表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
287/301

紫の王への挑戦権 1

 低い姿勢で突進していき、二つの首から放たれた毒液ブレスを大きく横に跳躍することで回避し、ヨミとノエルが二人で思い切り攻撃した左端の首が着地の瞬間を狙ってブレスを吐いてくる。

 ヨミは着地と同時に影の中に落ちることでそのまま回避し、影の中を高速潜行して足元から飛び出る。

 エネルギーは溜まり切っていないのでシンプルに思い切り大鎌形態のブリッツグライフェンを叩きつけ、鱗に傷を入れてダメージを入れる。


 首が四つとかいう意味の分からない体の構造をしており、火力の高い魔術師組がバンバン攻撃を仕掛けても、ヘイトを強制的にに自分に向けるタンクのスキルを使っても、必ずヘイトがすぐに分散する。

 一つ一つが完全に独立した意識を持っていることもあって、四つの首が連携を取ってくる。


 左端の首がヨミのことを頭からぱくっとかじろうとしてきたので後ろに下がって回避すると、その隣の首が追撃するように毒霧ブレスを吐いてくる。

 毒の霧は毒液よりは効果が低いが広い範囲に散布される。なのでただ下がるだけじゃだめだと判断し、再び影に落ちて大きく距離を取る。

 エネルギーの充填率に目を向けると、まだ三割程度。竜王の素材を使うことで充填効率は一気に向上したとはいえど、やはり攻撃を仕掛けて衝撃を受けないと蓄積が遅い。


「ヨミちゃん! こいつらやっぱヘイトが首の数だけあるから、全部を引き留めるのめちゃくちゃめんどい!」

「一つや二つだけでもヘイトが向いてくれれば重畳!」


 四つもあるヘイトが半分もなくなれば、かなりやりやすい。

 そもそもヨミは複数対一の戦いを結構得意としているので、火力の高さやその場に残留し続ける毒に目を瞑れば得意な相手な方だ。

 右二つの首がジンにヘイトを向けて、毒液ブレスや毒霧ブレスをバンバン撃っており、後方にいるヒーラーがジンが毒状態になってしまわないようにと浄化系の魔術を連発している。

