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早起きしたら初デート~Happy birthday~

作者: 森神。

にょ。

 8月7日。朝6時。天候晴れ

 俺は目ざまし時計の後で目を覚ました。普段より大きめの音、普段より早い時間。まぁ学校がある日ならこの時間に起きる事も少なからず経験としてあるが(まぁ、記憶の彼方を呼びもどさないと引き出せないような記憶だが)この夏休の真っただ中、こんな早く起きる事など、基本的にはあり得ない。では、なぜ起きたのか…。それは今日が俺の誕生日な訳である。この素晴らしい一日をエンジョイする為にわざわざ早起きしたのだ。今日は両親が息子の誕生日なのにも関わらず、商店街の福引で当てた一等のハワイ旅行に出かけている。間の悪いことにそれが二人までという子供完全放置仕様だったため、俺はこうして今一人で起きたわけである。まぁ、好き勝手出来る部分には利点でも合った訳だが…。

 まだ半開きの目を擦りながら、覚束無い足で洗面台へと向かい、歯磨き&うがい、そして顔洗いを速やかに行い、リビングのテーブルの上に無造作に置かれた食パンを2枚食べ、

自分の部屋へと向かった。

「ん~今日はどうしようか…」

 何事もなく一連の動作を普段より早く終わらせたが、じつはこれと言って何かをしたかった訳でもない、むしろこれからの計画を今から考えようと思っていたところなのである。

「散歩でもしようか…」

 普段登校する時間に、普段行かない道を散歩するのもいいかもしれない。駅の方にでも行ってみようか、いつもなら通勤で賑わう道も

夏休みである今なら少し変わって見えるかもしれない。とりあえず、寝巻きのまま家を出るのは不味いので、適当にタンスの一番初めにあった服を着よう。手に取ったのは濃い緑色一色のシンプルな服、へその当たりに繋がった大きなポケットがある戦場用(同人即売会イベント用)の服を着、

少し青めのこちらも濃いジーンズを着た。背中には機能を重視しているがコンパクトな大きさのリュックを背負った。こちらも濃い赤色である。全体的に地味な感じで秋葉原近郊に昔いた人々の服装を思わせるような彩色である。まぁ、俺もその部類に入らないといったら嘘になる訳だが…。この時間にオシャレをしても、別に出会いがある訳でもないし、

問題ないだろう。逆にこの時間に出会いを求める方がおかしい。そんなことを考えながらふと時計に目を配った。時刻は6時半を少し過ぎた所だろうか。まぁ、朝の散歩の時間としては、当たり障りの無いちょうどいい時間だろう。

 ドアを開けると空は無駄に晴れたいた。そして無駄に五月蠅い蝉の声を耳にしながら、駅の方へと足を運ばせた。道の両端には、閉まった店が点々と佇んでいる。開いてるのはコンビニと早起きのおばちゃんが営む煙草屋くらいだろうか…。人もほとんど歩いておらず、ぼちぼちとサラリーマンがたまにすれ違うくらいか、この休みの中お疲れ様である。

そんな中、駅周辺まで着いた。着いたは良いものの、やはりここからも安定のノープランである。一応お金は少し持ってきているが、

殆どの店が閉まっているこの状況で、使い道もなく…。もともと、駅の方まで行けば、何かしらの店があって、時間も潰せるだろうと踏んでいたのだが、見事にこの有様である。

仕方ない、駅前のコンビニにでも寄ってみるか。

 コンビニに入るとそこに温かい出会いがあった。そこにいたのは、同級生の女子生徒、

月野原小百合さんであった。彼女は中原高校のアイドルと称されており、少し活発だが優しめの性格が売りでありその長い黒髪と清楚な姿はまさに可愛い以外の何物でもない。もはや恋愛対象外の、告白してはいけない部類の人間である。

