発想がこわい
「クリスはなんで私に手を出さないの?」
公爵家のとんでもなく広いお風呂に二人で入りながらクリスに聞いてみる。
この男、一緒にお風呂に入るし、一緒に寝るくせに頑なに手を出そうとしない。別にいいんだけど、婚前交渉に対してそこまで厳しいわけでもないのでどうしてなのか常々気になっている。
私のことが大好きで、二人になるとすぐにくっつく割にはキスや性的なことはあまりしない。抱きしめたり手を繋ぐくらいだ。だからこそ令嬢たちに演技なのでは?なあんて言われてるけれど。
「これに関しては欲望を育ててるんだよ」
「?」
「ふふ」
意味がわからなくて首を傾げると、クリスは笑う。
「そりゃ、正直今も、というかいつだってローズには手を出したいよ。一生抱き合ってたいし繋がってたいし俺以外の目に触れないところに閉じ込めてたい」
「…」
「でもそれじゃだめだってローズが言ったでしょ?ローズのおかげで我慢を覚えた。あとこうして我慢した末にもらうご褒美がいかに幸せかも覚えた」
「だから我慢してるっていうの?」
「うん。婚約してからずっと我慢してるから、結婚生活は幸せだろうな」
ギリギリわかる様な、それでいてイマイチよくわからない様な持論を展開されて。私は諦めて彼の背中に身を預けた。
結婚した後の私は大丈夫なのだろうか。我慢の反動が怖い。いいや、今は考えないようにしよう。
今もお尻あたりに固いものが当たっているけど、クリスは手を出さない。
「ローズは俺のこと愛してる?」
「愛してなきゃ一緒にお風呂入らないよ」
「そうだよね、俺もローズを愛してる。全部大好き。ローズが俺のこと愛してるのに、俺に媚びないところは特に好き」
「クリスが言ったんじゃない、身分気にしなくていいから畏まらないでって」
「んー、そうだけど。そうじゃなくて。俺は昔から色んな令嬢に付き纏われててさ、みんな俺のことが好きだって言うんだ。で、俺に媚びるんだ。自分がいかに俺の役に立つか、自分がいかに優れているか、なんかそう言うことを言いながら俺にまとわりついてくる。でもローズはそうじゃない。俺のことを好きだって、愛してくれるけど、俺の顔色伺って擦り寄ってきたりしない。必要な愛情と優しさだけをくれる。だからローズが大好きなんだ」
「クリス、私が媚びたら大喜びしそうだけど?」
「んー、どうだろ。大喜び、するかも。でも中途半端にローズに媚びられるぐらいなら、俺がいないと生きていけないぐらいドロドロになって縋ってほしいかな」
発想がこわい。
俺いないと生きていけないくらいドロドロの状態ってどんな状態なんだろう。
今でも結婚したあとはクリスがいないと収入は無くなっちゃうし暮らしていけないと思うんだけど、それとは違うのかしら。
「ねえ、クリス、今日はお風呂が終わったら少し庭を散歩しない?」
「なんで?」
「んー、お願い」
クリスはお風呂から上がると二人で部屋に篭って過ごすのが好きだから、お願いをしてみる。
わざとらしく指を絡めて手を握り、それから引き寄せて手の甲にキスをするとクリスは顔を赤くする。自分からくっつくくせに、私からくっつくのには弱い。
「どうクリス?媚び、できてる?」
「それはただの可愛いおねだりだよ」
「難しいな」
「可愛かったからいいよ。庭を散歩しよう。今日はよく晴れているから星がきれいだろうね」
「じゃあお風呂からあがろうよ」
「いいよ」
そういうとクリスは私を抱え上げた。