 前もってここで紫竜王と戦うかもしれないと言っておいたためか、ジンも昨日のうちに多少の対策をしているようで、毒の影響をあまり受けていないように見える。


 ヘイトが二つ向いている間に少しでもHPを削り、美琴とフレイヤが合流して超火力組が揃って一気に倒し切るまでの時間を稼ぐ。


「……何日和ってんだボク」


 ふと、自分が美琴とフレイヤの超火力に頼ろうとしていることに気付いて、確かに助けに来てくれることは決定しているがそれに頼ろうとするのはよくないと、気持ちを改める。


「フレイヤさんたちが来るよりも先に仕留めてやるよぉ!」


 そもそもヨミは戦闘狂気質な負けず嫌いだ。

 強い人に頼って怪物を倒すより、自分で激しい戦闘を繰り広げながらクリアしたほうがずっと楽しいと感じるタイプの人間だ。

 自分の本質を思い出してにぃっと三日月のような笑みを浮かべ、ヴァイオドラに向かって突進する。


 左二つがヨミに向かって毒を吐いてくるが、ブリッツグライフェンを大鎌から盾に変形することで直撃を防ぐ。

 武器となってプレイヤーの規格に性能は落ちているが、それでももととなったものは紫竜王よりも格が上の黄竜王と、強化する際に使った金竜王のもの。

 毒のカット率は素で非常に高いものとなっており、蓄積が始まった毒のゲージもその伸びは非常に緩やかだ。


 盾の熟練度はそこまで高くはないので、カット率の高い盾戦技などは使えないし、タンク系のスキルも取得していない。

 ただただ盾の性能が高いだけなので、正直に言えば宝の持ち腐れのような状態だ。


「『ウェポンアウェイク』───『滅竜魔弾(ドラゴンスレイヤー)』、『ウェポンアウェイク』───『雷轟殲弾(エヒトラーク)』!」


 高速で走り回りながらアオステルベンとボルテロイドを乱射しまくっていたシエルが、足を止めて両方の固有戦技を同時に発動。

 大砲のような銃声を響かせて撃った反動で自身も吹っ飛び、地面を数回転がって素早く起き上がってから全てのMPを消費して特大ダメージを与える魔弾を放つ。


 ギルド対抗決定戦の時にも使っており、プレイヤー相手だとかなり強い破壊属性がついており、武器の耐久にもよるが相手の武器を一発で壊すという芸当もできる。

 ただしMPを全消費するため連射はできないこと。使用するには最低でも自分の最大MPの七割は持っていなければいけないという欠点がある。

 これだけ強力なのだからこういった制限がつくのは当たり前だし仕方がない。


 竜を滅する魔弾と真なる雷の魔弾が放たれ、ヨミに向かってブレスを放っていた二つの首が大きく弾かれる。

 どちらも強力な竜特効が付属しており、たった二発でHPを大きく削る。


「ちくしょおおおおおおおおおおお! どいつもこいつも高倍率竜特効のユニーク武器やらグランドやらを持ち込みやがってえええええええええええええ!」

「……ん!?」


 なんか聞き覚えのある声だと思ってそちらを向くと、歪な特大剣を両手に装備した二刀特大剣の男性プレイヤーがいた。

 そのプレイヤーは過去にヨミをいかさまをしているプレイヤーだと信じ込んで勝負を挑み、ヨミがメスガキ演技をする羽目になり、多くのリスナーにメスガキを望まれるきっかけとなった人物。

 過去に、武器の性能のチェックのためにサクッと処され、全文字カタカナなのに掲示板ではひらがなで書かれてバカにされているプレイヤー。

 そう、あまでうすくんもといアマデウスである。


「なんでお前もいんの!?」

「てめぇらばかりにグランドクリアされてたまるかってんだよ! 俺だってグランドに一回くらい関わりたいんだよというかまずお前が気に食わねえから、なにがなんでもラストアタックは俺が取ってy」


 言っている途中で、ヴァイオドラに踏み潰されて即死した。

 こんな戦いの真っ最中に、それぞれが独立した意識を持った複数の首持ってる奴相手によそ見するからと、笑いそうになるのを堪える。

 こんな見せ場を作ってくれるのなら、配信でもしておけばよかったとちょっとだけ後悔する。


「あいつが来るとなんかギャグっぽくなるのが定番なのか?」

「さぁ?」


 しかし確かにアマデウスが来るとちょっとギャグっぽさが出てしまう。

 一回目はぼこぼこにされすぎてメンタル崩壊。二回目は出オチだった。

 これからもたまに配信とかに出てきてほしい逸材ではある。いやしかし、彼がきっかけでメスガキ(演技)ができるとリスナーに知られ、変態が大集結するようになったのだし、あの時の言動や仕草全部を思い出してしまうのでやっぱり来てほしくないかもしれない。


 気を変な方に取られているので気を取り直して、シエルがチャンスを作ってくれたので全力で疾走しつつブリッツグライフェンを盾から大剣型に変化させる。

 一気に接近できて、ヨミの筋力と武器の重さと長さから生まれる遠心力を利用して大剣を思い切り左の前脚に叩きつける。

 途中でシエルが強化弾を撃ち込んでくれて更に筋力が上がり、近付いてきたノエルと目を合わせて意思疎通をした後、『シャドウバインド』と『ブラックムーン』でほんの僅かに動きを止める。

