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第三話

嘆きの森に展開していたギルドの本拠は壊滅したが、それは深く根を張る悪徳の、ほんの一部に過ぎなかった・・・。ただの一施設、実験場の一つに過ぎない。

闇のギルドは世界に根を張り、世界を侵食し続けている。

アルザス本国には未だ無傷のギルド構成員が無数に存在している事実を、しかし、王も冒険者たちも知り得ない・・・。

本国の状況を誰よりも知る者は、今、死に向かっていた。全身血まみれで、地に這う。

残虐な敵により、切り刻まれ、苛まれていた。

明るい森林の片隅に、老いた将軍は死の淵を覗いている。

「神よ・・・、」

我が国を、救い給え。

絶望の中ですがり付く。

誰でもいい、この命をくれてやっていい、・・・魔神よ、この老いぼれの望みを聞け。

そこへ。

若き王が降り立った。


「・・・これはこれは国王陛下。」

アサシンは慇懃な態度に戻り、恭しく王を迎える。

「このような場所にまで、御足労頂き、恐縮至極・・・。

事のついでに、あなた様にはここでお休み頂きましょう。」

殺意を込めて、アサシンは王を見た。

王は静かな眼差しをアサシンに向けていた。

「・・・・・・・、」

アサシンが、怯んで一歩後ずさる。

麻薬のために、恐怖心などカケラも感じぬはずの自身がなぜ?

不可解な心境に、アサシン自身が戸惑っていた。


老将には、それが王でない事は一目で解かる。

王は、これほどの魔力を備えたバケモノではなかったからだ。

声にならぬ口元が、しきりにその正体を問うていた。

老将の代わりに、アサシンが同じ意味合いの疑問を投げる。

「・・・いったい、どういう事なのです・・・?

あなたは、いったい、何者です・・・? 王ではない・・・?」

アサシンの緊張した質問に、王の器を借りた何者かは一切答えることがなかった。

しばしの沈黙と、ねめ回すような視線・・・。

そして、嫌悪の表情を作った。

「・・・お前達の作る波動は、気に食わぬ・・・」

理屈もなにもない、ただの感想でしかない。

しかし、ただそれだけの理由で、目の前のアサシンは命を奪われた。

「ぐ・・!?」

胸を掻き毟る。

呼吸を止められ、アサシンの口がぱくぱくと開閉した。

・・・どぅ、と倒れ、痙攣の後に、動かなくなった・・・。


王は手を広げる。・・・それは、地下神殿で、ホルの身体を乗っ取った魔神が行った行為とほぼ同じ形であり、そして、同じように黒い霧が吹き出した。

霧は、今度は細かな糸となり、針となって飛散した。

アルザスの大地を、その周辺の国々を、はるか大海を越えた大陸にまで及んで・・・。

彼の気に食わぬすべての波動の発生源を貫き通した。

このような大量殺戮は、史上、類を見ないだろう・・・。それが、同一人物による仕業だと、人々が気付いたならば、であるが。

ドラゴンによる大量殺戮は史上にも名高い。

それを上回る今回の殺戮は・・・歴史に残される事はなかった・・・。

各地で起きた同時死の謎を、今しばらくは、誰も、畏れを抱いて研究しなかったためである。

逃げ場もない、確実な死を賜る、およそ理由もない暴力。

お気に召さない、それだけで死を賜るなどと・・。ここが、そんな世界である事実は伏せられた。

このような脅威を、認めたくはない・・・。

アサシンの唱えた理屈はまことに正しかった。

この世は弱肉強食、強い者の理屈に従うのだ、と。

そして、もっとも強き者・・「神」の理屈が、ごり押しで通ったのだ。


今、目の前に居るこの神が、この世の支配神であるのか、そんな事はどうでも良かった。

その正体も、死にゆく老将には関係がない事に思われた。

涙で霞む視界の中に、必死にその姿を焼き付けていただけだ。

シンクロした意識の中に、今、世界で起きている事象がすべて流れてくる。

一瞬の閃光を放ち、次々に消える命の火。恐ろしいスピードで、アサシンが減る。

世界中から。

絶対的な存在感、圧倒的な力、それらが人間社会を嘲い、薙ぎ倒していく・・・。

自身が「法」である、と・・・逆らう事すら許されない。

畏敬の目で、ザルディンは王を仰ぎ見ていた。

救世主の姿を。

例え、それが絶望に値する恐怖であろうが・・・。

この国は、救われたのだから。

「・・・王よ・・・、あなたが何者かは・・・知らぬが・・・、

・・・・・感謝、す・・る・・・」

両の目を微かに開いて、微笑を浮かべ、老将は静かに息を引き取った。


王の瞳は穏やかだ。

心地良い波動に身を委ね、一時、柔らかな森林の日差しを受けて、立っている。

目の前の死・・・。そして、大量殺戮にも、なんら心動かされることはない。

耳障りな雑音が消えた世界の奏でる音楽に、聞き入っているかのように・・・。

優しく、穏やかな、世界の音に耳を澄ませている。

いずれすぐ、かの雑音を響かせる者達は、どこからか沸いて来るに違いない事も承知で。

それも、些細なことでしかない。

成熟せぬ世界は、すぐに元の姿に戻る。それを承知で、耳障りを一瞬だけ、消した。

この存在からすれば、ただの気紛れに過ぎない。

雑音が、ひどく気に障っただけの事だ。

アサシンは死後に悔いているだろうか、・・・上には上が居る、その理屈を忘れ果てていた自身を呪うしかないだろうか。ルール以前の問題で死なねばならぬ、などと・・・思いもしなかっただろう事は確かだ。

巨大な力が幾つも存在し、当たり前に事象に関わる世界であるから・・・「魔力」という禁呪のために、その影響は計り知れない。

およそ、不可能な事態などありもせず、このような非道すら、存在し得た。

これが、魔力の介するこの世界の実体だ。

「神」が実存する世界の、真の姿。

多くの神が存在する・・・およそ、天地創造の原初の神から魔神まで・・・すべてが、世界に関わっているなら、この世界は脅威に覆われているのだ。

弱者でしかない人間の都合に合わせて作られているわけもない。


王の身体を借りた古代の神は、やがて、その器から抜け出した。

王の身も、二つの死骸同様に、地に倒れ伏す。

聖剣は神々しい輝きを纏い、王の手に。

黒の宝珠を抱いて、ようやく剣は完成された。・・・『神降ろしの剣』-グラン。



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