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Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
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刀戦技初披露

「お姉様!」


 フリーデンに飛ぶなり、すぐにエマがやってきて飛びついてきた。

 結局数日空けることになっていたし、寂しい思いをさせていただろう。素直に彼女の抱擁を受け止める。


「あぁ、お姉様のいい匂い……」

「なんでみんなそんなにボクの匂いを嗅ぎたがるの?」

「いい匂いがするからだ。お姉様の香りは、私にとっては純潔の血と同じくらい魅力的だぞ?」

「あ、そう」


 自分の匂いの中に何か人を狂わせる成分でも入っているのではないかと不安になるくらい、エマを含め抱き着く人全員に匂いを嗅がれる。

 自分ではよく分からないものだが、確かに女の子になったばかりの頃ふとした時に男の頃と体臭が違い、ちょっとした違和感を感じることもあった。今はもう大分男の頃の痕跡は抜けてなくなっており、ほんのちょっぴり寂しさを感じる。


「お帰りなさい、ヨミ。遅かったね」

「ただいまステラ。ここ数日でちょっと話し方がフランクになったね」

「エマと話していたから。でもやっぱり、私がこんな口調で話すのは違和感が強くて」

「あはは、確かに。第一印象がまさにお姫様だったし、何なら今もそれ変わってないからね」


 少し遅れてステラが、アリアと手を繋いでやってくる。

 こうして並んでいると、すっかり姉妹みたいだなとほっこりする。このこともあってか、二人ともFDO屈指の癒し枠などと言われている。


「お姉ちゃん!」


 アリアがステラと繋いでいた手を離して、ヨミに向かって走ってくる。

 空気を読んだエマがすっと離れ、空いたヨミのお腹に飛び込んでくる。幼い子供特有の少し高い体温を感じ、フリーデンに帰って来たという実感がわいてくる。


「結構留守にしちゃってごめんね。向こうで色々建て込んじゃってて」

「そうなの?」

「うん。欲しいものが中々手に入らなくて苦労したけど、それはもう大丈夫。またこっちでゆっくり活動再開……って行きたかったんだけど、問題がね」

「問題?」


 こてんと首をかしげるアリア。可愛すぎる。

 前も思ったが、アリアの可愛さは強力な兵器だ。こんな可愛いのを見せられて、シスコンにならない奴はいないだろう。


「ヒノイズル皇国でほしいものを手に入れられたんだけど、それと同時にまた竜王に関する問題が起きてね」

「ふーん」

「アリアはこの手の話にはとことん興味を持たないな」

「セラさんがそういった話をしないから。彼女自身が眷属に酷い目に遭っていたのだし」

「それもあるかぁ。それでさ、もしかしたら灰竜王と紫竜王が同時に、どこかの国を襲撃する可能性が出て来たんだ。でもボクらはその二体がどこにいるのか分かってないから、国を防衛するにもどこの国なのか分からなくてさ」


 これが緑竜王であれば、ヒノイズル皇国で確定だしあの国に残って美琴と共に防衛の準備を整えることができる。

 美琴は帝に惚れられているし、それを抜きにしても親しい仲になっているというし、彼女に何かしらの条件が出されるかもしれないが帝直々に軍を動かして、国家防衛ができるだろう。


 だが昨日見たウィンドウの感じだと、緑竜王は絡んでおらず残り二体となった四色の竜王である灰竜王と紫竜王が、どこかの国を襲うと読み取れる。

 ヒノイズル皇国でそのクエストが出てきたのだし、ヒノイズル皇国が舞台になると考えるのが自然だ。

 別に、一つの国に竜王が一体、というわけでもないのだ。証拠に、黄竜王と赫竜王は同じアンブロジアズ王国国内に存在していた。


「シンダースデスとヴァイオノムか。私が知る限り、ヴァイオノムは西方、シンダースデスは東方にいると記憶していたが……」

「私は何も分からないわ。竜王に関する記述というのは、王族でさえ閲覧したがらないものだったし」

「だよねー。じゃなけりゃ、ここまで情報集めたりすることに苦労はしないよ」


 三人の会話がつまらないのか、ちょっとむっとなったアリアを抱っこして、インベントリからイチゴ味の飴を取り出して食べさせる。

 一瞬で嬉しそうな顔になり、アリアにはとことん癒されると笑顔になる。


「クロムかマーリン辺りが色々知っていそうだな」

「あの二人なら確実だね。あとで話を聞きに行こう」

「今からじゃないのか」

「ボクはちょっと別の用事で戻って来たんだ。今から赫き腐敗の森に行くつもり」

「なら私も行こう。同じ真祖吸血鬼だ、あの程度の腐敗の霧なら影響は受けないしな」

「なんでそんなに勝ち誇った顔を私に向けるの」

「はいはい、そんなマウントは取らない。ステラは今度王都マギアに連れて行くから」

「約束、だよ?」


 期待の籠った目を向けてくる。

 エマほど危ない視線というわけではないが、ステラもだんだん百合になりつつあるような気がする。

 元とはいえ王女様なわけだし、女の子ではなく男を好きになったほうがいい。中身男としては、ステラほどの美少女に好かれるのは嬉しい限りではあるのだが。


 その後も軽く会話をしてから、アリアをステラに預けてエマと一緒にフリーデンを出て、赫き腐敗の森へと足を運ぶ。

 道中の雑魚敵は、エマが露払いをしてくれて何もせずにいた。できれば道中の雑魚敵でアップをしたかったが、ちょっと前に透治相手に戦ったからそれでいいかと考え方を変える。


