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第二話

新参の二人・・・いや、積極的に聞きたがったのは兄のバドロアの方だったが、二人はセフの話に聞き入っていた。

今までの経緯やなれそめを、ナッツは王を含めた三人に改めて話して聞かせた。

「セフは最初、他の仲間と一緒に居たんでさ。

なんか揉めたみたいでね、派手な大喧嘩して殴り合いの後に俺等と合流したんですよ。・・・小さな女の子が一緒でね、・・・あ、この子はこことは違う国で待機中なんすよ。」

王の目を逃れるために置いて来た、とはさすがに言えずに誤魔化した。

「喧嘩の原因なんかは教えちゃくれないのさ、つまらない事だ、ってね。」

話の途中にルシーダが一言、紛れ込ませる。

「なんつーか、水臭い、ってのか、秘密主義ってのか・・・あんま、喋りたがらねぇヤツなんす。

あ、心配はないんですよ? 俺等だって、似たようなもんだし・・・あんま、冒険者やってて饒舌なヤツなんて居やしないんですよ。」

ナッツがフォローの為に告げた言葉は嘘ではない。冒険者たちはあまり、自身の素性を語らないし、また、詮索もしない。それで充分やっていけるし、駄目なら他のパーティを当たるまで。

冒険者のチームは、けっこう、どこも出入りが激しいものだった。

気の合う仲間を見つけられたら、ラッキーだ。

「で、この小娘・・・エシャロット、ってんですけどね、コイツがまた傑作で・・・」

含み笑いと共に語られかけた名が、途中で遮られる。

「笑ってんじゃないよ、あの子は本気で言ってるんだからね。」

釘を刺したつもりのルシーダだが、当のナッツにそれは通じなかった。

ぶーっ、と吹き出したナッツは一段と大きな声で、セフの兄弟たちに報告した。

「アイツ、もう婚約者なんて居るんですよ! それも7歳!」

言うなり、ナッツはゲラゲラと笑い出した。

兄二人は顔を見合わせる。・・・話が見えなかった。

婚約というのは、言葉が過ぎるかも知れない。エシャロットの方は本気だったろうが、セフにとっては単なる言葉のアヤに過ぎない。適当に返事をしただけの状況下だった。

本人も、未だに気付いていないかも知れない。

「セフは本気にしてないよ、子供の世迷言、くらいに思ってるのさ、」

ルシーダも本心では面白がっているのだろう、くっくっと笑いを噛み殺している。

彼女がそう思うのも、無理はない。当のエシャロット自身が、ひどく気が多くて、ハンサムと見るとトコロ構わず見惚れるおマセさんだった。そのくせ、自称恋人である事を盾にしてセフの恋路は片端から潰した。それらの珍事を思い出しては笑っている二人なのだ。

セフにとってこの少女はお荷物以外の何者でもないだろうに、なぜか何かと世話を焼いている事も可笑しかった。あのクールな男が、である。

「いいコンビなんだよ、あれがさー、」

堪らずに大声で笑い出すルシーダが、付け足すように兄王に告げた。

「そうか・・・では、セフは本当に巧くやっていけているのだな・・・。

お前達を見ていると、弟が今、どれほど満ち足りた生活を送っているのかが見えるようだ。」

安堵の声で兄王は呟き、神官を勤める兄も笑みを浮かべた。

「セフのヤツは幸せ者さ、・・・あんた達みたいなイイ兄貴が居る。」

ルシーダが二人にウインクを贈った。

終始にこにこしている古参の臣下には、「あんたもね、」と、ニヤリと笑う。


そのセフが、今、まさに戦闘不能に陥っているとは、予想もしない面々だ。

「今頃はフィルと合流した頃かな・・・、王様、もうじき本物と会えますぜ?」

得意げにナッツがラルフ王に告げた。

セフは戦闘不能。

傍には新しい仲間のアシュが居る。そして、合流したフィル。

ナッツやルシーダが思う以上に国王の弟君は、すぐ近くにまで接近していた。

「セフはもう暫く動かさない方がいいと思います、僕がついていますから、フィルは誰かにこの事を知らせて下さい。」

アシュの提案に、フィルはうむ、と頷いた。

「では、僕が城に潜入してみよう。なんとか仲間に合流して、助けに戻る。」

「お願いします、出来れば日暮れまでに。・・・あの子のこともあるから・・・」

アシュは少しだけ眉を顰めた。

あの子とは、朝になって眠りについた哀れな子供の亡骸の事だ。

フィルは目を伏せる。この夜の罪は、きっと一生付いて廻るだろう。自責の念に苛まれる。

知らなかったのだ、と真実から目を背けることなど出来そうにもない。

幼い子供を手にかけた、それは事実だ。

「しばらくの間、待っててくれ。」

力強く、フィルは言い残して立った。


抜け道の洞窟は長く、薄暗い。

明かり取りの為に開けられたらしい人口の竪穴から、ところどころに光が僅かに差し込むばかりだ。どれくらい歩いたか、振り返っても、二人の姿が見えない所にまでやって来た時、洞窟は急に勾配を見せた。

