緑の王への挑戦権 1
あれからもスケルトンやらグールやらに何度も襲撃されて、その都度悲鳴を上げて暴れ回った。
アーネストが攻撃に出るよりも早く反射的にホラーを拒絶して行動に移るため、結局ヨミが前衛になってしまい悲鳴を上げ続けながらアンデッドどもを蹴散らしていった。
「うわぁぁぁん! ノエルぅぅぅぅ!」
「よしよし、もう大丈夫だからねー」
目的地に着いたヨミたちは、最奥の間の扉の手前で軽い休憩を取っている。
理由は、ヨミが色々限界になってしまいのえるに泣きついているから。
”ほんまにヨミちゃんみたいな美少女が、ホラーダメダメでよかった”
”流れるようにノエルお姉ちゃんに甘えに行くロリっ子よ”
”もうみーんな微笑ましいものを見ているみたいな感じで温かい目を向けてるwww”
”おねロリてぇてぇ……”
”ほんっと、ヨミちゃんの悲鳴は鬱によく効く。会社で病んでたのが嘘みたいだ”
”ヨミちゃんの悲鳴を特効薬代わりにしてるのいて草”
相変わらずリスナーは慰めてくれやしない。
女の子が泣いてるのに何でそんなに愉悦に浸っているのか、本当に理解できない。
ぐすぐすとノエルに抱き着いて甘えること数分。
だんだんと自分の痴態を見られていることの方が恥ずかしくなってきたので離れ、非常に今更ながら居住まいを正す。
「さ、さて。ここまで来たわけだけど、みんな準備はいい?」
「取り繕ってるヨミちゃん可愛い」
「うるさい。問答無用で部屋の中に放り込むよ」
「いやん、怖い」
数分間ヨミの方からああやって甘えに行ったからか、ノエルは非常にご機嫌だ。
にっこにこの笑顔を浮かべており、まだヨミのことを愛でたいのかじりじりとにじり寄ってきている。
このままだとまた捕獲されてしまうので、さっさと始めてしまおうと扉の方を向く。
全員準備はできているようなので、前にアニマと来た時のように扉を押して開ける。
ゴゴゴ……という音を立ててゆっくりと開いていき、ノエルは不満そうな声を出して渋々ヨミに飛びつこうとするのをやめてくれた。
一方で美琴たち夢想の雷霆組は、これがもう一つの緑竜王への挑戦権であり、これを倒すことで正式に緑竜王への挑戦権を獲得して、倒せるようになるのかもしれないからか、とても意気込んでいる。
特に美琴は長いこと辛酸を舐めているため、そのやる気の満ちようは人一倍だ。
アニマと来た時は、二人とも後ろにいるお姉さん組より育っていなかったため狭い隙間からすり抜けるように中に入ったが、今回はそれができない方々がいるのでちゃんと開き切るまで待った。
ズズン……という音を鳴らして扉が完全に開き切り、肩越しに振り返って全員が頷くのを確認してから、最奥の間に入る。
前と同じように、アニマが発光機を飛ばして部屋の中を明るく照らし、そこにいるものを映し出す。
最奥の間にいる、土くれでできた歪な竜。
翼はなく、赫き腐敗の森にいるスカーレットリザードのような、陸地オンリーのドラゴンのようなもの。
二度目の対峙となる、緑竜王グランリーフの二体目の眷属、グランドーンだ。
『グランドキークエスト:【緑の王への挑戦権】が開始されました』
『ENCOUNT GREAT ENEMY【DIRT DRAGON :GROUNDAN】』
ヨミとアニマ以外の全員にウィンドウが表示され、この場にいる全員がグランドキークエストを発生させる。
「……へぇ。つまりこいつを倒せば、グランリーフを撃退させた剣を作った人の姉妹剣を入手できるってわけだ」
「竜を退けるとかですし、天羽々斬でしょうか」
「何でもよかろう。これで妾たちは、一層緑竜王討伐に近付けるのじゃ」
夢想の雷霆のお姉さん組、美琴、カナタ、サクラが武器を構えて誰よりもやる気を出す。
これはアニマとヨミの見つけたクエストで、誰よりもクリアしたいという欲はあるが、ここに来る途中でアニマとは既に相談してここのクリアは美琴たちに譲ることになっている。
