第12話、メガネとオセロ
あれ?これって本当にコメディーか?
魔界から帰ってきて次の日の朝、予想範囲内というかどうせこうなるだろうという予想が見事に的中してしまった。
「…学校及び職場で指定された衣服」
とポチ
「素直に制服って言えよ」
「パパ!私達本当に学校行って良いの!?」
ミュランダは興奮気味だ。
「しょうがないだろー?クソ親父が編入手続きしたって書いてあったしさぁ…」
いつぞやの時と同じように朝っぱらから宅配便が届いた。中身は学校の制服で味噌汁臭い手紙も同封されていた、内容はこうだ。
修真へ
新しく家族が増えたんだって?あ、ちなみに手紙書いてる時に味噌汁とかこぼしてないから、そんなことよりも、片桐家のニューフェイスの子もばっちり編入手続きしといたから!
PS、キャバクラ通いは引退します…別にそんなんじゃないから…フられたとかじゃないから!!後マキちゃんの事だけど…あー手疲れた書くのやーめよ。
「いつもいつも大事な所で適当おおおお!!」
憎しみを込めて手紙を八つ裂きにする。
「なんて書いてあったんですかぁ〜?」
パジャマ姿で目を擦りながらマキが起きてくる。
「しらねーよ!キャバ嬢にフられた事しかわからんかったわ!!」
「相変わらずですねぇ〜」
「いつかぶん殴ってやる」
「暴力はいけませんよ〜?」
というのが10分前の出来事で、今はミュランダとポチがマキに制服を着せてもらっている。
「ねーパパぁ〜似合う?」
寝室で着替えて来たミュランダがパタパタと出て来きて俺の前でくるっと回って見せる。
「まぁいいんじゃないの?」
「なにその反応…」
「しゅ〜うさ〜まぁ〜」
マキが背後からぬっと出て来てガルアスかトュッティかわからないが銃を俺の背中に突き付ける。
「いやっかわいいよ?マジで!うん、本当似合ってるよ!ミュランダだったらモデルになれるんじゃないかな!?」
「そっそうかなぁ?」
ミュランダはポっと赤くなる。
しかし俺はそれどころではない、早朝から生きるか死ぬかの瀬戸際を彷徨っているのだから。
「ほら、ポチはどうしたの?ちょっと呼んできてよミュランダ」
「うん!わかったよ〜」
笑顔で承諾すると、ポチを呼ぶ為にミュランダが寝室に消える。
「修様、乙女心は大切にしましょうね?」
「は…はい、以後気をつけます」
さわやかスマイルで銃を突き付けるんだからたまったもんじゃない、逆に怖い逆に
「お姉ぇちゃん速く速く!」
ぐいぐいとポチを引っ張るミュランダ。
「…ちょちょっと、ミュランダ…」
焦りながらもミュランダに引っ張られながら台所にやってくる。
「おお!」
「…制服着た」
と恥ずかしそうに俯くポチ
「お前…本当に」
「…似合う?」
兵器であろうがなんだろうが主人に褒められれば嬉しい。ましてや女の子であるからして、その外見もとい女性としての美しさを褒められたら嬉しくない訳がない、ポチもまた例外では無かった。
「お前等本当にそっくりだな!双子みたいだ!」
ゴン!
