緑の王への挑戦権 6
グランドーンが腐敗状態となり二十分ほどが過ぎ、HPがじわじわ減っていき体表にも赤い腐敗が浮かび始める。
腐敗を切らせないようにと効果が切れる前に斬赫爪の固有戦技を何度も当てに行き、そのおかげでずっと腐敗状態のままだ。
三原色の系譜とはいえ、所詮は眷属。王の力に耐えることはできない。
本物からは程遠い赫竜王の能力ではあるが、どれだけ弱かろうが王の力。耐性がない限りこれを防ぐことはできない。
時刻は現在、日を跨ごうかというところ。
早く倒してしまわないと、明日の朝起きるのが辛くなってしまう。
特に小学生、中学生組は今は戦いで眠気など来ないだろうが、終わったら途端に眠気に襲われてしまう可能性が非常に高い。
「おらさっさと倒れろやああああああああああああああ!! 『ウェポンアウェイク・全放出』───『雷霆・脚撃』!」
影の鎖を使って立体機動して、遠心力をたっぷりと乗せて加速した跳び蹴りと共にブーツ形態で固有戦技を首の傷にぶちかます。
そこにルナがバフをかけてくれて更に威力が上昇し、グランドーンの巨体が大きく傾ぐ。
「三原色の眷属だから本当に硬いなあ、もう! 『ウェポンアウェイク』───『雷霆の鉄槌』!」
ノエルは顎下に向かって跳躍して逆鱗を狙って固有戦技を叩き込もうとしたが、弱点はそう簡単に狙わせないと顔を動かしたので、逆鱗のすぐ隣を殴って顔面を上にかち上げる。
顔面が上を向いたところにトーチのイノケンティウスが両目を狙って炎の十字架を振り下ろし、視界を潰されないように瞼を閉じさせることで視界を封じる。
「『スターバーストメテオライト』!」
ルナに炎のレジストをかけてもらったアーネストがイノケンティウスのすぐ近くを通り過ぎていき、首にある傷に六連撃片手剣戦技を食らわせる。
アロンダイトの強力な竜特効は、固有戦技を使っている時ほど高い倍率はないが、それでも素の状態でもかなりダメージを入れられるので一撃入れるごとにグランドーンのHPが削れて行く。
アーネストを排除しようと己の足元から溶岩を噴射して攻撃するが、神聖騎士状態となり翼が生えているので飛ぶことでその攻撃を回避。
そこから詠唱なしで魔術を使う『略式展開』でその場から転移する、のではなく美琴と入れ替わる。
入れ替わった美琴の持つ陰打には膨大な雷が込められており、それを見たグランドーンが次の危険である美琴を排除しようと顔を向けるが、その前にヨミが血で破城槌を作ってそれをノエルに殴って飛ばしてもらうことで強制的に、物理的に視線を外す。
「御雷一閃!」
特大の雷の一刀が落とされ、大きくHPが削り取られる。
度重なる大火力の連撃に、遂にグランドーンのHPは一本を切り、あと半分もなくなる。
グリーンゾーンからイエローゾーンへ。あと僅かだ。
だが油断してはいけないのが、グランド関連クエストだ。
「グゥォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
特大の咆哮を上げ、咄嗟にルナとトーチがかけてくれた聴覚保護の魔術を貫通して、竜の咆哮により体の硬直を全員受ける。
竜の咆哮による硬直は効果が短い。なので少し気楽に考えていたが、今回のは違った。
「硬直が……!?」
硬直が長かった。
普段であれば一秒あるかないかだが、今回は確実に一秒以上もあった。
グランド関連の眷属の硬直ブレスは、HPの量によって長さが変わるのかと美琴とアーネストに目を向ける。
ヨミが以前戦ったロットヴルムも赫竜王の眷属で、もちろん硬直はあった。だが、最終的に首を落とさずとも頸椎を破壊したことでクリティカルで即死させたため、ラストの咆哮を受けなかったし、その後大勢で再挑戦した際もHPをイエローゾーンまで持っていく前に全滅させられた。
なので三原色の眷属をきちんと最後まで倒し切っている二人なら知っているかと思ったが、知らないような反応をしていた。
「少なくとも、ここまで長い硬直はなかった!」
「私も同意見! 何か特別な条件でもあるのかもね!」
