メカッ娘再襲来
ノエルとシズと共に央京都を目指し始めて一時間。
エネミーとも順調に出くわしたので配信中雑談ばかりになるということはなく、ゴースト系に襲われてヨミが本気で泣きそうになってノエルに泣きつくというアクシデントはあったが、おおむね順調に進んでいる。
なお、泣きつかれたノエルは非常にご満悦の様子で、終始にこにこしている。
「ノエルお姉ちゃんって、ほんとにお姉ちゃんのこと大好きなんだねー」
「だってぇ、いつもは強くて頼りになるヨミちゃんが、泣きながら頼ってくれるんだものぉ。嬉しいに決まってるよぉ」
「すんごい嬉しそうな声」
「ボクとしては、いつまでもボクが頼りになる側でいたいんだけどね……」
「あ、ゴースト系」
「み゛ゃ゛あ゛っ!?」
シズがゴースト系エネミーがいると言い、ヨミは奇妙な悲鳴を上げてまたノエルに飛びついてしまう。
少し驚いた顔をした後、すぐににこーっととてつもなくご満悦な顔をされて、やられたとヨミは耳まで真っ赤になっていく。
”シズちゃんナイスアシスト!”
”いいですねぇ~”
”あら^~”
”キマシタワー!”
”これだからヨミちゃんの配信は満足度が高いんだ”
”恥ずかしくなって赤くなってくのも最高得点”
「もうこいつらのこれはマジで病気みたいなもんなんだろうな」
「お姉ちゃんも中々に辛辣ぅ」
「あとシズ、お前今度激辛麻婆な」
「ごめんなさい!」
「許さない。大鳳軒連れてく」
大鳳軒とは、世田谷の方にある中華料理店だ。
どれも絶品で時々家族で行くこともあるのだが、そこの麻婆系はよほどの激辛好きでなければ食べてはいけないと言われている。
理由はシンプルに、激辛すぎるからだ。前に麻婆茄子を注文した時に、辛いものもそこそこいけるヨミですら地獄を見た。
当然シズも食べており、その日以降激辛系が苦手になっている。
食べられないわけではない。むしろシズも辛いものはほどほどに好きだ。というより、激辛を好き好んで食べている人の方がややマイノリティだろう。
とりあえず、やってくれたのでシズを今度大鳳軒に連行するのは決定だ。一人で食べさせるのも可愛そうなので、ヨミも一緒にひぃひぃ言いながら食べるつもりだ。
「ヨミちゃん、流石にちょっと可哀そうじゃない?」
「そうだそうだ! もっと言ってやってよ!」
「シズは激辛がダメ。ボクはホラーがダメ。ダメだって分かってるのにあんなことされたんだから、仕返しする権利くらいはあると思う」
「ちくしょう言い返せない!」
二人ともヨミがどうしてここまでホラーがダメになって、どれだけダメなのかもよく知っているため、言い返せなくなって黙り込んでしまう。
そう言えば、まだノエルのことを自分なりのファッションセンスで可愛くしてやろうと言っておきながら、まだそれをやっていなかったし、同じ日に実行してやろうとスケジュールを頭の中で立てておく。
それだとノエルも激辛料理のとばっちりを受けることになるが、ヨミよりは辛いものは行けるし大鳳軒は別に辛いものばかりじゃないので、他のものを注文させればいい。
どんなファッションにしてやろう。一昔前に流行った。童貞を殺す服、みたいなものとかありかもしれない。
いや、しかし女性経験ゼロのまま女の子になったため、心のDが残っているヨミに、その服を着たノエルの破壊力に耐えられるのだろうか、などと変な思考を始めてしまう。
「……んお?」
せめて白米も注文していいかと懇願されたので、仕方がないので許可を出して感謝されていると、メッセージが一件届く。
誰からだと開くと、アニマからだった。
「アニマちゃんからだ」
「ほんと? なんて?」
「今どこにいるのか、だって。陽之原村から明河町の間くらいだよね」
「そうだね。呼ぶの?」
「ノエル、アニマちゃんに会いたがってたろ。メッセージ送っとくよ」
進む先にある明河町で合流しようとメッセージを送ると、すぐに『了解しました!』という返事が、笑顔の絵文字と共に返って来た。
