恥を忍んで準備をしたのに出鼻を挫かれるのは勘弁してほしい
「ダメだからね」
「でも、こっちの方が絶対に色々集まる」
「分かってるけど、ダメ」
本日は土曜日。
学校も休みなので朝からFDOにログインする、つもりでいたが朝からのえるが部屋に突撃して来ては一緒に部屋の床に腰を下ろし、詩乃は後ろから人形のように抱かれていた。
後ろからの極上の柔らかい感触を極力意識しないようにしつつ、十分ほど愛でられてから意を決して昨日考えたことを口にした。
それはメスガキを演じることでアンチを超盛大に煽り散らかすことで、ヨミたちばかりにグランドに関わらせてたまるかという考えに誘導して、アンチにもグランドに挑んでもらうという作戦だ。
直接相対していた方が効果は高いし、配信でやるとただただリスナーが歓喜乱舞するだけだが、昨日調べたところによるとあまり息はしていないがアンチスレなるものがあるようなので、やったところで無駄というわけではなさそうだ。
このことをのえるに相談したのだが、当然の如く却下されている。
最初からのえるは詩乃のメスガキ演技には否定的、というより詩乃の身の安全のことを考えて、やめるようにと言っている。
学校にも、もちろんクラスにもリスナーはいるし、配信者でなくとも詩乃は銀髪紅眼と非常に目立ち学校のアイドル的立ちにいるため、下手にそういうことをすると奇異的な目で見られる。
学校の中でなくとも、FDOの中では普段から配信に来るリスナーはアーカイブで見るヨミのメスガキを見るだけで満足するが、中には本気で罵られたいと思っていたり踏まれたいと思っている人もいる。
そしてファンではないアンチは、詩乃が次々とグランドに関わりまくっていることをよく思っていないうえ、それについて盛大に煽られると確実にキレる。
その怒りがそのまま、詩乃よりも先にグランドを進ませてやるという考えに繋がればいいが、全員そんな素直にやってくれるはずもない。
あまりにもウザい、それこそ殴りたくなるほどウザいメスガキを分からせるために、グランドそっちのけで襲撃してくる可能性がある。
のえるはこのことを心配しており、安全のためにやるなと言っている。
「……昨日さ、エマとアリアちゃんに額にキスしたんだけどさ」
「何それズルい」
「許してくれるんだったら、のえるにも同じことしてあげる。……何なら、これから一日昔みたいにお姉ちゃんって呼んでもいい」
幼少期はのえるの方が若干背が高く、のえるの方が少しだけ早く生まれていたこともあってお姉ちゃんと呼んで慕っていた。
小学生に上がる頃には身長が並んだし、TS現象の被害者になる前までは若干詩乃の方が背が高かったので、もう長いことのえるのことをそう呼ぶことはなかった。
だが今は後ろから抱きしめられて、すっぽり収まるくらいには小柄な女の子になってしまったし、確実に妹扱いを受けているし、効率を求めているので恥ずかしいのを我慢してそう提案する。
「…………………………一週間」
「へっ
「一週間、お姉ちゃんって呼んでほしい」
「む、むりっ。学校でまでそれ続けるのは、流石に無理っ。せ、せめて二日!」
「やだ。短くしても三日」
「う、ぐ……! わ、分かった。三日間、今からそう呼ぶ。……だから、いいよね、……お、お姉ちゃん」
「ん゛っ」
久々に、からかうために言わないお姉ちゃん呼びにかなり照れながら言うと、のえるが変な声を出して抱きしめる力を強くする。
より一層強く柔らかい極上の感触が押し付けられて、甘くいい匂いが刺激して来て吸血衝動が雁首をもたげてくる。
軽く唇を噛んでから、のえるの腕の中で体の向きを変えて向かい合い、詩乃の方からも抱き着く。
「ど、どうしたの?」
「ちょっとだけ、血が吸いたい」
「急だね」
「ダメかな、お姉ちゃん」
「……そんな甘える声はずるいよ、詩乃ちゃん」
のえるが軽く詩乃の体を押して離してから、着ているブラウスのボタンを外す。
第三ボタンまで外してブラウスを軽く引っ張り、白い首筋を見せてくる。大人っぽい下着と、それに包まれている大きな膨らみと寄せられることでできている谷間。
それらは雁首もたげる吸血衝動に燃料を注いで、のえるの甘い匂いと記憶に、舌に、強く深く刻み込まれて忘れることのできない極上の血の味を思い出させて喉を乾かせる。
難儀な体になってしまったが、こんな体になったおかげでこうしてのえるに甘えたりすることができるようになったし、結果オーライなのか何なのかよくわからなくなる。
ひとまずは、この渇きを潤すためにと白い首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぎ、少し長い舌を這わせて肌を湿らせる。
くすぐったいのを押し殺した声に、吸血衝動が強くなったのかあるいは別の欲が湧き出て来たのか分からなくなる。
十分肌を湿らせたので、のえるの柔肌に噛み付き最初ははむはむと甘噛みしてから牙を突き立てて肌を食い破り、そこから溢れて来た熱くて甘い血を啜って嚥下する。
「ぁ……は、あぁ……!」
痛みを堪えるにしてはあまりにも艶めかしい声に、ものすごくイケナイことをしているような感覚になる。
いや、のえるの格好や今の自分の体勢的に本当にイケナイことをしているように見えるが、決してそんな踏み込みまくった関係ではない。これはあくまで、ちょっとした食事、おやつみたいなものだと言い聞かせる。
「ご馳走様」
噛みついていた首筋から口を離し、ちろちろと噛み傷に舌を這わせて傷を塞ぐ。
