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馴染みのない校舎に足を踏み入れて、煩い程にざわめいた同級生達の横を通り過ぎた。
騒ぐのも当然か。
何せ、今日は始業式だから。
分かっているけど、騒がしい声に耐えきれずに、ヘッドホンを耳へと装着した。
クラス発表の板を見つけると、僕はそれに向かって歩きだした。
A組から、順に、“赤羽 灯李”という名前を探してゆく。
あ行だ。大体、最初の方にあるだろう。
文字を追ってゆくと、B組に自分の名前が見えた。
「今年もB組か…。」
何気なく、もう一個の名前を探してみると、すぐ隣のクラスに名前を見つけた。
良かった、今年は同じクラスにならなくて。
クラス発表の場所から、背を向けると、僕は足早に体育館へと歩き出した。
――
体育館へと朝を運ぶと、またもや煩い声が僕の耳を刺す。
しかも今度は、ヘッドホンを貫通して。
騒がしくする奴を無意識に睨みつけながら、自分の席へと腰を下ろした。
スマホの電源を入れて、曲のプレイリストを探っていると、後ろから肩を叩かれ、体を震わせる。
「…なんですか?」
ヘッドホンを取らずに声を出すと、後ろから罹っていた人影が僕の前へと移動した。
「おはよ、トモリ。」
声の正体は、幼馴染の牧宮碧海。
少しこちらこの様子を伺いながらも、笑顔を見せて話し掛けてくる彼に、少しばかりの苛つきを覚える。
「…おはよ。」
目も合わせずに返事をすると、再び、スマホへと目を戻す。
そんなに話し掛けたくないなら、話し掛けてこなきゃいいのに。
「トモリ、B組だったんだ?俺は…」
「C組だろ。」
僕がクラスを当てた事に、彼は驚いたように目を見開く。
そりゃ、さっきクラス替えの時に名前を探したから。
もう関わることないやって安心したばっかなのに。
「今年は、クラス離れちゃったな。残念だ。」
「別に。お前とクラス離れれて僕は嬉しいよ。」
僕の発言に、アオイは苦笑をしながら、腰に手を置いた。
分かりきった返事だったはずなのに、此奴は何故かいつもこう笑うんだ。
「ほら、もう始業式始まるし。とっとと自分の席戻れば?」
「…おう。」
冷たくあしらうと、彼は少し寂しそうな表情を見せたが、僕に素直に従って席に戻った。
すると、すぐに大勢の人に絡まれていた。
「…なんで僕に構ったんだよ。」
彼が話し掛けてくる度、いつもそう思う。
彼奴は…彼奴には、周りにたくさんの人が居るくせに。
――
始業式などの一連の流れが終わって、駅前の楽器屋さんへ足を運ぶと、店内はいつもより静けさを纏っていた。
いつも通り、ギターコーナーに足を運ぶと、新しいピックが入荷されていることに、嬉しさを覚える。
欲しかったピックを手と、持ち慣れたピックを何個か取ってレジへと向かうと、裏から出てきた直後であろう、金髪のお兄さんが目に留まった。
「北見さん。」
思わず、声を掛けると、彼は柔らかい声で、驚いた声を上げる。
「トモリくん、もうここ来たの?始業式終わったばっかなのに、早いね。」
「北見さんの方こそ…。」
彼は、僕が通う高校の一個上の先輩だ。
吹奏楽部の部長をしている上に、楽器屋のバイトまで。
僕と比べて、多忙なんだろうなと思う。
けれど、それを見せさせないこのほんわか笑顔。
正直、かなり癒される。
「作曲は進んでる?」
ピックをレジに通しながら、北見さんは、僕に視線を向ける。
「まぁ…ぼちぼちです。」
「そっか…ぼちぼちかぁ…でも、トモリくんの作る曲なんだから、ぼちぼちでも凄いんだろうなぁ…」
「そんなことないですよ。」
軽く談笑すると、レジに合計金額が表示されて、お金を財布から出す。
「はい、572円、丁度お預かりします。」
レジを済ませると、彼は、レシートとともに後ろから、スタジオ貸出の紙を僕に手渡してくれた。
ここの楽器屋には、スタジオが何室か付いており、スタッフに申し出れば貸し出してくれるのだ。
「今日も練習していくんでしょ。」
「はい、ありがとうございます。」
流暢に紙に記入していくと、すぐに北見さんに渡して、スタジオへと入っていった。
この場所だけは、僕を何も邪魔しない、一番の居場所なんだ。




