土石竜に挑むまでに疲れるやつ
アーネストとノエル、ゼーレ、ヘカテー、ジンを引き連れてヒノイズル皇国に飛び、波寄町から直線で陽之原村まで移動したヨミたちは、そこで待っていたサクラ、カナタ、トーチ、ルナ、アニマと合流した。
ちなみに、言うまでもないかもしれないが、アニマは美琴の可愛い物好きセンサーにばっちり引っかかっているので、ノエルのようにいきなり抱き着くことはせずとも満足そうな笑みでアニマのことを撫でて愛でていた。
当のアニマ本人は顔を真っ赤にして緊張しているのが丸分かりだったが、綺麗なお姉さんに頭を撫でられるのがまんざらでもなさそうだった。
”おねロリてぇてぇ……”
”美琴ちゃん本当にナチュラルに百合フィールド展開するよなぁ”
”アニマちゃんも緊張しいだけど、嫌そうな顔をしていないのが超高得点すぎる”
”美琴ちゃんラブなルナちゃんが羨ましそうに凝視してるの草”
”トーチちゃんも、心なしかいつもより美琴ちゃんに近い気がする”
”なんだこの尊すぎる空間は”
”尊すぎて前が見えなぁい!?”
波寄町についたところで配信を始めておいたため、美琴がアニマを愛でているところはばっちりとカメラに収められて配信に乗っており、百合が大好物なヨミのリスナーが浄化されかかっていた。
ちなみに、ヘカテーがトーチとルナの方に駆け寄っていき、ぎゅっと抱き着いたことで何人かのリスナーが天に召された。
「お待たせしました、美琴さん」
「あ、ヨミちゃん、やっほー。お誘いありがとうね」
「いえ。美琴さんは緑竜王討伐に本気ですし、討伐に欠かせないグランド関連のクエストですから。……何より誘わなかったら後が怖いので」
前にグランドーンと鉢合わせた次の日に、美琴に捕獲されてノエルとタメを張る巨峰に顔を埋めて大変な思いをしたので、またあんな目に遭わないためにもきちんと声をかけたのだ。
実際に美琴に声をかけたのはアーネストなので、すぐに彼女に連絡を入れてくれたことには感謝している。
「これでメンバーも揃ったし、早速行きましょう。ボクとアニマちゃんで先導しますね」
「よろしく。これで私たちが独占状態の【母なる大地と命の緑に破滅の慕情を】が進むのね」
「す、すごいクエスト名ですね?」
「そっか、アニマちゃんグランドはまだ受けたことないんだっけ?」
美琴の口にしたグランドクエスト名を聞き、アニマが何とも言えない顔をする。
シエルが発生させていたアンボルトのクエストを聞いた時も、ヨミ自身で発生させたバーンロットのクエストの名前を見た時も思ったが、クエスト名に殺意とかが籠りすぎている。
この世界の歴史背景的にもそういうクエスト名が付いていてもおかしくないが、それにしても殺意が籠っている。
しかも共通して、親愛や慈愛など愛に関する言葉と共に、それを打ち消すような単語が来る。
バーンロットは親愛なる殺意を込めて、アンボルトは憎悪の花束、ゴルドフレイは慈愛の怒りの贈り物を、といった具合だ。
「私の発生させているウォータイスも、【潤し凍てつかせる蒼に零落の傾慕を】という名前だし、グランドは共通してこんな物騒なタイトルになっているのさ」
「そうだったんですね……」
「アニマちゃんもグランドーンを倒したら、発生させているクエスト一覧に美琴さんと同じのが入るようになるよ。そこ開くと毎回それが一番上に来てるから、慣れないと字の強さにびっくりするんだよね」
「あはは、分かるかもそれ。私もグランリーフのクエスト出したばかりの頃、クエスト一覧開くたびにびっくりしてたなあ」
全員がそういうわけではないだろうが、一度は通る道だろう。
そんなちょっとした過去の話で盛り上がりそうになったが、あまりのんびりすると時間が無くなってしまうので、話を切り上げて早速遺跡に向かって移動を始めた。
♢
そんなこんなでトッププレイヤーで遺跡までやって来たヨミたちだが、ヨミはすっかり記憶から消していた。
ここには、ホラーが最大の弱点であるヨミにとっての天敵である、スケルトンが大量にいるということを。
「み゛ゃああああああああああああああああああああああ!?」
