緑の王への挑戦権 3
「ヨミちゃん!」
お腹を貫かれて即死して地面に倒れると、ノエルが血相を変えて駆け寄ろうとしてきたが、グランドーンがそれを邪魔するように地面を操作して攻撃を仕掛けて、ノエルは後ろに下がらざるを得なくなる。
まさかこんな序盤でストックを使うことになってしまうとは思わなかったが、大丈夫だ。
最大数の10個あるストックを一つ使い、HPを四割回復させてすぐに起き上がり、血液パックを取り出してそれを飲んで回復とバフの両方を行う。
「大丈夫か!」
「無問題! いきなりストック使わされるとは思わなかったけどね! それよりも、奴に能力を使わせないように!」
「分かってる!」
アーネストとヨミの足元から操作して変形させたいわの槍を突き出すように攻撃してきたので、当たらないようにその場から弾けるように移動して、狙いを定められないようヨミはトップスピードで走り回る。
アーネストは直線的にグランドーンに向かって走っていき、次々と繰り出される攻撃をアクロバティックに回避して、奴の体の下をスライディングするように通過しながら、真下から『湖光の聖剣』をぶちかました。
「『ジェットブラストディバイダー』!」
グランドーンの体がほんのちょっとだけ浮いたところで、ヘカテーが両手斧にエフェクトをまとわせて突進していき、小さな体を全部使って思い切り斧を叩きつける。
ゴォンッ! という鈍い音が響きほんのちょっとだけHPが削れる。
同じ吸血鬼のレア種族で、ヨミの方が強敵と戦いすぎてステータスが一気に育ったが、ヘカテーも幼さと可愛さに隠れているだけで強さはトップにかなり近い。
幼いことと対人戦の経験の少なさもあってトッププレイヤーとまではいかないが、バトレイドで連勝記録を作って有名になるくらいには強い。
そんな彼女も全身グランド装備となっており、その攻撃力に磨きがかかっているはずなのだが、それでもグランドーンに与えるダメージは少ない。
反撃を食らわないように後ろに下がっていき、インベントリから取り出した三つの血液パックと自分の血を使って血魔術を発動させる。
「おっきくて硬いなら、こういうのが一番有効です! 『ヴァーミリオンバタリングラム』!」
血の破城槌を作り、それを射出して胴体に衝突させる。
大型トラックでも衝突したのかと感じるほどの衝突音を響かせて、グランドーンの体が少し傾ぐ。
先ほどヘカテーが斧で攻撃した時よりも大きなダメージが入り、あの規模の魔術でやっとまともにはいるのかと呆れそうになる。
ヨミもアーネストも美琴も、かなりの頻度で超高火力技を連発して一本目を削り切ったので麻痺しそうだったが、本来は今いるメンバーよりも多くのプレイヤーを集めて時間をかけてクリアするのがレイド戦だ。
そう考えると、ソロでクリアしているヨミと美琴の強さが際立つし、早々に一本削り切った速さも異常だ。
「これ絶対何かとんでもない隠し玉あるだろ……!」
超火力を出せるメンバーが揃っているとはいえ、既にヨミは一度即死させられているとはいえど、流石に弱すぎる。
”こういう時は決まって、半分になったら形態変化したりするんだよな”
”突然攻撃不可のイベントモードになったりもするよな”
”今までのグランド関連から考えると、全体に対する特大攻撃だよな”
”アンボルト、ゴルドフレイ、ともにとんでもねえ全体攻撃して来てたしな。絶対なんかある”
”美琴ちゃんもアーネストもそれに気付いてるみたいで、美琴ちゃんはちょっと嫌そうな顔してて、アーネストはめっちゃ嬉しそうな顔してる”
”とことん戦闘狂だなぁ”
”それよりも、さっきのヘカテーちゃんの言葉が、そういうつもりじゃないと分かってても……ふぅ……”
”ガチロリコンはすっこんでろ”
コメント欄にいるリスナーたちも同じような考えに行きついているようで、どんな攻撃を仕掛けてくるのだろうかと考えてくれている。
まず間違いなく全体攻撃系ではあるだろう。ロットヴルム、ボルトリント、ゴルドニール。全てが一定数HPを削ると、フィールド全体の攻撃を仕掛けて来ていた。
グランドーンは緑竜王の眷属。こいつだけ単体に集中したもののはずがないので、強く警戒しておく。
「あ、やっべ!?」
グランドーンに接近して刀形態の相棒を鋭く振るい、首に着いている傷を少しずつ深くしていっていると、邪魔な羽虫を追い払うかのように首を動かされて弾かれ、地面に着地して離れようとしたら足を絡めとられてしまう。
あの図体で随分器用だなと頬を引きつらせて影の中に潜ろうとすると、地面を弾けさせて大量の石礫を弾丸のように放ってくる。
「ヨミ!」
これはまたストックを早々に使うかと覚悟したが、ジンがタンクスキル『クイックドライブ』でヨミの前までやってきて、前もって起動させておいたらしいその他のタンクスキルで石礫を防いでくれる。
「サンキュ、ジン! 助かった!」
