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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
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再戦 3

 ますます歪で禍々しい姿となったバーンロットが、背中の翼を羽ばたかせて低空で爆速突進してくる。


「『ノックススピア』!」


 ヨミはそれを初期暗影魔術を使い、自分の影を大きく前方に伸ばしてからその陰から槍を大量に撃ち出す。

 真っすぐ突進してくるバーンロットに影の槍が直撃するが、一本一本が与えるダメージは微々たるもので、むしろ魔術の方がバーンロットの硬さに負けて折れる。

 魔術が竜王に負けるのはよく分かっている。眷属ですら極大魔術を使っても、プレイヤー相手とは違って有効打になりえないくらいなのだし、最初に使えるようになる初期魔術なんか牽制にすらならない。


 ならばとヨミ自身も前に踏み出して、斬赫爪に接続しているパーツから雷を発生させて、雷の大鎌を形取る。

 ノエルのシュラークゼーゲンのようには行かないが、通常の物理攻撃にアンボルトの雷を上乗せすることができる。


 お互いに間合いに入ると同時に得物を振るうが、ヨミは決してバーンロットの攻撃を受け止めてはいけない。

 力では向こうの方が圧倒的に上だし、ヨミは体の軽さもあって軽々と吹き飛ばされる。

 上からの攻撃なんて防いだところでねじ伏せられるし、下や左右からの攻撃は体重が軽いから防いだところで吹っ飛ばされる。

 吹っ飛んだ方がダメージが少ないが、飛ばされる速度が尋常じゃないのでバーンロットの攻撃で大したダメージを受けなくとも、吹っ飛んだ先にある障害物にぶつかるとそれでダメージを受ける。


 なので袈裟懸けに振り下ろされてきた大剣をジャストパリィで受け流し、その構えから大鎌戦技『ソウルディバイダー』を使って、ずっと狙っている首に大鎌を叩きつける。

 防御力を無視して攻撃する上に、霊体であればより大きなダメージを入れることができる、物理なのか霊的なのかよく分からない攻撃だが、今は少しでもダメージを入れることが優先的なので防御無視の方を重要視する。


 今までぶち当ててきた戦技よりは多少ダメージが大きく入ったが、所詮は焼け石に水。

 一応グランドウェポンという括りにはなるが、本当の意味での本体から獲得したわけではないからか、ダメージはいまいちだ。


「ブリッツグライフェンのパーツ繋げて補強して強化しててもこれかよ……!」


 これじゃらちが明かないと、武器を強化する血魔術『ブラッドメタルクラッド』の上位互換魔術の『ブラッディクラッドウェポン』を使い、血を消費して自分の武器に血をまとわせて硬質化させさらに強化する。

 更に血魔術の『ブラッディアーマー』を使って自分自身にもバフを入れつつ、素早く取り出した十秒チャージパックを噛み破って触れることで血を操作し、無理やり直接胃の中に流し込む。

 バフを延長して再びインベントリを開いて、血液パックを十個取り出して全てに干渉してパックを破り、自分の周りに血の塊を十個浮遊させる。


「血のストックか?」

「そう見える? 残念、違うよ! 『スカーレットアーマメント』!」


 とにかく火力を求めているので、まずは三つの血塊を大剣に作り替えて、先に血の大剣を射出してからヨミがそれを追うように走り出す。

 バーンロットは無造作に振るった大剣で一本目の血の大剣を弾き飛ばすが、飛び散った血はまだヨミの支配下にいるので、それら全てに干渉することで飛び散った血全てから『ジェノサイドピアッサー』を発動させる。

 高圧縮された血のレーザーが数十個一斉にバーンロットに襲い掛かるが、本来この魔術は血液パック一つをピンポン玉くらいまで圧縮してから撃つものなので、パック一つを使い潰して作った大剣が弾け飛びできた血の雫では大した威力は出ない。

 だが目くらましにはなる。


 続いた二本目三本目が、ヨミが繰り返し狙っている首と鱗が少し剥がれている胴体に衝突してダメージを入れる。

 だが胴体にぶつかった大剣はバーンロットの剣で地面に叩き落とされてヨミの支配から外れ、首に突き刺さろうとしている大剣は左手で掴まれて、ヨミに投げ返される。

 自らも接近しているヨミの眼前まで迫るが、回避行動を取らずぴたりと直前で停止させて、また二つの血塊を代償にして大剣と血のハンマーを作り上げる。


「『ジャッジメントマーター』───『ケイオスイーグレット』!」


 袈裟斬り、水平斬り、逆袈裟斬りの三連攻撃から戦技を繋げて往復横切り回転斬りの斬撃三連撃。

 一瞬でも攻撃の手を緩めてはいけないと、とにかく手数で攻めるために戦技連結(バトルアーツコネクト)を使って、攻勢に出る。

 相手が化け物のように強いのなら、相手に攻撃をさせず守勢に回してしまえばいい。


 威力の高い戦技を連結することでバーンロットを防御に専念させる。

 少しでもヨミに攻撃を仕掛けようとする動作を確認したら、すかさず待機させている血の大剣で背後から攻撃し、行動をキャンセルさせる。

 一対一のタイマンではほぼ勝てないであろう強さをしているが、ヨミは自分で疑似的に一対複数を再現できるため、どうにか持ちこたえている。

 こんな戦い、配信をしていたら絶対に大盛り上がりしていただろうに残念だと思うが、今配信を始めたら絶対にチャンネル登録しているノエルにも通知が行くし、バレたら明日絶対に何かされるので配信できない。


