勇者劇場
夕焼けに照らされた紅く染まったスイングドアが、ギィッと軋んだ音を立てて開く。
埃っぽい外套を軽く振るって、私の方にまっすぐ歩いてくるのはやや小柄な少年。キリッとした意志の強そうな黒い瞳。自分で切ったのか眉毛のあたりでパッツンと揃えられた明るい茶色の髪の毛。薄汚れてはいるが整った顔立ちには見覚えがある。たしかフォルト村の生き残りのライン君だったかな。よくぞ生きて街までたどり着きました、偉い!
「あの、冒険者ギルドへの登録はここで行えると聞いたのですが」
「はい。ここは、中立都市国家レプリアの冒険者ギルド本部ですからね。もちろん行えますよ。文字は書けますか?」
「いえ、読む事は出来るんですけど、書くのは名前だけしか」
「なら、私が代筆しましょう。名前と年齢と希望する職種、そして冒険の目的を記載ください、なので順番にお願いします」
少年の申し出に応えてサッと登録用紙とガァガァ鳥の羽ペンを取り出す。
「名前はフォルト村のライン。希望は、えっと剣が使えます。あの、えっと、目的っていうのは」
「はい。お金が稼ぎたい人と自己鍛錬がしたい人、人助けがしたい人がパーティを組んだりすると揉めるのですよ。主に安全マージンで。なので初めに自身の冒険スタイルを自覚して貰おうという事でお聞きしています。いろいろ運営してきた中で出来た仕組みなのでご協力お願いしますね?」
さらっと説明しているけれど、この子ちゃんと理解している。頭の良い子だ。いいぞいいぞ、主人公にピッタリ!
「目的……目的。まずはお金を稼ぐ。生活を安定させたら……僕の村は魔物に滅ぼされたんです。だから、兵士さん達が巡回に来てくれないような小さな村を助けて回りたいです。魔物を間引いていかないと、僕の村みたいになってしまうから」
キュン☆
この子、いい! この子にしよう、ねぇ! この子絶対主人公だって。勇者イケるよ!
村が滅ぼされたから、復讐がしたい! って言うかと思った。それはそれで美味しいけれど、まさかの人助け。良いじゃない。
魔力を使って、伝達魔法を起動。脳内で『脚本委員会』に緊急の議案を提出。
『アーキこういうの大好きでしょう? テンプレの勇者育成シナリオで行きましょう!』
『アーキ=タイプ、了承。魔王の噂も流して、あと制作班に言って聖剣も作らせておく』
『レーベン=ラーゲ、条件付き了承。その子はフォルト村の大氾濫の生き残りだ。バルトが担当してる可能性がある。確認してからにしてやってくれ』
『バルトは連絡取れないのか?』
『南部密林に魔の大樹海作りに行ってる。遠くて伝達魔法届かないから』
『わかったわ、いったん保留で。でも絶対この子勇者にしたい!』
脳内の会議を鉄壁のポーカーフェイスで隠すと、私はにっこりとほほ笑んだ。
「目的は人助け。素敵ですね。私はこの冒険者ギルド『光の軌跡』のサブギルドマスター、ロマン=ティカと申します。貴方に最適のクエストを用意しますので、何でも相談してくださいね!」
この子は金の卵、大事に育てると決めたので、ゴブリン退治なんかにはいかせない。あんなの、ホブゴブリンとか、酷い時にはオーガとか出てくるに決まってるんだから。そういう風にバルトやレーベンが仕込んでる。そりゃ生き残れば素敵な物語になるけど、結構な割合で死ぬ。だからまずは薬草採取。そしてギルド内で腕利きの先輩に目を掛けて貰って修行をつけて貰うパートを挟もう。そうしよう。
「ラインさん。あなたはまだ登録したばかりなので丙種冒険者です。なのでこの図鑑に載っている止血草の特徴を覚えて採取してきてください。これ、つる草なので森の大きな木などに絡んでます。平原には生えていないのでギルドに採取依頼が来るんですよ」
「危険って言う事ですか?」
「この東の森ならゴブリンとかは置いてないので、腐り蛇に気をつければ大丈夫です。ブーツは履いてますね?」
「はい、ちょっとぶかぶかなんですけど。ん? 置いて?」
「走りやすいように布詰めてサイズ調整しましょうね。退屈かもしれませんけど、こういう基本的な仕事でお金を溜めて革鎧や手甲を買いましょうね。戦うのはそれからです、ね!」
「は、はい。そうします」
あっぶなー。つい、うっかり。
『ロマさんホント気を付けてね』
『ごめん、興奮しすぎて気が緩んだ。でも大丈夫だよ、見張りを置いてるとか罠を置いてるとかごまかしようはあるから』
『冷静にね、バレたら終わりなんだからね』
『はーい』
そう。バレたら終わり。
私たちが、人間ではなくミミックという魔物だという事がバレたら。
戦えば最弱の擬態系魔物はあっという間に狩られてしまう。
でも、そんな事はどうでもいい。死ぬのはたいしたことじゃない。問題はここまで育てた『勇者劇場』が台無しになってしまう事だ。
ゼロから『歴史ある』街を作り。冒険者ギルドを作り。ここまで育てた物語の種、大事にしないと勿体ないじゃないネ☆
「がんばって甲種冒険者を目指しましょうね、ラインさん」
「は、はい」




