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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
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反逆の旗印対策

 その後つつがなく授業を終え、放課後になった。

 帰ろうとしたところを美琴たちに捕まり、そのまま喫茶店へと連行された。どうやらのえるか空から聞いたか、バーンロットの人形を倒した際にワールドアナウンスがあったので、美琴か華奈樹、美桜の誰かがそれを見たのだろう。


「さて、説明をしてもらいましょうか」

「あい」


 有無を言わせぬ迫力があり、どうして美人の怒っている時の笑顔というのは怖いのだろうかと、少し縮こまる。

 とりあえず刀戦技を習得した後、やっぱり使いたくなったのであの後再度ログインをしたあたりからきちんと説明し、ついでに刀戦技の使い心地を話しながら昨日のことの顛末を説明した。


「なるほどね。だから赫き王の偽りの器だったんだ」

「ボクも最初は、てっきり本体が人の形を取ってきたものだと思ってたんですけど、他の竜王が軒並み十本を超えていて強さが上がれば上がるだけ増えて行ってましたし、なら最強が九本で済むはずがないんですよね」


 赫竜王に関しては情報がとにかくなさすぎる。詩乃が見つけるまでは未発見の竜王で、アーカーシャでも名前と能力、どれだけ恐れられているか程度しか知らなかった。

 どう戦うのか。攻撃範囲はどれくらいか。炎はどれほどの熱を持つのか、腐敗はどこまで腐らせるのか。

 鱗の防御力、牙や爪の破壊力、体の大きさ。それらが何一つとして分かっていない。

 ただ言えることは、力が増すごとに体が大きくなっていくような傾向があるので、最強の竜王ともなるとその体は全ての王の中でもトップクラスにデカいはずだ。


「で、その王の力の一部がそのまま入れられた人形を倒したら、本体は弱体化するの?」


 ミルクたっぷりのカフェオレを注文してそれを飲んでいた美桜が、恐らく全員が気になっているであろうことを質問してくる。


「残念ながら、そういうわけでもないみたいです。でもそれを言ったのはバーンロットの方なので、本当に合っているかは怪しいですね。ですけど……」

「バーンロットの性格を考えると、嘘を吐いているようには聞こえない、だよな」


 コーラを注文してストローで飲んでいた空が、詩乃の言葉を続ける。

 この場にいる全員、詩乃を除けば一度もバーンロットと遭遇したことがないので、奴の性格を知る人はいない。

 なのであくまで全員詩乃から聞いた話を元にそう推測するしかない。

 その詩乃が感じたことは、あれも自分やアーネストと同類の、戦うことが好きな戦闘狂ということだ。


 今はどの国を滅ぼすでもなく、あの森の奥で悠々自適な生活をしているようだが、自分が強者だと認めた詩乃が森の中に入って最深部に近付いた辺りでああして出て来た辺り、詩乃と再戦することを心待ちにしていたようだ。


「それで、進んだクエストの方については何か分かった?」

「全く。お昼休みにFDOアカウントを開いてフレンドリストからシンカーさんに連絡とりましたけど、まだお返事ありませんし」


 ヨミがクリアしたグランドキークエスト、【反逆の旗印:赫の章】。名前からして、推測している国家防衛クエストのキークエストで、赫の章とあるのでほぼ確実にバーンロットが関わってくるだろう。

 バーンロットも体が崩れる前に、そう遠くないうちに本体と戦うことになると言っていたし、恐らくこの謎過ぎるグランドクエストに参戦することだろう。

 とにかく今言えることは一つだけだ。


「最強の竜王の情報がほぼない状態で、なんでそれまで参加するようになってんだよこのクエスト……」

「詩乃ちゃんでも人形相手にかなり苦戦するような相手だしねー。本体ともなると、アンブロジアズ魔導王国にいるほぼ全部のギルドと魔導王国軍を総動員しないと無理なんじゃない?」