「あれ?二宮君?なんでこんな時間にこんな所にいるの?」

 目の前に居る雲の上の人に声をかけられ少し戸惑う自分が情けない。

「あ、えーと、散歩」

 そのままの事を言った。この状況下でカッコを付けようとしても無理だし、カッコいい事すら思いつかなかったし。とりあえず、無難にそのままの事を話した。

「散歩なんだ…着遇だね!」

 そう言いながら彼女が笑った。これは抱きしめたいくらいの可愛さだ。こみあげる衝動を抑え、俺も少し笑って見せた。

「おぅ、着遇だな。実は今日誕生日なんだ、

で、まぁ、一日をエンジョイしようと思ってな。」

せっかくアイドルに話しかけられたのに、このチャンスを逃す訳にはいかない。なんとかして会話を伸ばそうと奮闘する。

「え!?」

 驚いた表情を見せる彼女。

「ん?どうかしたか?」

 その返答に少し首を横にふり

「あ、何でもないよ、ただ私も今日誕生日だから少しびっくりしただけ。」

 それは俺の方もびっくりした。まさか自分が学園のアイドルと同じ誕生日だとは思っていなかった。

「へーこれまた着遇だね。もしかして、せっかくの誕生日をエンジョイしようとか思っちゃったりして早起きしたの?」

 彼女の質問がまんま的を射ていたので、少し戸惑ったが、

「おぅ、と言う事は小百合さんも同じ理由なのか?」

「うん!ホント偶然だね!運命みたい!」

 最後のセリフがかなり俺を興奮させたが、これもこみあげる衝動を抑えつつ、話に集中する事にした。

「ホント偶然んだよな~。」

 顔が半分ニヤケているが治せそうにない、むしろどんどん悪化して行きそうで怖い。

「ねぇ、この後何か用事あるの?」

 彼女のその質問はフラグですか?恋愛ルート入りますか?今さらながら着てきた服に後悔した。

「ん?あぁ、今日は一日暇だよ。なにせ息子の誕生日だというのに、商店街の福引で当てたハワイ旅行に行っているからね。」

 とりあえず、全力で暇アピールをして、誘ってもらうのを待ってみた。

「そうなんだ…。ねぇ、この後どっか一緒に行かない?そんなにお金もないけど」

 彼女のその言葉にキターと心の中で叫んだ。

「おぅ、いいぞ。と言っても、そんなに金もないがな。」

 苦笑いしつつ答えた自分に、

「大丈夫、私も全然ないから!」

 笑いながら答える彼女。ん?そこは自慢するところではないだろ、と内心突っ込んだが、口には出さないことにした。

「で、どうする?どこか行く?」

 その答に彼女が少し悩む素振りを見せたが、

「私、中原公園に行きたいな~」

 初めから答を決めていたかの様な真っ直ぐ透き通った声で返してきた。ちなみに、中原公園というのは、町で一番大きな総合公園であり、一角にはアスレチックプール等があり、デートコースとしても地元のカップルなら一度は訪れるくらいの人気スポットだ。

