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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
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本格的な対策会議 1

 マーリンと合流し、エマとステラが来るまでの十分ほどは雑談を行ってから、ヨミは今回の件についてマーリンに進言した。

 灰竜王と紫竜王、果てには赫竜王までが出てくるかもしれない可能性がある、国家防衛クエスト。

 FDOの世界の住民たるNPCたちにも分かりやすく説明を行い、とにかく今は戦力が大量に必要になるから手を貸してほしいと頭を下げた。


「国王である僕から一声かければ、全員出動させることはできるね。ガウェインもそれに加わってくれれば、士気も上がる」

「ですが、何の説明もなしにいきなり全軍総出動となると、反感を買われるかもしれません」

「そうだね。じゃあこうしよう」


 マーリンがヨミの方を見てにやりとした時点で、すぐにでも帰ればよかったと後悔したのは、その十数分後であった。


「……どうしてこうなった!?」


 王城の中にある大きな階段型会議室。その壇上に、ヨミ、ステラ、エマが立っている。

 眼前には階段状になっているデスクと、その席に座っているアンブロジアズ魔導王国軍の幹部や、各隊の隊長たちが腰を掛けている。

 小柄で可愛らしいヨミを見て、想像以上に小柄であることに驚いている人、その可憐さに頬を少し赤らめている人、本当にヨミがあの竜王討伐者なのかを疑うような人、魔族であることは周知されているため嫌悪を示している人など、様々な反応がある。


 ステラとエマがいるとはいえこの人数を前に話すのは流石に緊張してしまうので、ノエルにメッセージを飛ばしている。

 ちょっと前に王都に着いたと言っていたので、もうそろそろここに来てくれるはずだ。


「さて、少し早いかもしれないが会議を始めよう」

「マーリン!?」


 お前絶対わざとだろ!? とみると、悪戯を成功させた子供のような少し意地の悪い笑みを浮かべていた。

 思わず呼び捨てにしてしまい、咄嗟にはっとなってぱっと右手で口を塞ぐが、自国の国王を呼び捨てにしたことが気に食わないらしい一部の貴族の方から、さっきのようなものが飛んできた。


「お待たせー。……修羅場中?」


 マーリンの娘リリアーナに連れられてきたノエルが到着し、一部から剣呑な雰囲気を感じ取って苦笑する。


「君は相変わらず、何かしらの中心にいるな」

「アーネスト!? なんでいんの!?」

「ノエルに声をかけられたのさ。それよりも、こんなに面白そうなことにどうして誘てくれないんだ」


 やや不満げな顔をするアーネスト。

 こいつ、絶対ただからかいたいだけだろと睨み付けると、それを答えるかのように笑みを浮かべる。

 実にいい性格をしているなと肩を落とし、壇上の真ん中に立って時間になったことを確認して、深呼吸をする。


「この度はお集まりいただき、ありがとうございます。知っていると思いますが、ギルド銀月の王座(ムーンライトスローン)マスター、ヨミです。今回は、ボクが入手した情報の共有、およびそれを元とした作戦の立案を行いたいと思います」


