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弟15話、別に新作に全力を注いでいる訳ではない

ケルベロスに襲われた日の夜。


晩ご飯もとり終え、4人でテーブルに座り、今日の事を話す。


「んで、あのケルベロスって奴はゲートから出て来たんだけど…」


と、話を切り出す。


「まぁ、ゲートを通って来た以上、何者かの手の者ですよねぇ〜」


マキは、デザートのプリンを食べながら話す。


「私も聞こうとしたんだけど、あのワンちゃん、喋ってくれなかったのよね」


 

そう言いながら、コーヒーを飲むポチ


「ゲートっていうのは、魔力の素質があって、ある程度の魔導の知識が無いと使えないんだよー」


そう言いながらミュランダは、ポチのメガネケースをパカパカ閉じたり開けたりして遊ぶ。


「つー事は、誰かが俺達の命を狙ってるって事?」


三人共、急に黙り込む。ミュランダのメガネケースをパカパカさせる音だけが静かに鳴る。


そして、ポチが口を開く。

 

「俺達じゃなくて、マスター…あなたが狙われているんだと思うけど?」


「え?俺?」


「そう、聞けば、今までも何度か襲われたみたいじゃない?」


「えっと、最初のでかい奴に、ガーゴイルに、今日のケルベロス…三回か」


ミュランダを数に入れなかったのは、この件には関係無さそうだからだ。


「偶然だと思う?」


「…」


現実的に考えれば偶然ではない。だが、偶然の可能性も捨て切れない、と言うより、偶然であって欲しかった。


「まぁ、とにかくぅ〜敵の正体が分からないんじゃ動きようがないですよねぇ〜」


緊張感の漂うムードを全力で無視して、脳天気な事を言うマキ。


「あのねママ、マスターの命に関わる事なのよ?良くそんな余裕でいられるものね」


「それは…修様は強いですし…」


ちらりと修真を見るマキ。


いや、こっち見るな。俺はポチより弱いんだから。


「それに毎日、魔力を練る練習も、みんなが寝た後にやってるみたいですしぃ…」


やめろぉおおお!!恥ずかしいから!!バラさないでぇえええ!!


俺は、腕を組み冷静な表情をキープしつつも、心の中では穴があったら入りたい、むしろ穴を掘ってでも入りたい気分だった。


「そんなもの、何の役にも立たないわ」


あくまでも理論的に話をするポチ、そこに気遣いは無い。


ええええええっ!?結構頑張ってたけど意味無かったの!?

「でも、たまに私と実戦練習もしてますしぃ」


「良い?自分よりも弱い者と戦っても強くなれないの、今のママならマスターでも勝てるハズよ」


「それは…」


俯くマキ。


「今の…って?」


疑問に思って尋ねる。

思えば、ミュランダと会った日も朝からドンパチやってたけどマキからはポチ程プレッシャーを感じなかった、むしろ楽しむ戦いのような。


「今は、マスターの中にママが存在してるんでしょ?」


 

「そうです…」


「らしいな」


じっと俺の胸を見るポチ。


「ママって、手加減してるでしょ?」


「はい…」


加減?


「俺にも分かるように説明してくれ」


「つまり…」


「待って!私が言います…」


口を開きかけたポチを制止するマキ。


「修様、私が手加減しているとポチちゃんが言いましたが、それは私の意志ではありません。」


悲しげな表情で語り出すマキ。


「うん」

「私には元々、使用者とのバランスを考えたセキュリティが多数設けられています。」


「それで?」



「使用者の許容範囲以上の魔力を注げば、使用者の体がその魔力に耐えられず、暴走します」


「暴走…」


聞くだけでかなりの危険ワードだという事が分かる。


「暴走とは即ち、死を意味します。」


とんでもない危険ワードだった! 


「それを防ぐ為のセキュリティでもあるんですが、私も万能ではありません。元々、私は兵器ですから、使用者の意志には基本的に逆らえません。」


ウソだ!!絶対ウソだ!!毎日逆らってる!!


