婚約者と私
私の婚約者はとにかく人気である。
国で一番魔力が多く、見た目も銀の髪にちょっと垂れ目な紫の瞳、薄い唇に小さい顔、おまけに背も高く、色っぽい妖精みたいな見た目をしている上に身分も申し分ない公爵家。名前はクリス・アスター。小さい頃から貴族令嬢たちの憧れの的である。
対する私ローズ・ブロワは男爵家の中でも特に目立たない部類のブロワ男爵家の、しかも三女である。家名を名乗っても「ブロワ?ああ、西部の男爵家だよね」くらいのリアクションしかもらえないような家。
一家揃って向上心はないけれど真面目な性格で、それゆえに貧しくもないが特別裕福でもない。強いて言えば長年安定した統治をしているから領民からの評判が良いくらいである。
そんな家の三女。見た目は普通で美女でもなければ、ブサイクってほどでもない。黒髪に赤目という組み合わせが珍しい程度の普通の令嬢である。
魔力量も別に多くない、成績も上の中。
なぜ私が特別人気な令息の婚約者の座にいるのか、そこにはいくつかの事情があるのだけど公にはされていない。
婚約者になったのはお互いが八歳の頃。公爵家が婚約者を決めるために国中の令嬢を招待したパーティに参加した時だった。どうせ男爵家の三女なのだし、選ばれることはないだろう、せっかくだし美味しいご飯を食べて帰ろう、綺麗な庭園を見学しよう、くらいの気持ちで参加していた。
本人とも大した会話をした記憶がない。一応一人一人と会話をする時間が設けられていて、何か少し話した記憶はあるのだけど。
手応えなんてあるわけもなく、帰ってきて「公爵家のケーキ美味しかったなあ」なんて思い出に耽っていたところに、婚約を提案する手紙が届いたものだから両親は随分と驚いていた。
公爵家に招待されて、改めて紹介されたクリスは三度目に会う頃には私にメロメロで。不思議なこともあるものだなあなんて呑気なことを言っているうちにあれよあれよと話が進んで婚約者になってしまった。
クリスは令嬢の憧れの的だったから、過激な貴族令嬢から何をされるかわからないから、という理由で学園に入学するまでブロワ男爵領に引きこもって生活をしていた。公爵家から何人か護衛のための騎士まで送られてきた。
過保護である。
家庭教師をたくさん派遣してくれたから、必要な教育も受けられたし、クリスもほぼ毎日時間があれば転移魔法を使って会いにきてくれた。至れり尽くせりだった。
そしていよいよ学園へ入学する年になったのは去年の話。私とクリスは16歳。
私は安全を考慮してデビュタントもまだだし、公爵家に行く以外には領地を出たことがなかった。つまりあの有名なクリスの婚約者が、一体どんな女なのか、首都で生活する貴族たちが実際に目にするのは学園へ入学した時が初めてだったのである。
入学して最初の頃は好奇心の目が多かった。
私の容姿が平凡であることを笑う人が多かったと思う。
それから魔力量も大して多くない、そして成績も飛び抜けて良いわけでもない、ということがわかってくると、次第に「なんであんたなんかがクリス様の婚約者なわけ??」と、明確な敵意を持ったものに変わっていった。
そして令嬢や令息から絡まれることが日常になったのである。