今日も今日とて本当に美味しい血だったと、体から脳みそまでじんと焼くような快楽に、ほぅ……と熱い息を漏らす。
「おそまつ、さまでしたぁ……」
「……なんか、いや、やめよう」
「そこで切るとかえって気になる」
「………………息が少し上がってるのえるが、少しエ……色っぽい」
流石に言葉を選ばないと気まずくなるので、言い切る前に言い直す。
今の自分より背が高くて、モデル顔負けの超抜群なスタイルをしているのえるが少しぐったりして息が上がっているのを見ると、むくむくと何かが大きくなる。
女の子でよかったと変な安心感を覚え、恋人でも幼馴染の女の子にそんな感情を抱いちゃダメだろうと、頭を振る。
「と、とりあえずお許し貰ったし、めちゃくちゃ喧嘩を売る感じになると思うけど、いいよね?」
「……まあ、許す」
お許しを正式にもらえた。
下手したら派手に炎上する案件なので、めちゃくちゃ煽り散らかしはするが言葉は慎重に選ばないといけない。
とりあえず、いつまでものえるの立派な谷間やら大人っぽいブラを視界に入れ続けるのはよろしくないので、手で触れてしまわないように慎重にブラウスのボタンをしめる。
「えへへー、これから三日間お姉ちゃん呼びしてくれるのかぁ。嬉しいなぁ」
「どんだけボクのことを妹みたく思ってんだか」
「だってちっちゃくて可愛いんだもーん」
「それだけの理由で妹扱いされる側にもなってくれ」
もう自分より小柄で数か月違いでも一つ年齢が違ったりすれば、この幼馴染は誰でも妹扱いするのではなかろうか。
詩月は正真正銘の妹なので別にいいとして、その内学校内にいる女子に詩乃と同じ扱いをしだすのではないかと少し不安だ。
「お、詩乃ちょっといい……お取込み中か」
「待って!?」
なんだか気まずくなったのでそろそろのえるから離れようとしたところで、タイミングよく空が詩乃の部屋に入って来た。
そして向き合いながら抱き着いているところを見た空が、何か勘違いでもしたのかそっと扉を閉めて部屋の外に出た。
絶対によからぬ勘違いをされたので大急ぎで追いかけていき、小柄に見合わない怪力で部屋の中に引きずり込んだ。
「マジでお前、その体格で俺を持ち上げるだけの怪力なの頭バグるわ」
「めっちゃ軽かった」
「これでもほどほどに鍛えて筋肉ちょっと着いてる方なんだが? 体重七十キロくらいなんだが?」
「詩乃ちゃんもすっかり吸血鬼だねー」
「それはもう今更」
いきなり怪力になったので制御とか難しそうだと思ったが、なんだかんだで制御をミスって大惨事、なんてことにはなっていない。
本能的に力の使い方を分かっているからと詩音から説明されているし、あとは自覚があるので普段からよりセーブしているためだ。
「で、何の用」
「お前に言うことがあってな。今回のグランド、三体同時なのかバラバラなのかは分からんけど、確実に三体の竜王が来るだろ? そのことをお前と美琴先輩で配信で通達したことで、基本はお前や先輩のファンが喜んで参加するってなったんだけど、やっぱ連続して関わってるのが気に食わないんだろうな。あまり息してなかったアンチスレが少し活発になって、先にグランド倒しちまおうぜって空気になってるんだ」
「……え」
「んで、お前のリスナーはお前のために戦いたいからって先を越されまいと、今FDOの中で全力で捜索を続けていて、そんでアンチはお前のリスナーに負けるわけにはいかないと同じく全力捜索をしてる。ヴァイオノムに関しての情報も、色んなNPCに聞きまくっているみたいでぽつぽつ情報が集まりつつあるぞ」
出鼻を、挫かれた。
アンチを対象にメスガキ演技で煽ってやろうと思い、そのためにのえると取引をしたというのに、その必要がなくなってしまった。
「詩乃ちゃん」
「な、なに」
「お姉ちゃん呼びはこのまま続行ね」
「何で!? もう必要なくなったんだけど!?」
「私がそう呼んでほしいからー。このまま続けてくれたら、一回くらいメスガキやってもいいよ」
「好き好んでっ、あんなことやってるわけじゃないんだよっ」
「どのみちお前、調子に乗るとああなるから大人しく姉さんとの取引を続けといたほうがいいぞ」
何も言い返せなかった。
空の言う通り、特に自分が優位にいると思って勝負を吹っかけてくるプレイヤーをボコった時や、詩乃が自分のペースやテンポに相手を巻き込む時などに煽り、見た目が小柄な女の子なのでどうしてもメスガキになる。
それを一回だけとはいえ見逃してくれるというし、お姉ちゃん呼びを続行することでのえると詩月主催のファッションショーが開幕せずに済む。
「……っっっ~~~! わ、分かったよ、お姉ちゃん……」
「うんうん、それでいいのよ~♪」
「ご機嫌だな、姉さん」
「詩乃ちゃんが私のこと、久々にお姉ちゃんって呼んでくれるのが嬉しいんだー」
「……俺と姉さん、二卵性の双子だし俺のことをお兄ちゃんって呼んでも構わないぞ?」
「ぜってーお前にだけはそんな呼び方しない。そういうお願い事は、ボク相手に勝率5割超えてからにしろ」
詩乃はプロゲーマー空相手に、勝率7割を維持している。
別にそのことを誇っているわけでも自慢に思っているわけでもないが、こういう時に変なことを黙らせる口実に使うことができるのは便利だ。
そう言われた空は卑怯だと言い、詩乃にデコピンを一発食らわせてきた。
しかしその威力はかなり弱く感じ、女の子だからと加減したなとちょっと不機嫌になり、仕返しにちょっと強めにデコピンしたら力を入れ過ぎて悶絶された。




