第6話 決死の説得
「戦争が始まるのだ」
よっしゃ、きまったなこりゃ。
僕の精一杯の魔王らしさを出したわけだが……。
恥ずかしいな…なんだか厨二病みたい…
なんだか、劇団でもやっている気分だな。
『アハハハハハ!』
アルネネと、キララと、コメコと、フカシギは、盛大に笑った。
僕を馬鹿にするような笑い方だ。
「な、なぜ笑う!なにが、可笑しい?」
「いや、デーモン様らしくねーなと思ってな」
アルネネが笑を納めて言った。
「そうッスね。デーモン様がそんなこと言うなんて、思わず笑ってしまったッス。すいません」
キララも同じく。
「ええことやん、デーモン様が、強気の性格に変わったってことやんね」
コメコも同じく。
「記憶喪失による性格変化ですか……興味がありますね〜ぜひ、経過観察させてください」
フカシギは興味深そうに
まあ、前のデーモンは、僕とは違う人物だったんだから性格が違うのは当たり前だ。
人物と言ったが、魔王は人という分類に入るのだろうか、それともまた…別ジャンルに入るのだろか……。
「だがヨォ、今のデーモン様が、私達の上に立つべき資格があるのか……ハッキリさせようぜ」
アルネネが、そう言う。
「どう言うことだ?」
「簡単に言うとな、今のデーモン様じゃ俺は下につく気がねーってんだよ」
空気が変わった。
アルネネはあきらかに僕に向けて殺気を放った。
突き刺すような視線が僕に放たれる。
「たかが、俺の拳術を受けて痛がってる様子を見る限り、ムカついてくるんだよなぁ?そんな程度なのかってな。いや、そんな程度まで成り下がったのかって。だからさ、証明してくれよ…俺を服従させるなにかを」
真っ直ぐな、紅蓮色の瞳が僕を見つめていた。
なんだ?一体なんだというのだ?
僕は内心ビビっていた。
当然じゃないか、誰でも殺気立てた目で見られたら。
「上に立つ…証明?」
「ああ…今のデーモン様じゃ正直、俺は着いて行こうと思わねぇ…だから、俺と戦って証明をして欲しいんだ…俺と出会ったあの時のようにな…」
あの時?
初めてデーモンと出会ったときのことか…
ようはアルネネが言いたかったことは、今の僕に強さが感じないと思ってるのだ。
当然だ。この世界に転生してからのヒヨッコなのだ。
戦いに関しては右も左もわからかいレベルだ。
よし、やってやろう。
さっきの腹パンのお返しをお見舞いしてやる。
「いいだろう。表に出ろ、アルネネ、そこで私に全力をぶつけてみろ。圧倒的絶望を味合わせてやる」
僕は言ってやった…
さっきから喧嘩口調で話してくるからストレスが溜まっていたんだ。
アルネネを含めて、皆んなには申し訳なく思う。様子を見ていると、僕の前の魔王…デーモンのことが本当に好きなのが伝わってくる。
記憶喪失など、これしのぎの言葉で逃げているわけだが、本物のデーモンには僕のせいでもう会うことさえ叶わないのかもしれない。
それどころか、失望をさせてしまうかもしれない。
だけど、今は僕にできることをやるしかない。
君らの好きな魔王にはなれない。
デーモンには、僕はなれない。
僕は元人間の如月優永だから。
だけど、君らの理想に近づく努力はしよう。
まずは、最強の魔王を目指そう。
君らを導こう。
それが僕にできる最低限の過程なのだ。
まあ、まずはアルネネを納得させないとな。
そして、僕達は城から離れた荒野に来た。
空は、どんよりしていて、雨が降りそうな雰囲気をだしていた。
殺気だったアルネネを目の前にする。
怖っ…
いかにも、殺る気満々だな…本当は
今日会ったばっかりの人に殺意剥き出しで睨まれることになるとはな…
しかも、自分の手下に…
本当は死ぬほど僕を恨んでいるだけでは?
