再び調査へ
すぐにマーリンを呼んであの三バカ貴族を英霊の墓標の前に引きずり出し、侮辱したことを土下座で謝罪させた。
なんで自分たちが貴族でもないただの兵士に、と言わんばかりに苦虫を噛み潰したような顔をしていたので、マーリンが見張ってヨミはガウェインを呼びに行くように頼まれたので、城の訓練場にいたガウェインを連れて戻った。
「こ、これ、が……」
「なん……という……」
「ば、化け物……」
「そんな便利な魔術があるなら、最初から使ってこいつら黙らせた方がよかったんじゃない?」
「そうしたいところだったけど、人の記憶を他人に転写するこの魔術は転写される側に多大な負担をかけるからね。ろくでなしのバカ三人だけど、政治的な手腕や自分の領地の経営はかなり上手いし、下手にやって失敗して廃人になったら大変だから、やろうにもできなかったんだよ」
マーリンがガウェインを呼んだ理由は、彼の持つアンボルト戦の記憶を複製して三人に移すためだった。
ヨミはプレイヤーなのでNPCからのそういう精神的なものの干渉は受けられず、マーリンは女神の加護を受けた冒険者には使えない魔術だと言っていた。
本当にNPCがNPC相手に使うような魔術で、NPCだけにしか使えない特殊な魔術のようだ。
そんな魔術を使ってガウェインの記憶を完璧に三人分複製し、それを三バカ貴族に転写。
結果、あの時のガウェインの恐怖や絶望がそのまま三人に伝わり、散々バカにしてきていた三バカは体を震わせ顔を青くして膝をついていた。
「これでようやく、ヨミにとやかく言うことはなくなったね」
「全くですね。私はあの日のヨミ殿の戦いを目の当たりにしたからこそ、人となりを含め尊敬しているというのに」
「そ、尊敬なんて……」
「いやいや、君の性格は素晴らしいものだよ? 強さを追い求めている戦闘狂ではあるけど、それは自分でちゃんと制御できているし、かなり強いのに驕らず人に任せるべきところは任せ、そして命と背中を預けた仲間を悪く言われたら彼らのために怒る。魔族の中で最も尊い血を持つ真祖吸血鬼として見ても、君はとても優しい」
美形二人にそう言われて、流石にちょっと照れ臭くなる。
頬がじんわりと熱を持つのを感じ、さっと目を逸らす。
「おいマーリン。私のお姉様を口説くのはやめろ」
「わっ!? え、エマ、いつの間に……」
「別に口説いたわけじゃないよ。ただ思ったことを口にしただけさ。それに、僕は妻一筋だ。浮気なんかしないし、そもそも彼女がそんなこと許しもしないさ」
いつの間に後ろにいたエマに後ろから抱き着かれ、まるでヨミを独占していいのは自分だけだと言っているように、むすっとした顔をする。
後ろから抱きつつもさりげなくスカートの上から太ももに触れられており、それが変にこそばゆくて体を捩らせる。
「あ、そうだ。マーリンに聞きたいことがあるんだ」
「おや、なんだい?」
「三原色の竜王の眷属について。ボクは先日、グランリーフの眷属、グランドーンと遭遇して、それと戦ってるんだ」
緑竜王の眷属のことを話すと、マーリンの表情が真剣なものになる。
「眷属はやはりもう一体いたと」
「やはりってことは、マーリンも想像はしてた?」
「あぁ。赫竜王はこの国の領土内にいるし、眷属も同様だ。過去に、僕がまだ小さな子供だった頃に、一度だけ奇妙な報告を聞いたことがあってね。なんでも、見た目はロットヴルムにそっくりなんだけど知られている特徴と実際に目の当たりにした個体の特徴が一致せず、かつ炎を使って来たってね」
「あぁ、あの一枚だけあった報告書ですか。私も資料室で拝見しました」
「熱心だねぇ。流石は竜の時代の終わりを目指している騎士様だ。とまあ、あの時は200人くらいの部隊がたった一人の指揮官を残して壊滅しちゃってたから、気が動転して幻でも見たんだろうということで処理されてたけど、ただの竜種系の魔物で壊滅するほど弱い部隊じゃないのを覚えてたし、細部は違うけどロットヴルムとよく似ている特徴を持っていると聞いたからね。三原色は能力を二つ持っているし、ロットヴルムは腐敗の眷属。炎と腐敗の竜王なのに、眷属は腐敗だけしか持っていないロットヴルムのみ。長いことそれが常識だったけど、その報告を聞いてからはその常識を疑うようになってたのさ」
そう言い切ってから、ヨミの顔を見ながらぱちりと左目を閉じてウィンクするマーリン。
「グランドーン……私は聞いたことがないな。お姉様はそれと戦って勝てたのだろう? 何しろロットヴルムを一人で倒したような実力者なのだから」
