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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
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紫竜追撃作戦

 フローラの部屋からそっと出た後、ヨミとノエルは目を合わせてから城を出て真っすぐ、紫竜が向かったほうに歩き始める。

 道中、死に戻ったらしいプレイヤーがヨミたちと同じ方向に向かって走っていくのが見えた。


「ヨミちゃん」

「うん、分かってる。あいつの毒はアイテムでどうにかして打ち消せるけど、毒そのものが強いからあまり近付いちゃいけない」

「ヨミちゃんは毒耐性が私よりも高いけど、それでも毒になるから注意すること。特に普通の毒消しならともかく、浄化結晶を使うと分類上はアンデッドになるヨミちゃんは回復しながらダメージを受ける」


 移動しながらノエルと一緒に紫竜ヴァイオドラの軽い復習をする。

 毒はアンデッドであるヨミでも数秒触れるだけで毒状態になるほど強い。ステータスを筋力と、最近やっとHPに割り振ったノエルは耐性がほぼないのでヨミ以上の速さで毒やられになる。

 即座に毒を浄化できる浄化結晶を持っているが、ヨミはそれを使うとダメージを受けてしまうので使用頻度は控えないといけない。


「なら俺の浄化弾(パージ)とか上位互換版の聖櫃弾(アーク)はどうだ?」

「即死するわボケ。あとぬるっと入り込んでくんな」


 いつの間にかシエルが合流していた。

 シエルだけじゃない。ヘカテー、ジン、ゼーレ、アニマも来てくれている。


「あれ、アニマちゃん?」

「は、はい」

「君、昨日マーリンのところにいなかったはずだけど」

「ヘカテーちゃんがマーリンさんに頼んで、僕をここに連れてきてもらったんです」


 アニマは未だにソロで活動を続けており、どのギルドにも属していない。

 なのでギルメンが一人でも行ったことのある場所なら、それが共有されるという便利機能の恩恵を得ることができないでいる。

 なので、昨日いなかったアニマはここに来るには直接マーリンに頼まないといけないか、自力で辿り着くしか方法はなかった。

 そこをヘカテーがマーリンに頼むことで解決したらしい。


「この騒ぎは聞いています。今から追撃しに行くんですよね」

「うん。ボクとヘカテーちゃんは吸血鬼である都合上毒はみんなよりは効かないけど、それでもグランド関連だから十秒くらい触れ続けると毒状態になる。他のみんなは耐性値にもよるけど半分程度の時間だと考えたほうがいい」

「相変わらずエッグい能力してんな」

「まあでもグランドだしこうでなくちゃね」

「ゼーレ、逆鱗の場所探しは任せるよ。見つけたら報告お願い」

「あいあいさー。真っ先にシエルくんに報告して、印弾撃ち込んでもらうね」

「もし逆鱗が四つあったらどうする?」

「アンボルトでさえ一個だったんだし、行ける……いや、待て?」


 三つの首を持っていたアンボルト。

 奴には逆鱗が一個だけしかないし、逆鱗というのも竜に一個だけある逆さに生えた鱗のことだ。

 一個だけしかないという前提で戦っていたし話を進めていたが、もしかしたらという可能性がある。


「……ワンチャン四つある可能性もあるから、かなり負担をかけるようだけどお願い」

「りょー。終わったらご褒美欲しいな、可愛いマスターちゃん」

「何がいいの」


 まさかこいつも膝枕かと、スカートを軽く引っ張ってむちむちな太ももを少しでも隠そうとする。


「そんな警戒しないで。そうだなー。後ろからぎゅーってしながらいっぱいなでなでしたい」

「……それくらいなら」


 恥ずかしくはあるが、ゼーレも美人さんなので抱き着かれるのは正直ちょっと嬉しいという気持ちもある。

 とりあえずゼーレへのご褒美も決まったし、前衛アタッカーとしてヨミとヘカテーが前に出て、ジンがタンクとしてヘイトを管理して、ヘイトが向いている間にノエルがメインアタッカーとして火力を叩き出し、アニマとシエルが後方からの支援、という形になった。

 一応美琴、フレイヤ、アーネストの三名にメッセージを送るが、フレイヤと美琴はすぐに既読マークがついたのに対し、アーネストのは付かなかった。

 題名に紫竜王の眷属と戦うと書いておいたからすぐに見ると思ったのに、珍しいこともあるものだと思いながらウィンドウを閉じる。


「それじゃあ、合流するよ」

『おう!』


 ♢


 ヨミたちがヴァイオドラと追撃に向かったプレイヤーたちと合流した時、そこは既に地獄絵図の戦場と化していた。

 木々は毒に侵されて腐り、地面もぐずぐずに腐り、足場が非常に悪い。

 そんな戦場をプレイヤーが駆け、己の得物を固い鱗に叩きつけて攻撃を仕掛けているが、ユニークもグランドウェポンも持っていない時期に眷属トップの赫竜と戦ったからこそ、攻撃を弾かれるプレイヤーの気持ちが分かる。