「ログインしたらマーリンに真っ先に相談しよう」


 ちゃんと説明したらすぐに戦力を動員してくれそうだ。

 いや、しかし詩乃はあちらでは魔族で、しかも魔族の中でも力が強い吸血鬼で、その吸血鬼の中で最も強く尊い血統の真祖吸血鬼だ。

 マーリンや娘のリリアーナ、その他一部の貴族はヨミを受け入れているが、一部の反魔族の貴族はヨミが城に入ること自体を酷く嫌っている。

 あの世界での人間族と魔族との歴史を知れば仕方のないことではあるが、あのように拒絶されることを知らずに今までリアルで生きてきたので、ちょっと悲しい。


「整理しましょう。昨日みんなに発生したグランドキークエスト【反逆の旗印】。それを読む限りだと、紫竜王と灰竜王の両方が出てくる可能性が高いこと。そうなると竜王二体をどこにいるのかを探り当てて倒すより、竜王がどの国に出てきてどの国を襲撃するのかを割り出して、撃退することがこのキークエストのクリア条件。そう思っていた矢先に詩乃ちゃんがバーンロットと戦って、本体の力の一部が入れられた偽物とはいえそれを討伐。戦闘開始時にバーンロットまでこのキークエストに関わってくることが判明して、それを討伐することで【反逆の旗印:赫の章】をクリアした。このことから、紫の章と灰の章があると考えられる。詩乃ちゃんのやらかしから考えると、紫竜王と灰竜王も何か条件を達成することで正式にこの謎のグランドが発生するんじゃないかしら」


 美琴が整理してくれる。

 こうしてまとめると、なんで竜王が三体同時に出るようなクエストがあるんだよと、その理不尽さに頭を抱えそうになる。

 紫竜王と灰竜王は別の国にいると思われるので、四色の竜王二体に三原色にして最強の赫が手を組んで、三体で一つの国を落としにかかるということはないと思いたい。

 というか三体まとめて一つの国に来たら、防衛できずに落とされる自信がある。


「戦力はたくさんあったほうがいいでしょうし、私の方から配信でリスナーに声をかけてみるわね」

「美琴がやったら、とんでもない数の人が来そうですね」

「前回のゴルドフレイの時も、美琴に会えるからって多くの男性リスナーが押しかけて来たわね」

「……やっぱり詩乃ちゃんとこに任せていい?」

「ボクがやっても結果はほぼ同じだと思いますよ」


 詩乃と美琴とで、身長もスタイルもまるで違うが、共通して男性リスナーを大量に抱えている美少女配信者。

 リスナーの変態性なら詩乃の方が酷いかもしれないが、美琴もFDOだと丈の短い着物を少し着崩して肩らや胸元やらが見えているので、詩乃とは別ベクトルの変態が多くいそうだ。

 戦力をたくさん確保したいが、二人が呼びかけると善良なリスナーと共に変態が釣れるので、どうしたものかとため息が出る。


「アーネストくんとフレイヤさんに頼んで、私たちが戦力を欲しがってるって宣伝してもらおうかしら」

「それがいいかもですね。フレイヤさんの配信、ロマン信者ばかりでボクたちのところみたいに変態が多くないですし」


 スケープゴートにしてしまっている気がしなくもないが、自分たちの精神衛生上そうしたほうがいい。結果的に変態が釣れるだろうが、詩乃と美琴が直接呼びかけるよりはマシだろう。


「それにしても、詩乃ちゃんがグランド始めてから次々とグランドの情報が飛び出てくるわね。あなた、ネット上で本当は開発陣の娘なんじゃないかって言われてるみたいよ?」

「ボクはただ、楽しくFDOを遊んでいるだけなのに……」

「変なところで運がいいからな、お前。最初にバーンロットと遭遇したことがきっかけだろ」

「最初に倒したアンボルトに関しては、お前から発生させたグランドだからな、空。ボクのチャンネルで配信しただけで、あれを見つけたのはお前だから」


 今でも結構勘違いされているが、アンボルトを見つけたのは詩乃ではなく空だ。

 彼がキークエストとなるボルトリントをソロ討伐したことでグランドへの道が開き、詩乃たちがそれを手伝うためにパーティーを組んで再びボルトリントを倒してから、ガウェインたちの協力を得て初の竜王討伐を成し遂げた。


