第41話 いってらっしゃい!
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空港の保安検査場前にて、俺は彼女―――雅 優華と向き合っていた。
言いたいことを言うために。
「じゃあね。ゆう」
飛行機の離陸時間の20分前、正直めちゃくちゃギリギリだが、優華は最後の別れを言ってくれた。
本当は言いたいことはめちゃくちゃある。しかし、時間がない。
考えろ……俺が言いたかったこと……長くなくて、簡潔な、そんな言葉を……!
考えろ、、考えろ、、
「じゃあ、行くね」
そう言って、優華は背を向けた。
保安検査場に入っていく。
「いっ!」
行くな!と言いかけてふと気づく。そんなことが言いたかったんじゃない。
優華は保安検査場を通過していく。
俺は焦る。決めていたはずの言葉が意味をなさなくなる。
考えろ、、考えろ、、
ふと、俺の頭にある言葉が浮かび上がった。
それはあまりに楽観的で、当たり前で、こういう場ではふさわしくないかもしれなくて、
でも、それでも、俺の直感はこれが正解だと言っている。
かけて、みるか……?
この言葉に、俺の思いを、俺たちの思い出を、かけてみるか?
俺の中に問いが響く。
目の前にYesとNoの選択肢が表示されたみたいだ。
俺はそっと口を開く。
そのころには、優華は保安検査場を通過し終わりかけていた。国際線だろうか?少し時間が長かった。
しかし、それが幸いした。
「優華!」
俺は叫ぶ。
選択肢は迷わずYesを選んだ。
もちろん、かけてみるさ。
俺は叫ぶ。
あの言葉を。
ただただ、当たり前な、
「行ってらっしゃい!」
これでいいんだ。これで。
・・・
私は短くお別れを言って、その場を後にした。
「い!」
ゆうがなにかを叫んだがよく聞こえなかった。
私はその続きが気になって、わざと、ゆっくり保安検査場を通過していた。我ながらなかなかのギャンブラーだ。両親は先に行ってしまった。
まだかな?まだかな?
何を言われるんだろう?
やっぱり行かないでとかかな?
もしかして、空港で愛の告白⁉
ふと、私は自分が泣いていることに気づく。役員の人も列の人もそんな私を見てか何も言ってこない。
バカだな。私。
分かってるのに……。
もう会えなくなるかもだって。
なのに、まだ期待して、傷つくだけなのに……。
「なに、、してんのよ……早く、言ってよ……」
私は期待した。
彼が、何か言ってくれるんじゃないか?私をここから連れ出してくれるんじゃないか?
元気づけて、励まして、慰めてくれるんじゃないか?
我ながら彼に甘えすぎだった。
だからこそ、私は驚いた。
彼が放った言葉は、私の想像のはるか斜め上を行ったからだ。
どうとったらいいか分からなかったからだ。
たしかに、去り際にかける言葉ではあると思う。でも、この場にはとても似つわなくて、ある意味では不謹慎で、
でも、彼なりに考えてくれたと信じたい。信じたいのに、私には引っかかった。
「私が求めた言葉はそんなのじゃないのに…………」
彼に届くはずのない声で、私は呟く。飛行機の離陸まで時間がないことも相まって、私は走り出した。
少しして
「ゆうの大馬鹿ぁぁ!」
走りながら叫んでしまった。
恥ずかしさなんてものはなく、ただ、悲しかった。
「なんで、なんで……」
がむしゃらに走る。両親は先に搭乗している。
‘‘今どこ?‘‘
というライムが大量に入っている。
‘‘今向かってる。多分間に合う‘‘
短く返信し、また走る。
頭には、まだ彼との思い出が流れて来る。
薄れていく。遠ざかっている。あの時から、自分の足で。
搭乗口に到着した。どうやら間に合ったようだ。
「ご搭乗なさいますか?」
受付の人が聞いてくる。
「はい」
「大丈夫ですか?」
「え?」
「あなた、涙、すごいですよ?こちらお使いください」
受付の人(女性)が、ハンカチを手渡してくる。
静かに受け取り、涙をふき取った後にそっと返した。
「ありがとうございました」
「では、よい空の旅を」
ゲートをくぐる。
これで、本当におしまいなんだ。
私は改めて、そう感じる。
「……行ってきます。さようなら……」
私は呟く。声にならない声で。彼の言葉に返事する。
飛行機の中
もう会えないね。ゆう。
私は、そっと、スマホを開く。
『俺』
その名前を私はゆっくりと削除する。
その寸前、最後のメッセージを送る。
『大坂大学』
このメッセージに最後の望みをかけて。ずるいのは分かってる。でも、ごめんね……これしかできないんだ。私、馬鹿だから。
頬を伝う涙はもうない。
心に空いた穴はいつ埋まるんだろう……。
・・・
「ちゃんと、言えたの?」
姉の質問に、
「ああ」
俺は答える。
これで良かったのか?
そんなのは分からない。でも、少なくとも、俺は、これで良かったと思う。
ブー
スマホが震える。
‘‘大坂大学‘‘
そもメッセージを見て、俺は全てを悟った。
そうか、優華。君の最後の望み、ちゃんと届いたよ。
そして、その連絡先は消えた。
これでまた0に戻った。
普通の人ならそう思うだろう。
でも、俺は違う。ここからだ。ここからまた始まるのだ。
今までのような、奇跡続きのチートルートなんかじゃない本当の物語が。
ここからは運なんてなくなる。
やってやる……!
「絶対に、迎えに行く……」
俺は小さく決意を口にした。
「何か言った?」
姉の声が聞こえる。
「いや、何でもない」
「そうかい」
俺は空港を出た。
新しい世界がそこにはあった。
今までよりも、激難な世界が。
さぁ、やり直しの時間だ。
次回、最終回
次回
第42話 最終回
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