昨日のことで落ち込んでいないようでよかったとほっと安堵してウィンドウを閉じ、待たせるわけにも行かないので早く行ってしまおうと行軍速度を上げようとする。
「あ! ヨミさーん!」
するとなぜかアニマの声が聞こえて来た。
あいたすぎて幻聴でも聞こえたのかと思ったが、上から何かが落下してくるような音が聞こえてきたので上を向くと、なんか背中からごっつい機械の羽を生やしたアニマがやって来た。
十数メートル上からゆっくりと減速していき、ふわりと音もたてずに着地して、見るだけで男心が震えるメカメカしい翼がどこかに収納されて行く。
「すんごい近くにいたんだね」
「みたいですね。進む方向に生体反応があったので来てみたらヨミさんだったので、ちょっと驚きました」
「驚いたのはこっちだよ。何今の」
「ぼくの機能の一つです。元々機械人種自体、ああいった飛行デバイスがデフォルトであるので」
なんて夢のある話なのだろう。やっぱりロマンを取って機械人種にすればよかったと、ちょっぴり後悔しそうになる。
しかし吸血鬼のスペックも、今は普通に日中活動しているが本来なら夜にしか出歩けないという制約も、何より吸血鬼というネームバリューも魅力的だったし、恐らくやり直すことができてもこっちを選んでいるだろう。
「せっかく合流したしさ、みんなで一緒に明河町に行こうか。ノエルとシズもいいよね?」
「私は全然オッケーだよ。あ、私はシズ、よろしくー」
「私もー。アニマちゃんよろしくね。知ってると思うけど、ノエルです」
「はい、初めましてノエルさん、シズさん。ぼくはアニマと言います。よろしくお願いします」
この雰囲気だと、すぐにノエルたちと打ち解けそうだなと微笑みを浮かべてから、自分の配信のコメント欄に視線を向ける。
”メカロリッ娘襲来!”
”なんだ今のロマン……。機械人種は、最初から空飛べるのかよ……”
”きょうのこのはいしんのしあわせどがたかい”
”ガチのロリと小柄ロリ二人と巨乳お姉ちゃんの組み合わせは、この世から争いをなくす”
”ここにヘカテーちゃんもいてくれたら、マジで戦争とかなくなりそう”
”美琴ちゃんとカナタちゃん、サクラちゃん、トーチちゃん、ルナちゃん、フレイヤちゃん、リタちゃんも呼んでもっと幸せな組み合わせにしよう”
”もう女の子以外が映ることを禁止してほしいレベルで女の子しかおらん。最高”
やはりどこかネジが狂ってるヤバいやつらの集まりだった。
どこでここまでこいつらを狂わせたのだろうと思ったが、どう考えてもあの日のアマデウス相手にメスガキをした日からなので、過去の自分を思い切り殴ってやりたくなった。
「ヨミちゃん、早速行くよー」
「はーい。……リスナーのみんな、いいね? アニマちゃんは中学生の女の子って自分で言ったんだ。ダメだけど、ボクやノエルならまだしもアニマちゃんには何があっても変態コメントやセクハラコメントを残さないように」
配信を行ってきたことで、変態共の処理に慣れて来たヨミとノエル、最初から相手にしないシズはともかく、アニマは真面目で優しい女の子だ。
ましてや自ら中一であることをカミングアウトしているので、下手にセクハラコメントをするとマジでただのやばいやつになってしまう。
何より、彼女は配信を行っていないのでそう言ったリスナーの処理方法を知らないため、真面目に答えてしまう可能性もある。
ヨミ、ノエル、シズも当然未成年なので、異性からの意図的な性的接触はえげつないくらい強力なプロテクトが働いており、ヘカテーやアニマのような小中学生はより強いプロテクトが働いている。
フルダイブゲームが出始めたばかりの頃に、ゲーム内だから何してもいいと勘違いしたバカなプレイヤーたちが、若い女性プレイヤーに数多くのセクハラを働いたことで、当時は男性でも女性アバターを使うことができたため、皮肉にもそれらを戒めに今のような体制が出来上がった。
きちんと、一部本気っぽいが大部分が冗談で言っていると分かっているがアニマにはまだその辺の判別もできていないだろうから、リスナーたちにキチンと釘を刺してこの配信内では大人しくしてもらうことにした。




