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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
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反逆の旗印:赫の章 1

「うーむ、暇だな」


 アンブロジアズ魔導王国の王都マギア、その中央広場のベンチに腰を掛けたアーネストが、そう独り言ちる。

 ヨミと一戦やろうとログインしたはいいが、肝心のヨミがいない。美琴カナタとサクラ、フレイヤもリタもログインしていないので本格的に戦う相手がいない。

 バトレイドに行ってもいいが、アーネストの強さは知れ渡っておりランダムマッチとかでない限りは、プレイヤーが戦ってくれない。


 特に今は、ゴルドフレイと戦い勝利したことで入手した素材、それを使った防具を身に着けていることもあって余計に人がいない。

 こんな自分と戦ってくれるのは、自分のことをよく思っていない一部のプレイヤーか、互角に戦えるヨミたちくらいだ。


「……仕方ない。フリーデンに行ってロットヴルムと戦うか」

「戦わないという選択肢はないんだね、兄さん」


 頭の上に何かが置かれる感覚と共に、イリヤの声が聞こえる。

 頭の上にある感覚が退いたので振り向くと、トールサイズの紙コップを両手に持ったイリヤがいた。


「はい、これ」

「紅茶か。ありがとう」


 イリヤが持っているのは紅茶だった。

 アーネストもイリヤもイギリス人なので、コーヒーよりも紅茶の方が好きだ。今でも、アーリーモーニングティーやアフタヌーンティーを楽しむこともある。


「全く、兄さんは本当に戦うことで頭がいっぱいなんだね」

「私はただ負けず嫌いなだけだ。ヨミにはまだ負け越しているし、美琴やフレイヤとも戦績は大差ない。カナタとサクラに至っては、戦技なしで勝利したことの方が少ないくらいだ」

「勝ちたいがために何度も勝負を挑むと、相手もうんざりすると思うよ」

「今言った全員負けず嫌いだから、意外とそういうこともないぞ」


 特にサクラとヨミ。この二人は飛びぬけて負けず嫌いだ。

 サクラは自分の剣の腕にかなりの自信を持っており、その自信も納得のいく剣の達人だ。

 ヨミは数々のゲームを経て培われた先読み能力に戦闘経験、鍛えられた自己流の戦い方に自信を持っており、その根底にあるのは誰にも負けたくないという負けず嫌いの意志だ。


 アーネストも自分の剣術の腕に自信を持っているし、イギリスにいた頃にやっていたフェンシングだって、絶対に一位を取ってやるという気持ちで本気で取り組んでいた。

 今はそれがFDOに置き換わり、戦技込みでの最強の剣士系プレイヤーに与えられる剣聖の称号。それが欲しいからと本気で取り組み、手に入れてからは誰にもそれを渡さないという気持ちでより本気にやり込んだ。

 その結果、FDOトッププレイヤーとして名を馳せ、配信を始めれば人気をじわじわと獲得していった。

 最大の要因はどちらかというと、妹のイリヤの方にありそうな気がしなくもないが、最近は親しみやすいということで人がアーネスト目当てで来てくれることも増えたし、まあいいだろう。


「それにしてもさ、ヨミちゃんってすごいよね。次々とグランドクエストに関わってさ」

「一部のグランドと関われない一般プレイヤーから、あまりよく思われてないと言われていたな。本人はそうやって自分のことをよく思っていない層を見つけられて、むしろ嬉しいと言っていたが」

