それから数十年後、私は勇者一行に殺された
その種族は人とかわらない見た目をしながらも中身は全く別物だった。
怪我をすれば赤い血が出て感情もあるのに、彼等、もしくは彼女等は若い見た目のまま人よりもずっとずっと長く生きた。
魔法や神への祈りはすでに廃れ、魔法学への時代へ入りつつあった。
数人の魔法使いよりも、魔法石を使った兵器と兵士がいればいい。
魔法使いは一騎当千と言われてたが精巧で連射可能な銃と大砲等の出現により、そうでは無くなってきた。
脈々と受け継がれてきた魔法使いもそのうち途絶えるだろう。
あの種族はその種族の女の腹から産まれたものしか魔法使いにならない。
男の魔法使いの種をいくらまいてもそれから産まれるのは常人のみ。
昔は人が魔法使いを捕らえ、残酷な実験したこともあったと聞く。
彼等の長い長い人生の中でそれは短いながらも充分すぎるほど辛く、大半の魔法使いが姿を消す理由には充分だった。
今も魔法使いはいるがひっそりと人に紛れて暮らしている。
彼女もそのうちの一人だった。
親元から巣立ったばかりのような容姿をしているが、老練な雰囲気をもつ独特な少女。
彼女はここに居を構えるつもりはなく少し時間がたてば宿から出て、また次の所へうつろうとしていた。
人よりも遅い老いは定住すれば周りにバレてしまうリスクしかない。
できるだけ魔法使いなんてことはバレないほうがいい。
魔法使いだと堂々と生きてる人もいると聞いたことが昔あったが、魔法使いに持ち込まれる仕事は面倒なのやロクでもものばかりだろう。
失せ物をみつけてほしい、誰にもバレないように相手を殺せないか、畑を荒らす獰猛な野生動物を駆除してくれないか、町から町への護衛をしてくれないか(大体これは銃持ちの護衛と一緒の任務になる)、雨ふらしてくれないか、たぶん今もそんなのばかりだろう。
戦いがあるころは楽しかったなあと思い出にひたる。
魔法使いの一番使い道は戦争でしかない。
魔法1発打てば一度銃よりも沢山人を殺せたし、盾と念じれば味方を何十人だって相手の魔法使いの攻撃から守れた。
魔法使いの強さは、魔力をどれだけ持っているか、どれだけ戦いのセンスがあるか。に尽きる。
魔力がべらぼうに強ければ力のゴリ押しで勝てるだろうし、そこそこでも頭を使って上手くやる奴もいた。
今は神への祈りも形骸化して、聖なる力の使い手も殆どいなくなってしまった。
どこぞの国で少しの傷なら治せる者がいて聖人認定されたらしいが本物は違う。
本来なら千切れた四肢すらも繋げる、いや、再生させるのだ。
文字通り死んでなきゃ助けられると一緒に戦った奴は言っていた。
それも百年前以上のこと。
自分はいつまで生きて、いつまでこうなんだろう。
戦いが無くなったのは良いことなのに。
凄くつまらないと感じてしまうのは贅沢なことなのだろうか。
窓の外の月は今日もこたえてくれない。
その日もフラフラと行くあてもなく町を彷徨っていたら、行くつもりは無かった町外れのスラムまできていた。
どこの町でもスラム、人のゴミ溜めはある。
ここにいる理由も、ここに堕ちる理由も、大体が運が悪かったしかない。
その中で魔法使いを見つけた。
良い暇潰しだと思った。
食い物で警戒心をとき、本人も不思議に思ってるであろう老いの遅さを指摘し、また過去に不思議なことは無かったかと聞いた。
習っていなくても強い魔法使いは無意識に魔法を使ってしまうことがあるのだ。
心当たりがあるらしく、迷いある顔してその日はそのまま逃げられてしまった。
それを何度か繰り返して。
ある日いつも通りに食い物出釣ろうとしたら、周りを確かめてから自分は老いが遅く変な力があると打ち明けてきた。
それを聞いて、周りから見えないよう聞こえないように結界をはり、手のひらに夜空の星のような火をだして見せてみた。
「君は私と同じ魔法使い、たぶんもう残り少ない生き物。」
泣き出してしまった彼女を連れて宿へ帰ろうとしたら、あまりの汚さに彼女は立ち入るのを拒否されてしまったので中庭で井戸の冷たい水で申し訳ないが全身を洗ってから部屋へ戻った。
