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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第一章 雷鳴に奉げる憎悪の花束
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五人目

 ジンとのPvPの後、適当に時間を潰して一旦お昼を食べにログアウトし、もう一度戻って来た。

 その時には既に東雲姉弟とヘカテーもインしており、一分ほど遅れてジンもやって来た。

 立ったままなのも目立つので、近くの喫茶店に入ってそこで紹介することになった。


「というわけでメンバーに加わってくれたジンさんです」

「えーっと、なんというか、よろしく?」


 ジンのことを三人に紹介すると、ノエルは誰だろうと首を少しだけ傾げ、シエルは装備を見て満足そうに頷き、ヘカテーは少しだけ驚いた顔をしていた。


「あ! ヨミちゃんと戦ってた人だ」

「最後に焦って盾で攻撃したんだっけ。その焦りがなければ、もう少しいい戦いができただろうな」

「それは自分でもそう思ってたよ。だから一週間育成しまくって、偶然ヨミちゃんと会ったから再戦申し込んだけど、結局負けちゃったよ」

「でも前よりもうんと強くなってて驚きました。片手剣の戦技って結構強いのが多いんですね」

「使いやすいタイプの剣だからね。戦技そのものが強いっていうより、戦技そのものが他のと比べてシンプルに殺傷することに特化している感じかな」

「なるほど、確かに」


 特に突きは回避がしづらい特徴があり、その突き技が分かっているだけでも三つもある。熟練度を上げて行けば全ての戦技も分かるだろうし、まだ他にもあるかもしれない。


「でも、ヨミさんといい戦いができるってことは、戦力としてはかなり期待できそうですね! ジンさんはシールダーですけど」

「ヘカテーちゃんもこのギルド入ってたんだっけ。まさかこうして顔を合わせるとはね」

「お知り合いだったんですか?」

「何度かバトレイドで手合わせをした程度だよ。ヘカテーちゃんも、しょっちゅうバトレイドに来てたからね」


 そう言えば、ヘカテーはバトレイドで『断頭姫』とか『妖精さん』などと呼ばれていたし、対人戦メインでこのゲームを楽しんでいたのだろう。

 ジンと初めて会ったのもバトレイドだったし、ヘカテーとも何度か手合わせしたとのことだし、彼もきっと頻繁に足を運んでいたのかもしれない。


「シールダー、タンク職だよな? うちには回避タンクと脳筋しかいないから助かるよ」

「シエルもどっちかっていうと脳筋寄りでしょ」

「姉さんほどじゃないよ。俺のメインはあくまで銃撃と魔術だ。ガンカタは自衛だよ」

「赫き腐敗の森のエネミー殴殺できる時点で自衛の域超えてるって」


 大深緑の森でエネミーを狩りつつ、赫き腐敗の森の浅い所に住むエネミーを倒したことで素材を手にしたおかげで、腐敗耐性を上げられる装備を身に着けている東雲姉弟。

 ヨミやヘカテーのように最深部近くまでじゃなければゲージが進まない、というほど耐性は高くないが、それでもクロムのおかげで森の中腹辺りまでであれば問題なく進める。

 そこでシエルはガンカタでエネミーを殴殺したりしているので、それで脳筋じゃないと言うのは流石に無理がある。確かにノエルほど偏ってはいないが。


「そういえばジンさん、ギルドには入っているって言ってましたけど」

「そのことね。ヨミちゃんにも聞かれたけど、サークラ的な女の子が入ったおかげでギルド内がギスギスし始めて、一昨日解散しちゃってね」

「……ごめんなさい」

「いいよ、気にしなくて。最近あいつらのやり方にも不満があったし、結果的にヨミちゃんから勧誘されたしいいタイミングでなくなったと受け取ってるよ」


 サークルクラッシャーがどんなものなのかはよく分かっていないが、長いことやってきた仲間がギスギスし始めるくらいだし、ものすごくあざとい人なのだろうと想像する。

 きっと、いわゆる姫プレイをお願いしてくるタイプなのだろう。ヨミもあまりそういう手合いは好きじゃないので、自分のギルドに入らないように注意しなければいけない。


「それで、ヨミちゃんから今の目標を聞いたんだけど、マジであれに挑むの?」


 ヨミから聞いた目標とはつまり、黄竜王アンボルトの討伐。

 未だかつて討伐されたことのないグランドエネミー。その中で、未だに目撃情報すらない黄竜王。

 目撃情報がないとはつまり戦った記録がないということで、記録がないとはすなわち情報がない。どんな攻撃をするのか、どれほどの大きさなのか、攻撃の威力は、など、そういった情報が一つもないため眷属ドラゴンの黄竜ボルトリントから推測するしかない。


