到着した央京都
「へー、アニマちゃんメカ系が好きなんだ」
「そうなんです。なので今までやってきたゲームも、ロボットとかそういうのがたくさんあるものをやってきてまして」
「じゃあさ、アーマー〇コアとかやってた?」
「もう大好物です」
「お姉ちゃんと同じだねぇ」
「ヨミさんも好きなんですか?」
「変形武器が相棒になるくらいには」
アニマが合流してから更に一時間ほどが過ぎた頃、ヨミたちは雑談に花を咲かせていた。
昨日もそうだったが、アニマの趣味がかなりヨミと似通っており、ロボゲーはやったことはないがヨミとの会話に付き合わされたことのあるノエルとシズは、小さな幼い女の子がキラキラ目を輝かせながら楽しそうに話しているのを見て、どこかほっこりした顔をしている。
一方でヨミは、まともにロボゲー談議ができる仲間が増えたことに喜んでおり、今度時間があったら一緒にアーマー〇コアをやろうと誘い、アニマもそれを了承してくれた。
ノエルもシズも、あのゲームの難しさにすぐに諦めてしまい、一人で楽しむしかなかったので仲間が増えて非常に満足だ。
「このゲームも科学技術とかが魔導技術と同じくらい進んでるから、パワードスーツとかそういうのがあってほしいよね」
「分かります! パワードスーツでなくても、大きくて武骨なメカメカしい大型ロボに乗り込んで、操縦してエネミーを殲滅したいです!」
「夢があるぅー。……大量の金属系素材を集めてクロムさんに渡して作ってもらおうかな」
「過労死しちゃうからやめなさい」
「みゅっ」
クロムにすさまじい負担のかかることを考えて口にすると、ノエルから脳天チョップを落とされる。
チョップされた脳天を右手でさすりながらちょっと不満気な顔を向けると、一瞬でノエルの表情が捕食者のそれになったのを感じて、速攻で離れて身の安全を確保する。
「お姉ちゃんのその反応の仕方が猫のそれなんだけど」
「今までのノエルの行動から、今のノエルの顔を見て、離れないとまずいと思いました、まる」
「ぶー。じゃあアニマちゃんをぎゅーするー」
「ひゃあ!? の、ノエルさん!?」
「女の子とはいえ初対面の子に何やってんだ!?」
ちゃんとノエルのセンサーに当てはまったらしいアニマに抱き着き、真っ赤になって慌てるアニマ。
いきなり初対面の女の子に抱き着かれて驚くのも、後ろからあんな大きなものを押し付けられて真っ赤になるのも分かるが、なんとなく反応がヨミと似ているような感じがしたが、まずはノエルを引き剥がそうと近付く。
「いらっしゃーい」
「あ、しまっ」
手を伸ばせば触れられる距離まで近付いたら、右腕を掴まれてそのまま引き寄せられてしまう。
アニマを二人の間に挟むような感じで引き寄せられて、ヨミはアニマと一緒にのえるにぎゅっと抱きしめられる。
「あわわわわわ……!?」
「ご、ごめんアニマちゃん! ノエル、いいから早く放せって!」
「やーだよー。えへへー、これいいかもー」
”素晴らしい……なんて素晴らしいんだ……”
”百合に挟まる美少女の図”
”アニマちゃんも昨日の配信観る感じだと、ヨミちゃんライクだから菩薩の心でてぇてぇを眺めてられる”
”ノエルお姉ちゃんがすげー幸せそう”
”アニマちゃん真っ赤になって慌てててかわゆす”
”シズちゃんがちょっと呆れてるの草”
”筋力ヨミちゃんより強いから、離れようと抵抗してるヨミちゃんが見れて……ふぅ……”
”もしこれが男だったら、速攻でそこに行ってその男を排除しに向かうところだったが、女の子ならオッケーです”
「な、何で男の子だったら排除しに来るんですかぁ!?」