 とはいえ、配信ができないだけで録画だけはできているので、実はバーンロットとの戦いが始まった時点でこっそりと録画を開始して情報を記録している。

 これもそのうちバレそうだが、日にちを明かさなければしばらくはノエルを騙すことができるかもしれない。


「あっづぅ!?」


 大鎌初期戦技『ディキャピテーション 』で首を狙って攻撃を入れて、ずっと同じ個所に攻撃を入れ続けているため結構刃が食い込み始めてきて、このままずっと狙い続けて首を落としてやると意気込んでいると、バーンロットの全身から炎が噴き出る。

 一気に大ダメージを受けたヨミが咄嗟に後ろに下がり、キアナから購入しておいた瞬間的にHPを最大まで回復させる回復結晶を使って、炎で削れた分を回復した後で一緒に取り出した浄化結晶でダメージを受けつつ腐敗状態を解除する。

 なんで腐敗を治すためにダメージを受けて回復しなきゃいけないんだと、不便な吸血鬼の体に文句を言い、十秒チャージ血液パックを取り出して回復する。


 バーンロットの体から噴き出た炎はどんどん大剣の方に向かって流れていき、これはまずいぞと影の中に落ちる。

 攻撃してくるのを待ったが、向こうも学習してしまったようで影に潜ったら途端に攻撃モーションを解いてしまった。

 これはまずいなと冷や汗を流し、五秒後に影から追い出されるように地上に飛び出すとほぼ同時に、バーンロットが大剣を振り抜いて強烈な熱が斬撃となってヨミを襲った。


 これは回避できないなと諦める、なんてことはせず影の中にいる間にどの木の枝に鎖を巻き付けるのかを見定めて置き、飛び出ると同時に鎖を伸ばして巻きつけ、両足を犠牲にかろうじて回避する。


「こいつと戦うと決まって体のどっかが欠損するなぁ!?」


 痛覚緩和による保護があるとはいえ、しっかりとある程度の痛みがある上に視覚的にも両足がなくなっているので、実際に感じる痛みよりも強く痛んでいるように錯覚する。

 このまま着地すると機動力を失ったヨミはただの的なので、鎖を繰り返し伸ばし木の枝に巻きつけながら、バーンロットの周りを立体機動して足の回復を待つ。

 しかしバーンロットはそれを待ってはくれないようで、また体中の鱗の鎧の隙間から炎を撒き散らすように噴射してから、胸の中心に向かって炎を圧縮し始める。


 炎を圧縮するとか絶対にろくなものじゃないなと姿を隠すように木の陰に身を潜め、少しだけ顔を覗かせてタイミングを計る。

 バーンロットの体からゆらゆらと陽炎のようなものが上がるほど、奴の体に熱と強烈な腐敗の力が集まっているのを確認し、動き出した瞬間に影の中に落ちる。

 少しだけ早かったようだが、余裕をもって回避できたということにしようと言い聞かせ、バーンロットの体からドーム状に放たれた大爆発をやり過ごす。


「おいおいおい……。竜王はもはや災害だのなんだの言われてるし、今までのことを考えるとその通りだけどさぁ……」


 時間切れになって地上に追い出されると、大爆発によって放たれた熱が高すぎたのか一部の地面がドロドロに溶け、一部がぐずぐずに腐敗していた。

 爆心地となっているバーンロットが立つ場所はほぼ無傷だが、そこから半径百メートルほどが笑えるくらい抉れており、本気どころか本体じゃなくてもこれなのかと頬が引き攣る。


 幸いなことに両足の再生は終了し、機動力を取り戻す。

 調子を確かめるように軽くその場でジャンプすると、メキメキと音を立てながら体を捻ったバーンロットが、体を戻す勢いで思い切り大剣を振り抜いてきた。

 大剣の軌道をきちんと見ていれば見えない斬撃でも回避できるし、熱による斬撃なので斬撃そのものが陽炎のようになって薄っすら見えていたので、前に倒れるように回避してからそのまま低い姿勢のまま走り出す。


 熱で溶かされ腐敗で腐らされ、足場はかなり悪い。一瞬でも油断したり気を抜いたりすると、すぐに足を取られて首ちょんぱか胴体が真っ二つだ。

 しかも相手には翼が生えており、まだ飛んでいないが自在に飛ぶことはできるだろうし、ヨミはエマと違ってまだ翼を生やすことができないので同じ土俵に食らいつくこともできない。

 状況的にはヨミの方が断然不利。バーンロットは炎を使うため、能力の相性的にも圧倒的に不利。


「はははっ! いいね、ますます燃えて来た!」


 どれだけ自分が不利な状況になろうとも、ヨミは笑みを絶やさない。

 これはあくまでゲームだ。死ぬわけではない。死んでもやり直しがきく。それでも、本物の戦いのように非常にヒリ付くこの感覚は、ヨミの戦闘狂の魂にガソリンをガロン単位で注ぎ込んでいく。

 もっとこのヒリ付く感覚を味わうために『血濡れの殺人姫』を使いたくてうずうずしてくるが、それを使ってしまうと最長でも五分足らずでこの戦いが終わってしまうのでぐっとこらえて、足場が悪い中武装状態でのトップスピードを叩き出してバーンロットに肉薄する。

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