「あるいは、こやつだけという可能性もあるのう!」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ! 全体にAoE表示! 全体攻撃です!」
カナタからの鋭い声に全員気を引き締め、所々に見つけられる安置を目がけて走る。
直後に、地面が砕け、爆ぜ、大量の石礫や岩石が砲弾となり、それに交じって溶岩が襲い掛かってくる。
ヨミはそれを、ブリッツグライフェンを盾形態にしつつ血と影の盾も作ることで辛うじてのところで防ぎ、ノエルはヘカテーと一緒に展開されている血の盾の裏に隠れている。
美琴とアーネストは高い機動力でそれらの攻撃を回避しているが、全部避けることは難しいのか何発か食らってHPを減らしている。
アニマは飛行デバイスを展開しつつ、防御用デバイスも使って凌いでおり、残りのトーチ、ルナ、カナタ、サクラはジンの背後に隠れて彼に防御を一任している。
トーチとルナはジンに防御力強化などのバフをかけているため、グランド装備で身を包みゴルドフレイの鱗と骨から作られた彼の盾なら、そうそう後ろにいる人たちにダメージを入れることはないだろう。
「しっかし、この飽和攻撃が長く続くとまずいな……!」
戦っている場所は、遺跡の中。しかも地下だ。
できるだけ地形操作の攻撃はさせないように立ち回りはしたものの、それも気休め程度だろう。
いつ今いる地下空間が崩落するのか分からないというスリルも味わえて楽しいには楽しいのだが、崩落したらしたで大変なことになるので勘弁願いたい。
そんなところにこの全体に対する飽和攻撃だ。あちこちから嫌な音が聞こえてくるので、もしかしたら最悪このまま崩落する危険性がある。
ふと、何か違和感を感じた。
この違和感はなんだと視線を廻らせて、すぐに気付いた。
「ゼーレ、どこ?」
この中で一番ステータス面でも弱いであろうゼーレは、いつもなら確実にジンの後ろにいるはず。
それなのに彼女の姿が見当たらない。
どこに行ったのだと再度視線を廻らせると、突然飽和攻撃が止まる。
これはチャンスだと思考を切り替えグランドーンの方を向くと、なんとそこにはゼーレが既におり直刀を逆鱗に突き立てていた。
彼女のステータスだとあそこまで突き立てることはできないはずなので、自身にヘイトが向いていない時に使用するとダメージに補正がかかる『アサシネイト』を使ったのだろう。
そこからの行動は非常に速かった。
まず、トーチが魔術を遠隔発動させてゼーレを自分の下に転移させ、入れ替わるようにアーネストが略式展開でグランドーンの正面に移動。
美琴は陰打を解除すると、その場にとどまって背中に七つの一つ巴紋を展開して急速にチャージを行う。
「ゼーレが全力で作ったこの隙、逃してたまるものか!」
「完全に同意だね!」
アーネストが縦横無尽に飛翔しながら全力でアロンダイトを叩きつけまくり、ヨミも斬赫爪の周りにブリッツグライフェンをまとわせてから、『シャドウダイブ』を併用しながら同じように叩きつけまくる。
「『スカーレットセイバー』───『ブレイドダンス』!」
「『ウェポンアウェイク』───『雷霆の鉄槌』!」
血の武器と鎖を使って高機動で接近して来たヘカテーが、自分の周りに特大の血の剣を十本以上従わせ、彼女自身も大きな戦斧を振り回しながら血の特大剣と共に舞い、小さな体を食らおうと口を開けたところをノエルが真上から落下しながら、特大の雷のメイスを真垂直に叩きつける。
『雷禍の王鎧』まで使っているので筋力はその時点で300を優に超えており、その一撃を真上から受けたグランドーンは耐えきれず地面に伏せてしまう。
「『クリムソンバインド』!」
「『シャドウソーン』、『シャドウバインド』、『ブラックムーン』!」
すぐにヘカテーと共に拘束系の魔術を連携し、トーチとルナも同じように拘束魔術をかける。
だが所詮は魔術。グランドーンほどの大きさのエネミーからすれば大した拘束ではないが、数秒だけ時間を稼げた。
「領域・凍結封印!」
トーチが何があろうと、王ですら動きを封じることのできる魔術の起動を間に合わせる。
