本格的な対策会議 2
「まず灰竜王と紫竜王がどこにいるのかについては、憶測の域を出てないけどおおよその目星は着けて来たわ。どちらもこの国ではない別の場所。灰竜王はこの国から南方、紫竜王は西方のへラクシア帝国というところまでは絞り込めたわ」
「灰竜王は分からずじまいだが、紫竜王はよく割り出せたね」
「あたくしのギルドは情報収集が専門。この世界のあちこちにある遺跡から歴史書を探って割り出した、未だに公開していない機密情報よ。この情報はお金になるとうちのサブマスターはごねていたけど、この情報を共有せずにいるとそれだけで損をすると思ったから説き伏せて来たの」
「ありがたいね、シンカー。やはり君のその情報収集能力は頼りになるよ」
「お褒めに預かり光栄ね、陛下。でもこのお城の中の図書室の蔵書がなければ、得ることができなかった情報も山ほどあったわ。こちらから言わせれば、あなたの病的なまでの書物の蒐集癖が頼りになるわね」
へラクシア帝国という場所がどこにあるのかは分からないが、ずっと西方にあることは分かった。
西方と言えば確かフレイヤが主な活動場所にしているウェスタイアン地方がある場所だったなと思い出し、今度フレイヤと会った時にこの国について聞いてみることにする。
それよりもシンカーがマーリン相手に普通にため口で話しているため、ヨミのことをあまりよく思っていない一部貴族や、自国の王を敬愛している貴族たちがシンカーを睨み付けている。
マーリンも顔色一つ買えないどころかむしろ嬉しそうにしているし、なんだかお互いに知り合いっぽいのでシンカーは過去に、何かしらの王族関連のクエストをクリアしているのかもしれない。
「へラクシア帝国という国は、最も美しい湖として知られるカロスアクラ湖のある国だ。人と自然が見事に共存しており、森妖精族が統治している国としても有名だ。僕の国も魔術や魔導技術に優れているという自負があるが、それはあくまで人の国としての話。へラクシア帝国は大部分が森妖精族というだけあって、魔導技術はこの国よりも上だ。そして、彼らの持つ魔導の技術は、この戦いにおいて非常に重要なものになるだろう」
「陛下はそこの皇帝と繋がりはあるかしら」
「もちろん。魔導技術を学ぶために向こうに留学したこともあったし、先代の頃どころかこの国の建国の時から交友はあるさ。なにせあそこの帝家とは親戚関係にあるしね」
「……えっ!?」
聞き逃せないことをさらっとマーリンが話し、思わず声を上げてしまう。
「おや、そういえば言ってなかったね。前に僕は、ここの王族は特殊で人よりも寿命が長い、僕自身が既に国王をやって80年経っていて僕も120歳を超えてると話しただろう? その理由は、僕らアンブロジアズ王家には、森妖精族の更に上位種である森妖精王族の血が流れているからなんだ。魔術に優れているのも、その血の影響だよ」
「い、言われてみれば……」
森妖精族は筋力や身体能力が低い代わりに、魔術に優れている種族特性がある。
そしてNPCに限った話になるが、とてつもない長寿種族である。
森妖精族の派生である土妖精族であるクロムも、もう既に900年以上も生きているというのだし、そのクロムと親しくしているのだからそのことを考えておくべきだった。
「とりあえず、へラクシア帝家との連絡は僕に任せてほしい。残る問題は……」
「地中深くに身を潜めている、灰竜王ね。以前あたくしたちと同じ冒険者が、趣味で穴を掘り続けていたら広い地下空間に出て、そこに灰竜王がいたという情報があったけど、目撃情報はそれっきり。その一回だけだし一年前の話だから、正確性があまりない」
「南方にあるということだけは分かっているんですよね?」
「その通りよ、ヨミ。でも、南方には小国がいくつも乱立しているの。そして南側は陸地が広く広がっていて、とてもじゃないけど探し当てるのは困難だわ」
確かにまだ埋まり切っていないマップを見た感じ、南方の陸地はかなり広い。
この世界の地図は地球がベースとなってはいるものの、実際の地球とは結構違う形の大陸となっている。
「これはこの国に限らず、様々な国の存亡にかかわる話だ。私の方から、陛下に頼んで軍を動員して捜索に当たらせようか」
「それなら僕の方からも捜索に協力させるよ。エマ、君は?」
「集落の連中は、あの日ゴルドフレイ討伐作戦に参加していた人間族以外はろくに信用していないし、ノーザンフロスト側の連中のことは未だに死ぬほど憎んでいるからな。下手したらそこで争いが起きかねん」
「だよねぇ……。この国もナイトレイドとはかなり戦争してたし、ノーザンフロストに至っては……」
「女子供をさらって奴隷にして、酷い扱いをしているという話だ。殺さなければほぼ不死身、殺しても命のストックさえあれば復活する。その特性を利用して、死刑囚の処刑に吸血鬼を使っているという話もある」
「……一応聞くが、死なせてはいない、という認識で構わないか?」
「私もそう思いたいよ。この手の話に関しては、私は全く関与していない。ゴルドフレイ戦以降陛下に進言して解決に進ませはしたが、進捗は芳しくない」
「そうか。だが、そうやって解決に動いてくれるだけでもありがたい」
「ゴルドフレイを倒したメンバーの一人だからな。陛下も私の言葉は無視できなくなったんだ」
NPCからすれば、それこそ救世の英雄だ。
王族でも何もないヨミでさえ英雄扱いを受けているのだから、自国の王子が竜王を倒したとなるとそれはもう支持率が上がるだろう。
そしてNPCからすれば、プレイヤーはすさまじく強い存在で一部NPCでなければ太刀打ちできず、それが竜王討伐者となれば挑める者などほぼいない。