「アニマちゃん、そこ反応しなくていいから。シズ、ノエルどうにかしてくれる!?」
「ごめん無理。巻き添えになりたくない」
「薄情者ぉ!?」
そのままノエルに愛で倒され、髪の毛がぼさぼさになってやっと解放された。
やれやれと手櫛で乱れた髪を整えて、アニマの髪も後ろの方が跳ねていたのでそっと直してあげた。
するとシズがわざと髪の毛を乱して近寄ってきたので、何やってんだとデコピンしてため息を吐いてから、仕方がないので直してやった。
「なんだかんだで甘いですねぇ」
「うるさい。言っとくけど自分でぼさぼさにしたその髪、直してやらないからな」
「えー」
「えー、じゃない。当たり前だろ」
ノエルもシズのようにやってほしかったのか、自分で髪の毛を乱してきたがやらないと言ってそのまま歩き出す。
不満げな声を出して抗議してきたがさっきの仕返しだと言って、それでもまた納得いかない様子だったので、今度クッキーでも焼いてやると言ったら大人しくなった。
シズもそれに便乗してチョコクッキーが欲しいと言ってきたので、なんだかんだでやっぱり妹には甘くしてしまうなと苦笑して、そのお願いを聞き入れた。
♢
配信をしながら、エネミーを倒しつつ進み続けてさらに時間が経った。
ゲーム内は明るいが現実は既に日を跨いでしまい、そろそろ休まないと次起きる時に響きそうだ。
そう思って進む速度を上げたことで、日を跨いで二十分すぎた辺りでやっと央京都に到着した。
門を守る衛兵NPCと言葉を交わしてから中に入ると、ゲーム内はまだ日中であるためか活気にあふれている。
だがよくよく見ると、歩いているのはNPCがほとんどでプレイヤーは見かけない。
「そりゃそうだ、だって今日平日だもん」
「この時間にもログインしていると言ったら、FDOのプロゲーマーかゲーム配信者とかだよね」
「ヨミちゃんは配信者だけど、学生さんだから徹夜なんてできないし私がさせないけどね」
「ボクだって徹夜はしたくないよ。あんなことをするにしても、長期休暇の時に一回だけどかだよ」
「ぼくはそんなに遅くまで起きていられそうにないです……」
この中で一番年下のアニマは既に限界のようで、うつらうつらと舟をこいでいる。
このままでは寝落ちしてしまうので、寝てしまいそうな彼女の手を取って近くにある宿に向かう。
小柄な女の子の、それも寝てしまいそうな女の子の手を取って宿に向かう、と字で起こすとかなり犯罪臭がするが、これは彼女のためだし流石に三つも年下の中学生の女の子は対象外だし、そもそもそんなことをするつもりなどないし、何なら今の自分は女の子なんだからこんな言い訳を心の中でしなくてもいいと、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
いよいよ限界そうだったので急いで宿に入り、人数分の部屋を取ってアニマを部屋に案内してベッドに寝かせると、そのまま寝落ちしてログアウトしてしまった。
本当に危なかったとほっと安堵のため息を吐き、アニマの部屋から出るとノエルがものすごい不満そうな顔をしていた。
ちなみにシズはさっき部屋に入っていくのが見えたので、恐らくログアウトして寝ている頃だろう。
「あんだよその顔」
「だって、ヨミちゃんと同じ部屋じゃない」
「こっちでまでボクを抱き枕にしなくたっていいだろ。どうせすぐログアウトするんだし」
「ログアウトするちょっとの時間でも、ヨミちゃんをぎゅーしたい」
「勘弁してくれ……」
”ナチュラルにリアルでも添い寝してること明かしたぞこの百合ップル”
”全く、百合っ子は最高だな!”