 その際詩乃のチャンネルで配信したことや、止めを刺したのが詩乃だったこともあり、ネット上では詩乃が見つけたグランドだと間違った捉え方をされている。

 インパクトが強すぎたので仕方がないことだとは思うが、自分の手柄じゃないのに他人がさも詩乃の手柄だと言っているのを見るのは気分的によくないので、せめてリアルではこうして訂正している。

 そろそろちゃんと配信内で、あれは空の手柄だということを言った方がいいかもしれない。


「今回のこのグランドキークエストが発生したのって、何がきっかけなんだろうね」


 ブレンドコーヒーに砂糖を入れて飲んでいたのえるがそう口にする。

 言われてみれば、今回の【反逆の旗印】の発生はかなり特殊だ。

 元々はただ刀戦技を開放するためだけにあの道場に足を運んでいた。それなのに急にこんなものが出て来た。

 考えられるとしたら、晴翔流剣術は竜を斬ることを目的とした剣術なので、それ経由なのかもしれない。

 しかしそれだと流石にちょっと条件が弱すぎる気がする。


 うーんと頭を捻り、クエスト内文章を思い出す。

 灰色と紫は死を恐れている、的なことが書かれていた。そこからこの二体が出てくるのではないかと推測したわけだが、もしかしたらこう考えることもできるかもしれない。

 灰色と紫が死を恐れているのは、不滅だと思っていた竜王が二体倒されたから。だから、いつまでも続くと思われた竜の時代をこれからも続けさせるために、自分たちが殺されないようにするために、侵攻しようとしていると。


 こういう考察はアーカーシャに任せた方がいいので今はあまり深く考えず、レモンを入れた紅茶を一口飲んだ。


「そういえばさ、アニマちゃんってレア種族なのよね?」


 ほんのりとした酸味がある紅茶の美味しさに目を細めていると、美琴が詩乃に質問してくる。


「そうらしいですけど、何か?」

「確か神機族(デウスマキナ)って言ってたよね」

「うーん、やっぱりそうかあ」

「何か?」


 何か含みのある言い方に、少し不安になる。

 もしかして掲示板やSNSで、彼女のことを脅していた連中があることないこと書いているのではないかと勘繰る。


「いやね、神機族ってレア種族の中でも特に出現率の低い種族で、FDOの全プレイヤーで見ても、数百人程度しかいないみたいなの」

「そんなに少ないんですか?」

「そうなの。それで、アニマっていう名前どこかで聞き覚えがあるなーって思ってたんだけど、去年あのゲームが始まってすぐのころに臨時でパーティー組んだ男の子がいたのを思い出してさ。その男の子が神機族で、名前がアニマだったのよ」

「え? でも、アニマちゃん女の子ですよ?」

「そうなのよねー。昨日会った感じ、感性とかは結構男の子寄りだけどちゃんと女の子だし、一瞬去年からずっと話題の例の現象の被害者かと思ったけどそういうわけじゃないみたいだし」


 例の現象と聞いてどきりと心臓が跳ねるが、詩乃のことではないので一瞬の焦りを表情に出さないようにする。


「ボクっ娘だけど、それはここにいる詩乃ちゃんと同じだし、珍しい方ではあるけどネット上じゃ別に珍しいってわけでもないし。昨日会った時も私のことは配信で知ってくれている、みたいな感じだったし。気のせいかなあ」


 自分の中で完結したのか、コーヒーカップを口に運ぶ美琴。

 人のことを言えないが、アニマとパーティーを組んだ時からやけに趣味が男の子だなとは思った。

 男のロマンをよく分かっているのでもしかしてと思ったが、フレイヤも同じ話題で盛り上がれるし、彼女と同類なのだと思っていた。

 流石にあの話題はデリケートな問題すぎるので、もし本当に彼女も詩乃と同じだとしても、向こうから明かそうとしない限りはこちらからいきなりぶっこむわけにも行かないので、このことはそっと心の奥底にしまって鍵をかけた。

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