「使用者の感情の高揚が激しいと、強引に第一のセキュリティがほんの少し外れてしまいます。修様は、覚えがありませんか?」


「確か、グリント城や、今日の戦いの時も…」


修真の脳裏に、ポチを復活させた時、今日のケルベロスの戦いの時の事が思い浮かぶ。


「そうです、でも今日は違いました。修様の感情の爆発により、第一のセキュリティが完全に外れてしまったのです」


確かに今日は変だった、自分が自分でなくなるような…


「暴走とは肉体が滅びるだけではありません、初期の段階として心が壊れます。」


「いや、俺、まだ壊れて無いけど?」


普通の人間としての日常は壊れるどころか、粉砕してますけどね。


「修様は、今日はどんな感じがしましたか?」


「あぁ、心が怒りとか殺意だけになったような…」


思い出すだけで自分が怖くなる。


「それは、心が壊れる初期症状です。自分では制御できない膨大な力が溢れ、一種の錯乱状態に陥り、理性が無くなり、殺意や破壊衝動に駆られます。」


「…理性が無くなる」


あの時の自分を思い出す。

敵を殺す事しか頭に無かった。


「心が完全に壊れたらどうなると思いますか?」


「どう…なるんだ?」 

怖くて何も想像したくなかった…いや、できなかった。


「数ある感情が消え去り、心の全てを破壊衝動が支配し、殺戮と破壊だけを繰り返す、力だけを欲する人では無い者になってしまいます」


怖くなったのか、ミュランダはポチにギュッと抱き付く。


「簡単に説明しましょう」


マキはそう言うと、ペンを取り出し、近くにあったスーパーのチラシの裏に円を二つ書く。


「簡単に考えると人間の心は、様々な感情や思想、そして深層心理などに分けられます。細かく書くと膨大な量になってしまうので今は省略します」


一つの円に感情、思想、深層心理と三分割するように線を書くマキ。


「これが普通の心の状態です。この状態の感情の高揚でも、第一セキュリティを完全とまではいきませんが、魔機から魔力が少量溢れ出すくらいの解除は可能です」


「グリント城の時の場合の事か?」


こくりと頷くマキ。


「次に、先程説明した心が壊れた場合です。」


もう一つの円に破壊衝動とだけ書く。


「どうですか?」


なるほど、色々な要素がある中での感情の高揚で、セキュリティが若干解除できるなら、純度100%の力だけを望む感情の強さは…


「なるほど…力を欲する感情の強烈さで、他のセキュリティも解けてしまうのね?」


しがみついているミュランダの頭を撫でながらポチが尋ねる。


「その通りです、ポチちゃん」

それで強大な魔力が一気に体に溢れて…


「で、その後は?」


「体が魔機から注がれる魔力に耐え切れず…ドカン、です」



聞くだけで恐ろしい、今まで聞いたどんな話よりも怖かった。


あれ?おかしいな。


「でも今日の俺は、第一段階が完全に解除された状態だったんだろ?」


「ええ、そうです」


「なら、なんで今無事なの?」


一番の疑問。


「それは、ポチちゃんのおかげです」


「私?」


キョトンとするポチ。


「見てないのでわかりませんが、ポチちゃんが天使化する時、膨大な魔力を消費したんじゃないですか?」


「え?あぁ、近くに魔力を持ってるのがケルベロスとマスターだけだったから、かなり魔力を頂いたわ」


「そのおかげで俺の中の魔力はごっそり減って、暴走は免れた…と」


有り難いやら、有り難くないやら


「感情にダメージを与えたのも要因の一つですが、とりあえずこの話はここまでにしましょう」


 