「中原公園か~。おぅ、良いな」

 一瞬この熱い夏だからプールでも行くのかと思ったが水着すら持っていないのに流石に行くはずがないかと少しショックを受けた。

「はぁ~。」

 そう考えて、少し溜息をついた俺、それに気が付いたのか

「今、私の水着姿想像した?」

 図星。体がビクッと反応したが、

「いやいや。そんな事ないって!」

 一応点前で首を横に振ったものの、彼女にはばれていたようだ。というか、良く考えればこれは一種の自意識過剰と言った方が良いのかな?まぁ、可愛いから許すが…。

「嘘~!鼻の下伸びてるわよ?」

 なんだろう…。このカップル見たいな会話。

同級生や、中原小百合のファン、いわゆる中原親衛隊の人が見たら殺気を通り越し本当に殺しにかかってくる様な状況だ。

 俺と小百合はコンビニでペットボトルを一本づつ買う事にした。公園までの道のりはそれほど無いが一様熱さも考慮して、俺と小百合はスポーツ飲料を買った。

コンビニを後にした俺達は他愛も無い学校での出来ごとや、全高校生なら誰もが口にする教師の愚痴等々。普段あまり話せるような人じゃないので、ここぞとばかりに話をした。

彼女もあまり話をしない相手なので、反応が面白かったのか色々話しかけてきた。

俺たちはそんな風に中原公園へと着いた。

 時刻は朝の9時を少し回ったくらいか。

公園内は朝にしては町のどの他の場所よりも賑わっていた。また、朝っぱらから二人きりでイチャイチャしているカップル。通称バカップル達が3~4組ベンチに腰掛けている。

さっきコンビニで買ったスポーツ飲料は暑さのせいか4分の1程度まで減っていた。

公園付近の自動販売機コーナーに差し掛かった時、彼女が

「ねぇ、アイスでも買わない?」

自動販売機コーナーに並ぶ自動販売機の一番奥に、アイスクリームの自動販売機が置いてあった。

「ん?あ~熱いしアイスでも食べるか。」

 俺もそのアイデアには賛成だ。

「あ、奢ろうか?」

 一応男としてこれくらいは奢らせてもらいたい。

「ん?あ、いいよ別に。」

 慌てて首を横に振る彼女が無性に可愛く、

「いいって、これくらい。」

 俺はそこへ向かうと彼女の分も合わせた240円を入れて、自分の分のアイスを買った。

そして、

「あ、好きなの買ってよ。」

そう言って彼女に半ば強制的ではあるが、奢る事ができた。

彼女は少し悩んでからイチゴのアイスを買った。

「ありがとう!」

笑って答えてくれる彼女に俺は奢って良かったと心から感謝した。

普段の俺ならこんなことはしないだろうが、相手が学園のアイドルなら別だ。

アイスの袋を開けて、それを食べながらぶらぶらと公園内を見物した。

前に来たのはほとんど記憶に無い幼稚園の時だろうか。別に来る用事もないし、来たとしてもすることがない。

 こうして隣りに女性がいると、普段より変わって見えるものなのだろうか。

 はたまた、季節の違いにより感覚が違って見えているのか。

 記憶が少ししかないため、全く違って見えているのか。

 理由は定かでなく、いくらでも定義付けれるが、唯一言える事は前に来た時よりも断然遥かに楽しく思えた事だ。

 公園をぐるっと一周して戻って来た時には時刻は12時を回っていた。

 あたりには、カップルの姿も増え、子供連れの親子等も段々多くなって来た。

「昼ご飯でも食べない?」

俺の質問に彼女は少し首を傾げて

「あ、うん、実は、あそこに凄く美味しい店があるんだ!」

嬉しそうにそう答えた。

 彼女が指差した先にあったのは露店のたこ焼き屋さんだった。

 そこのたこ焼きは8個200円と言うなんとも微妙な値段設定であったが、彼女の奨めもあってかそのたこ焼きを2パック買った。

 とりあえる近くにあったベンチに二人で腰かけた。

しかしまぁ、なんというか、かなり旨い。

いままで食べた中でも1~2位を争うくらいの美味しさだ。

「どう?おいしいでしょ!」

「ん?あぁ、これ凄く旨いぞ!」

俺の答に無邪気に微笑む彼女に少しあどけなさを感じた。というか、これデートじゃないのか!?

 まさかのこういうフラグ立ったんじゃないの!?そんな事を考えていると。

「ごちそうさま~!」

彼女がたこ焼きを食べ終わっていた。

「えい!」

彼女のつまようじが俺の分のたこ焼きを突いた。それをそのまま口に放り込む彼女。

なんとまぁ!こんなシュツエーションがいままであっただろうか。

「お、おい…」

そう言いながらも内心凄く喜んでいる俺。

「はぁ~美味しかった!」

まぁ、流石に少しお腹が空いたが、彼女が喜んでいる事だしよしとするか。というか彼女の笑顔をみただけで、満腹だ。

「次どうしようか~」

楽しそうに聞いてくる。俺も頭の中のフォルダを全部漁って考えてみるが、なにぶん当分の間来ていなかったから全然思い出せない。

「ん~」

唸る俺をしり目に、

「ねぇねぇ、これは?」

彼女が指差す先にあったのは、小さな射的場だった。この公園は祭りとか無くても年中屋台やくじ引きの露店等が顔を出している。先ほど食べたたこ焼き屋もその一つで、あそこの場合は毎日店をだしてるようだ。

