パーティ
「ローズ、もうすぐ六年生の卒業記念パーティがあるじゃない?」
今日は週に一度、クリスの家で過ごす日だ。一緒にお風呂でのんびりしている。
クリスはお風呂の時間が特に好きみたいで、私がのぼせずに長くお風呂に入れる方法を毎回研究しているらしい。お湯の温度を少し低めに設定しているんだとか。
すけべである。私も嫌いじゃないけど。
「ん、あるね。クリスは参加できるの?」
「するよ!ローズを着飾りたいし、着飾ったところを見たいし、エスコートしたいじゃん。でね、ローズにお願いがあるんだけど、ドレスもアクセサリーもエスコートも全部俺に任せて欲しいなあって」
「いつもじゃん」
「いつもは!どれか一つは、義父上か義父兄に譲ってるもん…でも、そろそろ俺も本格的に爵位を継ぐ準備をしてるし、認める証に全部コーディネートさせて欲しいなって」
クリスと家族の間でそんな争いが起こっているなんて知らなかった。
「最近はローズに隠れて他人を懲らしめたりしてないし…クラスメイトと会話するのも…付き合いの上で仕方なくなら男と最低限会話するのも我慢してるし、俺本当はすごく嫌なんだけど。頑張って我慢してるじゃん…仕事だって頑張ってる…まだダフ男爵家の問題は片付けられてないけど、、これももう直ぐ終わるから、だから」
どれだけ全身のコーディネートを任せて欲しいんだろう。
今までの我慢を色々とアピールしてくるけど、それって普通は当たり前なんだよなあ
必死に私にアピールしているものだから、ふふ、と思わず笑ってしまう。
「いいよ、クリスが用意してくれたものを全部着るよ」
「ほんと!嬉しい」
がばっと後ろからクリスが抱きついてくる。
というか正直にいうと今までも全てクリスが用意してくれたものだと思っていたので、私的にはあまり変わりないというか。
いつもお父様やお兄様が用意したものが混ざってるなんて知らなかった。二人とも普段領地から出てこないし。手紙のやり取りはこまめにしているけど、男女合わせて6人兄弟、兄が一人、姉が二人、妹と弟が一人ずつで、見事に真ん中の私のことをそんなに気にかけてくれているとは知らなかった。
「それと、ここからは俺のわがままなんだけど」
「なに」
「前日と当日、こっちに泊まってくれない?」
「変なことしないならいいよ」
「しない!!絶対にしない!我慢できる!!」
最近は夜になるとクリスが私の体にイタズラをするものだから、お泊まりはいつも寝るのが遅くなってしまって、次の日はお昼に目が覚めてしまう。
次の日が休みだとわかってるからクリスもやってるだろうけど、パーティの日にされたら私がしんじゃう。
「じゃあいいよ」
そう言って撫でると、嬉しそうに目を細めた。最近は大胆にスケベになっちゃって。我慢を育てるみたいな話はどこに行ったんだか。
**
「クリス様は本当にローズ様がお好きなんですねえ」
「毎回こんなにもクリス様のお色を用意しちゃって、独占欲丸出しで」
「さすがはアスター家のご令息ですね」
アスター家のメイドたちに言われながら卒業パーティの準備をする。
今回は六年生をお祝いするためのパーティなので、二年生の私たちは控えめだ。
クリスが用意してくれたのは全てクリスの髪色や瞳の色に関するものばかりで、露骨すぎて実はすこしだけ恥ずかしい。クリスに言うとショックを受けちゃうから言わないけど。
メイドたちが朝から気合いを入れて私を磨き上げてくれて、なんとか夜には完成した。普段は平凡な私だけど、アスター家のメイドたちにかかればなんとかギリギリクリスの横に立っていても大丈夫なくらいになる。
「ローズ、入ってもいい?」
「うん、いいよ」
支度が終わって一人になったところで同じく支度を終えたクリスが入ってきた。