「あんまり無茶はしないでよね! オレだって毎回今みたいに助けに入れるわけじゃないから!」
「分かってる! もうちょい慎重に行くよ!」
と言いつつ、ジンの足元に落ちている影に潜ってグランドーンから落ちている大きな影まで移動し、『竜道』を使って攻撃を仕掛ける。
やや呆れているような視線を感じるがすぐにその視線もなくなって、ジンはグランドーンの注意を引くタンクスキル『タウント』を使って、ヨミに向きそうになっていたヘイトを自分に引き寄せた。
エネミーのヘイトは、タンクの『タウント』を除けば派手な攻撃で注意を引くこともできるし、派手でなくとも強力な一撃を入れて大ダメージを入れれば引きつけることができる。
なので今この状況ではヘイトは基本的に、ヨミ、美琴、アーネスト、ノエルの火力の高いアタッカーに、ヘイト管理がしやすいスキルを持つジン、後方から大きな火力と派手な魔術を使うトーチとルナに分散している。
対人に特化しすぎるあまり援護がないと、硬い外殻に傷を入れるのが難しいカナタとサクラ、有効打をそこそこ入れているが超火力組より一歩劣ってしまっているヘカテーとアニマ、そして隠密がメインで火力がダントツで低いゼーレには、ヘイトがあまり向いていない。
今はヘイトの向いていない彼女たちに期待したいところだが、グランドーンはヘイトが向いていようがなかろうが、関係ない広範囲攻撃を使ってくることがあるので期待しすぎてしまうのはやめておく。
「ひー! なんなのこいつ! 高い火力のないうちが戦っていい相手じゃないでしょー!」
「僕は前に戦ったからまだいいですけど、やっぱり硬い……!」
ゼーレはゴルドフレイの素材を使った直刀を抱えるように持ちながら走り回り、関節を狙って攻撃を仕掛けるがステータスがこの中で恐らく一番低いので、毛ほどのダメージも入れられていない。
ゼーレはヨミたちのような化け物染みたプレイヤースキルがあるわけではないが、戦い方が巧い。
情報収集や隠密が得意なスキル構成をしており、それを活かすような立ち回りをする。
フェイントやディレイは当たり前。視線や重心の移動などでこちらを騙し、作った隙を狙って攻撃を的確に差し込んでくる。
本体のスペック自体は大して高くないので脅威にならないはずなのに、持ってるスキルを上手く使って巧い戦いを仕掛けてくるのがゼーレの強みだ。
ただそれを発揮できるのはプレイヤー限定なので、こういったレイド戦ではただのプレイヤーAになってしまう。
「こうなりゃ自棄だ! 『ヘイトスクレイプ』!」
僅かに向いていた自分へのヘイトをスキルで剥がしてその場に残し、この場においてゼーレは完全にヘイトが0の状態になる。
首を狙って攻撃を仕掛けていたヨミも、ゼーレがどう出るのかを気にしてたまにチラ見していたが、視界の端に入れていたゼーレの姿がふっと消える。
一瞬びっくりするが、今のは確か彼女のアサシンスキルの『サイレントウォーク』と言うもので、エネミー相手であればヘイトが向いていない時、プレイヤー相手では視線が外れている時に使用できるものだ。
効果はシンプルに、自分に注意が向いていない状態に使用すると移動速度に高い補正がかかり、一瞬で間合いを詰めることが可能だ。
『ヘイトスクレイプ』でヘイトを剥がすことで無理やりグランドーンに注目されていない状態になり、それで今のスキルを使用したようだ。
やっぱり戦い方が巧いなと感心していると、顎の下に移動したゼーレが跳躍して直刀を突き出す。
「『アサシネイト』!」
エネミーに見つかっていない状態、プレイヤーの場合だと背後を取って使用した場合、攻撃力に高い補正がかかってクリティカルを狙うことのできるアサシンスキル。
火力技がほぼなく、ゼーレにとって『アサシネイト』は唯一の高火力技と言っていいだろう。
顎の下に向かって直刀を突き出して攻撃を繰り出す。本人も自棄だと言っていたので苦し紛れに出したものだったのだろうが、ここで奇跡を起こす。
「ギャアアアアアアアアアアア!?」
「おぉう!?」
顎の下に突き立てられた攻撃に、グランドーンが大きな悲鳴を上げる。
ぱっとHPを見ると、ゼーレでは決して与えられないであろうダメージを入れており、すぐに原因に思い至った。
「ナイスゼーレ! 逆鱗の場所は覚えてるね!?」
「お、覚えてるー!」
そう、逆鱗である。
グランドエネミー関連はみな、総じて逆鱗が弱点として存在している。
ロットヴルムもボルトリントも、アンボルトもゴルドフレイも、全てが逆鱗が弱点だった。
時間をかけて見つけ出そうと思っていたが、予想外にもゼーレがラッキーを発動させてくれたおかげで、早々に場所の特定ができた。
「よっしゃ全員畳みかけろー!」
美琴が大きな声で号令をかけ、みんなが一斉に攻撃を仕掛けようと攻め込む。
ヨミももちろんそうする。そこを狙って早く倒すことができれば、早く就寝できて明日に響くことがないから。




