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ご褒美の日


「ローズ!」

「クリス、お疲れさま」


授業が終わり、玄関を出て正門まで歩いているとクリスが笑顔でこちらに向かって走ってくる。

それだけで女子生徒から黄色い声が上がる。この笑顔を見るために私と同じタイミングで帰る生徒が多いのだと、クラスメイトから聞いたことがある。


クリスは私の前以外では滅多に笑わないのだ。


「ローズ、今日はうちに泊まる日だよ、一緒に帰ろうね」


などと言いながら人前でにこにこと手を繋いでくる。今日は公爵家に泊まる日だから特に嬉しそう。クリスのエスコートで公爵家の馬車に乗る。


「ねえクリス、忘れ物しちゃったから一回家に寄ってもいい?」

「ん?だめだよ。だめだめ。大丈夫、あとで使用人に取りに行かせるから」

「取りに行かせるの申し訳ないよ、遠回りでもないし、家に寄ったらだめ?」

「だめ。男爵家に寄るには時間がもったいない。約束したでしょ。放課後から明日の門限までは俺の好きにしていい日だよ。だめ。ローズとの時間が削れるのが惜しい」

「わかった、わかったから」


クリスの圧に負けて降参する。

クリスは広い馬車の中で私を膝の上に抱え、それから首元に顔をぐりぐりと埋めてくる。思い切り匂いを吸われている。くすぐったい上に汗もかいているしやめてほしい。


クリスは愛がちょっと重いのだ。ちょっと?いや、重い。結構、かなり、ひときわ、深刻に愛が重い。

婚約が決まってから公爵家から教えてもらったのだけど、アスター家で膨大な魔力をもった人間は、自分が決めた特定の人間に執着する傾向があるらしい。


先祖が神獣と交わったために、魔力量と獣の習性を引き継いだからだと言われているのだとか。

ちなみにお義父さまも愛がだいぶ重い。クリスに負けず劣らずである。


アスター家の人間は、自分たちの愛の重さを自覚しているがゆえに、婚約者選びに慎重である。同世代の令嬢を身分に拘らず招待していた理由がこれだ。


身分はさておき、自分たちの愛の重さに耐えられそうな令嬢を厳選しているんだとか。クリスの場合、選ばれたのが私である。

あのお茶会での私のどこをみて判断されたのかはわからないけれど、実際にこうしてクリスからの重めの愛を受け止められているのだから、アスター家の見抜く力はすごいなあと思う。さすが公爵家。


「ねえローズ、今日はどんな一日だった?」


クリスは愛ゆえに、アンとロベルタにも私の日々のことを報告させているのに、さらにその上で私の口からも一日の出来事を聞きたがる。

ほぼ同じ話を聞くと思うんだけど飽きないのかな。


「何もなかったよ」

「うそつき」


そう言って私を抱く腕に力をいれる。


「知ってるよ。今日はダフ男爵令嬢から絡まれてたでしょ。はあ、払っても払っても虫が湧くな。男爵家でしょ?潰しちゃだめかな」

「それはだめ、約束したでしょ」


私とクリスの約束。

週のうちに一日をクリスの好きにさせる代わりに貴族として普通の振る舞いをすること。私たちが穏便に幸せになるためには、それが必要だから。


「まだ絡まれたくらいで何もされてないから」

「でも領地を持たない男爵家だよ?あんまり評判も良くないし」

「それでもだめ。私が何かされてからにして」

「俺はローズに何かあるのが少しも許せないんだけど」


過保護な婚約者を撫でてやる。


「ローズは嫌じゃない?俺と婚約したせいで、こうやって毎日悪意を向けられるの」

「全然気にしてないよ」

「ほんと?」

「うん。授業は問題なく受けられるし、アンやロベルタ以外にも友達もいるし。グループワークの時は先生が配慮してくださるから今のところ困ってないし、困るような事態になってもクリスが助けてくれるでしょ?」

「もちろん」

「それなら、悪口くらいただの音に過ぎないし、絡まれるのだって大したことないわ。何を言われようと、されようと、クリスと婚約してることは変わらないんだし。そうでしょ?」

「うう、ローズが逞し過ぎてつらい」

「そう?」

「でも、本当に、少しでも嫌なことがあったらすぐに言ってね。絶対になんとかするから。一応、なるべく、穏便な方法も探す、自信ないけど」

「ふふ」


どんどん声が小さくなるクリスに思わず笑う。

それから馬車の中で私の一日を根掘り葉掘り聞いては、クリスは文句を言い、時には怒り、嫉妬しては宥めて、そうしているうちにアスター邸についた。


「今日も両親はいないから。俺たちのフロアは数人のメイド以外は上がってこないからね」

「わかった。それじゃあはい、運んで」

「うん。あー幸せ」


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