クリスは私のドレスと綺麗にお揃い。違うのは色だけ。私の髪と瞳の色をしている。美形と黒と赤の組み合わせがすごく色っぽい。これだけは自分の髪と瞳の色に感謝しなくちゃ。クリスにシックで色っぽい格好をさせられるのは私のおかげなんだから。
「わあ、ローズ、すごく、すごく綺麗だよ!あー、見せたくないな。このまま一緒にいたい」
「ありがとう、クリスも素敵だよ」
「ほんと?」
「ほんと」
そういうとクリスは優しく私の手を取ってキスをしてくれる。
「ローズ、今日のためにいくつかアクセサリーを用意したから、これ、つけてくれる?」
クリスは手に持っていた箱を開ける。宝石が着いたシンプルなネックレスと指輪が二つ、イヤリングにブレスレットだ。卒業パーティに参加するにはちょっと多いような気がする。
「これ、全部僕が用意した魔道具。防御とか攻撃とか音声記録とか映像記録とか位置がわかるやつとか、色々機能がついているから外さないでね」
なんて言いながらテキパキと私にアクセサリーをつけていく。なんかいくつか犯罪的な機能がついている気がするのだけど、今更なので黙っておこう。
全てつけ終わったら改めて私を見て「うん、最高に可愛い」と言ってくれる。
「じゃあ行こっか。必要な行事が終わったらすぐに帰ってきて二人ですごそうよ」
「えっちなことする気でしょ」
「うん」
即答である。
最後までしなければセーフだと思ってない?アウトだと思うんだけど。
「ローズ、会場では俺から離れないでね」
「?うん」
いつもそうしていると思うんだけど。というかクリスが離れないと思うんだけど。
「何か心配事でもあるの?」
そう聞くとクリスは眉間に皺を寄せる。
「俺とローズの関係に反対している人たちがいるでしょ?最近またさらに人数を増やしててちょっと嫌な感じだから。こういうパーティの日ってたくさんの人が出入りするから、学園外の危ないやつも入れるし、ローズのことも攫いやすい」
「そんな大胆なことするかしら」
「バカは何をしでかすかわからないから」
しれっと酷いことを言う
「保険のためにアクセサリーに色々と魔術をかけてあるけど、それでも優秀な魔術師がいればどうにかできる。所詮道具だからね。壊してしまえばいいわけだし。壊されたりしたら僕は直ぐわかるし、ローズのところに向かうけど、何があるかわからないから。だから離れないで」
卒業パーティでそんなことあるだろうか。
ふと最近のメリア嬢達を思い浮かべる。私のことを恨めしく見る彼ら。人数が増えてきて、みんな私を同じように恨めしい目で見つめる。
メリア嬢とマレリア嬢の徒党はいまや反ローズを掲げる一番大きな集団となっている。私をなんとかしてクリスの婚約者の座から下ろそうとする生徒達が男女問わず集まっているのだ。
なんか自分で言ってて悲しいな。なんだ反ローズって。
最初はメリア嬢を筆頭に何人かで私に向かって色々いうだけだったけれど、近頃は結構な大人数で、メリア嬢とマレリア嬢を先頭にしてゾロゾロと歩いている。
私と出会えばメリア嬢が色々というのは変わらずなのだけれど、その後ろで静かにみんな私を睨んでいるのである。ちょっと異様な雰囲気で、今まで静観していた生徒達もすこし気味が悪いと言っているのを聞いたことがある。
いくらクリスが美しいとはいえ、あんなに大人数が同じ感情を私に抱き、そして同じ表情で私を見るなんてことがあるんだろうか。
私一人がいなくなったところで、あの人たち全員がクリスと結ばれるわけでもないのに。それとも相応しい人がクリスの隣に立てばいいのだろうか?
相応しい人って?
それが誰なのかも、彼らの中で同じ人物なんだろうか。すこし、宗教めいているよな、と思う。でも考えたところで、私ができることといえば何もない。ただクリスのそばに居続けることだけだった。
「わかった。離れないようにする」
「ありがと」
「クリスも私のこと離さないでよね」
そう言うととても嬉しそうに「任せて」と言った。