「ずっとヨミちゃん全肯定のリスナーしかいなかったもんね。あんなに可愛いと全肯定したくなるのも分かるけど」


 イリヤは可愛い物好きだ。

 部屋には様々なぬいぐるみが置いてあり、今でも自分でぬいぐるみを集めるのを趣味にしている。

 中学三年生の時の誕生日にあげた大きなクマのぬいぐるみはお気に入りのようで、抱いて寝ているそうだ。実に可愛い妹だ。


 そんなイリヤの可愛いものセンサーの中に、ヨミもしっかり入っている。

 小柄で可憐。少しからかうとすぐに恥ずかしがって真っ赤になるあの少女は、イリヤのお気に入りとなりつつある。


「グランドにはしばらくは関わらない、と言っておきながら速攻で他のフラグを踏んでいるんだよな」

「このゲームってどこにフラグが仕込まれているのか分からないからねー。反逆の旗印は、本当に予想できない場所から来たけどね」

「刀戦技を習得しに言ったつもりが、ついでについてきたな」

「何であんな場所に仕込まれてたんだろうね」


 ショートストーリークエストというのも、未だによく分かっていない。

 ショートストーリークエストはグランドとかかわりがある。だが、分かりやすく直通となっているものと、何回も他のクエストをこなしてやる積み重ね型があり、多くは積み重ね型だ。

 ショートストーリーとあるように、短い物語が主軸となっている。アーネストが蒼竜王ウォータイスへの挑戦権を獲得できる眷属グレイシアニルと戦った時も、ショートストーリーをクリアしてからキークエストに行けた。


 グランドは確実にキークエストが必要だ。絶対に必要というわけではないが、しっかりと正規の手順で挑んだほうが、旨味がある。

 事実、ヨミは偶然発生させた直通型ショートストーリークエストをクリアし挑戦権を獲得したことで、夜空の星剣と暁の煌剣という一対のユニーク武器を入手している。

 そしてシエルも同じようにクエストをクリアすることで魔銃アオステルベンという武器を入手し、それを入手したことで200名ものNPCの協力を得て、最初のグランドエネミー討伐を成し遂げている。


 このように少しでも楽にしたり旨い報酬を手に入れるためにもやったほうがいいが、やけに巧妙に隠されているおかげでどうすればいいのか分からない。

 最近考察ギルドのアーカーシャが、グランドと関わりのある国の中で立場的であったり立地的な面でグランドに近い人からだと、ショートストーリーが発生しやすいのではという考察をしていた。

 考えてみれば、シエルの発生させたアンボルトのクエスト、ヨミの発生させたバーンロットのクエスト、美琴の発生させたグランリーフのクエスト、自分が発生させたウォータイスのクエスト。全てはグランドが生息している国で、そこに関わりが合ったり立地的に近い場所に住むNPCから発生させている。


 そうなると、フリーデンはめちゃくちゃ近くにバーンロットがいるので、ヨミがクリアしたもの以外にもSSクエストが潜んでいる可能性があるし、アンブロジアズ魔導王国内にいるので因縁がありそうなマーリンや王国軍からも発生するかもしれない。


「本当、この運営は何を考えているのか分からんな」

「美琴さんも分からないって言ってたもんね。自分もプレイヤーだから、情報は聞かないようにしているし娘だからって教えてくれることもないみたいだし」

「なんだかんだで、龍博社長は娘には甘いがそういうところはきちんと線引きしているな」

「おかげで楽しめてるって美琴さんも───」


「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 イリヤの言葉を遮るように、体中にずしりと響くような低い特大の咆哮が響く。

 あまりにも急な大音声に、アーネストは思わず持っている紙コップを落としてしまい、イリヤもびくりと体を震わせる。

 今のはなんだと周りを見回し、ぱっと上を見上げる。

 そこには、今のこの世界において、最初の大厄災を除けば最も恐れられる厄災がいた。


 全身が深紅の鱗に包まれており、異常なまでに大きく発達した翼を背中にたたえ、腐敗の霧と炎が鱗の隙間から漏れ出ている。

 それはこの世界に存在する竜の王の頂点に立つ存在。

 それはこの世界において、最も恐れられ口にすることすらはばかられる存在。

 それがこの世界において、神を除いて最強と最恐をほしいままにしている存在。


 炎の王。腐敗の王。この名を与えられた赫き竜の王。

 赫竜王バーンロットが、アンブロジアズ魔導王国、王都マギアを侵略しに来た。

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