第9話 人間の姿
う〜ん………
僕は鏡の前で、自分の姿を見つめる。
そこに映っているのは、僕ではない。
魔人の姿…デーモンの姿だ。
頭には鋭く尖った2本の角。
尖った耳。
漆黒の黒髪。
赤い瞳。
やっぱりこの姿はカッコいいけど当たり前だが僕らしくないな。
カッコいいが、別に僕はイケメンになりたいと思わないし、前の僕の顔も気に入っていた。
できるなら、生前の人間の姿。
如月優永の姿に戻りたい。
人間の姿にすることは、できないのだろうか…。
……物は試し…か…
やってみるだけ、やるか…
僕は、頭の中でイメージをする。かつて、人間だった、自分の姿……目があって、鼻があって、耳があって……って、当たり前か。
すると、僕の体が激しく光った。
目を瞑ってしまうぐらいに……。
そして、パッと自分の姿を見て驚く。
鏡に映っていたのは、かつて見慣れたはずなのに、懐かしい人間の僕が映っていた。
なんと、僕の姿は人間だった姿に戻っていた。
見慣れた、冴えない顔、ボサボサな髪…かつてこんなに自分の顔を見て安堵したことはなかった。
どういう原理かは不明だが、望み通りに僕は僕の姿に戻ることに成功した。
トントン
ドアをノックする音が聞こえた。
まずい、誰か入ってくる…
この姿を見られたら…
「あなた様、失礼しま…だっ…!誰?」
遅かった。
だか、結局、どうしようもなかったな。
部屋に入って来たのはネインだった。
ネインは僕のこの姿を見て驚いている様子だった。
「に……人間?なぜ、人間が、あなた様の部屋に?……まずは、拘束する!」
ネインは剣を抜く。
あっ…まずい。
僕を人間だと思ってしまっている。
「待て待て!僕はデーモンだ!」
僕は必死に説得しようとした。
だか、当然信じてもらうことはできない。
「おのれ…愚かな人間が、あなた様を装うか…許さない…」
ネインは魔力を解放させる。
戦闘体制に入ってしまった。
このままでは、ネインに斬られる…
どうすれば…
待て…もう一度デーモンの姿になればいいのでは?
そうすれば、ネインが信じてくれるかもしれない。
よし…僕はデーモンの姿を頭でイメージする。
すると、僕から、光が溢れ出した。
「愚かな人間よ…ひれ伏せ!」
ネインは僕に剣を振るったが、間一髪剣を止めることができた。
デーモンの姿に戻れたのだ。
「おい…落ち着け…ネイン…」
僕はネインに言った。
「あっ…デーモン…様?」
ネインはデーモンの僕姿の僕を見て、ようやく理解した。
「す…すみません…私…あなた様に剣を…な、なんてことをしてしまって…」
ネインは慌てた様子だった。
「仕方ないことだ…むしろ、ネインのあの行動は本来なら的確な判断だ。気にすることはない」
僕は肩を落とすネインを励ました。
「……ところで、あなた様…なぜ、人間の姿なんかになられたのですか?」
なぜって…
なんて言えばいいのだろう。
「まさか…人間の姿になることで、人間のフリをして、人間を騙し、人間を駆逐するという作戦ですか?」
「フッ…さすがは、ネイン…正解だ」
とりあえず、そういうことにしとこう。
「ですが、どうやって人間の姿に化たのでしょうか?」
「ん〜、頭の中でイメージしたら、なぜだか、できてしまったのだ」
僕は髪を整えながら言った。ボサボサな髪の毛を整えるのは昔から難しい。ワックスなどあればいいんだけどな。あるわけないか。
「とっても、かっこいいです!前のお姿も、今のお姿もどちらも、神秘的なお姿です!」
「あ、ありがとう」
意外だな。案外あっさりと。だって魔人と人間って争っているんだろ?その人間の姿になることを拒むことはないのだろうか?
まっ…いっか、細かいことは気にしない。
ある程度髪の毛が整ったところで、次なる目標を立てなければならない。
ゾルデニック団と、戦ったとき思ったのが…思ったより皆んな強いのだなと思った。皆んな無傷で、ほぼ疲れも見せない。それどころかに魔物狩りに行こうとか、頭のおかしいことを言っている。なんとか、言いくるめて一旦待機してもらっている。
カマセという幹部も大した事なかったな…。だけど、いい経験にはなったと思う。
僕は皆んなの待機する、王室へと向かった。
♢
「ム…お前は誰だ?」
「全く、だから、デーモンだ」
「ああ!そうだったな!姿が変わっていたから、わからなくなってしまった!失敬、失敬!」
「いい加減覚えろよ、このやりとりは、5回目だぞ?」
アルネネの記憶力は鶏と同じくらいのはわかった。
「その姿は人間を騙すためになったの?」
レーンが聞いてきた。
「まあ、そんな感じ…」
「しかし不思議やんな、姿を変えらるなんて」
コメコが首を傾げながら言った。
「きょ、…興味深いですね〜」
フカシギは僕の体をちょこちょこ触りながら言った。
「おい、やめろ」
「少しだけ、我慢してください、ふむふむ…」
僕の体を引っ張ったりつねったり、時より噛ぶりつかりたりした。
「いっ…痛い!」
「我慢してください……研究中です…」
「も、もう終わりだ」
無理矢理彼女を突き放した。
「もう少し、いろいろ試したかったのですがね〜残念です。あ、そうだ、今度解剖とかしてもいいですか?」
「いいわけないだろ!貴様は頭のいかれたマッドサイエンティストか?」
フカシギに実験台にされないように気をつけなければ…
「ああ…今のお姿もカッコいいでござます」
僕の手をそっと握りながら、ラヴァが言った。
「ネインに、同じ事さっき言われてたけど、ありがとう」
「な、……ネインに先を越された……」
ラヴァは肩を落とした。ネインに先に同じことを言われていたことにショックを受けているんだろう。
「じゃ、……じゃあ、クールです!クール!」
同じ意味だと思うが、指摘するとラヴァが可哀想なためスルーしよう。
「ああ、ありがとう」
「フフ♪」
ラヴァはネインが言っていない言葉で僕を褒めることに成功したからか少しご機嫌になった様子だった。
「さて、これからどうするか話し合おう」
僕は皆んなに向けて言った。
「あなた様!」
ネインが、慌てて僕に駆け寄った。
なんだ?緊急事態でも起きたのか?
「どうした、ネイン」
「魔王会に…招待されました!」
「魔王会?」
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