私の日常
「ローズ様!クリス様が可哀想です!ローズ様は婚約者に相応しくありません!ローズ様から婚約の解消を進言してください!」
貴族たちが通う帝国一大きな学園の廊下。
私の前に立ちはだかるのは最近編入してきたダフ男爵家のメリア嬢とその取り巻きの令息たちである。その見た目は子ウサギを連想させるような可愛さで、ピンク色の髪と瞳、細くて小さい体、高い声。
平民だった彼女をダフ男爵が養子に迎え入れ、学園へ編入してきたと聞いている。元々平民だったこともあり気さくで天真爛漫な性格らしく、王太子殿下の側近候補たちがメロメロだという噂を聞いたことがある。
彼女の両脇に立っている令息はもしかして側近候補だろうか。名前は、なんだったかな。
誰に何を言われたのか知らないけれど、メリア嬢もまた私がクリスの婚約者であることが気に食わないらしい。美麗な婚約者を持つ私は、この学園に入学して二年の間毎日のように絡まれている。
ああ、メリア嬢、あなたはクリスのことを何もわかってない。何もわかってないよ。
私から婚約解消なんて言ってごらんなさいな。この国が滅ぶんだから。
なんて言えるはずもなく。
「そうですか、考えておきますね」
二年もこのセリフで受け流している。言ったら長居は無用。すぐに立ち去るのがコツ。
踵を返して教室に戻ろうと急足で退散すれば、背後からメリア嬢の声と、取り巻きの令息たちの声がわーわーと聞こえた気がした。
教室へ戻ると友達のアンとロベルタが心配してくれる。この友達はクリスが用意した、公爵家傍系の令嬢たちである。
それぞれ子爵家の令嬢だ。親しくはしているし、私も彼女たちもお互いを友達だと思っているけれど、クリスは私を護衛させるために彼女たちを用意した。
私の婚約者はいささか過保護すぎるところがある。
「また絡まれましたか?」
「うん。アン、ロベルタ、できればクリスには報告しないで欲しいんだけど…」
そういうと二人は困ったように笑う。
「私たちが報告しなくても、クリス様はすでにご存知だと思いますよ」
盗聴器でもつけているのかあの子は。
仕方ないなあとため息をつくと、二人はまた困ったように笑った。