味噌汁を温めていたマキが素早くおたまで俺を殴る
「…乙女心」
とマキがぼそりと耳元で呟く。
「まっまぁ?そっくりなのは置いといてさ!うん、ポチも本当似合ってるよ!いやぁ〜かわいいなぁ!」
「…ど…どうも」
と言い更に顔を赤らめるポチ、耳まで赤い
「それじゃあ朝ご飯にしましょうかぁ〜」
マキはご飯やら味噌汁やらをテーブルに並べていく、ミュランダとポチはほとんど同じタイミングで席について右手で肩にかかった長い髪を後ろに払う。
「シンクロだなぁ〜」
「シンクロですねぇ〜」
「え?何が?」
どうやら本人達は気付いて無いらしい、ポチとミュランダは首を傾げるがその傾けた首の角度も表情もそっくりだった。
「俺…どっちがどっちか分からなくなりそう」
「私もですぅ」
唯一区別出来るポイントがミュランダの髪が金髪で、ポチが白髪であるという事だけである。
正に瓜二つ、しかし天使の姉妹はそんな事を気にも止めずバクバクとご飯を食べている。
「おかわり!」
「…二杯目」と言い茶碗を俺とマキに差し出すミュランダとポチ。
「朝から良く食べますねぇ〜」
「お前もな!」
さり気なく自分の二杯目のご飯をついでいたマキがビクッと止まる。
「ば…バレましたか…」
「バレるわ普通!」
「女の子は栄誉が必要なんですぅ〜!」
一体何に必要なんだか
「…ミュランダと私の茶碗が逆…」
「あ」
さっとミュランダとポチの茶碗を変えるマキ。
「ママってばしっかりしてよぉー」
「あはは…」
マキはミュランダとポチに苦笑いで答えると同時に目で助けを求めてくるが、俺は無視して味噌汁を啜る
「あー!今日ってアレの宿題ありませんでしたっけ!?」
「え?何の宿題?…ぐえっ…」
「いーや、ありました!絶対にありました!」
ずるずるとマキに引きずられて寝室に連れ去られる、天使の姉妹は尚もバクバクと朝食を続けるのだった。
「修様!これは由々しき問題です!」
「まぁ確かに…」
「なんとかしましょう!」
「いや、でもさぁーどうすんの?」
「色々あるじゃないですか!例えば髪型変えるとか、あと…髪型変えるとか、あとは…髪型変えるとか?」
「それしか思いつかんかったんかい!」
「…はい」
「んーその内なんとかなるんじゃない?」
という曖昧な感じで場を治め食卓に戻る。実際、気をつけていたら間違える事はない。
「…って、うおぃ!!」
ミュランダとポチは仲良くテレビを見ている。彼女等が食卓を離れるという事は、食べる物が無くなったという意味を指している。
案の定、味噌汁も鍋から消えて、ご飯も釜から無くなっていた。
「ママ達が遅いから全部食べちゃったよ?」
「…空腹解消」
ま、朝はそんなに食べたくないから良いんだけど。
「ところでさ、お前等って何か嫌いな食べ物とかあるの?」
これまた同じ仕草で悩み出す二人、悩んだ末に出た結果は
「「特に無い」」
の一言。
まぁ学校行ったらそれぞれ違ってくるだろ的な考えで時間がきたので四人で家を後にする、がシンクロ姉妹は強かった。
「ねー、お姉ちゃん、学校って行った事ある?」
「…無いよ…学校は同年代の子供が集まり勉学に励む所なんだって…」
「へぇ〜楽しみだね!」
などと微笑ましいのか微笑ましく無いのか良く分からない会話をしている。
「そういえばポチ達ってどこのクラスになるんだろうな?」
「さぁ?一年生になるんでしょうかね?」
「不安だなぁ」
この天使の姉妹を野放しにして大丈夫なのだろうか?マキよりは大人しいけど…その破壊力は桁外れな訳で。
今から不安でいっぱいだ。
「何かあった時は私達でなんとかすれば良いじゃないですかぁ〜」
「それもそっか」
というマキのもっともらしい意見に同調する。
そんなこんなで学校について、ミュランダとポチを職員室に案内し、教室に向かう。
「あっ片桐君おはよー」
嘉奈だ
「おはよう」
「なんか久々の登場だから緊張するよ」
登場早々、何もかもが崩壊するような事を言いやがった!
「あー!嘉奈さんおはようございますぅ〜」
「おはよーマキちゃん久しぶりだねぇ元気だった?」
違う!違うから!久しぶりとかじゃないから昨日学校休んだだけだから!それは嘉奈がアレなだけだから!
「えーっと…元気でしたよ!」
「そうそう今日また転校生がくるんだって、知ってる?」
「「知ってる」」
「あら?情報早いねー二人とも」
何しろその転校生は片桐家に住んでいるからだ。
というより何人転校生が来るんだこの学校は。
「おーいホールルー…あ、久しぶりで緊張してたから噛んだ、ホームルール始めるぞー」
と先生が入ってくる
言い直しても間違ってる!つーかどいつもこいつも久しぶりとか言ってんじゃねぇよ!