「数日来なかっただけでなんだかえらい久々に感じるな、ここ」


 なんだか久しぶりに感じる赫き腐敗の森。

 相変わらず赤い霧が発生し、土も木も赤く腐敗してつんと鼻を刺す刺激臭がする。特に今は、リアルの感覚をほぼこちらに持ち込めるゲーミングデバイスを使っているので、いつもよりも刺激臭が酷く感じる。

 こういう場所だと性能の高さが仇と出るなとリストアップし、ブリッツグライフェンを取り出して刀形態にする。

 夢籠りの長刀をシステム的に勝手に譲渡してしまったので、パーツを少し多めに使って長刀を再現しておいた。


「奥の方にはいかないのだろう?」

「行かないかな。そこまで行ったら赫竜王いるし」

「毎度思うが、こんな近くに王がいるのによくフリーデンは平然と生活できているな」

「王自身はあそこに直接手出ししないみたいだからね。眷属は定期的に、普通の森を荒らしに来るみたいだけど」


 これだけ聞くと、赫竜王は全竜王の中で比較的おとなし目だと思うが、シンカーから赫竜王が最も多く国を滅ぼしていると聞かされているので、フリーデンが残っているのはただの気まぐれなのだろう。

 いずれ住人があれに怯えながら過ごすことになるのだと思うと、早く討伐してやりたいところだが、まだあれを倒せるだけの準備もないので結局当分は放置だ。


「ん? お姉様、来るぞ」

「だね。これは……スカーレットリザードかな? しかも二体いるね」

「あの赤トカゲか。何気に奴の鱗は硬いんだよな」


 二人の耳に届いた、エネミーが接近する音。

 足音的にスカーレットリザードだろうと思い構えていると、予想通り奴が来た。

 聞こえていた通り二体接近しており、エマとアイコンタクトを交わしてそれぞれ一体ずつ倒すことにする。


 エマが『レイヴンウェポン』で特大剣を作り上げ、枝でも振っているかのようにぶんぶんと振って調子を確かめてから、両手でしっかりと握って構える。

 ヨミも長刀を抜いて構え、下段に構えてすぐに対応できるようにする。


「「シャアアアアアアアアアアアアア!!」」


 エマとヨミを捕捉した二体が、まずは二体同時にエマの方に向かって走っていったが、全身を使った大剣の振り上げて一体だけかち上げて距離を取り、一対一の状況を作り上げる。

 すぐにヨミがかち上げられた方に向かって走っていき、ひっくり返った状態からばたばた暴れて起き上がり、怒った様子でまたエマの方に走っていこうとするのを『スカーレットアーマメント』で作った巨大なハンマーで殴って止める。


 エマよりも先にヨミを排除すべきだと判断したスカーレットリザードがこちらを向いて、真っすぐ走ってくる。

 腐っているとはいえ太い木を突進でへし折るようなエネミーだ。装備のレアリティも上がりかつてよりもぐっと耐久力も上がっているが、筋力と魔力メインであげて防御が紙なので、突進を食らったら結構HPを持っていかれるだろう。

 だがほぼ直線でしか動けず方向転換も遅いその突進を食らうわけがなく、跳躍して回避する。


 ぐりんと顔をこちらに向けて、落下地点になる場所に向かって走ってくるが、空中にいながらヨミは初動を検知させて刀身にエフェクトをまとわせる。

 てっきり中伝か奥伝の後半で覚える技だと思ったら、まさかの最初から使えるものだと知ってテンションが上がった戦技を使う。


竜道(リンドウ)!」


 システムに押されて体を捻るように鋭く振るうと、刀身にまとっていたエフェクトがそのまま斬撃となって放たれる。

 刀身の間合いの外にいたスカーレットリザードは、エフェクトで拡張された斬撃を食らい、左右に真っ二つにされてクリティカル判定を下されて、一撃でポリゴンとなって消えていった。


「……くぅ~~~~! 気持ちいい~~~~!」


 今まで自力で戦技っぽい動きをするしかなかった刀で、きちんと戦技を使って敵を一撃でクリティカルキルをする。

 その気持ちよさに体を震わせて歓喜する。


「それにしても威力すごいな。元々の武器の切れ味も参照されてるんだよね。グランドウェポンだから、その分威力が半端じゃないなあ」

「お姉様、今のはなんだ。見たことのない戦技だったが」


 自分なりに少し分析していると、エマも片付けて来たのか肩に影の大剣を担ぎながらやってくる。


「刀戦技だよ。ヒノイズル皇国で、ボクがどうしても手に入れたかったものなんだ」

「……帰りが遅かったのはそういうことか。まあ、お姉様らしいと言えばお姉様らしいな」


 少し呆れた様子のエマ。そんな顔をされても、欲しかったものは欲しかったのだから仕方がないだろう。

 ちょっとむっとなって頬を膨らませながら、刀を鞘に納める。

 もちろん一体倒しただけじゃ満足なんかできないので、引き続きエマと共に森の中を彷徨いつつエネミーを見つけ次第片っ端から倒していく。


「あ゛ー」

「お前は来るな」

「ア゛ッ」


 ただしグールだけは、影で作った投げナイフで近寄らせずにクリティカルで滅した。

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グール虐待! グールにも死存権があるんだヨ!
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