 しかし竜王最弱の眷属。ヨミたちが来るまでにHPは削られており、三本目に突入しておりそれも半分近くが削れている。


「ヨミちゃんたちキチャアアアアアアアアアアアアア!」

「推しが来た! かっこいいとこ魅せるぞ!」

「ヨミちゃん可愛いヘカテーちゃん可愛いノエルお姉ちゃん可愛いアニマちゃん可愛いゼーレちゃん可愛い全員お嫁さんにしたい」

「オラ全員道開けろ! 最大火力組が来たぞー!」


 ヨミたちに気付いたプレイヤーたちが、それぞれが想いを口にしながら道を開けてくれる。

 別にそんな風にしなくても勝手に間をすり抜けていくのにと思いつつ、こうして開けてくれたのでその厚意に甘えようとブリッツグライフェンをを取り出して大鎌形態に切り替える。


「いくよ、ヘカテーちゃん。ジンさん、ヘイト管理お願いね」

「は、はい!」

「任せて。……君のギルドに入ってから、化け物のヘイト管理することばかりだな」

「頼りにしてるよ」

「君みたいな美少女にそう言われちゃ、その期待に応えないとね!」


 ヘカテーとジンも得物を構える。

 それを確認してからヨミは己の血を燃やし、魔術でバフを重ね、血の鎧を作って能力を底上げしてから飛び出していく。

 さっきはできずじまいだった、ヨミの戦闘開始時のテンプレート。ギリギリ制御できるレベルの高い筋力値を獲得し、武装状態でのトップスピードに一瞬で到達する。


 ヘカテーは血の鎖を飛ばして木に巻き付け、素早く巻き取ることで加速。立体機動しながらヴァイオドラに接近していく。

 彼女に合わせてヴァイオドラの左端の首が毒液ブレスを吐いてくる。しかしヘカテーは回避行動を取らない。


「ちょっとは減速とかしようか!?」

「信じてましたから!」


 ジンがタンクスキル『クイックドライブ』でヘカテーの前まで瞬間移動し、毒液ブレスを防ぐ。

 使っている盾がヴァイオノムより格上のアンボルトとゴルドフレイの素材を使った複合盾なので、完璧に毒をカットする。


「『ウェポンアウェイク・全放出(フルバースト)』───『雷禍(レビン)大鎌撃(グリムサイズ)』!」


 ヴァイオドラが一度撤退してからヨミたちが追撃に参加するまでの数十分の間に、自然回復で満タンまで溜まったエネルギーを全ぶっぱする。

 雷の特大の大鎌を形成して毒液ブレスを吐いている左端の首に思い切り叩きつけ、攻撃を中断させる。

 非常に強い斬撃属性なので、ヨミたちが合流するまでみんなが減らしていてくれていたしこれで首を落とせないだろうかと思ったが、そう都合よくはいかないらしい。


「『ウェポンアウェイク』───『雷霆の鉄槌(ミョルニル)』!」


 そこにノエルがヨミとスイッチして、特大の雷メイスを横薙に振るってぶん殴る。

 よく見ると『雷禍の王鎧』も使っているので、瞬間的にとんでもない筋力値を叩き出して、突進の勢いと武器の遠心力も相まってさながら爆撃のような打撃音を響かせる。

 すさまじい衝撃にヴァイオドラの巨体がぐらつき、左の頭は一発きついの顔面に食らったためか、目を回しているかのように首が不規則に揺れる。


 参戦したヨミとノエルが開幕早々、グランドウェポンの固有戦技を使った。

そのため、多くのプレイヤーが尊敬と羨望の眼差しを、一部は嫉妬の眼差しを向けてくる。


「あの綺麗な薔薇の都をあんなにめちゃくちゃにしてくれたんだ! 全員でこいつに一発、キッツイお灸を据えてやろう!」


 地面に着地したヨミが、大鎌形態の相棒をヴァイオドラに向けながら大きく声を張り上げると、色んな意味で士気を上げたプレイヤーたちが雄叫びを上げて一斉に攻撃を始める。

 ヨミもインベントリから購入しておいた血液パック(小)を取り出して一気に飲み干して吸血バフも重ね、がりがりと地面をブリッツグライフェンで削りながら低い姿勢で突進していった。

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