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【ハイファンタジー 西洋・中世】

滑稽な悪魔

作者: 小雨川蛙

 

 彼は見世物小屋において一番の人気者だった。

 いつも虚ろな顔をして俯いて、裸で晒し者にされ、体中は汚れと怪我で飾られていた。

 見世物小屋の店主である若い女性は快活な声でやってきた客へと言った。

「さぁさぁ、ご覧ください! この世で最も滑稽なものを!」

 おっかなびっくりと言った様子で一定の距離を取る客に彼女は笑いかける。

「何をそんなに恐れているのですか。アイツはもう何も出来ませんよ。だから、こうして……」

 女性は懐からナイフを取り出して彼の身体を思い切り切りつける。

 流れ出す血を見て、人々は思わず悲鳴をあげたが彼女は気にした様子もない。

「ご安心ください。この程度で死ぬような輩ではありません……いえ、この程度で死ぬわけにはいかないんです」

 そう言うと同時に女性はナイフを彼の左目に突きつける。

 すると彼は苦しみ喘ぎながらその場に伏す。

 彼は拘束されていなかった。

 だが、それでも抵抗一つしなかった。

 やがて、彼は右手から温かな光を伴う治癒魔法を行使し、自身の左目を癒す。

 次に顔をあげた時には彼の顔から傷は既に消えていた。

 それを見た女性は満足気に笑いながら言った。

「御覧の通り、傷をつけても大丈夫。さぁ! 皆さまもご一緒に! 怖ければ、そこにある石を投げるだけでも大丈夫です! 日頃の鬱憤を果たしてください!」

 山のように積み上げられた石を前に実に醜悪な提案。

 しかし、そこは人間。

 観客の一人が石を恐る恐る彼に向かって投げると、それを皮切りに皆がひたすらに彼に向けて石を投げ始めた。

 用意された石が凄い勢いで減っていく、彼は投げ続けられる石に呻き、蹲りながら必死に治癒魔法を唱えて自身の身を守り続けていた。

 その様を離れたところで見つめながら見世物小屋の店主である女性は目を閉じて大きく息を吐き出す。

 彼女の隣には今も苦しみ続けている彼の説明が記された看板が掲げられていた。


『愉快。不快。罪深い。罪を償い続ける滑稽な悪魔』


「これじゃあ、どっちが悪魔か分かったもんじゃない」

 いつの間にか口癖となってしまった言葉をぼやきながら未だ苦しみ続ける悪魔を女性は眺めていた。

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