”ことあるごとにリアルの百合事情が開かされてく、FDO屈指の百合バカップル”
”ヨミちゃんがノエルお姉ちゃんの抱き枕は解釈一致がすぎる”
”そんで時々立場逆転して、ノエルお姉ちゃんがヨミちゃんの抱き枕になっててほしい”
「ほんと、妄想逞しいなうちのリスナー」
「ねえー、ヨミちゃーん」
「はいはい分かった。週末そっちに泊まりに行くから、それで我慢して」
「……言質取ったから」
「急に真顔になるのやめてくれません?」
やっぱり今のなしと言おうにもそれを言わせないという圧を感じるし、週末となればそろそろ血が欲しくなるころだし、都合がいいかと諦める。
冷静であろうと努めているようだが、やや軽そうな足取りで取った部屋に入っていったのを見てから、ヨミも部屋に入って一度ベッドに横になってセーブポイントを更新してから、宿を出る。
ここに来て一番しなくてはいけないワープポイントの解放を忘れていたのでそれを行い、リアルではマジで吸血鬼だからか日中よりも明らかに調子がいいので、一時までなら極端に響かないだろうと、央京都の散策を行う。
ヒノイズル皇国の中心地、この国の帝が住む場所というだけあって人の数は多いし、売っているものの質も高い。
ちらっと覗いた装備店も、それも値段相応の性能をしたものが陳列しており、それだけでもある程度スキルや熟練度が育っていないと自力で来れない場所にあるのだと実感する。
「初期位置がアンブロジアズ魔導王国第一の街ワンスディアで、初期国もアンブロジアズ。初心者救済用装備もあるし、あっちも最前線まで行けば普通にめちゃくちゃ強力な装備とか売ってるし、あの国のレベルが低いってわけじゃないんだけどね。お、この薬草性能ヤバ」
装備はもういいので、隣にあるアイテムショップに足を運んで何かないかと物色していたら、持っている薬草よりも回復効果と止血効果の高い薬草があった。
ただ相応に値段も高く、そこそこやり込んで金策しているプレイヤーじゃなければ変えない値が付いていたが、ヨミの懐事情は温かいので即決した。
ヨミ自身の回復性能が高く、刀の利点である出血はそこまで効果を成さないが、ノエルやシズはそうもいかない。
アニマは神機族なので出血系が通用するのかどうかは不明だが、アニマ曰く皮膚はきちんと生体部品だが、その下の筋肉から臓器、骨に至るまではきっちり機械でできているそうなので、恐らく通じないだろう。
「さてさて、それよりも晴翔流剣術道場はどこだろう。おじいさんの孫が師範やってるって言ってたけど、名前出せば入れるかな」
薬草店のおじいさんの名前は澤田治と言い、孫の名前は澤田透治と言うそうだ。
本当は自分の店を継いでほしかったそうだが、商才がからっきしな代わりに剣才に恵まれたそうで、それで晴翔流剣術を修め極める道を選んだのだという。
有名な剣術流派だし、少し聞き込みをすれば見つかるだろと適当に人を捕まえて聞いたら、本当にあっという間に場所が分かった。
ヨミたちが今いる場所は央京都の端の方で、晴翔流剣術道場は貴族の子息も通う場所でもあるということもあるからか、もう少し中央に寄った場所にあるのだという。
身分の低い人も入れるようにするため貴族街には入っておらず、かなり広い土地に大きな屋敷があるし、何なら看板もあるからすぐに分かると教えてくれた。
「ところで、嬢ちゃん随分最近お貴族様の間で噂されている銀色のお姫様に似ているな」
「他人の空似じゃないですか?」
そう言えば貴族が自分のことを囲おうとしているんだということを、美琴から教えられていたことを忘れていた。
銀髪に赤い目はあまりにも目立つので、何かで隠さなければいけない。
とりあえず場所は分かったので、教えてくれた人に情報料としてお金を渡し、そそくさと宿に戻った。
時刻は午前一時に迫っており、もういい時間だからと終わりの挨拶も適当に配信を終了して、ベッドに横になってからログアウトする。
「いよいよ刀戦技習得まであと一歩か。……~~~~楽しみー!」
しかも晴翔流剣術だ。ド派手なエフェクトが厨二心を大いに刺激する、竜の字が入った剣術だ。
日本男児として生まれたなら刀に憧れを持つのは当然だし、それをゲーム内限定とはいえ振り回せるなんて最高だ。
そして、ただでさえカッコいいものがよりカッコよくなるものを、もうじき入手できる(かもしれない)。
「こんなの、眠れるわけないよ……!」
枕をぎゅっと胸に抱き寄せて、足をパタパタとさせる。
大分見た目年齢に精神年齢が引っ張られてきているような気がするが、今はそんなこと考えている余裕はない。
早く使いたいとずっと思い続け、睡魔に襲われたのは午前二時が近付いている時だった。




