黒竜神『繝弱Ρ繝ォ繧ャ繝ウ繝』、白竜神『繝悶Λ繝ウ繝ィ繝ォ繝?』
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───今、バーンロットは何と言ったか。
ヨミは自分の耳に届いた言葉を何度も反芻し、ようやく理解する。
同じ身長同じ年齢の少年少女に見える二人は、見た目通りの人間ではない。それどころか、魔族でも獣人族でも機械人種でも森妖精族でもない。
それら五つの基本種族から派生しているレア種族や固有種族でもない。
FDOの世界における諸悪の根源。
900年間続く悪夢の源。
この世界の住人にとっての、倒さなければいけない絶対悪。
白と黒の、二柱の竜神だ。
「珍しいこともあるものだな。赫、お前がここまで傷を付けられるとは」
「珍しいこともあるものね。赫、お前が炎で傷を付けられるだなんて」
黒の声は低く、聞くだけで恐怖を感じる。
白の声は優しく、恐ろしいほどまでに美しい。
『申し訳ありません。あそこにいる琥珀の髪の小娘が、女神の奇跡の担い手だったようで、少々てこずっておりました』
「ほう、女神の奇跡の使い手か」
「へぇ、女神の奇跡の使い手ね」
くるりと白と黒の神が振り返る。
黒の瞳は真っ黒で、見ているだけで吸い込まれてしまいそうだ。
白の瞳は真っ白で、見ているだけで魅了されてしまいそうだ。
再び竜神はバーンロットの方を向く。
「赫、お前は、お前だけは、この世の者たちに弑されてはならない」
「赫、お前は、お前だけは、私たちの期待を決して裏切ってはいけない」
『もちろんでございます。我はあなた方に最初に作られた存在。最も多くの血と力を与えられた存在。ゆえに、敗れては、』
「でもお前は、奇跡の使い手とはいえ人の手で傷をつけられた」
「でもお前は、本体ではないとはいえ二度も敗れている」
自分たちに向けられたものではない。それは全てバーンロットに向けられているものだと分かっている。
それでも、体が硬直し呼吸ができなくなり、震えることしかできないほどの大瀑布のようなプレッシャーが、バーンロットより小さな体をしている竜神二柱から放たれる。
ひゅっ、ひゅっ、と短い呼吸しかできない。
ヨミのことを抱きしめているノエルは完全に呼吸が止まっており、顔を青くしてがたがたと震えている。
「殺しはしない。でも、折檻はしないといけない」
「殺しはいない。でも、改めて体に覚えさせないといけない」
すっと白が右腕、黒が左腕を上げる。
何をするつもりだ、と考えるよりも早くそれが結果として現れる。
バツンッ! という音とともにバーンロットの右腕が根元から消し飛び、ズドンッ! という音とともに腹のど真ん中が大きくえぐられる。
何をしたのか分からないし、奴が何をされたのかもわからない。
ただ言えることは、最強の竜王をまるで赤子の手を捻るかのように容易く瀕死に追い込んでしまった。
苦悶のうめき声を上げて地面に倒れ、そこにさらに追い打ちをかけて全身の鱗を砕いている竜神のことを注視して、調べるコマンドを使う。
『ENEMY NAME:黒竜神『繝弱Ρ繝ォ繧ャ繝ウ繝』、白竜神『繝悶Λ繝ウ繝ィ繝ォ繝?』
縺薙?荳也阜縺ョ逅??螟悶°繧芽ィェ繧後◆逡ー逡後?遶懃・槭?よ枚譏弱′螟ァ縺阪¥逋コ螻輔☆繧矩?蠎ヲ蟋ソ繧定ヲ九○縲∝私轣ス繧呈険繧翫∪縺榊?縺ヲ繧偵Μ繧サ繝?ヨ縺吶k縲。
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強さ:死、あるのみ』
あまりにも強すぎるためか、あるいはまだ挑めるような状態ではないからか。
表示されたウィンドウの文字はほぼ全てが文字化けしており、黒竜神も白竜神も名前すら分からない。
そして、その強さを示す欄に書かれていることは、非常にシンプルな死刑宣告だった。
「これで許してやろう。ただ次はない。絶対的な勝利をもたらせ」
「これで許してやろう。でも次はない。絶対的な絶望を与えなさい」
『ぐ、ぅ……。慈悲、深いご指導、感謝……いたします……』
”おいおいおいおいおいおいおいおいおい!?!?!?!!”
