反逆の旗印:赫の章 7
「フレイヤさん!」
「大丈夫です! HPはかなり持っていかれましたが、無事です!」
回避した美琴はともかく、ガードしていたとはいえ直撃したようなもののフレイヤを心配して声をかけると、右半身を少し焼かれHPがかなり減っているが生存していた。
今のブレスは別に本気のブレスというわけでもないだろう。言い換えれば、本気じゃなくても規格外な性能を誇るフレイヤの魔導兵装を、防御に特化したものを破壊したことになる。
ならもし、本体が本気で攻撃を仕掛けてきたらどうなるのか。想像するだけで恐ろしい。
『ようやくまみえることができたな。吸血鬼の小娘』
「最初からしゃべるのか」
『我はずっと待ちわびていたぞ。貴様と戦えるこの瞬間を』
「ボクはまだもう少し準備をしてから戦いたかった……と言いたいところだけど、正直に話せばボクも楽しみにしてたよ」
竜神を除けば最強の竜。
モンスターを狩猟する某ゲームが好きなので、こういう超大型のドラゴンと戦えることは嬉しいし、強敵に挑むことも好きだ。
それを両方とも満たしていると言えるバーンロットと直接戦える。この瞬間を密かに楽しみにしていた。
できるのなら諸々の前提条件等をクリアしてからにしたかったが、来てしまったからには仕方があるまい。
魔術を次々と起動する。
血を燃やし、血の鎧をまとって身体能力を底上げし、MPを消費して自分の血を生成して失血しないようにする。
身体強化系のバフを重ねていき、相棒を取り出し、大鎌形態のそれを構える。
「行くぞバーンロット!」
ぐっと姿勢を低くしてから、全力で走り出す。
高い筋力から得られるすさまじい速度で、ぐんぐんバーンロットとの距離を縮めていく。
円を組むように奴を取り囲んでいるプレイヤーの隙間を縫うように通り抜け、大きく跳躍して飛び越え、時には屈強なタンクのプレイヤーの方を踏み台にして跳んでいく。
翼を生やして飛ぶことはできるようになったが、まだスキル熟練度が低いので速度は遅い。
走ったほうが断然速いので、早く戦いたいヨミは走ることを優先した。
バーンロットの口から赤い炎が漏れるのが見える。ただの炎ではない。腐敗が混じっている腐敗の炎だ。
いつもならすぐに影に潜るが、後ろから何かが高速で接近してくるのが見えたので回避行動はとらない。
赫き灼熱と腐敗の王の息吹が放たれる。
ほぼ同時にヨミの正面に、足がなく浮遊している数メートルの大きさの体にそれ以上の大きさの塔盾を持って構え、正面に幾重ものシールドを展開している機械人形が現れる。
フレイヤの大型との戦闘の際にしょっちゅう出てくる、ガード特化の魔導兵装『護国の王』だ。
なんかでかくなってないかこれと思いつつ、次々とシールドが割られて行きつつも前に進んでいくれているので、ヨミも後ろに隠れつつともに進む。
「そんなバカスカ攻撃しないでよ!」
今守りの後ろから出たら丸焼きにされるため少しもどかしく感じていると、上に跳んで回避していた美琴が雷をまとい高速落下しながら、雷薙をバーンロットの頭に叩きつける。
「いっ……たぁーい!? 何こいつ硬すぎじゃない!?」
雷薙を思い切り叩きつけた美琴は、ぱっとバーンロットから離れると涙目になりながら手をひらひらと振る。
もとより竜王は鱗がめちゃくちゃ硬いが、バーンロットは群を抜いて硬いらしい。
素でその防御力だと、能力を使って己の強度を強化していたゴルドフレイの立つ瀬がないなと苦笑しつつ、美琴の一撃のおかげでブレスが途切れたので素早く護国の王の後ろから飛び出る。
移動している間にエネルギーは自然回復しており、準備は万全。
バフも重ねてあるし、あとはタイミングだ。
武装状態でのトップスピードを維持して全力疾走していると、何かが金色の光の尾を引いてヨミを追い抜いて行った。
「星の槍・流星!」
流星となって突進していったフレイヤのランスがバーンロットと衝突し、爆発を引き起こす。
フレイヤごと飛んで行ったのかと思ったらランスだけで、少し遅れてフレイヤが追い抜いて行った。
