!誰だ、今殴った奴!」


そんな声も虚しく、村人の歓迎は止まない。

数人に持ち上げられ、その場で胴上げ。


「かーたーぎりっ!」


「ちょ!怖い怖い!降ろしてぇぇえええ」


「かーたーぎりっ!」


その一部始終を呆気にとられた顔で傍観しているマキ達。


「修様、人気者ですねぇ〜」


担がれたまま、村の広場に連れ去られる修真。


「たーすーけーてー!」


「パパったら、あんなにはしゃいじゃって」


そのまま数十人の村人に、もみくちゃにされている。


「ふふ、ホントね。とっても楽しそうだわ」


「いーやー!」


そこから、何故か修真の服が飛んできて、係長の頭を覆う。


「村人も喜んでおります」


その服を、綺麗に畳みながら係長は笑顔で言う。


「やーめーろー!」


その後、村人がはしゃぎ過ぎて疲れ果てる頃には、修真の体は、ボロボロだった。

何故か、パンツ一枚まで服を引っぺがされており、体の至る所が、手の平の形に赤くなっている。


「ううっ…なんか色々された…もう、お嫁に行けない…」


泣きながら、がっくりとうなだれる修真。

その肩に、マキがそっと手を置く。


「大丈夫ですよぅ〜、私が貰ってあげますからぁ〜」


このマキの行動が、慰めるつもりなのか、追い討ちをかけるつもりなのか、皆目見当のつかない修真だった。

どっちにしても、精神的ダメージには変わり無いのだが。

その後、係長に、村の中でも一番大きめの家に案内された。

その大きめの家は、修真の為に用意された家らしく、家の表札代わりに、屋根に看板が取り付けられていて『片桐専用!』と、達筆で書かれている。

係長の話では、村人がいつの間にか作っていたという経緯で建てられた家。

『片桐万歳!』という掛札がしてあるドアを、係長がノックの後に開ける。


「魔王片桐をお連れしました」


殺風景な部屋の中で、窓の外を見ていた人影が振り向く。


(女?)


窓から入ってくる日光で見えにくいが、華奢な体に細い手足のシルエットでなんとなくそう思った。


「ああ、ご苦労様です。突然押し掛けたりして、申し訳ないですわ」


美しいピアノの旋律のような綺麗な声で、その女性は答える。

部屋の薄暗さにも慣れた頃、修真の目に映った白い制服のような服を着た女性は、とんでもない美人だった。

その女性は、恐らく、年の頃は二十代前半で、容姿は、服の上からでも分かる細い体に、可愛いとも美人とも取れる顔、全てが修真のストライクゾーンにホームランだった。


「どうも、魔王片桐です。この度は、私の魔界までご足労いたたたたたた!」


「い・つ・か・ら!そんな渋い声が出るようになったんですかぁ?」


額に、青筋を立てながら、マキは修真の耳を捻り上げる。


「わぁ〜!お姉さん美人だね〜!」


と、ミュランダが言ってしまう程、本当に美人だった。

そんな、ミュランダにその女性は笑顔で答える。


「あら、お上手なお嬢様ですこと、そういうあなたも美人ですわ」


ぼっ、と顔が赤くなるミュランダ。

その、気品に満ちた佇まいと、美しい容姿から繰り出される百点満点の笑顔に、修真は撃沈寸前だった。

中でも特徴的だったのが、髪。

軽くウェーブの掛かった床に届きそうな長い髪、その色は夕焼けのような深いだいだい色。

生え際から毛先にかけて、徐々に色が淡くなっていく。

さながら、優しく揺れる夕暮れの海のようだった。


「このッ!恋愛に興味が持てないとか、言っておきながらッ!」


「ちょ、タイム!それとこれとは別、ぐほっ!」


マキの鋭いボディブローに、痛みに悶えてうずくまる修真。

修真に駆け寄る女性。


「大丈夫ですか?お怪我は?」


修真の目線の先には、今までの登場人物には無かった物が存在していた。

立ち位置的には、修真の目の前で女性が、かがんでいるという具合。


(豊作ッ!)