”なんやこれ……なんやこれぇ!?”
”うせやろ……?赫竜王がこんな簡単に……”
”なんでこんなところに竜神が来るねん!?おかしいやんけ!?”
”情報という名の宝物の塊みたいなんが飛び込んできやがった”
”魔法使いいるからここで倒せるかと思ったけど、無理やこれ勝てん”
”つか傷付けられたってだけでここまでぼこぼこにする必要ないやんけ”
”人で言うならとてつもない毒親やんこいつ”
”こいつら人の姿してるけど、まさかとは思うがバーンロットと同じで全く本気じゃない?”
”仮にこれで本来の性能じゃないってんならさ、マジで勝つこと不可能じゃね?バーンロット倒して装備揃えても、万全状態のバーンロットの鱗軽々と砕けるんだし、意味ないじゃん”
”お願いです運営様。もう少し手心というものを加えてください”
”竜王考察すればとてつもない速度で落ちてったぞおい”
コメント欄も竜神の出現に大盛り上がりとなっており、濁流のような速度で流れていく。
同接も跳ね上がって行っているが、今はそれどころではない。
強さが「死、あるのみ」と書かれているということは、抵抗することすら不可能ということだろう。
これはプレイヤーにのみ有効なのか、それともNPCにも有効なのか。
一発勝負で成功してきているため、そういう細かいところまでは分からない。
「おい竜神。さっさとそこを退いちゃくれないか。そこまで弱らせてくれた赫竜王を、今ここで仕留める」
たばこをくゆらせているグレイスが数十体ものイノケンティウスを作り出し、しっしと右手を動かしながら竜神に言う。
「ふむ、どうやらあの人間は分かっていないようだな」
「あは、どうやらあの人間は分かっていないようね」
再び振り返った竜神は怒りをあらわにし、くすりとあどけなく笑う。
そして、白と黒が指を絡めて手を繋ぎながらその腕を上げる。
「っ……!! ぜ、全員退避!!!!! せめて……せめて第十五魔導大隊の生き残りだけでも撤退して!!!!!!!!」
恐ろしい予感がする。
できる確率はかなり低いが、それでもせめてNPCだけは、やり直しの効く命を持たないこの世界の住人である彼らだけは、撤退させなければいけない。
ヨミの声にいち早く反応したのは美琴で、竜神に向かうのではなく真っすぐガウェインの方に向かって行った。
回復薬を飲んで回復に専念している彼を美琴が抱え、雷をまといながら高速で移動し撤退を図る。
次に動いたのは生き残りのタンクたちだ。
クイックドライブで一番前にいるグレイスの前に向かって瞬間移動し、全員で一斉に盾戦技やタンクスキルを次々と起動する。
その次に動いたのは、重ね掛けされた防御の外にいるイノケンティウスたちだ。
激しく燃え上がる音を咆哮として、炎の十字架を振り回しながら真っすぐ竜神に向かって行った。
そして最後に動いたのは、竜神だった。
「「死ね」」
ぽつりと零し、掲げていた腕をすっと下ろして繋いでいた手を離す。
何かが二柱の手からぽろりと零れ落ちる。
ゆっくりと重力に従って地面に落ちたそれは、全てを破壊した。
視界が潰れ、音が消える。それだけじゃない。
地面が蒸発し、炎の教皇が消滅し、重ねがねされた防御も一秒もかからずに全てが壊れる。
グレイスが炎で迎撃しようとしたが瞬く間に押し返されて蒸発し、近くにいたヨミはノエルと共に同じく蒸発。
ヨミは体がポリゴンとなって消えていく感触を味わいながら、どうか彼らだけはと無事を願った。




