だめ!ぜったい! 辻堂安古市 vs 貴族令嬢
執事は実在する。
常に主人の身を案じ、場合によっては手助けや助言を行う執事は現実に存在する。出しゃばることなく後ろに控えているため気付かれることは少ないが、それでも高貴な身分の者には必ずと言っていいほど付き従っている。
高貴な身分を決めるのは家柄にあらず、生き様である。
人は誰でも主人公であり、主観的人生の主人と言える。
読者であるあなたの後ろにも、執事は必ず控えている。
美貌の貴族令嬢こと黒い安息日は、しいなここみ先生主催の「麺類短編料理企画」応募作品を老執事に朗読させていた。豪華絢爛な執筆陣によって書かれた素晴らしい作品群を、彼女は上品にジェノベーゼパスタを頬張りながら聞いているのだった。
「お嬢さま、次の作品は辻堂安古市先生の "イエーイ!系ラーメン帝国の野望を打ち砕け!" でございます」
「もっぐ、もっぐ、もっぐ、もっぐ」
「イエーイ!系とは恐らく家系を意味しているかと」
「もっぐ、もっぐ、もっぐ、もっぐ」
「家系とは横浜の吉村家をルーツとしたほうれん草と……」
バジルが香る室内を豚骨臭に入れ替えんとする老執事の長いウンチクで、貴族令嬢も山岡家が家系ではないと知る程度の知識を得ることが出来た。それが貴族生活にどのような影響を与えるのかは伺い知れないが、彼女がトラック運転手に転職した暁には深夜の空腹時に選択の幅が広がることにはなりそうだ。
意外とラオタな老執事は本編の朗読を始めた。冒頭で街の情景を書き表すシーンにさしかかる。
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とある繁華街の一角に、何やらギンギンギラギラとしたLSDが明滅し、ドンツクドンツクとビート感溢れる音楽が漏れ出ている一角。
(注釈∶本文より抜粋)
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ぼふぉ。
貴族令嬢・黒い安息日は口に含んだジェノベーゼパスタを拡散波動砲のように噴き出し、目の前にいた老執事の顔をデスラー総統の如く緑に染めた。黙って自分の顔をハンカチで拭う老執事だったが、逆の立場だと「貴族家系に下品な女は不要だ」と言って椅子に仕込んだ落下スイッチを押しただろう。
「LSD? LSDですって?」
おそるべし九州、おそるべし博多! アウトローな修羅の街と噂には聞いていたが、よもや繁華街で違法薬物を拡散させているとは!しかも明滅とあるので視覚による催眠投与かもしれない、経口摂取は時代遅れなのか?なんてサイバードラッグな……
余談だが黒い安息日は、創作上でのドラッグはありだ。ただしリアルは普通に通報する。むしろ女性に性的な暴力を匂わせる作品の方が創作であっても嫌悪感を覚えるし、読み進めることができない。男性同士はむしろ推奨、だってどう考えてもファンタジーだし。
しかし一見平和でほのぼのとした作風の辻堂安古市先生作品に、唐突と現れたアウトローな表現、黒い安息日は動揺を隠せなかった。ドンツクドンツクとビート感溢れる音楽というのもサイケデリックトランスとして極彩色で頭に流れてくる。
「じ、爺や! 急いで感想を書きましてよ!」
感想欄でツッコむ黒い安息日。そして程なく辻堂安古市先生の感想返しが書き込まれた。
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あかーーーん!
ヤバいもんが明滅しとーる!
LEDの間違いでした!すみません!
ありがとうございましたあ!
(注釈∶感想欄の返信より転載)
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小説の本文は修正され、南斗聖拳に支配されたサザンクロスを思わせる博多のイメージも、暗黒メガコーポに支配されるネオサイタマ程度には回復できた。ドーモ、黒い安息日です。なお、筆者が住むヒョウゴ・プリフェクチャーは現在進行形で内戦状態にある。
良かった、なろうにジャンキーはいないんだ。
深くひろがるまろやかさ。ジョニーウォーカー黒ラベル。
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爺やよりみなさまへ。
ドラッグを肯定する人が口にする、酒やタバコより体に害はないという言葉を鵜呑みにしてはいけません。破壊されるのは健康ではなく人生です。
人を騙して踏みにじり、弱者を探して根こそぎ奪う、嘘つきと裏切り者の巣窟が反社です。ドラッグを手にすることは、彼らに収入源を与えるばかりではなく、弱みを握られていることを認識しましょう。
薬物による多幸感など、作品を書き上げた時の充足感に勝るものではございません。感想欄にメッセージを頂ける方がよっぽど快感であると断言致します。
だめ!ぜったい!
愛するご主人さまを嫌いにさせないでください。
──追記
辻堂安古市先生の投稿許可は頂いております