「ううん、倒せなかった。あの時はボク一人じゃなかったってのもあるけど、場所が場所でね。ヒノイズル皇国にある遺跡の地下にある最奥の間にいてさ。相手は地面を操る能力を持ってたから……」
「あぁ、それは……」
グランドーンはたとえ埋められてしまっても、地面を自在に操れるのであの場所が崩れても修復が可能だ。メタ的に言えば、一定時間経てば勝手に修復される。
なので再訪して再戦も可能だが、挑む側は厄介なことこの上ない。
「地下にいて大地を操るとなると、向こうはその場が崩れて生き埋めになっても構わない戦い方をする。一方で、こちらは相手に能力を使わせないように戦わなければいけない。例え一人で眷属を倒せる実力を持つヨミ殿でも、相手の能力を封殺して倒すことは至難の業でしょう」
「そもそもロットヴルムを倒すのに二時間かかってるから、どう頑張っても一人でグランドーンは倒せない」
「なるほどなるほど。じゃあまたガウェインたち第十五魔導騎士大隊を派遣しようか。他にも参加する仲間に目星はあるかい?」
「アーネストたちグローリア・ブレイズ、美琴さんたち夢想の雷霆、フレイヤさんたち剣の乙女の主力に声をかけようかなって思ってる」
「普通だったら過剰なレベルの戦力なのに、相手が相手だからこれでやっとトントンって感じなのがすごいねぇ」
また彼らの助力を得られるのは非常にありがたい。だがここでももちろん問題がある。
あそこは開けた地上ではなく地下空間。かなり広い場所で結構たくさん入ることができるが、地上程ではない。
なので数をしぼる必要がある。
「面白そうな話をしているじゃないか。私も混ぜてはくれないか?」
誰を連れて行って再度調査しようかと頭を捻っていると、もはや聞き慣れてしまったプレイヤー最強格の一人から声をかけられる。
「ちょうどいい。アーネスト、さっきのお代を払うよ」
「では早速バトレイドに、」
「もっと刺激的なお代を払えるよ。三原色の竜王が一つ、緑竜王グランリーフの二体目の眷属、グランドーンの調査だ」
「ぜひ行かせてもらおう」
即答だった。
「グランリーフ関連だし、美琴も呼んでおこう。今丁度ログインしているようだしな」
「美琴さん色々忙しくしているのによくログインできるね。ボクが言えた口じゃないけど」
とてもゲーマーには見えない超清楚で超美人な高身長お姉さんなのに、時間があればしっかりとログインしている。
これでFDOが初めてのゲームだというのだから、これがどれだけ素晴らしいものかが分かる。
美琴を呼ぶならと、あの場所の発見者であるアニマに連絡を取ろうとフレンドリストを開く。
ちゃんとログインしており、最強メンバーを引っ提げてあの場所をもう一度調査しようとメッセージを送ると、可愛らしい絵文字と共に了解と返って来た。
「私も行きたいのだが……」
「エマはステラと一緒にお留守番。あくまで調査でボクらが死に戻る前提の行動だからさ。勝てるって確信できたら、連れて行ってあげるから」
「お姉様がそういうなら……。代わりに、また膝枕を所望するぞ」
「なんでみんなそんなにボクの太もも気に入ってるの……?」
「柔らかくて寝心地がいいからに決まっているだろう。男などには決して、お姉様のこの極上の膝枕は味わわせないからな」
警戒する猫のようにアーネストに向かって言うエマ。
ヨミも当然男に膝枕するつもりなんてないので、からかうつもりでエマに乗っかってアーネストから少し身を引く。
「安心しろ、親しくなってきたとはいえ恋人でもない女の子にそんなことを要求するような変態じゃないよ」
「どうせ太もも以外貧相なボクに興味がないだけだろ」
「それもあるな」
「おい」
ここで、ギルド対抗戦の時にメスガキ演技でスカートをかなり際どいところまでたくし上げて、それで真っ赤になって慌てたことを暴露してやろうかと思ったが、その話は自分にもダメージが入るのでやめておいた。
とりあえず、最強格プレイヤーの協力を得られたので、ノエルとフリーデンにいるっぽいヘカテーとゼーレ、バトレイドにいるっぽいジンに、全員で陽之原村に集合とメッセージを送り付ける。
あとはアーネストだが、ヒノイズル皇国にはたまに足を運んでいるようで波寄町のワープポイントは解放済みとのこと。
陽之原村のワープポイントはまだ開放していないので、そこからはヨミが案内するという話になり、彼が早く行きたいとうずうずしだしたのでどこまでも戦闘狂だなと小突いて、マーリンたちに断ってから王城近くにあるワープポイントを使いヒノイズル皇国まで飛んだ。