 ぺこりと頭を下げると、大部分から拍手が上がる。

 ぱっと顔を上げて、やっぱり一部の貴族からは拍手もされていないかと呆れ、そういうのは無視して進めることにする。


「今回ボクが入手した情報は、灰竜王シンダースデス、紫竜王ヴァイオノム、そして赫竜王バーンロット。この三体の竜王が、襲撃してくる可能性が非常に高いと言うものです」


 ヨミが口を開いて説明を始めると、いきなり三体の竜王の名前が出てきたことに驚きを隠せないのか、会議室の中がざわつく。

 もし本当なら国が一つ滅びるどころの話じゃない、一国の戦力でどうにかなるようなものでもない、他の国から戦力を分けてもらうしかない、などの会話が聞こえてくる。


「とても信じられんな。ただでさえ魔族の言葉だというのに、竜王が三体同時に襲ってくるかもしれない? 荒唐無稽にもほどがあるな」


 真っ先に、ヨミのことをよく思っていない貴族が見下すような声音で口を開く。

 確かバスター子爵と呼ばれていた貴族で、つい先ほど廊下であの日の戦いで命を落とした英霊を侮辱した阿呆だ。


「本当はナイトレイドの生き残り共と結託して王都から戦力を削ぎ、防衛が手薄になったところを落とすつもりなのではないか?」

「かつては和平を結ぼうと言って王都の中にまで潜り込み、多くの無辜の民の血を啜り命を奪って行ったことがあるからな。とても信用できん」

「そもそも、貴様が本当にあの黄竜王を倒したのかどうかすら怪しいしな」


 よく見ると、あの時侮辱してきた三人が固まっている。

 しかも今回は自分たちに賛同する反魔族意識の強い他貴族も周りに置いており、瞬く間にヨミへの非難へと変わろうとしている。


 隣に立つノエルから表情が消え、ステラが笑顔のまま額に青筋を浮かべ、エマが今にもブチ切れて殴り掛かりそうな雰囲気だ。

 なんでこうも反魔族意識の強い連中は、ここまで喧嘩腰なんだと怒りを通り越して呆れてくる。


「今回ヨミが入手した情報というのは、私から提供したものです。竜王を倒すという共通の目的を持つ仲間なので。こういう情報共有は普段から積極的に行っております」


 さてどうやって黙らせようと考えていると、アーネストが前に出て少し声を張る。

 もちろんアーネストの言うことは嘘で、あの時あの場にいたメンバー全員が全く同じ情報を持っている。

 これがプレイヤー同士の会議であれば、証拠となる配信のアーカイブがあるしヨミのリスナーは無条件で信じてくれるが、今相手にしているのはNPCだ。


 反魔族意識が強い連中が集まっており、ヨミのことを疑っているNPCもいる。

 マーリンやガウェインはヨミのことを信用も信頼もしているため、ヨミの持ち込んだ情報を信じてくれるが、それは戦いを共にした戦友でもあるからだ。

 ここではヨミと共に戦ったNPCはほぼいない。ならばどうやって情報を信じさせるか。

 魔族ではない、かつ他の国ではあるがその王子という立場にあるアーネストから説明をさせる。これは非常に有効な手だ。

 なんで来たんだと最初は思ったが、こういうやり方もあるのだなと分かってきてくれたことに、ノエルが誘ってくれたことに感謝する。


「貴殿は……」

「申し遅れました。私はギルド『グローリア・ブレイズ』マスター、およびノーザンフロスト王国王子、アーネスト・ノーザンフロストと申します」


 自己紹介をすると、再び会議室の中がざわつく。

 そしてヨミたちのことを侮辱しようとしていた貴族たちは、苦い顔をする。

 ヨミが個人で入手しただけであれば、彼らはあれこれいちゃもんを着けて来ただろう。

 だが今は情報提供者がアーネストということになっており、他国とはいえ王族。下手な口を利くことはできなくなった。

 いい気味だと小馬鹿にするような笑みを浮かべると、ランパート侯爵が顔を真っ赤にして体を震わせる。


「すまないヨミ、ここは合わせてもらってもいいか」


 アーネストが小声で言う。


「うん、問題ない。ありがとう」

「お代はバトレイドな」

「戦闘狂め」


 小突くことはせずに言葉を交わし、アーネストと交代する。


「まず、我々が入手した情報というのは、灰竜王、紫竜王の二体がどこかの国を襲撃する、と言うものです。赫竜王まで加わったのは……恐らく、こいつが一人で何かやったのでしょうね」

「こいつって言うな」

「で、実際はどうなんだ?」

「……先日、ボクは赫き腐敗の森の中を探索中に、人の姿を取ったバーンロットと戦いました。以前にもボクはそれと戦った経験があり、辛うじて手傷を負わせることで撃退しています」


 証明するように、インベントリから斬赫爪を取り出す。

 最強の竜王、その素材から作り出された斬赫爪は、説明するまでもなく赫き腐敗の王のものだと証明する。


「ボクはあれと再戦するまで、てっきり本体が遊びや暇潰しで人の姿を取っているものだと思っていました。それくらい強いですし、理不尽を感じました。でも、違いました。あれは、本体が眷属を生み出す要領で人形を作り、眷属と違って自分の力そのものを一部詰め込んだものでした。あれは本体ではないのに、本体の力が一部入っているため本体と繋がっているものでした」

「それを、君は倒したと」

「かなりギリギリだったけどね。エマとステラが来てくれなかったら、多分ボクは負けていた。あれだけ苦労して本体の力が入ったものを倒しても、本体の力を削るなんて都合のいい展開にはならなかったけど」


 少し期待するような言い方をしたくせに、苦労して倒したのに本体には影響が何もない。

 肩透かし感がすさまじいが、戦闘狂としては万全な状態のバーンロットと戦えるので嬉しい。


「まあその話は一度置いておくとしよう。問題は、灰竜王と紫竜王の二体が、今どこにいるのかが不明ということです。特に灰竜王は、以前我々と同じ女神の加護を受けた冒険者によって発見こそされたが、その場所というのは地中の奥深くだった。その空間は恐ろしく広く、推測でしかないが国家間を跨いでできていると思われます」

「灰竜王の能力は、死。奴の体から出る死の灰に触れると、触れた箇所から文字通り死んでいく。胸や頭に触れれば、絶対に助からない」


 マーリンが分厚い書物を片手に、軽く灰竜王の能力を説明してくれる。


「話を聞く限りじゃ、正直バーンロットよりも厄介なんですけど」

「死という能力は確かにトップクラスだろうね。でも防ぐ手段がないというわけではないんだ。何しろ、触れる生物全てを死なせる能力を持ちながら、灰竜王は四色の頂点じゃなかった。代わりに、その頂点にいたのは金竜王だった」

「なるほど……。金竜王は自身にエネルギーをまとわせることで強固な防御を得ていた。それで魔術も物理も防いでいた。となると、灰竜王の死の灰を防ぐには、」

「自分の体に直接触れることのない装備を付けること、あるいはその灰を飛ばすことのできる魔術か何かで、戦場に灰を残さないようにすること、ですね」


 アーネストがヨミの言葉を続ける。

 最後まで言わせてくれよと頬を少し膨らませると、ノエルが後ろからぎゅっと抱き着いてきた。

 真剣な会議の場なのに何やってんだと振りほどこうとするが、一部の厄介の奴らのせいで少し心が荒んでいたので、思わず癒しを優先してしまった。


「灰竜王がどこから来るのかは分からない。紫竜王も同様だ。だから、僕の方から個人的にこういうのに向いている人を呼んでおいたよ。入っておいで」

「呼ばれて飛び出てこんにちわ! どうも、考察ギルドアーカーシャマスターのシンカー・ベルでっす☆」


 勢いよく扉が開かれると、くたびれた白衣に袖を通した女性が入ってくる。

 確かに彼女はグランドに関する情報を集めているので、こういう場に向いている。

 幾度となくお世話になっているし個人的にも付き合いがあるので、来てくれることも呼んでくれたことも非常にありがたい。

 ただそのテンションのまま来たのはどうにかしてほしいなと、ノエルに後ろから抱き着かれたまま頭痛を堪えるように右手で頭を押さえた。

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