「はい、急だが転校生が来たから仲良くしてやってくれー、だいぶ前に片桐親戚を紹介した気がするが…」
だいぶ前じゃねーよ、最近だよ、余計な事いうなよ。
「はい、ツイン奥村入ってー」
ちなみに奥村と言うのは母の旧姓である。
片桐が学校に4人も存在しているのは若干不自然なので、ミュランダとポチは奥村と名乗る事にした。
「失礼しまぁーす!」
「…」
ミュランダとポチが入って来る
「えーと、ダブル奥村はイギリスで暮らしてたんだが、親御さんの仕事の都合で日本に来たそうだー」
ツインでもダブルでも良いから統一しろよ。
「じゃあ自己紹介してくれー」
「奥村ミュラです!イギリス育ちで日本の事はあまり詳しくないので分からない事もありますが、一生懸命頑張るので仲良くして下さい」
と言い、ぺこりとお辞儀をするミュランダ。
おおおおっ!!
と男子から歓声がわく、
「ミュラちゃんなかなか好印象ですねぇ〜」
「まぁ、新たなる才能というかなんというか」
そして、クラスの視線がポチに集中する。
「…奥村ポチです…よろしく…父がイギリス人…です」
父親の説明は必要無いんじゃないか?とも思ったがポチにしたら上出来だ。
ぉ…おおおおっ!!
「今の間は一体なんでしょう?」
「まぁ名前が名前だからなぁ〜みんな耳を疑ったんだろ?でも結局はポチのルックス勝ちだ」
たとえ所々に問題があろうと、この姉妹の場合はそれを打ち崩してしまうルックスがあった。
「と、言う事でみんな仲良くするようにーちなみに二人は双子だそうだー。後、次の出番がいつになるかわからん先生は帰りたくないぞー」
はよ出てけ。
「はーい、と言う訳で、これでホールルールルを終わるー」
ガララっと戸を開けて渋々先生は出て行く。
最後にほとんど噛んでいきやがった。
ホームルールあ、違う、ホームルームが終わった後は恒例の質問攻めで
「ねーイギリスってどんな所?」
「ミュラちゃん、アドレス教えてー」
「ポチちゃんて言うの?変わった名前だね!」
「ポチちゃんケータイの番号教えてよ〜」
などなど、しかしマキの時とは違った…男子の派閥が早くもできていた、ミュランダとポチそれぞれが人に囲まれていた。
ミュランダは
「えっと、イギリスは自然が多い所だよ」
「ゴメンね、携帯電話は持って無いんだー」
とか、割りと普通に上手くイギリスの辺りを誤魔化していた。一方ポチは
「…名前はパパがつけた…文句はパパに言って…」
「…ケータイって…何?」
まぁ無理もないか、ついこの前まで眠ってたんだもんなぁ。
「良し、そろそろ救出だ、俺はポチ行くから、マキはミュランダな」
「了解でーす」
ポチを囲んでいる一団の中に割って入る。
「はいはい、質問タイム終了」
さっとポチが俺の後ろに隠れる。
「なんだよ片桐ー?良いだろー?」
「まだアドレス聞いてねーよー」
と不満爆発だ。
携帯電話を持ってないポチにこれ以上何を聞くつもりなのやら。
一方マキは
「そろそろミュラちゃんへの質問はー」
「あ、マキちゃんにもアドレス聞いて無かった!」
「あ、そうだ教えてよ!」
「え?いやその困りますぅ〜」
「ママ携帯持ってないんだよねー?」
と、逆にミュランダに助けてもらっている、
何やってんだか。
ここで、事態を見守っていた嘉奈が口を開く。
「ねぇ片桐君、今、ミュラちゃんが、マキちゃんの事ママって呼んでたけど…どういう意味なの?」
「あ、えーっと、ミュラが小さい時にマキって発音出来なくてマキの事をママって呼んでたんだってさ」
俺ナイス誤魔化し!!