かなり急な登り坂。セフが落とされたと思った洞窟の、城側からの入口。

坂をよじ登り、閉ざされた鉄の板に手を掛ける。

・・・ここまで来て、開かなかったら、・・・不安が過ぎる。

しかし、懸念するほどもなく、鉄の戸は簡単に開かれた。

フィルが地上に出たその場所は、以前、ナッツが剣を漁った例の倉庫の裏だった。茂みの中に巧妙に隠してあった事に、フィルは感心した。

侵入には適さない時刻ではあるが、夜を待ってなどいられない事情がある、フィルは茂みや物陰に潜みながら、そろそろと城の中を移動し始めた。

どこか解からないまま、いくつものくぐり戸を抜ける。壁伝いに身を潜め、人の気配を伺ううちに、ひょっこりと大きな庭へ出てしまった。

身を隠すものが見当たらない。まずい・・・、フィルが焦りを覚えた時だ、人の談笑する声が耳に届いた。咄嗟にフィルは身を隠すために塀を乗り越えた。

低いと思われた塀は、外側は予想に反して高くなっており、フィルは木々の上へダイビングしてしまった事を知る。

枝や葉に受け止められ、衝撃を和らげられたものの、地に落ちた時には息が止まりそうだった。

フィルとて、無傷というわけではなかったのだ。

夜に痛めつけられた身体が、ここで更に悲鳴を上げるように軋んだ。

「ぐ・・・っ、」

呼吸すら拒む身体に、無理やり深呼吸を命ずる。

何度か呼吸を繰り返し、ようやく激痛が退いた。改めて、フィルは辺りを伺う。

・・・どこなのか、さっぱり見当も付かない。

「ようやくお出で下さいましたね。」

突然、フィルは声を掛けられ、飛び退って身構えた。


視界に入ったのは、12~3の少女。静かな笑みを湛え、手をたおやかに前で重ねる。

見慣れぬ白い衣装を着て、その場に立っていた。

深い緑の木々の中で、その姿は精霊のように見えた。

黒い髪、黒い瞳。幼さを残すまるい頬。混血らしい美貌に笑みを絶やさず。

「あなたを待っていたのです、ここへ来ることを予見しました。」

その笑みと同じく静かな声で、少女はフィルに手を差し出した。

「・・・君はいったい何者だ? どうして僕がここへ来るなんて・・・?」

「あなたをお呼びしたのは、我が君です。

あなたはこの国を救い、この地の呪いを解いて下さるからです。

わたしはこの国の巫女。・・・我が君の声を、唯一、聞くことの出来る女です。」

巫女・・・それでフィルは納得がいった。

するとここは神殿地区。城のエリアから外れてしまった事は予定外だったが、助けを求めるなら、むしろ好都合かも知れない。

なにせ、この国の人々は未だに、行方知れずの皇子の顔を知らないままだ。

「僕は助けを求めに来たんです、仲間が今、重症を負っていて・・・」

アシュの治癒の息を持ってしても、応急手当が精一杯、という危うい状態にセフは陥っている。

腕の神経を切断されているのだ、スペシャリストの医療が必要だった。

「これをお持ちなさい、魔法薬です。

セフ様はまだ城へ戻られてはいけません。あなたと共に東へ行き、黒き炎を得なければなりません。」

「黒き炎・・・?」

何の事かとフィルが問うと、巫女は首を振った。

「わたしにも判りません。・・・わたしはただ、我が君の声を伝えるだけなのです。」

「我が君、というのも、・・・もちろん、解からないんだろうね・・・?」

最後は諦めの口調で、フィルが尋ねる。少女は頷いた。

「我が君の名は知りません。たぶん、我が君も、それを御存知ではないでしょう。

この世界の住人ではないのかも知れません、・・・この世界、という感覚が、我が君からは感じませんから。とても強い方なのです、別の場所から、わたしだけに語り掛けて来られるのです。」

そう言えば、情報を拾っていた時に聞いたことがあった。神殿地区は魔族や混血は立ち入り禁止の場所がある、と。それはきっと、この少女と『神』のコンタクトを邪魔されないためなのだ。

「心配には及びません。

我が君は、この世界を気に入っておられます。」

そう言って、少女はにっこりと花のような笑みを浮かべた。


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