「おかしいな、ボクもかなり速度に特化している方だと思うんだけど」
美琴は雷でフレイヤは魔導兵装。それぞれの方法で速度に特化させる術を持っていると理解はしているが、それはそれとしてなんか悔しい。
なら速度では負けているかもしれないが、一発の火力で勝ってやると意気込んで影の中に潜り、その中を高速移動してバーンロットの体に落ちている影から飛び出る。
『ぬっ───』
「『ウェポンアウェイク・全放出』───『雷禍・大鎌撃』!」
全てのエネルギーを全消費して雷の特大大鎌を生成。バフにバフを重ねた自分の筋力をフルに使い、全力で叩きつける。
金属でも殴っているのかと思う感触が返ってきて手が少し痺れそうになるが、それを堪えて最後まで強く押し込み続ける。
ここに極大魔術の『イクリプスデスサイズ』を合わせることができればよかったが、開幕MP全消費はよくないと判断して使わなかった。
少しでも多くのHPを削っておくのなら、やっておいた方がよかったかもしれない。
固有戦技が終了し大きく弾き飛ばされる。
途中で血武器を作ってそれを掴むことで地面に落下せず、ゆっくりと着地する。
『ふむ。貴様が強き者だからか。貴様の周りには同じく強き者が集まるようだな』
「ボクはお前と違って人望はあるからな」
「まずあいつに人望も何もないだろ」
近寄ってきたアーネストが軽いチョップを頭に落としてくる。
「お前、これがある前でよくボクにそんなことできるな」
「今更だろ。もちろん君のことはきちんと異性として認識しているけど、ここまで小柄だとね」
「誰がロリだ」
”いやいや、ヨミちゃんはれっきとしたロリっ子ですよ?”
”超絶美ロリな吸血鬼様です”
”なんかヨミちゃんの背中からコウモリの翼みたいなんが生えてるんですが”
”前までなかったよなこんなの”
”遂にエマちゃんに追い付いた感じなのかな?でも条件はなんだろ”
”このクソイケメンめぇ……!ヨミちゃんになんでそんなに気軽に触れるんだよぉ……!”
”美琴ちゃんとフレイヤちゃんもいるし、多分そのうち各ギルドの主力メンバーも来るだろうし、亡霊の弾丸も来るだろうからまた大規模レイドが見れそう”
”というかバーンロットってこんな姿なのか。デカすぎんだろ……”
”めちゃくちゃシンプルで超王道なザ・ドラゴンって見た目してるけど、それにしてもでかい”
コメント欄も始めて見る三原色最強、全竜王最強の赫の王に戦慄している。
圧倒的なその巨体は見る者全てを威圧して、一目で勝てるわけがないと思わせてしまう。
しかしアーネストがHPを少し削ってくれているおかげで、HPが減るということは倒すことができるということだという希望を得られる。
もう一度コメント欄を見ると、既にどこのエリアなのかを把握してくれたようで、どんどんヨミの配信に来ているリスナーに古き誓いの古戦場に行くようにと呼び掛けている。
『貴様とは二度戦い、一度は見逃し二度は貴様が運を勝ち取った。ならば、この三度目はどうなるのだろうな』
「そりゃもちろん、お前をぶっ倒して竜王全滅の一歩を大きく進ませてもらうさ」
『クッ……ハッハハハハハハ! よい傲慢さだな吸血鬼! ならば我は、ここで貴様ら全員を滅ぼしたのち、あの目障りな国を焼き払い腐り落とさせてもらうとしよう』
「させるかってんだよ! アーネスト、ボクに合わせろ!」
「はっ! 冗談! 君が私に合わせろ!」
戦闘狂二人。揃いも揃って極度の負けず嫌い。
互いに笑みを浮かべて、連携を取る気がないように最初っからフルスロットルで走り出す。
「ちょっと二人とも! そんな負けず嫌いをここで発揮しないで連携取って!」
「無駄ですよ、美琴さん。アーネストもヨミさんも、お互いに負けたくないって本気で思っていますから」
「もー! 勝っても負けてもあとでお説教なんだから!」
連携を取るつもりがないようにも見えるヨミとアーネストに美琴がぷんすかと怒り、フレイヤは二人のことを理解しているからこそ呆れて止めることを諦めていた。
こうして、ヨミにとって三度目の赫竜王との戦闘、一回目の真の姿との戦いが始まる。