「へぇ〜、なんで小さな時から知ってるの?」
嘉奈の質問でクラス中の視線が集まる。
まぁ当然と言ったら当然だが。赤の他人を質問攻めから救出に向かう奴はそうそう居ないし。
「ミュラとポチはマキの親戚なんだよ、俺は全然知らなかったけどさ」
なんだよ、また親戚かよ。
という声が所々で上がる。
「ふーん、ねぇポチちゃん」
と、今度はポチを狙う嘉奈。
「…何か?」
「あのさ、ポチちゃんのパ…」
キーンコーンカーンコーン
と、ここで授業5分前のチャイムが鳴る。
「ま、いいわ」
と、急にどうでも良くなった嘉奈は自分の席に戻る。
それに吊られるようにみんな自分の席に戻る。
授業中ミュランダとポチはマキの様に理解不能な行動はとらなかった。
十分な心構えをしていたこちらとしては拍子抜けだが、トラブルが無いのは良い事だった。
そして昼休み
「修様、お昼行きましょう〜」
「うん、いつもの所で良いよな?」
僕らはいつも屋上で昼食を取る事にしている。勿論、嘉奈も一緒に
「はい!じゃあ私、購買部でパン買って来ますね〜」
「あ、くれぐれもケガ人は出さない様に」
「わかってますよぉ」
そう言うとマキはVサインをして教室を走って出て行く。
弁当じゃない生徒の昼食は、如何に速く購買部に辿り着くかで決まるので軽い戦争状態になる。
語られて無いにしも、マキはこの戦を魔の力で勝利した経験が何度かあり、マキ自身は今日も自分の力で昼食のパンを勝ち取るべく、その華奢な体に魔力を滾らせるのであった。
「おーい、ミュランダーポチー屋上行くぞー」
はーい、と返事をして教室を出る俺についてくる。
「ねぇパパ、ママはどこに行ったの?」
「…行方不明」
「あぁ、アイツは…」
「来たな、謎の転校生!」
ごつい体の三年生が購買部への道のりをトップで走っていたが、爆発音と共に現れたここ最近の一番乗り王者の女生徒に走りながら話し掛ける。
「…」
その女生徒は、足が速かった。
しかも足が速いだけでは無い、腕力も瞬発力も十七才の女の子では考えられない力だった。
「今日は、いつもみたいに上手くいくと思うなよ!」
そう言うと三年生は女生徒に体当たりを仕掛ける。
しかし、ひらりと華麗に体当たりをかわす女生徒、その隙にトップに躍り出ようとした無関係の男子生徒の襟首を掴んだ女生徒は、三年生の生徒に投げ付ける。
「どわぁぁぁああ!!」
物凄い怪力で人間を投げ付けられた三年生は、その場でもつれ倒れる。
「…」
ちらりと自分達を見て、ぺこりとお辞儀をすると、すぐに走り出し女生徒は視界から消えた。
「…本当に人間か?」
「という訳でさ、パンを買いに行くのはマキの仕事になってるんだよ」
「へぇ〜私もやってみたいなぁ〜」
「ミュラちゃんみたいな少女はやめといたほうがいいよ?」
「…ミュランダは魔法タイプだから接近戦は…」
「いや、そんな大袈裟な物じゃないけどね」
と四人で喋っている。
ちなみに嘉奈には事情は説明した、説明し終えた時のリアクションが、私も今度魔界に連れてってよ!の一言だったので色々な意味で驚いた。
「パン買って来ましたよぉ〜」
「おー、お疲れー」
そう言い、マキから焼きそばパンをもらう。
「嘉奈さんは何が良いですか?」
「じゃあ今日は、チョココロネでー」
はい、と笑顔でチョココロネを渡すマキに笑顔で返す嘉奈。
「ミュラちゃんと、ポチちゃんは何が良いのか分からなかったので適当に買って来ましたよぉ〜」
バサッと袋から10個くらいのパンが落ちる。
「お前!どんだけ金使ってんだよ!?」
「二人の好物を知るのも親の努めかと思いましてぇ〜」
「都合の良い事言ってんじゃねーよ!!」
「私コレが…」
「…コレ」
ミュランダとポチが同時にジャムパンを指差す。
「失敗ですかぁ…」
「好きな食べ物も一緒だとはな…」
他のパンがあるのにも関わらず、ミュランダとポチはジャムパンを仲良く半分にして食べている。
「凄いね、双子パワーだねー」
からからと笑いながらミュランダとポチを見ている嘉奈。