 眷属は竜王の力の一部を使うことができる。

 そこから完全に推測することは不可能だが、幸いこっちにはキモいくらい策を用意することで有名な外道ブレーンのシエルがいる。

 想定できること全てに対して策を用意してくれるという安心感と、その解決策がかなりの無茶振りになるのではないかという不安がないまぜになっているのは内緒だ。


「その通りです。ボクたちは今、黄竜王アンボルトに挑むために育成に勤しんでいます。もしボクがあの森の近くに行くことがなかったら挑むのを諦めていたかもしれませんけど、あそこは強くてデカくて硬いエネミーがわんさかいますから。ステータスや熟練度、スキルレベル上げにはもってこいです」

「初めてそこに転送された人曰く、ソロで行って勝てるような強さをしていないって言われてたはずなんだけどなあ」

「ヨミは過去に、他ゲーですけどギルド一つ潰してますからね。ソロで」

「それ、黄泉送りの話でしょ。……え、マジでヨミちゃんが黄泉送りなの? 名前が一緒で戦い方も似てるって言われてたけど、マジなの?」

「…………自分ではあまりその名前を名乗ったことはないですけど、マジです。でもここではピカピカルーキーのヨミちゃんですので、今まで通りお願いします」


 相手は自分のことをしっかりと女の子として見ているので仕方がないが、自分のことをヨミ「ちゃん」と言った途端に「ぷはっ」とシエルが吹き出したのを見逃さなかった。


「い゛っ!?」


 なのでテーブルの下で脛を思い切り蹴ってやった。

 急に声を上げてテーブルに突っ伏し悶え始めたシエルに、ヘカテーがびっくりして目を丸くしてどうしたのかと声をかけ、ノエルがじとーっとこっちをジト目を向けて来た。

 ボクは無関係ですと視線を外すが、ノエルがホログラムキーボードを出して文字を打ち込むと、メッセージが飛んできた。


『ノエル:今夜お風呂と抱き枕』

『ヨミ:ごめんなさい』

『ノエル:ダメ』


 しばらくお許しを求めるようにメッセージを送り続けたが、ダメだった。

 何ならあまりにもごねすぎたせいで、お風呂で全身洗いフルコースにグレードアップしてしまった。ノエルほどの美少女に洗ってもらえるのは男として嬉しいが、それはそれとしてめちゃくちゃ恥ずかしいことに変わりないので勘弁してほしかった。

 もっと食い下がろうと思ったが、これ以上嫌がるなら詩月もここに加えるぞと言われたので、渋々全身洗われることを受け入れた。


「オレもギルメンになった以上竜王討伐にも参加するけど、あれって確かキークエクリアしてないと挑戦権もらえないし、それがないと報酬を全部受け取れないって言われてるけど……」

「「「「……」」」」


 そう、ジンは竜王などが関わるグランドクエストからは縁遠いプレイヤーだった。なので当然、グランド関連に一つも関わっていない。

 ジンを除いたヨミたちはお互いに目線を交差させ、数秒見つめ合ってから頷く。


「ジンさん」

「もうさん付けはいいよ。敬語もね。君がマスターなんだし」

「分かった。じゃあ、ジン。タンクとヘイト管理は任せた」

「えっ」


 にっこりと笑顔を浮かべながら宣告するヨミ。

 一瞬何のことか分かっていなさそうだったが、これからボルトリントに挑むことを告げると頬を引きつらせていた。

 その一時間半後、疲れ果てたジンがフィールドの上で真っ白になっていたことは言うまでもないだろう。

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