緑の王への挑戦権 5
グランドーンが溶岩攻撃を仕掛けてくるようになってから三十分。
言うまでもなく地獄絵図だ。
本体があまり動かないので、掻い潜ることができれば殴りまくることはできるにはできるのだが、当然レイドボスでグランド関連エネミーなので耐久が高い。
集まっているのがみんな火力の高いメンバーなので、一人がヘイトを買っていても強い攻撃を入れるとすぐにヘイトが飛んで、長いこと殴り続けることができない。
ただでさえ厄介な地形操作による攻撃もあるというのに、溶岩も使うようになってしまい、しかもその溶岩は自在に操ることができる。
溶岩はしっかりと炎属性に分類されているようで、耐性がマイナス値カンストのヨミは直撃しなくてもその熱でダメージを受けてしまう。
より繊細な立ち回りが要求され、美琴やアーネストよりも殴ることができていなかった。
「めんどくせええええええええええええええええええ!?」
ブリッツグライフェンを分解して背中に集め、武装解除して疾走スキルを発動させながらバトルフィールドを全力疾走する。
その後ろには溶岩が蛇のように追いかけてきており、あちこちにある亀裂から溶岩が出てきて囲もうとしてきている。
幸い『シャドウダイブ』という、五秒間だけ影に潜って回避することのできる便利兼最強スキルがあるので、そのおかげで囲まれて逃げ道がなくなっても影に潜ることで逃げ道を作っていた。
しかしながら、ヨミが炎系統に弱いということがグランドーンに見破られているのか、とにかく溶岩攻撃の比重をヨミに傾けている。
なんて素晴らしいAIを積んでいるんだと感動すると同時に、なんてめんどくさいことをしてくれたんだと叫ぶ。
「もうっ、本当に面倒ね!」
「確かに、強いというよりも面倒だ! 私はそれでもいいのだが、もう少しちゃんとぶつかり合いたいな!」
「なんでお前は本当にそこまで戦闘狂なんだよ! わひゃあ!?」
常にブレないアーネストにツッコミを入れると、前方の亀裂から溶岩が出てきて壁のように立ちふさがったので、靴底で地面を削りながら『シャドウダイブ』を発動して影に落ちることで回避する。
「このっ……! 『ウェポンアウェイク・全放出』───『雷禍・雷砲撃』!」
額に青筋を浮かべたヨミがグランドーンの近くの影から飛び出て、ほぼ同時に背中のブリッツグライフェンを右手に集めて大砲に変形させ、チャージしてあるエネルギーを砲口に集中させる。
ヨミに気付いたグランドーンは、溶岩を自分の口に集めて行ってそれをブレスのように放ってくる。
チャージを完了したヨミが引き金を引き、砲声を響かせて雷の砲撃が放たれる。
溶岩ブレスと雷砲撃がぶつかり合い、ルナとトーチがヨミの砲撃に対してバフをかけることで威力を増幅してくれて、溶岩ブレスを押し返した。
「グゥアァアアアアアアアアアアアアア!?」
顔面に強烈な雷を食らったグランドーンが悲鳴を上げて、ダウンする。
逆鱗に当たらず大ダメージを入れることができなかったが、このダウンは非常に大きい隙となる。
どうせならアーネストがこうしてダウンを取ってくれて、そこにブリッツグライフェンの固有戦技をぶち込んでやりたかったが、こうなってしまったものは仕方がない。
大鎌形態に切り替えて飛び掛かり、首に付け続けている傷に大鎌を振り下ろして少しずつ削っていく。
アーネストと美琴も、度重なる攻撃によって付いた傷に対して各々が火力を出しており、グランドーンのHPがじわじわと減っていく。
溶岩攻撃をするようになってから三十分。HPはやっと四本目を削り切り、五本目に突入する。
またHPを一定数削ったのでフィールド全体攻撃をしようとしているのか、ゆっくりと起き上がろうとする。
めんどくさいからそうはさせるかと、ブリッツグライフェンを再び分解して背中に集め、斬赫爪を取り出す。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
そして案の定、グランドーンは斬赫爪を見た瞬間、表情を恐怖一色に染め上げて悲鳴を上げて後ろに下がる。
アンボルトやゴルドフレイすら、腕を素材に作ったこの武器を見るだけで恐怖して悲鳴を上げていた。眷属程度なら、それは他の竜王以上に恐ろしいのだろう。
ましてや、二度目の戦いで人形を倒したことで入手した新たな素材を使って、強化された斬赫爪ともなればなおさらだ。
斬赫爪をバーンロットの素材を使って強化した結果、自分自身すら蝕む腐敗を制御することが可能となり、自分に腐敗がかかることはなくなった。
代わりに要求されるステータスが化け物になってしまったが、全身グランド装備で包んでいるヨミはその要求をクリアしており、問題はなかった。
もはやヨミ以外にまともに使いこなせるプレイヤーがおらず、実質ヨミの専用装備になってしまっているが。
「ははは! 三原色の系譜とはいえ眷属! やっぱお前も最強の竜王が怖いんだな! 『ウェポンアウェイク』───『緋色の敗爪』!」
固有戦技を発動し、大鎌に炎のように揺らめく腐敗をまとわせる。
以前はぐんぐん腐敗ゲージが蓄積されて行ったが、制御されたことで自分自身に腐敗が溜まることはなくなった。