下手にぞんざいに扱ってしまえば何をされるか分からないということもあるのか、それともイベントで王族として仲間入りしたとはいえ自分の息子として扱っているからか、ノーザンフロスト国王はアーネストのお願いを聞いているようだ。
「とりあえずノーザンフロスト側は、リトルナイトと鉢合わせることがないようにするよ」
「そうしてくれるとありがたい」
「さて話を続けましょう。最後に、赫竜王だけど、これはヨミたちに一任しようと思っているわ」
「───ふさけるな!」
シンカーが言うと、ランパート侯爵が怒り心頭と言った様子で立ち上がり声を荒げる。
「ただでさえ貴様が陛下に対して粗暴な言葉遣いで腹立たしいというのに、赫竜王はそこの魔族に一任するだと!? ふざけるのも大概にしろ!」
「はぁぁぁぁぁ~……。ランパート侯爵、さっきも僕言ったよね? 僕の友人を侮辱しないでくれるかな? シンカーの言う通り、僕は赫竜王はヨミに任せるべきだと思っているよ」
「何故ですか陛下!? 我がアンブロジアズ魔導王国軍を全軍用いれば、赫竜王など───」
「私の故郷エヴァンデール王国の全軍約100万の軍勢は、あらゆる武装を用いても四色の竜王の頂点である金竜王に敗れました。アンブロジアズ魔導王国軍の戦力は当時のエヴァンデール王国よりも上ですが、最強の竜王相手に100万を少し上回る程度の戦力で勝てるとは思えません」
ステラがランパート侯爵の言葉を遮り、よく通る声で言う。
ようやく少し乗り越えつつある過去のトラウマを思い出しながら、声を震わせて言う亡国の姫君のその発言は、何よりも説得力があった。
四色最強で一国が滅びた。なら竜王最強はどうだ?
答えなど簡単だ。一国程度の戦力で倒せるような相手なら、とっくに倒している。
「ここで赫竜王についての情報を一番持っているのはヨミだ。それはシンカーも思っていることだろう」
「その通りよ。最近またやってくれたようだし、だから任せようと思ったの」
「一応言っておきますけど、あれ本体じゃなくて本体の力の一部が入った偽物だったので、攻撃パターンは一緒でも規模とか段違いだと思いますよ」
「それでも知っていると知らないのとでは話が違うわ。奴について、少し教えてくれる?」
「……炎に関しては、ボクは吸血鬼で炎にめっぽう弱いので割愛しますけど、腐敗はアンデッドに分類されて耐性が高いボクでも、一瞬で腐敗状態になるレベルで強い。ロットヴルムのように分かりやすく腐敗って感じじゃなくて、見た目は炎なのに腐敗だったりするし、何だったら炎そのものに腐敗がかかっていたりするから、見分けはかなりつきづらい。触れたものがあっという間にぐずぐずに腐るから、多分防ぐ手段はほぼないか……あるいはガウェインさんの持つ『聖剣浄域』でどうにか対抗できるレベルだと思います」
相棒であるブリッツグライフェンの盾形態であればあの腐敗を防ぐことはできるが、耐久値を一気に持っていかれそうだし盾戦技は本当に初期のものしか覚えていないし、何ならタンクスキルも覚えていないので盾を運用することは現実的ではない。
「バーンロットと戦うことで奴が自分の力の一部を入れた、眷属とは違う人形を生み出すことができている。このことから、もしかしたらそれを大量生産してくる可能性はあるか?」
「なんでちょっと期待した風なのさ。それはあり得ないよ。できるとしても、せいぜい十体足らずとかじゃないかな」
「理由は?」
「あの人形は、ボクが戦った限りの話になるけど、本体が直接操っていた。というか、本体の意識がそのまま入っているような状態だった。魔術にも確か、似たような人形魔術っていうのがあるでしょ? あれはどれだけ熟達した魔術師でも、せいぜい両手の指の数程度。それ以上増やせることはできなくはないけど、自分で操っている人形を司令塔にして、簡単な指示を出すことしかできないだろうね」
とは言ったものの、複数体一気に作ってくることないと言い切れるだろう。
あえてそうしているだけだった場合はその前提が崩れるが、全ての竜王は自分の能力につき眷属は一体だけだ。
それは三原色も一緒で、四色と違う点は眷属を最大二体まで作ることができる点だ。それでも能力につき一つだ。
バーンロットのあれは眷属ではなく、本体の力の一部と己の意識を入れるための器なので、もしかしたらその条件に合致しないかもしれない。
だがヨミがないと思っているのは、あれの性格を考えると数で押し潰すより自分単体でねじ伏せることに意味を見出しているタイプだと感じたからだ。
それにそんなことができてバーンロットが行動にすぐに移すタイプだったら、今頃この国は焼き腐らされていることだろう。
「今聞いていた通り、ヨミは赫竜王を相手に生還することができる実力者だ。二度も竜王討伐に関わり、二度も赫竜王から生還している。だから僕も、シンカーと同じで赫竜王はヨミに一任しようと思っているが、諸君はどうかな? 賛同する者は拍手を頼むよ」
マーリンがそういうと、ランパート侯爵を筆頭とした反魔族の貴族は腕を組んで拍手はしないという意思を見せるが、それはごく一部で会議室に集まっている者の大半が拍手をヨミに浴びせる。
そのことが気に食わないのか、今にも呪い殺してきそうな目付きで睨み付けてくるが、大半がヨミの味方だしアーネストが近くにおり空間凍結のできるマーリンもいるので、彼らは何もできない。
頼りになる心強い味方が近くにいることは実にいいことだなと実感しつつ、彼らがめちゃくちゃ腹が立つような超生意気な笑顔をプレゼントしてやった。