それから魔法使いのことを説明して、彼女の話も聞いて。
気がついたら一人でいたこと。
歳は8歳にも満たないようにみえるが実はその倍以上は生きてること。
歳をとらないことに怪しまれて前の町から移動して、あのスラムへ流れついたこと。
そして自分がピンチになったりするとラッキーなことが起こること。
たとえば、悪そうな男に捕まりそうになったらそいつが血を吐いてのた打ち回って死んだ。
同じスラムの奴に嫌がらせをされてたとき、そいつが不思議な風にあおられた木材の下敷きになって潰れて死んだこと。
他にもあった。
凄いなと感心した。ほぼ皆殺してる。
きっと魔力が強いんだろう。
同時に勿体無いと思う。
今の平和な世ではそれは周りから畏怖され迫害の対象となり、このままだと殺される可能性すらある。
まず、魔法を教えるために人目をさけて山にこもることにした。
山小屋で魔法とはなんたるか、そして攻撃の仕方、守りの盾の出し方。それらを全て教えることにした。
彼女は乾いた土が水を吸うがごとく、私から知識を、魔法の使い方をどんどん吸収していった。
楽しい楽しいと言いながら放つ彼女の攻撃魔法の強さ。
それは私ですら見たことない強さだった。
「先生、いま楽しいですか。」
それは会ってから百年は軽くたってた時だった。
もう教えることは殆どなく、そして見た目も私と変わらないくらいになっていた。
「楽しいよ、前に比べたら全然。」
その時の彼女は凄く優しい眼をしていた。
翌朝、彼女は山小屋から消えていた。
書き置きも無かったし理由は解らなかったけど、もしかしたら私のことが嫌になったのかもしれない。
それから何もする気が起きなくて、何十年か山小屋で適当に過ごしていたと思う。
ついには山小屋は崩壊し始めて、魔法で直すのも限界がきたから町へ行くことにした。
町には緊迫した空気が漂っていたし何故か人が沢山いて、みすぼらしい見た目の人もいた。
この雰囲気は祭りではないだろうし何事かとうろいて人の話に耳を傾けていると、色んなところで争いがおきてるらしい。
ああ、あのボロボロの人たちは逃げてきた人達か。
しかも、戦場では何故か魔法石が使えないらしい。
あれほどの物が?と不審に思いながら屋台の食べ物を買ってると、オジサンが話かけてきた。
「お嬢ちゃんも逃げてきたのかい?北と西の方はそれは酷い有様だってねえ。」
勝手に同情しオマケまでつけてくれたが、それよりも良いことを教えてくれた。
北へ行ってみよう。
それから物資を届けるために戦場へ行くという荷馬車の奴らに金を握らせ載せてもらい、途中不埒な目的でこちらに手をだしてきたので皆殺しにして馬で向かった。
そこは懐かしい場所だった。
攻撃魔法が美しく飛び交い、悲鳴、泣き声、うめき声、肉の焼ける臭い、血の臭い、特有の重い空気。
私が知っていた頃の戦場だった。
馬なんて捨てて私は走りだした。
どちらの味方なんてどうでもいい。
この戦いに参加したい!私も魔法を使いたい!この長過ぎる寿命をかけたい!
「あ、先生〜。」
上の方から懐かしい声がした、音が溢れてる戦場ですらその声を聞き間違うはずもなかった。
「やっぱり先生はこういう場所が一番好きなのですね、私といるときよく遠い所をみてましたよ。そして思い出話する先生は少し楽しそうでした。」
ゆっくりと私の前に降り立った彼女は最後に見た時よりも幾分か大人になったような感じがした、私達の種族ではあの位の年月じゃたいして変わらないはずなのに。
「魔法石の仕組みも全部わかりました、無力化する方法も。」
周りの攻撃魔法の音でうるさいはずなのに彼女の声はよく聞こえた。
そして、その言葉が意味することは彼女がこの惨状を作り出したということだ。
「ね、先生。」
一緒に楽しみましょう。
そう誘われて手を取った私はこの上なく幸せだった。
たとえ、行き着くが屍が積み重なってできた場所でも。
そのまま敵も味方も関係なく殺し、そのあたりを焦土と化して、住むために残した城でまた2人で暮らし始めた。
そのあと、気ままに色んな所で遊んだ。
それから数十年後、私は勇者一行に殺された。
〆