表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Fantasia Destiny Online  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第四章 古の災いの竜へ反逆の祝福を
244/301

新たな戦技、そしてやって来るであろう死ぬほど面倒な奴

 透治に指南書を渡してから一時間ほどが過ぎた頃、彼が戻って来た。


「解読が終わったぞ。ほとんどがこの道場にある指南書と変わりなかったな。最後の一頁だけ、ここに残されているのと違って時間がかかってしまった」


 そう言って指南書を返されて、ウィンドウが表示された。そこには『解読済み【晴翔流剣術書】を入手しました』と書かれており、思わずガッツポーズをしてしまった。

 早速アイテムを使用して開くと、刀の熟練度とは別の枠だったようで、『【晴翔流剣術】初伝を獲得しました』と表示され、戦技欄を確認すると四つの戦技を獲得していた。


「これ、仲間たちにも見せてもいいですか?」

「あぁ、構わない。最後の頁に、女神様の加護を受けた冒険者にもこの技を受け継がせる権利があると書かれていたからな。……最近、何かと竜王の話題が耳に入る。ここにいる弟子たちや私も、ちゃんと生き残れるとは限らない。以前緑竜が攻め込んできたわけだしな。確実に残す方法として、女神様の加護を受けているものを受け入れるのも、ありかもしれないな」


『バトルアーツリリースクエスト:【竜斬りを夢見た侍たち】をクリアしました』

『WORLD ANNOUNCEMENT:刀戦技流派【晴翔流剣術】が解放されました。条件を達成次第、プレイヤーも習得可能となります』


 クエストをクリアするとウィンドウがまた表示され、FDO中に刀戦技が解放されたことが通達される。

 すると外にプレイヤーがたくさんいるのか、結構な大きさの声が聞こえて来た。


”ぴゃああああああああああああああああああああああああああ!?”

”戦技解放キチャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!”

”ありがとう! ヨミちゃんマジでありがとう!”

”やったああああああああああああああああ!! しかもあの超ド派手でかっちょいいやつだあああああああああああああああ!!!!”

”くぁwせdrftgyふじこlp”

”今すぐにでもこの道場に行くぞ! アンブロジアズ王国にいるから時間くそほどかかるけどなぁ!”

”多分ヨミちゃんほどスムーズにはいかないだろうけど、絶対にこの戦技習得したい!”

”今すぐ行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!”


 コメント欄も大盛り上がりしており、ほとんどが今すぐにでもヒノイズル皇国に来るか、この道場に足を運ぶと書かれている。

 刀戦技は習得条件が長らく不明で、ずっとプレイヤーに望まれ続けていた。

 刀の熟練度が存在して、しつこく鍛錬して熟練度をカンストさせるほど刀を好んで使うプレイヤーは多くおり、その多くは男性というデータも上がっている。

 それでも刀スキルや熟練度を上げることで戦技が習得できず、運営に対して不満の声が上がっていた。


 きっと強すぎるくらいだから戦技はないのだという派閥と、刀だけはぶられるのはおかしいから絶対にあるはずだという派閥でずっと争っていたが、それにヨミが終止符を打ち、更には晴翔流剣術道場の門をプレイヤーにも開かせた。

 ヨミたちはこの指南書があるので、それを読むことで初伝を獲得し、そこから剣術スキルを上げることで中伝、奥伝、そして最後の秘剣の習得ができるので、入門までしなくてもよさそうだ。

 他のプレイヤーにはこの指南書がないので、きちんとここに足を運んで師事を受け、鍛錬を積むことで剣術スキルを開放する必要がありそうだ。


「シエルも読む? お前刀好きだろ」

「好きだけど刀スキルそのものをまだ取ってないから今はいい」

「じゃあ私いいかな? 一応刀使うし」

「いいですよ、どうぞ。カナタさんとサクラさんはどうしますかね」

「あの二人は現実で使ってる剣術があるし、戦技がない方がやりやすいって言いきっちゃってるから、多分いらないんじゃないかしら。はい、ありがと」


 美琴から指南書を返却してもらい、他にいないかと目を合わせるが、刀を使うのは今のところヨミと美琴だけなので全員に首を振られる。

 と思ったら、アニマがじっとこちらを見つめていたので指南書を差し出すと、ぱっと表情を明るくして受け取った。あまりの可愛さにノックアウトしそうだった。

 アニマも戦技を習得した後ウィンドウを開いて確認していたが、刀スキルが十分育っていなかったのかがくりと項垂れていた。

 あとで刀熟練度上げに付き合ってあげようと苦笑しながら、インベントリの中に指南書を放り込み、透治の方に向き直る。


「ありがとうございました。なんというか、ボクのせいで多分これからめちゃくちゃ忙しくなると思ので、何かあったら連絡ください」

「ははは、気にしなくていい。不滅の存在ゆえに術理など必要ないと思い、不滅の存在ゆえにあまり好意的な印象を持っていなかったが、ヨミ一人でその印象を塗り替えられた。中には、お前のような素晴らしい剣士もいるのだなと、教えられたよ。長年の自分の考えを、あっさりと覆されて情けない気はするがな」


 そう言って笑う透治の顔は清々しいものだった。

 改めて礼を言って頭を下げてから、ヨミたち一行は道場を出る……つもりだったが、正門に大量のプレイヤーが押しかけており出られなかったので裏口から出してもらった。

 数十人規模で押しかけており流石の透治も苦笑していたが、呼び止められることなく見送ってくれた。今度何か菓子折りでも持って行った方がよさそうだ。


 道場を出た後、真っすぐ宿に向かい全員で同じ部屋に入る。

 アーネストとシエルが躊躇っていたが、ヨミがシエルを、美琴がアーネストを引きずり込んだ。コメント欄に、二人に対する殺意のコメントが書き込まれた。


「さて、とりあえず刀戦技の剣はこれでおしまい。ボクは後で早速赫き腐敗の森で試し斬りをしてくる前に、透治さんの言ってた鍛冶師に頼んで刀を打ってもらうとして、問題が一つ」