空間ごと凍結させられ動きを封じられた緑竜王の眷族は、目の前で完成した破滅に恐怖した顔をする。
「ナイスタイミング、トーチちゃん。諸願七雷・七ツ神鳴───」
膨大な雷が美琴の体から発せられる。背中の七つの一つ巴紋は一つに重なり、七つ金輪巴となり、自分自身の力を物質化させて胸から引っ張り出すように美琴最強の一振りが完成する。
美琴自身の種族スキルによって作り出された、一刀限りの最強火力。
「───鳴雷神!」
大上段に構えられた真打・夢想浄雷が真っすぐ振り下ろされ、膨大な量の、すさまじい威力の雷の大斬撃が放たれる。
地面を斬り裂きながら瞬く間に彼我の距離を食い潰し、直撃する。
レッドゾーンに入っていたHPがその一撃で削れて行き、特大火力の一刀は頭蓋を砕き生命維持に必要な器官を破壊する。
徐々に減っていたHPが一気に消し飛ぶ。そこに表示されるのは『CRITICAL』の文字。
『GREAT ENEMY DEFEATED』
『PARTY ANNOUNCEMENT:エリア【忘れられた緑の遺跡】のボス【深緑と大地の王の眷属:土石竜グランドーン】を討伐しました』
『ラストアタックプレイヤー:美琴』
『グランドキークエスト:【緑の王への挑戦権】をクリアしました。王への挑戦権を獲得しました』
『グランドクエスト:【母なる大地と命の緑に破滅の慕情を】が開始されました』
『深緑と大地の王は禁足地にて挑戦者を待つ』
次々とウィンドウが表示されて行き、討伐に成功したという証を突きつけてくる。
「た、倒したーーーーーーー!!」
結構な強敵だったので、倒し切ったことに喜びを爆発させるヨミ。
だが、顔を上に向けた瞬間、亀裂がそこにも走っているのを確認してしまい表情が固まる。
そういえば、あいつ自身は生き埋めになっても楽々と出てくることができるし、別にここが壊れようがなんだっていいわけで。
最後の攻撃は、全員をここで何が何でも排除してやるという表れでもあるが、同時にこういう意味でもある。
───てめぇらだけはここで生き埋めにしてやる
「全員まずは一旦退避ー!?」
「何で!? すぐそこに竜王を退けたっていう最恐の武器があるんだよ!?」
「天井見てください天井! 亀裂ヤバいことになってますから!?」
「崩落寸前じゃない!? ……でも、竜特効付きユニーク武器を放ってはおけないっ」
「み、美琴さーん!?」
最奥の間の亀裂がより大きくなっていく中、美琴は制止を振り切ってさらに奥に向かって走り出す。
それほどまでに、入手できるユニーク武器が欲しいようだ。
まあ気持ちは分からないでもない。それに、このゲームではこういう特定の場所に置かれている装備というのは、その前にいるエネミーが強くて入手できないのであって、それがいなければ入手自体は可能だ。
ものすごく杜撰ではあるが、そういう横取りみたいなものがないのは配置されているグランド関連エネミーが化け物だからに他ならない。
そのグランド関連を今倒してしまい、リポップするには時間を要する。その間に楽をして強い装備を手に入れようとする輩が出ないとは限らない。
せっかく苦労して倒したのにここで一旦装備を放置して、戻ってきたら盗られてたなんて目も当てられない。
この場にいる全員が重度なゲーマーなので、美琴のあの執着にも理解があるため、彼女の独断行動を本気で止めずに向かわせた。
その後、ヨミたちはどうにかして地上に脱出し、遅れて美琴も脱出してきた。
両腕で抱くようにして持っていた、入手したユニーク武器はやや大きめな刀、というか大刀で、名を天羽々斬という。
こうして美琴たちは三原色の王の一体、緑竜王グランリーフのグランドキークエストをすべてクリアしたことになり、正しく挑戦権を獲得したこととなった。
進めるべきことは進めたし、日付も変わってしまった時間なので足早に陽之原村に戻り、適当に配信を切り上げてからログアウト。
現実に戻ってきて、一人になって少し寂しさを感じたが今からのえるの家に行くわけにも行かないし、かといって詩月の部屋に行くと確実に明日からかわれるので、寂しいのを我慢して一人でベッドの布団にくるまった。