 こんな魔術程度では動きなんて封じられないことは分かっているが、ほんの一瞬だけは止まる。そして一瞬さえあれば十分だ。


 再び『雷禍の王鎧』を発動させたノエルが制御度外視で全力で地面を蹴って、超爆速で接近してくる。

 既にMPが足りていないのか固有戦技は使っていないが、メイス戦技『パイルインパクト』を発動させている。


「てぇええええええええい!」


 可愛らしい掛け声とは裏腹に、その一撃はえげつないほど重く破壊力がある。

 刃を少し食い込ませているヨミの大剣形態ブリッツグライフェンの峰を思い切り殴りつけ、更に戦技の効果によってもう一度ノエルのスマッシュ以上の追撃が発生する。

 二度の強力な攻撃により食い込んでいた刃が一気にめり込み、ついでに衝撃を受けたことでエネルギーの充填が完了する。


「『ウェポンアウェイク・全放出(フルバースト)』───『雷殲(ブリクスト)大剣撃(グラム)』!」


 本来ならば間合いを拡大して雷の斬撃を飛ばす固有戦技だが、発動させてしまえば余程距離が離れていない限り雷部分のダメージは固定だ。

 要するに、完全にゼロ距離からアンボルトの雷が直接、ヴァイオドラに叩き込まれる。

 そして予想外なことに、大剣の間合いが拡張されたことで破壊力も上昇し、ものすごく硬いものを斬る感触を手に感じながら振り抜くことができた。


 直後に紫色の血が大量に噴き出てきてそれをもろに浴びてしまい、いくら毒耐性が高くとも直浴びはアウトなようで、一発で猛毒やられになる。

 肌を焼くようなじりじりとした痛みに顔をしかめ、すぐに影に潜って後ろに下がる。

 命のストックはないわけではないが、復活のために使うのはもったいない。

 ここは大ダメージを覚悟して浄化結晶を使い、毒状態を解除する。


「まだ眷属だからいいけど、これが竜王だったらどうなることやら」


 王の能力は一部を除いた魔術やアイテムの効果より勝ると推測している。

 ヴァイオノムの毒は、長い年月が経とうともその効果は消えずにその地を蝕むとあるし、バーンロットの腐敗と炎も、その場を永遠に草木一つ生えない不毛の地にしたとある。

 魔術で直せるなら既に直しているので、この時点で魔術以上の能力を有しているのは確定だ。


 と、ここでつい先ほどのマーリンとフローラの会話を思い出して、そういうことかと頭を抱えそうになる。

 ヴァイオドラ攻略はまだいいが、ヴァイオノム攻略にはフローラの協力はほぼ必須と言った方がいい。

 彼女の作ったという浄化能力のある杖は、自分の血肉と骨を使って作ることでフローラだと世界に誤認させ、数百年間たまり続けた死に対する恐怖や王に対する憎悪を利用して無理やり道とやらをこじ開けることで、杖を魔法使いにするという荒業を行っている。


 魔術以上のものとなればそれはもはや魔法だ。FDOの公式が作り出した公式チートで、この世界では何よりも優先される。

 炎は全てを燃やすし、水は全てを燃やす炎を鎮火させられるし、氷は炎も氷も全てを凍らせる。

 流石に直接戦う竜王が使う能力が魔法のように全てを優先させられているわけではない。事実、王の攻撃は魔術で防げる。なのであれらはあくまで魔法級の攻撃だ。


 ヴァイオノムの魔法級の攻撃は、きっと普通の浄化系や回復系の魔術やアイテムじゃ効果がない。そこで、フローラの持つ杖の出番だ。

 浄化の魔法というものを使えば、魔法ではなく魔法級の効果のものであればフローラの杖の方が優先され、速攻で回復するだろう。

 つまり、ヴァイオノムの攻略にはあの杖を使うことのできるフローラも戦場に来てもらわなければいけない。

 なんでこんなクソみたいな難易度してんだよと心の中で運営に悪態を吐き、地面を転がりプレイヤーから袋叩きに遭っているヴァイオドラに向かって行き、ヨミもその袋叩きに参加した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