「いきなり発生したグランドのキークエよね。あんな所にも潜んでたなんて」

「しかし変だな。ヨミがクリアしたもの、先日発生させたもの、私や美琴がクリアしたもの。それらは決まって○○の王への挑戦権、という名前だった。なのにこれは、『反逆への旗印』と書かれている。どういうことなんだ?」

「今までのキークエストとは一味違うね。反逆ってことは、私たちが竜王に対して挑むこと、って意味だよね?」

「世界観的にもそうだね。竜王はこの世界の頂点だし、うちらはその王に挑む反逆者って構図ができてるし、この名前にも納得がいく。でもなあ」

「これじゃあ、どの王に対する反逆なのか分かりませんね」


 アニマの一言で全員が黙る。

 彼女の言う通り、これではどの王に対する反逆なのか分からない。

 今までもキークエストにグランドクエストは、竜王の色だったり使う能力が入っている。


 ヨミが持っている【焼き払い腐敗する赫に親愛なる殺意を込めて】、クリアした【雷鳴に奉げる憎悪の花束】と【蒼穹を駆ける金色の星に慈愛の怒りの贈り物を】。

 美琴から解放した【恵みの緑と母なる大地に嫌悪の眼差しを】、アーネストの【根源の水と凍てつく氷に安寧の苦痛を】。

 これら全てには必ず、王の特徴である色や能力が入っている。そして一様に、赫、黄色、金、緑、蒼の王への挑戦権、という名前でキークエストが発生している。

 一目でどの王のクエストなのかと分かりやすいようになっているのに、透治から発生させたキークエストは色が書かれていないため、どの王関連なのかが不明だ。


「さ、流石にノーヒントってわけにはいかないよね?」


 ちょっとした希望を持って、ウィンドウを開いてクエストをタップする。

 流石にノーヒントすぎるし、散々人の心がないといじられている運営だが、ここまで酷くはないはずだと一縷の希望を持つ。

 すると、追加でウィンドウが開き、ちゃんとヒントがあるようだと全員安堵する。


「えーっと、『七つの王座は二つ欠けて崩れ去り、残るは五つとなった。未だ人類は神に挑むことはできず、なおも竜の時代に怯え続ける。二つの王座がなくなり、蒼の王はいずれは人の時代が来ると言い、緑の王は人の強さを認めつつある。灰の王は自分に死が向くことを誰よりも恐れ、紫の王は無邪気に笑い灰と同じく死を恐れる。赫の王は傲慢にも、自らの領地にて座して待ちいずれ訪れる挑戦者を待ち続ける。しかし、長らく続いた竜の時代に一石投じられ、己の時代が終わるのではと危惧する王は、己の時代を終わらせるわけにはいかないと牙を研ぎ澄ませ、恐怖と同胞(はらから)を屠った人類に強い怒りをその胸に抱いている』」


 読んでいる途中から、これ絶対死ぬほどめんどくせー奴だと思ったが、最後の文を読んでやっぱり死ぬほどめんどくせー奴だと確信した。

 三原色は、これと言った言及はされていない。流石にトップスリーが同時に出張って来ると言うことはないだろうし、バランス的にもそんなのが来たら確実に負けイベだ。


 だが灰竜王と紫竜王は、死を恐れていると明確に書かれている。残りの四色の竜王の内、二体が死を恐れて竜による支配の時代が終わることを恐れている。

 もし、読みが正しいのであれば、これは、


「超大規模な国家防衛レイド戦……と、言ったところだろうな」

「死ぬほどめんどくせぇ……」


 アーネストも同じ答えに至ったようで、やっぱりそうかとヨミがベッドの仰向けに倒れる。


「どこにいるかもわからん奴を、国家防衛レイドの敵役に配置すんなクソ運営!? こちとらまだ紫と灰色の眷属すら倒してないんだぞ!? どうやって灰色の死の能力とか対処すりゃいんだよふざけんな!?」


 男子の目とリスナーの目があるので控えめにベッドの上で転がる。

 能力だけはチュートリアルで軽く明かされているが、字として知っているだけで実際にどんなもんなのかはまだ一度も見ていない。

 そんな状態でもしいきなり王が本当に国に攻め込んでくるのであれば、防衛どころの話ではない。それこそ三原色が来た場合と同じ、ただの負けイベとなってしまう。

 そもそも、どこにいるのかすら分かっていないのでどの国を防衛すればいいのかも分からない。


「しかもこれさ、この国で透治さんから発生させたクエストっていうのが怖いよね」

「あー……。下手したら緑竜王すら出てくる可能性がある、ということか」

「本気で何考えてんだ運営」


 美琴の考えを聞き、全員が同じ考えになっただろう。やはりこの運営は、このゲームをクリアさせる気がない、と。

 その後も色々と意見を出し合ったが、結局は灰竜王と紫竜王がどこにいるのかを明確にしなければ対策のしようもない、という結論に落ち着いた。


 話し合いが終了した後、みんな学生ということもありそのままお開きとなった。

 ヨミも配信を切ってログアウトして、すぐにまたログインした。以前にも使ったことのある手だ。


「やっぱすぐにでも刀戦技は使わないとねー」


 今回はゼーレもログアウトして、今もログアウトしたままなのは確認済みだ。

 誰も邪魔する人はいないとにやりと笑い、ダッシュでワープポイントまで走ってから、フリーデンに戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