スケルトンまみれであることを思い出してすっかり意気消沈していたところに、追い打ちをかけるように曲がり角から急にスケルトンが飛び掛かってきて、真っ青になりながら悲鳴を上げる。
ブリッツグライフェンをハンマー上にして装備しており、反射的に体を捻るようにしながら勢いをつけて、ハンマーでぶん殴って骨を粉微塵にする。
粉微塵にしたスケルトンの先にもまだスケルトンがうじゃうじゃいるので、振り上げたハンマーを戻す勢いで地面を殴りつけ、エネルギーを消費して地面から雷を伴った衝撃をスケルトンにぶちかまし、これもまた粉微塵にした。
”うむ、実にいい悲鳴だ”
”悲鳴ソムリエから見ても、この比名は百点満点中百億点だ”
”ヨミちゃんの悲鳴はもう既に鬱に効く。ソースは、上司に怒られすぎて病んでたのにヨミちゃんの悲鳴を聞いてからにやけが止まらない俺”
”ほんと、ヨミちゃんの悲鳴って脳にクるんだよなぁ……”
”ノエルお姉ちゃんと美琴ちゃんが終始にっこりで草”
”アーネスト、お前女の子が泣いて叫んでるのに笑うなよ。気持ちは分かるけど”
”今すぐそこに行ってよしよしって抱きしめながら頭撫でて慰めてあげたい”
案の定コメント欄にも大量の変態共が現れ、慰めるどころかスケルトン側にもっとヨミを驚かせて悲鳴を出させろと応援する始末だ。
ノエルは助けてくれないし美琴もにっこりこっちを見ているし、アニマとヘカテーくらいしか助けてくれないのでおかげで遅々として進まない。
ログアウトしたらのえるに噛みつきに行ってやると密かに決め、飛んできたでかいコウモリ系のエネミーをハンマーで地面に叩きつけてシミにする。
「く……ふふっ……! ほ、本当に面白いな君は……!」
「笑うな戦闘狂」
「あんな悲鳴を聞かされて笑わないほうがおかしいだろう……!」
「お姉ちゃんはとことんホラーがダメダメだからねえ」
「あら、そこは美琴と同じなのですね」
「ちょっ」
ホラーがダメなことをばらされた美琴が焦るが、過去の配信をたまに見返しているのですでにそのことは知っている。
何だったら本人の口からホラーがダメなことを明かされたような記憶もあるが、今はそのことはどうでもいい。
「コメント欄でも言われてるぞ剣聖。女の子が泣いてるんだから、前に出たらどうだ」
「そうしたいのは山々なんだが、君が私が動くよりも先に仕留めてしまうから前に出ようにも出られないんだ」
「じゃあ今から前に出ろ。前衛だろ」
「仰せのままに、お姫様」
「ボクはお姫様じゃない」
「でも血統上では真祖吸血鬼だろう? 魔族で言うところの王族だ」
「それ言われると言い返せないっ」
からからと笑いながらアーネストが最前に出て前衛となり、ヨミはノエルの後ろに隠れるように下がった。
”ん~、ホラーがダメなロリと平気っぽいわがままボデーお姉ちゃんの構図ぅ~”
”もはやアニマちゃんまで微笑ましいものを見るような顔をしてて大草原”
”ヨミちゃんとことんホラーダメみたいだからねぇ”
”始めて見たヨミちゃんの動画が、赫き腐敗の森でステータスオール1になった状態でグールに追いかけ回されて、半泣きになってるヨミちゃんのものでした。それ以降ガチで推してます”
”ノエルお姉ちゃんも分かってるから、妹を慰めるみたいに自然に頭撫でてて浄化される”
”荒んだ心が浄化されるぅ……”
「よ、ヨミさんの配信のコメント欄って、こう……ふ、不思議な感じですねっ!」
「アニマちゃん、言葉を選ばなくてもいいよ。こいつらはボクみたいな女の子が泣き叫ぶのが大好きな変態なんだ」
「ヨミちゃん、中にはそうやって罵られるのが好きな本物もいるから、お口は悪くしちゃダメよ?」
「注意しないと調子乗るし注意してもアウトなのはもうどうしようもないだろこれ」
対処法を知ってそうな美琴に助けを求めるような視線を向けるが、すーっと視線を逸らされたのでダメみたいだ。
どうしたら配信のコメント欄に巣くう変態を駆除できるのだろうかと深いため息を吐き、アーネストが見逃したらしい浮遊する頭蓋骨がいつの間に眼前にあったので、自分でもどう出たのかよく分からない悲鳴を上げながらハンマーでぶん殴り、アーネストの後頭部に直撃させた。