「…そうだな」


ここで同意したのは、これ以上聞くのが嫌だったのもあるし、ミュランダが泣きそうな顔をしていたからでもある。


「…」


「…」


「…」


「…」


そして一同沈黙。


「私、牛乳が無いのでちょっとコンビニ行ってきます」


と言って、走って玄関から出て行くマキ


「あ、おい!」


「マスター話があるんだけど良いかしら?」


「なに?」


「こんな時に言うの酷かもしれないけど…ママが悲しんでる原因は、あなたにあるのよ?」


俺が弱いから…か


「私は(あるじ)のあなたを守る使命があるの、だからあなたを鍛えさせて」


「…」


「勿論、返事は今すぐじゃなくていいの、マスターの意志が固まった時で良いから…それに、使命だけじゃなくて、ママもマスターも好きだから協力したいの」


女にこんな事言われるなんて情けねーなー俺。「…うん、情けないけどちょっと時間もらうわ」


あまりの自分の情けなさに笑えてくる。


「ううん、良いの」


と首を横に振るポチ。


「あ、ミュランダ寝ちゃったな」


ポチにしがみついていたミュランダは、いつの間にか寝てしまっていた。


「ちょっと難しい話だったからかしら?」


くすっと二人でミュランダの可愛い寝顔を見て笑う。


「じゃあミュランダ、ベッドに寝かせてくるから」


「おう」



誰もいなくなったリビングで今日の事を振り返ろうとして嫌になって途中でやめる。


「弱い…か」


女の子に言われるとキッツイなー。


何か飲んで気を紛らわそうと思って、冷蔵庫を開ける。


「あいつ…」



その頃マキはマンションの屋上にいた。


「もっと時期を見て言うつもりだったのになぁ〜」


夜景を見ながら溜め息をこぼす。


夜風がマキを撫でる。


きっと修様は、私の事嫌いになったんだろう、家に帰った私を修様はどんな顔で見るんだろ?

そんな事を考えていると次第に家に帰り難くなる。


「あーあ、何で人なんか好きになっちゃうんだろうなぁ…嫌われるくらいなら好きなんてならなきゃ良かったのに…」


家に帰った自分を、恐怖に引きつる表情で見る修真を想像して、胸が締め付けられる。


「もうホントに…」


ペタリと座り込み膝を抱くマキ。


悲しい、苦しい、息が詰まる、心が痛い。


「くっ……うっ……」


自分のせいで、修真に恐怖を与えてしまった、酷い現実を突き付けてしまった、人間としての平和な人生を奪ってしまった。


「…う……うっ…」


目から大粒の涙が溢れる。


「おい、てめー、冷蔵庫に牛乳あんじゃねーか」


急に夜の屋上に声が響く、聞き間違う事のない、好きな人の声。


「しかも、屋上じゃ牛乳買えないぞ?最近じゃ屋上の事をコンビニって言うのか?」


足音が近付いてくる。


「来ないで下さい!」


マキの言葉に足を止める


「…」


泣き顔を見られるのが嫌だった、露骨に嫌われるのが嫌だった、他の誰でもない修真だけには嫌われたくなかった。


「泣いてんの?」


「…なっ…泣いてませんよ!」


「泣いてんじゃん」


「なっ…何しに…来たんですか!」


苦し紛れで変な事を聞いてしまう。


「隣いい?」


「…おっ…お好きにどーぞ」

「そんじゃ、お言葉に甘えて」


ゆっくりとマキの隣に座る。


「なんかさ…ゴメンな」


マキは耳を疑った。自分に向けられるのは、自分のせいで理不尽な状況に陥った修真の怒りだと思っていた。


「…なんで謝るんですか?」


「俺が弱いからさ、お前が辛い思いしてるってポチに言われちゃってさ…」


「そんなっ!?修様は巻き込まれただけじゃないですか!?」


「それはお前もだろ?」


「…なっ?」


修真の予想外の一言に言葉を失う。


「俺さ、ポチに鍛えてもらおうと思うんだ」


「…」


「でもさ、それって俺一人じゃできないんだよね」


「…」


「一緒に頑張ってみない?」


「…はい」


それは、掠れて聞こえない程小さな声。


「ありがとうマキ」


それはマキの心を締め付けている物を断ち切る言葉。

「でもさー、案外女の子に弱いって言われるのってキツイよなぁ〜」


「そんな事ない…」


「え?」


(修様は、世界で一番…)


「まだまだ修行不足って事ですよぉ〜」


「ははっ、そうだな…そろそろ帰ろっか?」


「はい!」


立ち上がった修真が差し出した手。

一瞬ためらいながらも、マキはその手をとる。



この日、初めて二人は手を繋いだ。



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