「あー、二年…えっとー何組だっけかな〜?とりあえず二年の片桐ー、至急保健室まで来いー、ついでに転校生の双子の姉も来いー」
と放送が流れる。
「俺と…ポチの事?」
「…私?」
首を傾げるポチ
ここで再び放送が流れる。
「あー今のウソだー、やっぱり放課後に来いー、絶対に来いー」
「どっちだよ!」
その後、普通に雑談しながら昼食をとった。
放課後
「じゃ、ちょっと保健室行ってくるから」
「はーい、じゃ先に帰ってますねぇー」
マキとミュランダと別れて保健室に向かう。
「何の用事だろうな?」
「……知らない」
まぁ、それもそうか
「来ましたよー」
「……来た」
ガラッと保健室の戸を開ける。
「おー片桐と転校生姉ー、遅いぜー」
「また二日酔いっすか、先生?」
保健医こと岩瀬美穂は、自分のデスクに突っ伏しながら手だけヒラヒラ振っている。
「先生だってー飲みたい時があるんだよー」
毎日飲んでるじゃん。
「それで、用事って何ですか?」
「あー、頭いてー」
「…水」
いつの間にかコップに水を汲んで来たポチ、それを受け取り一気に飲み干す美穂先生。
「ふぃー、生き返ったー」
「オッさんじゃないんですから」
「あー用事な、その気が利く子になー、コレを渡そうと思ってなー」
デスクの引き出しからメガネを取り出す美穂先生。
指でくるくる器用に回している
「え、どういう事っすか?」
朝、職員室から出ようとした美穂先生は、入って来たポチとミュランダにぶつかったそうだ。その時にポチは職員室にある資料などが入っている棚に向かって謝っていたらしい。
それからポチを連れ去り、保健室で視力検索をした所、かなり目が悪かった事がわかったそうだ。
「大体0.02くらいだなぁー」
「そうなのか、ポチ?」
「……視力が悪くても気配で分かるから、特に困らない…」
急にすっくと立上がり、つかつかと歩いて来てポチに問答無用でメガネを掛ける美穂先生。
「どうだー?」
「…凄い…視界良好」
不思議そうにメガネを上げたり下げたりして視界の善し悪しを比べるポチ。
「だろー?物事は、五感でしっかり感じないとなー」
「先生ありがとう、それじゃ…」
と、ポチを引き連れて保健室を出ようとすると、むんずと肩を掴まれる。
「片桐ー、何寝ぼけた事言ってんだー?」
と言ってデスクの上にあるオセロをくいっと親指で指差す。
「わかりましたよ、やりゃあ良いんでしょ、やりゃあ」
と言って渋々オセロをし始めるのだった。
「あ、そうだ、リンスが切れてたんでしたっけぇ〜」
「ママ、今日の晩ご飯何にする?」
修真より先に帰路についたマキは、ミュランダと共に通学路上にあるスーパーに買い物に来ていた。
「ん〜、ミュラちゃんは何が食べたいですか?」
例のゲームとおかげもあってか、マキの料理の腕はメキメキと上達してきていた。
「ジャムパン食べたい!」
「お昼に食べたじゃないですかぁ〜。それに、晩ご飯がジャムパンだったら修様が家出しますよぉ〜?」
マキは料理が好きだった。頑張れば頑張る程、料理は美味しくなるからだ。
それに、手順さえ覚えてしまえば案外簡単であった。
「今日は、カレーにしましょうかぁ〜」
「カレー?」
そうだ、この子は人間界の料理知らないんだ。
まぁ私もそんなに知らないけど。
「子供から大人まで、多くの人々に愛されているとっても美味しい食べ物なんですよぉ〜」
「へぇ〜、早く食べたいなぁ〜」
ミュランダは、頭の中でカレーがどんな食べ物かを想像しながらうっとりしている。
修真の為に買い物したり、料理をしたりするのはとても楽しい。
「あー、これも買っちゃいましょうかぁ?」
「ここあ、って何?」
「修様がとっても好きな飲み物ですよぉ〜」
「飲みたいー」
修真が喜ぶのは嬉しい、褒められるのも嬉しい。
「ねぇ、ミュラちゃん」
「何、ママ?」
「ミュラちゃんは修様の事好きですか?」
「うん、大好きだよ!」
ミュラちゃんの(好き)は、私とは違う(好き)なんだろう
「ママは、パパの事好きじゃないの?」
「……好きに決まってるじゃないですかぁ〜」
そう、私は、修様の事が好きなんだ。
でも修様は、どうなんだろう?