「ネイン含むその他…手出しは許さんからな…」
当然ネインを含む者達も、観戦しているが途中で乱入されたら困る。
「わかりました…」
ネインが答えた。
「俺に喧嘩を買ったんだ…覚悟はできているんだろな?」
「勘違いするな…喧嘩ではない。これは、貴様に対しての調教だ…僕の実力を知りたい?なら、身をもって味合わせてやるよ…」
「以前に比べて、口が達者になったなぁ!」
「御託はいい、さっさとかかってこい」
そう言った次の瞬間、アルネネが僕の前から消えた。
いや早すぎて見えないだけだな。
「オラァ!」
「グゥ!カハァ!」
僕の腹に、アルネネ拳が突き刺さる。
そのまま先ほど同様に吹っ飛ばされた。
そのまま後ろへと倒れ込む。
さっきの不意打ちパンチの二の舞となった。
アルネネの拳はやはり効く。
呼吸がしにくい。
そして、超痛い。
「実はよう!デーモン様と、戯れるときは、一応手加減してたんだ、だけどヨォ!今日ばかしは本気でいかせてもらうぜ」
肩を回しながらアルネネは言う。
僕は何とか立ち上がる。
率直に強い。
「まだまだ行くぜぇ!」
僕に殴りかかるアルネネ。
連打が止まらない。
「オラオラオラオラァ!!!」
「グゥ、ウウウ」
殺人パンチで、数十発ほど僕を殴ると、次は僕の胸ぐらを掴む。
「ふざけてんのかテメェ?反撃しとこいよ?戦う気あんのか?」
戦う気は僕にはない。
彼女を傷つけたくないのだ。
チビ魔法使いとの戦いで、確かに感じた魔力、そして、恐ろしい力。
それを使えば彼女に勝てるかもしれないが、彼女がどうなるのかはわからない。
彼女を過小評価しているわけではないだが、万が一僕の攻撃で何かあるかもしれない。
一歩間違えば、最悪な場合があり得るのだ。
彼女を、傷つけたくない。
彼が守ってきたものを、壊したくない。
だから、僕は耐え続ける。
彼女の拳を。
僕に僕に対する不満を拳に変えて放ってきてほしい。
それが、今の僕にできる戦いなのだ。
「僕は、手を出さん……」
「アァ?ふざけんてんのか?」
「君を傷つけるわけには……いかないのだ…」
彼女は僕に拳を放った。
また、その勢いで殴り飛ばされた。
僕は横たわる。
「甘い事言ってんじゃねーぞ!」
そう言って、横たわる僕の腹を蹴り続ける。
「グフッ、……ツ……」
「ホラ、こいよ、ホラ!ホラァ!」
蹴り飛ばされた。
だけど、僕は立ち上がった。
そして、彼女の目の前に立った。
「君の知る、君の大好きな僕ではない……だけど、僕は僕なりに君達を知ろうと思う。君達の理想にはなれない。だか、君達の理想を聞かせてくれ。できる限り近づけるよう努力する。だから今の場は気が済むまで僕を殴ってくれ。それで解決するとは思ってはいない。しかし、僕にできることは…それぐらいしかない…」
僕の思いは、伝えた。
ハッキリとありのままに。
「チッ!」
彼女は僕に拳を放つ。
だか僕の目の前でその拳は止まった。
「わかったよ……どうやら、俺がデーモン様を理解してなかったみたいだな……やっぱデーモン様の器はデケェ…改めて尊敬させられたぜ!」
どうやら僕の気持ちは伝わったらしい。
内心ホッとした。
だって普通に殺されると思ったんだもん。
転生早々にまた死ぬところだった。
「デーモン様!大丈夫ですか!」
ネインが、心配そうに僕に駆け寄る。
「フッ、これぐらいかすり傷でもない」
「そ、そうなんですか?さ、さすがあなた様!」
とりあえず見栄を張ろう。
だって痛がってたらかっこ悪いじゃん。
「しかし、俺もビックリしたぜ!本当は全然きいてねーんだろ?俺の拳術。本気に殴ったのにな。きいたふりするなんて、余計なお世話だっつーの」
普通に泣き叫ぶほど、痛かったけどバレてなくてよかった。
我ながら名演技だな。
「わかったでしょう?デーモン様はたとえ記憶喪失になったとしても、デーモン様なのよ。」
ラヴァが得意げに言う。
「フワァ〜終わった?」
大きな欠伸をしながらレーンが言った。
あとの手下達の個性的な反応は割愛させていただく。
なにより疲れた…一旦寝たい。
「じゃあ、第2ラウンド行こうぜ!」
「え?」
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