アニマも快くそのことを了承しており、今回の戦いは美琴たちを中心に行う手筈になっている。
「地面を操るので、美琴さんとの相性は大分悪いです。あと、何度も地形操作を行われるとここが崩落する危険性があるので、可能な限り使わせない方向で」
「了解。それじゃあ開幕、行かせてもらおうかしら! トーチちゃん!」
「は、はい!」
トーチが杖を美琴に向けると、魔術を発動させる……のではなく解除する。
彼女にかかっていたのは隠ぺいの魔術。何を隠ぺいしていたのか。それは、背後にある四つ金輪巴紋。
時間をかけてチャージを行い、チャージが完了することで一つ巴紋からその数に遭った巴紋に変化する。
美琴が所持しているユニークスキル、諸願七雷・四鳴だ。
「陰打、抜刀───御雷一閃!」
左手に雷を集中させて物質化させ、一本の刀を生成。
即座に鯉口を切り、流れるような見事な動作で抜刀術を繰り出す。
蓄積されていた膨大な量の雷が一気に解放されて、強烈な斬撃となってグランドーンに襲い掛かる。
超速の斬撃を真っ向から食らったグランドーンは、その巨体を数メートル後ろに押され、土くれでできた体から少しだけ土を剥がした。
初手とんでもない火力を見せつけてくれて、そのおかげで最初から一本目のHPを一割近く削った。
四鳴ではそこまで火力を出せないはずなので、ルナとトーチがタイミングを合わせてバフを攻撃に乗せたのだろう。
美琴のその攻撃が合図となり、まずは前衛アタッカー組が一気に前に出る。
ヨミも自己バフをいくつも重ね掛けして飛び出すと、普段よりも加速力があったのでそこにルナ辺りがバフでも入れたのだろうと心の中で感謝する。
あとできちんとお礼を言おうと決めて、先に行ったアーネストを追い抜いてブリッツグライフェンを斧形態にして、いきなり全開にする。
「美琴さんが景気よくデカいのを決めたんだ! ボクもそれに倣うとするよ! 『ウェポンアウェイク・全放出』───『雷霆・斧撃』!」
ブリッツグライフェンを思い切り叩きつけて、ヨミの強化されまくった筋力による一撃と追撃で放たれた強烈な雷の追撃を受けて、美琴ほどではないがHPを削る。
「最初から気前がいいじゃないか! 次私とやり合う時、最初からそう来てくれないか!?」
「別に構わないけど、それ今言うことじゃないよなぁ!?」
”どこまで戦闘狂なんだよこいつwwwwww”
”イケメンで顔もよくて性格もいいはずなのに、戦闘狂すぎるという一点のおかげで妙に許せてしまう”
”でも美人な妹を持ってお兄ちゃんと呼ばれてるだけで殺意が湧く”
”なんで……ヨミちゃんと普通に会話できんだ……!”
”何なら美少女揃いのギルドと仲良くなっていることも許せん”
”あれ、何でだろう。急にグランドーンのことを応援したくなってきた”
”グランドーン! アーネストだけ潰した後ヨミちゃんたちに倒されてくれー!”
どこまでも戦闘狂なアーネストにツッコミを入れ、反撃されないように離れつつ血を消費して武器をいくつも生成。
ブリッツグライフェンを大鎌形態に切り替えて、手で血武器を掴んだり大鎌で引っかけたりしながら血武器を渡っていき、一番高いところに設置した大剣の腹の上に着地して下を見下ろす。
イベント大会が近い関係でシエルがおらず、あいつの持つ高威力の竜特効がないのは少し痛いが、それ以外の竜特効持ちが集まっているのでこれで乗り切れるはずだ。
「美琴さんも超張り切ってるし、ボクも負けてられないね」
アーネストのことを戦闘狂だのなんだのと言うが、ヨミもヨミとて戦闘狂。ついでに極度の負けず嫌いだ。
この戦いは美琴側に色々譲ることになってはいるものの、かといってその過程まで全部譲るつもりなどない。
最後の一番美味しいところを譲るのだから、その間にある美味しいところは余さず喰らわせてもらうぞと意気込み、血武器を操作しながら大剣を蹴ってグランドーンに向かって突進していった。