代わりにとんでもない量のMPを消費することになったが、特性や戦闘スタイル上MPはかなり多いし自然回復量も高いので、マイナスがちょっと大きい程度に踏み倒している。
バーンロットが使った腐敗の炎のようなものが尾を引き、グランドーンに向かって疾走する。
ただ向かって行っているだけなのに、とてつもない怪物が真っ向から迫ってきているかのような悲鳴を上げ、あらゆるリソースをヨミ一人に集中させて攻撃してくる。
地面を操り無数の針のように鋭利にして突き出してきたり、地面を爆ぜさせて石礫で攻撃してきたり、地面を隆起させて狭い道を作り上げてその中に溶岩を発生させて蒸し焼きにしようとしたり、その壁を猛烈な速度で閉じてぺしゃんこにしようとしてきたり。
とにかくあらゆる手段を用いてヨミを排除しにかかるが、その全てをギリギリではあるが回避する。
何が何でも、迫り来る化け物を排除してやると、他から一切の意識を外してくれた。
「御雷一閃!」
「『雷霆の鉄槌』!」
「『湖光の聖剣』ォ!」
「『砲撃』!」
「邪悪を罰する裁きの紅、|偉大で愚かなる始まりの紅《ROTGAFB》、|幸福を覆滅し妖しき者を殺す王《KOTSTOHAKTW》、|冷たく命を奪う虐殺の王《TKOSWTLWC》、|魔女の血を啜りて力を成せ《STBOWABP》!」
「月夜の繚歌・月魄の王冠!」
「「『竜道』!」」
ヨミが全ての注意を引きつけている間に、全員が一気に火力を出す。
美琴は四紋最大火力を、ノエルとアーネストは固有戦技を、アニマは自身が保有する武装の大砲をチャージして砲撃し、トーチは恐らくはノタリコン詠唱術というスキルで大幅短縮した呪文を素早く唱えて、炎の十字架を持った炎の巨人を生み出す魔術『イノケンティウス』を発動させ、ルナがその前にトーチにバフをかけてその威力を増幅させ、カナタとサクラは刀戦技で首を斬り付ける。
「レイド戦だからあれだけどさ、絵面が酷いねこれ」
「あ、あんまり言わないでくださいよぅ!」
繋げてあるパーティーチャットから、ゼーレがちょっと呆れたような、あるいは憐れむような声でぽつりと零してヘカテーが即座にツッコむ。
確かに絵面的に、大火力の面々が一斉に攻撃を仕掛けているのはいじめにしか見えないが、これはレイド戦でグランドーンはこの世界の設定上は世界の敵だ。
ここで奴を倒さなければ先に進めないし、この後に持ち主を求めているであろうユニーク武器の入手もできない。
今の大火力ラッシュでグランドーンの体が傾き、そこにヘカテーが複雑な表情で『ヴァーミリオンバタリングラム』を叩き込んで体を地面に倒し、ヘイトを削ぎ落してさらに隠密スキルを使ってグランドーンから隠れたゼーレが、逆鱗に対して『アサシネイト』をぶちかまして特大ダメージを入れる。
ゴリっとHPが削られ、弱点を攻撃されてゼーレに敵視を向けるが、接近するヨミにすぐに敵視を戻して攻撃を仕掛けようとする。
「領域・凍結封印!」
口に溶岩を集めてそれをブレスとして放とうとした寸前、トーチがイノケンティウスを維持しながら別の魔術を並行して発動させる。
ゴルドフレイ戦の際、奴があまりにも高速で動き回るだろうからと魔術師組にマーリンから指導を受けて習得してもらった、空間凍結魔術だ。
この魔術は竜王相手にも効果があった。王に効果があるということは、王ですらない眷属にも当然有効だ。
ぴたりと動きを止められたグランドーンは口を開けたまま困惑し、動きを止めたのを見たヨミはぐんと加速する。
この魔術は長時間の維持はできない。しかも能力が強すぎるがゆえにそこそこ長いリキャストタイムが設定されている。
ここを逃したら次はしばらく後になってしまうので、今のうちにHPを削れるだけ削るしかない。
背中にあるパーツを集めて斬赫爪を拡張。
制御された腐敗の能力はブリッツグライフェンを腐敗させず、拡張された部分にまで腐敗の炎のようなものが広がる。
「『イクリプスデスサイズ』!」
ここに大鎌形態の固有戦技も重ねたかったが、ちょっと前に使ってしまってエネルギーがないので仕方がないと妥協する。
拡張された大鎌に漆黒の影がまとわりついていき、さらに拡張。その影の特大大鎌を覆うように斬赫爪の固有戦技が広がっていく。
極大魔術なのでMPを全部一気に使ってしまうが、『緋色の敗爪』はエフェクトが消えるまでは腐敗が残るので、タイミングを考えて使えば問題ない。
エフェクトが完全に消え切る前に影の大鎌を首にある傷に叩きつけ、その刃を半分ほど食い込ませる。
もうそこまで刺さっているならそのまま終わってくれとぐっと力を込めるが、この魔術は一回切りの攻撃で終わってしまうので、大ダメージを入れて五本目を削り切り六本目へと突入し、六本目も二割ほど減らしたところで魔術が終了する。
更に僥倖なことに、残っていた『緋色の敗爪』が仕事をしてくれて、グランドーンを腐敗状態にした。じわじわとHPが減っていっているのが分かる。
「一気に畳みかけろー!」
極大魔術が終わりグランドーンが腐敗になるのを確認すると、落下しながら号令を出す。
それよりも早く、アーネストがまず動き出してより広がった首の傷に超至近距離から固有戦技をぶちかましていた。
その音を音頭に、全員が一斉に攻撃を仕掛けるためにグランドーンに向かって走り出した。