マキは初めて悩んでいた。
初めて異性に好かれたいと思った。
修真は自分の事を兵器なんて言うなと言った、でもマキは兵器だった。
兵器の私を修真は好きになってくれるだろうか?そんな事を考えていると、胸が締め付けられる様な、苦しくないけど苦しい様な、知らない感情になるのだった。
それは修真の事を考える時の楽しい気持ちや、暖かい気持ちとは逆の気持ちだった。
(多分、これが悲しいっていう気持ちなんだろうなぁ〜)
「ママ、どうかしたの?」
急に口数が少なくなったマキを心配して声を掛けるミュランダ。
「え?」
「お腹痛いの?」
ミュランダが心配そうな顔をしてマキを見る。
「あ、いや、ちょっと考え事をしてまして…」
「なんか、その言い方パパみたいだよ?」
ミュランダにそう言われてなんだか嬉しいような、恥ずかしいような気分になる。
「な、何言ってるんですかぁ?わっ私は、あんなに捻くれてませんよぉ!」
「なんかママ、嬉しそうだよ?」
「ほ、ほらぁ!早く帰らないと晩ご飯が遅くなっちゃいますよぉ〜」
と、走りだす。
「あ、待ってよ!」
と二人で走って行く。
「全部で1207円になりまーす」
「あ、すいません小銭ありますぅ」
勿論レジを通って。
「だぁあぁぁぁ!負けた!」
「片桐よわー」
「…先生が強過ぎ」
ポチのメガネの代償として、オセロに付き合わされた俺は、ゲームと言う名の暴力を受けていた。
「…真っ白」
ポチの言う通り、結果は全て置ききってないのに俺の全滅。
「あー気持ち良かったー」
「なんで、そんな強いんすか?」
と言いながら、延々と続くオセロと言う名の一方的暴力を再び受ける為に並べ直す。
「あー、もういいぞー、十分楽しんだしー」
やったぜ!と心の中でガッツポーズを取りつつオセロを箱にしまう。
「そんじゃあ、そろそろ帰りますね」
「…帰宅」
「おー、気をつけて帰れよー」
あぁ、今日は一体何回オセロしただろう、でもメガネがタダになるんだから良いけど。
「…凄い、夕焼け…」
学校を出ると、全てがオレンジ色になってしまったかの様に錯覚させられる見事な夕焼けだった。
「あー、良い色だなぁ」
「…やっぱり視覚は重要…」
「そりゃ、そうだろ」
と言ってポチの髪をくしゃっと撫でる。
「…空腹」
「そうだな、さっさと帰ろうか」
きっとポチが見たメガネ越しの夕焼けはさぞ美しい世界に映ったのだろう、帰る最中はずっと上を向いて歩いていた。
「ただいまー」
「パパ、お帰りー、ってあれ?」
ミュランダがポチのメガネに気付く。
「…もらったの」
「良いなー!私もメガネ欲しいな!」
「ダーメ、ポチは目が悪いからしょーがないの!」
「ちぇー」
「いや、だから、リアルにそんな事言う奴いないからね」
「おかえりなさぁ〜い」
とマキが制服にエプロンという奇抜なスタイルで現れる。
「あれぇ?ポチちゃん可愛い〜!」
とマキがポチを頬擦りする。
「…ちょ、ちょっとママ…」
照れながらちょっと慌てるポチ。
なんだかんだ言って、案外可愛いらしいなぁ
「ポチちゃん、ミュラちゃん、そろそろご飯ですから手を洗ってきて下さいねぇ〜」
「はーい!」
「…わかった」
「ねぇ、お姉ちゃん、カレーって知ってる?」
「…知らない」
子供っぽい会話をしながら、手を洗いに行くポチとミュランダ。
「修様、凄いですねぇ〜これでばっちり見分けられますよぉ!」
「あー、偶然だって、ポチってすっげー目が悪いんだってさ」
「へぇ〜」
と会話しながら、二人はリビングに向かう。
修様が一緒にいるとやっぱり楽しい。
さっきまでの不安が吹き飛んで、
暖かい気持ちでいっぱいになるマキであった。
「あ、このカレーなかなか美味いな」
「…美味しい」
「ジャムパンより美味しい!」
ジャムパン好きだな、おい
「あははっ、ポチちゃん、メガネが真っ白ですよぉ〜」
こうして片桐家の夜は更けていくのであった。
「だーから、風呂は一緒に入らんと言っとるだろうがぁぁああ!!」
「何を、今更恥ずかしがってるんですかぁ?」
「…照れ屋」
「…みんなで入れば楽しいのに」
「うるせぇえええ!!さっさと入って来いやぁぁああ!!」
はい、12話いかがでしたでしょうか?
今回はだいぶまったりした話だったと思います。
新キャラのポチにもメガネという特徴が出来まして良かった良かった(笑)
次回は魔界滅亡編です(うそ)