こういう場合、本人はバレていないつもりでも、周りから見ると意外とバレていたりする。


「修様ぁ〜、ど・こ・を・見てるんですか?」


マキは、修真の腕を、力一杯捻り上げる。


「ぐおぉぉぉッ!折れる!ギブ、ギブ!」


二人のやりとりを、きょとんとした表情で見ている女性。

その行為に、マキは女性特有のライバル心を燃え上がらせていた。


(胸を強調しておきながら、そ知らぬ顔とは…この女、できる!)


目の前の少女から、妙な威圧を感じながらも女性は自己紹介を始める。


「どうも、はじめまして魔王片桐様。私、魔界協和連合所属、第参連絡艦だいさんれんらくかん潮塞しおさいの艦長を務めております、エルナ・パースタルと申しますわ。以後、エルナとお呼び下さい」


そう言って、深く頭を下げるエルナ。


「あ、どうも」


修真に続くようにミュランダも軽く会釈する。

しかし、マキは微動だにせず、ただ見つめている。

エルナの胸を。


「あれ、ポチは?」


先程まで、部屋にいたはずのポチが、何処にもいない事に気付く修真。

同時に、エルナの方から機械的な信号音が鳴る。

上着のポケットから、タクシーの無線機のような物を取り出し、赤く光っているボタンを押す。


(通信機?)


その通信機らしき物体から、若く威勢の良い女の子の声が漏れる。


『艦長〜!変な人が来て、潮塞の中を見学したいー、言うて聞かないんですけどぉ〜。何とかしてくださいよぉ〜』


その声に、少し考えてエルナは答える。


「そう…良いじゃない。見学させて差し上げて」


『どうなっても知りませんよ〜?』


「ええ、責任は私が取るわ。あ、ついでに、りっちゃんは、お客様をご案内して差し上げてね」


そう言って、エルナは通信機のスイッチを切った。



広い空間に、多種多様な機械と、魔界の美しい風景を映し出している巨大な画面。

潮塞のブリッジで、りっちゃんことりつは、切れた通信機を見つめ、なんともやりきれない思いだった。


(ほんま、人使い荒い人やわ)


片手で、目の前にあるキーボードをカタカタと打つ。

大きな画面に、カメラにへばり付いている白髪の若い女性が映しだされる。


「あの〜すいません、艦長から許可が下りたんで、案内します。今から後部デッキのハッチ開けるんで、その辺で待ってて下さい」


そう言って雪はスピーカーを切り、船体後部の昇降口に向かった。



目の前に差し出される一枚の紙。

良く見ても、良く見なくても、この世の物とは思えない文字の羅列がそこに書かれていた。

その紙は、エルナいわく魔界協和連合との和平に賛同するものらしい。

しかし修真は、異世界の教養などを受けて育った、などという運命を感じる過去経験は無い訳で、魔界の文字も勿論読めなかった。


(読めん!)


その、修真の様子を察してか、ミュランダが修真の体をよじ登り、肩からその紙に書かれた文字を覗き見る。


「えーっと、特にこの魔界が不利になるような事は、書かれてないみたいだよ」


エルナは笑顔で口を開く。


「それはそうですわ。私達は、和平を結びに来たんですもの。そちらの不利になるような事は書いてないはずですわ」


「係長、どう思う?」


「これは、むしろこの魔界に有利な条件ばかりですな。物資の給与、貿易の開始、街の復興の援助…などなど」


そこまで聞いて、修真は黙る。

良く考えてみれば、おかしな話である。

多数ある魔界が、平和の為に締結しているまでは頷けるが、最近魔王が変わっただけでここまで好条件の和平を用意する必要があるのだろうか。

そこまで考えて、修真は一つの答えに到達する。


「あんた達の目的は…マキか?」


「さすが、魔王ですわね…」




はい、という訳で17話でしたがいかがでしたでしょうか。

ちなみに、新キャラのエルナさんと、りっちゃんは作者のお気に入りです。

はい、どうでもいいですね。

そういえば、タイトルに関わらずあまり戦ってないので次回こそは、戦うつもりです


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