「ん、射的か…。俺得意だよ?」

とまぁ、女性相手にカッコをつけたは良いものの、あまり得意ではないお決まりの展開である。

「え!本当!じゃあ、アレ取って!」

そのアレと言うのは、そこのくじ引きの中でも一際目を引くクマのぬいぐるみだった。

 高さは1mはあるであろうその巨大なクマのぬいぐるみをコルク銃で倒せるのか?こんな疑問の答えは基本的に無理だろう。

 たぶん、客の目を奪う為に置いたとしか言えないぬいぐるみだ。まぁ、その作戦にまんまとハマった女性が近くにいるわけだが…。

なんならその女性の頼みで、その餌に食いつかなければならない男性がここにいるわけだが…。

 まぁ、流石にあれは取れなくても彼女なら分かってて選択したはずだから問題ないだろう。

 

 見事に2発とも命中。微動だにせず。そして、最後の一発を打とうとする。後ろで応援している誰かさんの為にも、なんとかしてとらねば。そう思いながら渾身に最後の一発を発射した。

 飛んだ弾はまるで本物の弾頭のようにくるりと鋭く回りながらぬいぐるみへと飛んで行った。

 ドスッ

見るの的屋のおじちゃんの顔が青ざめていた。

まるで殺人現場に出食わしたような顔だ。

 この場合犯人は俺で、被害者はぬいぐるみで、バックにいる的屋のおじちっゃん。そして、今回の黒幕は小百合でせある。

俺の撃った最後の一発が見事ぬいぐるみの頭に命中。そのままぬいぐるみは後ろに落ちて行ったのである。

「やった~!」

 俺がそのクマのぬいぐるみを渡すと凄い嬉しそうに後ろで喜んでいる彼女。目の保養に300円くらいなら安いな。

 そのまま二人はまた公園内をとぼとぼと歩いた。当たりは少し紅く染まってきた。

 子供連れの夫婦はじょじょに数を減らし、

逆にカップルはどんどん数を増してきた。俺達もこのカップルの中に紛れ込んでおり、傍から見れば紛れもないバカップルに見えるのだろう。それが本当なら凄く嬉しいが現実はそう甘いものじゃない。

「ねぇ、そろそろ日も暮れてきたし帰りましょうか。」

 彼女のその言葉に一気に魔法が解けるような感じがした。

「うん。そうだね。」

 本当のカップルじゃない。ただの知り合い程度。良くて、友達程度の関係。そんな関係で「えーまだいようよ!」こんな言葉が出せるわけもなく。

「あ、そうだ、ここ出る前に二人の誕生日を祝って、両方ができるプレゼント交換をしましょうよ。」

「え、お…おぅ、いいけど、生憎プレゼントなんて持ち合わせてないぞ?有るのは残りわずかなスポーツ飲料くらいだし…」

 その言葉をギャグと受け取ったのか、はたまた本当に言葉の意味が分かっていない俺に対する純情な気持ちなのか分からないが、彼女はくすっと笑みを浮かべた。

「キス…しよ」

少しの硬直が俺を襲う。頭の中で状況を整理しようとしているのが分かる。聞き違いでなかったのか?どんどん自分の耳を疑い始める。嬉しいはずなのに、なにか真実と受け止めきれない自分がいる。

「だめ?」

 彼女が誘っているぞ!チャンスじゃないのか!そう自分に言い聞かせる。

「う…うん。」

 顔がどんどん熱くなるのを感じた。

「じゃあ、お願いね」

 目をそっと瞑った。良い感じに夕陽が背景に来ている。神様も公認ということか?

 俺もそっと目を瞑る。彼女に唇を近付けていく。もう、彼女の吐息が聞こえるくらいまで近付いた。

 ジリリリリリリ…

 目覚まし時計の音。

 時刻は18時を指していた。

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